566:情報精査 1/4
結局、電気店で十万円ギリギリしない程度のスペックの物を手に入れて来た。移動中に調べた範囲では、十万円以内なら確実に経費で落とせるという情報を仕入れたためだ。
探索者の装備品でも同じらしく、十万円を超えるものは二年以上かけて減価償却していくものらしい。とすると、この間食いちぎられたインナーも十万円を超えているから今年から来年にかけて二年間かけて経費を払っていく形になるらしい。この直刀も何年かかけて経費として支払う、という事になるんだろう。
二年も着まわせば充分すり減って使えなくなってしまう……多分そういう事になっているんだと思う。だとすると、数百万するような物品はどうやって経費にしていくんだろう。後で調べものついでに見てみよう。
店を出たので芽生さんに連絡、今から自宅にまっすぐ帰ることと、何分ぐらいかかるかを伝えておいた。何時になるか解らないが家で待ってればそのうち来るだろう。それまでに片づけと飯の準備でもしておくか。
家に着くと芽生さんが玄関で待っているとかは無かった。ただ、そっちに行くまでにコンビニ寄ってから来ますとだけ書いてあったので向かってきてはいるんだろう。
その間に探索の片づけをして洗濯をして風呂を沸かして、パソコンのセットアップをしつつ夕食のボア肉チーズがけを用意。下味を決めてチーズをさっさと溶かしにかかる。後は温めなおすだけで料理が終わる段階まで作り上げておく。後はスティック野菜を適当にちりばめておけばヨシだな。
食事の下準備を終えてパソコンのセットアップをして、風呂が沸いたところでチャイムが鳴る。来たかな?
「来ましたよー」
お泊りセットというべきなんだろうか、そこそこの荷物を抱えた芽生さんが現れた。
「荷物多くない? 修学旅行じゃないんだぞ」
「ちゃんと理由があるからいいんですよ。ほら」
鞄をガバッと開けると、そこには詰め込まれた羽毛布団。おそらく荷物の八割はこれだろう。
「布団を借りるとはいえ冬用では暑いですし、夏用二枚用意してくれてるわけでもないでしょうから自分で持ってきました」
「明日持って帰ることも考えてるなら良いけども。まぁとりあえず上がりなよ」
買い物してきた割にはバッグに全部詰め込んであるらしい。何を買って来たかは知らんが少なくとも夕食は用意するとは伝えてあったので、お菓子か何かだろう。
揃ったところでまずは食事だ、冷めないうちに食べよう。いつものパックライスを温め、フライガーリックとフライオニオンの瓶も一緒に出す。チーズと肉とニンニク。これで食欲がさらに増す。いい香りが家の中を漂ってくる。程よく焦げたチーズが更に香りのアクセントを加えてくれる。
「ほれ、たんぱく質と脂質の暴力だぞー」
「きゃー贅肉に襲われるー」
「足りなきゃお代わりをまた作るぞ。今日取れたての肉……が出て来てると思うから新鮮そのものだ」
「そもそも真空パックの時点で常に新鮮だとは思うのですが……とれたてのボア料理を味わう事にしましょう」
詰め込み過ぎないように適度に夕食を食べていく。作っておいた野菜スティックもきっちりとる。若干野菜の比率が低いが、後は少々頭を使って寝るだけだし一食ぐらいバランスの悪い食事をしても問題ないだろう。
「やはりチーズが大事ですね。無限に食べられます。お代わり」
「あいよ。やっぱりもう二パックぐらい先に焼いておくべきだったか」
「動けないほど食べるつもりはないですがタダ飯は何時でも美味しいですからね」
一応共同戦果からの飯だから正しくは割り勘になるんだがまあいい、俺ももう少し食べておくか。短かったとはいえ今日もちゃんと運動をしてきた事だし、ちょっとぐらい多めに食べても健康上に問題はないはずだ。
お代わり分を作り終えると再びチーズとニンニクを加えて一焼き二焼き。お代わりを作るとそれもペロリと平らげた。よく食べるなあ。
◇◆◇◆◇◆◇
食事に満足して片づけをした後、早速作戦会議に入る。真新しくネットにも繋いでいない完全スタンドアローンのPCにUSBメモリを差し込み、データをコピーする。USBから直では少々動作が遅くなる。データのファイル形式で読み込めない分については違うUSBメモリ経由で表示用のソフトをダウンロードしてきてインストールする。
データはよくまとめられており、現在潜って来た二十八層までの階層の情報も一緒に添付されていた。これで気になっていたカメレオンダンジョンリザードの攻撃方法についても解るようになるってことだ。
各モンスターについてのファイルを見ると、撮影された動画のデータが付属していた。早速再生してみる。カメレオンダンジョンリザード……カメレオンはその擬態した皮膚によって視覚でもって判別する事は難しい。が、サーマルカメラ越しなら見ることはできるらしい。
カメレオンにある程度近づくと、カメレオンの口の中から舌がびろーんと飛び出てきて、カメラのほうに伸びてくる。再度スロー再生で舌が伸びる様子が見える。カメレオンはそのまま人のかわりに差し出された鉄の棒に向かって舌を巻き付けて、歯がない顎で咀嚼しようと試みている。
舌の強さは中々のもので、巻き込まれた鉄の棒はぐにゃりと曲がっている。これを同時に複数方向から行われたら、手足はバラバラになっていたかもしれないな。
攻撃される前に一方的に索敵で吹き飛ばしていたのは正解だったのだと解った。
「今、自分で試さなくて良かったとか思ってませんよね」
「思ってますとも。自分で試さなくてよかった。もし試してたら取り返しがつかない方向に手足が折れてたかもしれないな。ゴーレムよりもこいつのほうがよほど危険じゃないか? 」
どうやらこの動画を撮っている部隊も【索敵】を持っているか、赤外線装備を持っているのだろう。サーマルカメラを使っていることからもきちんと見分けるだけの装備は用意しているようだ。
的確にカメレオンの位置を調べては誰かのスキルによって徐々にダメージを与えて倒すところまでもっていっている。一発の威力ではうちの芽生さんのほうが上だな。
ゴーレムの倒し方もほぼ変わらず、攻撃してきたところを躱して腕に駆け上がり、弱点である目を攻撃するか、離れた距離から安全にスキルで攻撃するかの二択で戦えるという情報をくれている。
二十八層までの復習はこのぐらいで良いだろう。カメレオンの攻撃方法と威力が解っただけでも充分だ。大事なのはここ以降、二十九層から先の情報だ。
「さて、ここからがメインディッシュですか。二十九層以降どんなものがあるのか。とても気になります」
「まず、何層までの情報があるのかな……と」
情報ファイルには三十四層までの情報が記されていた。つまりダンジョン庁の手持ちの情報としては最深層は三十四層という事になるのか。もしくはそこより深くのデータはあるものの、まだ持ち出せていないか。
何処のダンジョンでデータが取れているのかどうかまでは解らない。清州ダンジョンか、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンか、それとも他の何処かか。ただ、ぱっと見小西ダンジョンより広いダンジョンであることは確かだ。
二十九層から三十二層にかけてのデータを調べる。風光明媚とも言える森に出た。周囲は木に囲まれていて、川が流れているらしい。川には何故か橋がかけられており、複数のダンジョンでは川向こうに次への階段が設置されていることが多いらしい。森マップとは違ってあちこちからモンスターが現れそうだな。全周囲が敵、これは今までなかったパターンだ。
出てくるモンスターは三種類だが、正確には二種類といった所だろう。まず、森全体に分布している、トレント。木に擬態していて近づいてきた探索者に向かって蔓を這わしたり叩きつけたり巻き付けて縛り上げたりと、いろいろ攻撃パターンはあるらしい。
「蔓の鞭ですか。スナップが利いてて当たると痛そうですね」
「蔓の堅さも気になる。刃が立たないぐらい硬かったらどうしよう。本体は……お、そろそろか」
動画の中でトレント退治を始めた。どうやら【水魔法】については耐性があるらしく、ウォーターカッターで切り刻む程度にしか効果がないようだ。続いて【火魔法】の実演。木だから火に弱いというのは気のせいらしい。【火魔法】も一時的にこそ効果はあれど、ダメージと呼べるほどの威力は無いらしかった。個人の威力の強さのせいもあるかもしれないから一概には言えんな。
「私のスキルは効果無しですかねえ。ちょっと残念ですねえ。でも水をもっと圧縮すれば切断効果が見込めるかもしれません」
「【索敵】のほうも期待してるよ。これだけ木が多いとトレントと普通の木の見分けがつかん。全部燃やしていけば解るかもしれないけどそこまでするにはちょっと木材が多いというか、大変そうだ」
流石に全種類のスキルを試す……というほどの情報蓄積は無いらしいが、物理的なダメージについてはゴーレムよりはマシなんだろう。何度か斬りつけている間にダメージが蓄積されていたのか、トレントは倒れて黒い粒子に還る。後には魔結晶と……
「枝? 実? 食えるのかなあれ」
「真っ先に食えるかどうか考えるのは日本人ぐらいらしいですよ」
動画では無く文章のほうを確認すると、この実は柔らかくはないが芳醇な香りと甘みのある高級なリンゴのような味わいをしていて、疲れが取れていくらしい。また、枝のほうはそのトレント固有の不思議な香りがしみついており、香木として市場に流してはどうかという意見が添付されていた。
それ以外にもトレントは小瓶に入った樹液を落とすらしいが、こちらのほうはまだ利用法が確立しておらず、いろんな研究機関で何かに利用できないか模索している途中らしい。
「どうやって倒します? あれ」
「試しに斬りまくってみるぐらいしか思いつかないな。後は動画に無かった【雷魔法】がどのくらい効くかによる」
「やっぱりそうなりますよね。物理攻撃で大丈夫ならそうするのが楽そうですね」
「参考にはなったが、実際やってみないとな」
「映ってる人たちがどれぐらいの強さかもわかりませんし、やはり参考程度にとどめるのが吉ですか」
「そうだな……あの実美味そうだな。食えるってちゃんと記述されてるし、保管庫のおかげで綺麗な状態で出荷も出来そうだし、お値段がおいくらかは解らんが希少フルーツとしてお中元に適していそうな気はするぞ」
トレントの分析はこのぐらいか。後二種類もちゃんと確認しておかないとな。
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