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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第七章:マイペース・マイライフ

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562:長官再び

 勝手知ったるギルマスルーム。ノックをして入ろうとすると、ちょっと待ってくれと扉の前で待たされる。珍しいな、お客さんかな?


 しばらくしてどうぞと言われたので中に入る。お客さんという訳ではなかったらしい。おやつでも隠していたんだろうか。


「おや安村さん達、二人そろっていらっしゃい」


 ギルマスである坂野はいつもの調子だった。ゴルフクラブを隠していたわけでもないらしい。堂々と机の横に立てかけてある。練習のほうは欠かさずやっているようだ。


「何か都合悪かったですかね? でしたら日を改めますが」

「いや、ちょっと見せられない用事をやってただけだよ。それで、今日はどうしたの」


 何か用事でも言いつけてたっけ? という感じでいつもの飄々とした態度を見せる。


「今日は一応報告に来まして」

「報告? 何か報告求めるようなことしてたっけ」


 冷えているであろう麦茶らしきものを飲みながらギルマスが問いただしてくる。こっちには出してくれないのはいつもの事だし突然の来訪なので仕方がないか。


「いえ、ただ二十八層までたどり着いたので」

「たどり着いたので。その報告に来ました」


 麦茶を飲む手を止めるギルマス。少し手が震えているので驚いてはいるようだ。


「二十八層に到着した……ってことはダンジョンマスターにも当然会ったんだよね。何かダンジョンに関わるような事は聞けたのかい? 」

「いえ、エレベーターを設置してもらって終わりました。今回は何かあるかもしれないから保留という事にしておいてもらってます」

「そういうのは事前に教えておいてほしかったなぁ。こっちにもこっちの都合があるわけだし」


 眉をへの字に曲げてギルマスが抗議する。まあそういう言い分にはなるよね。


「まあ、階層を進んでいくにはタイミングとか気分とかもありますし、いざ今から行くぞとなっているのに用事で数日待たされるといった形になると失敗する可能性だってあったわけですから事後報告になったのは仕方ないって事で」

「何か手持ちで質問しておくようなもの、あったりしますか? 」


 芽生さんが珍しく表立って質問する。今日はやる気に満ち溢れているな。きっと収入が予想外に多かったからその分ギルドに貢献したいという意思の表れだろうか。


「うーん、突然言われてもなぁ。さすがにこんな短期間でたどり着くとも思ってなかった部分もあるし、今すぐ長官に確認したとして……確認したとしても今日また潜るわけじゃないよね? 」

「そうですねえ、流石に私も夏季休暇中ですから、それらしく羽を伸ばしてみようと思ってますし、今日は帰って来たばかりなので。最短で二日後に洋一さんの手が空くってところでしょうかねえ」

「じゃあ今ちょっと確認してみようかね。まだ時間は良いかい? 」

「いいですよー。今日はもう帰って寝直そうかと思ってましたので」

「俺も問題ないですね。帰って片づけして寝ようと思ってましたので」


 二人そろって帰ったら寝るらしい。そんな所で予定が被ってしまったか。だったらもう少し仮眠時間を長く取っても良かったかな?


「もしもし、小西ダンジョンの坂野です。真中長官に至急連絡がありまして……はい、はい、取次お願いします……あ、坂野です。至急お耳に入れておきたいことがありまして」


 ギルマスは早速連絡をつけられたらしい。上手く電話がつながったようだ。電話越しに驚いているような声が聞こえてくる。


「はい、解りました。では直接。……二人とも、ビデオ通話いける? 」


 どうやら緊急でビデオ通話で話し合うらしい。芽生さんがこくんと頷く。俺もこくんと頷いておく。ギルマスのパソコンを通じて真中長官とまたビデオ通話する事になった。


「やあ、久しぶり。元気にしてたかいお二人さん」


 真中長官はかなりフランクな口調で語りかけて来た。二人して小さいカメラ穴に向かって話す。集音マイクなので多少離れたりしていても音声は問題なく通じるようだ。


「どうも、ご無沙汰です。Bランク昇級のお礼……という訳ではないですが、無事に二十八層まで行って帰ってきました。エレベーターは設置済みなので今度目印でも置いてきますよ」

「それは何よりだ。まずは無事に帰ったことをねぎらうべきだろうね。それで、ダンジョンマスターとはどうなった? 」


 真中長官はダンジョンマスターとの関係が気になるらしい。


「洋一さんお手製のシチューを一緒に食べて帰ってきましたよ」

「シチューをか……で、何か進捗は? 」

「とりあえず思いつくものが無かったので保留、という事にしてあります。何か用事が出来たらその時に……というところでしょうか」

「つまり、何かしら質問する権利は残ってると見ても良いんだね? それは何よりだ……何よりだが、今のところこっちとしても是非情報の精査をしてもらいたい、というようなものは特にないんだ。だからそのまま保留にしておいて、ダンジョンマスターとの友好を深めておいてもらいたい」


 それについては問題ないな。定期的にお菓子の差し入れはしているし、呼んだらピザ屋よりも確実に来る。関係は良好と言えるんじゃないだろうか。多分、この関係は他のダンジョンと比べてかなり珍しいものなんだろうとは思っている。が、それについてここで話すことはないだろう。あれもこれもと問題が出る度にお互いを使いまわされそうだ。


「でもいいなあ、ダンジョンマスターとの話し合いか。一度会ってみたいなそのダンジョンマスター。何処か安全な所でこっそり会ったりできないかな? 」

「安全な所ですか……一層が安全と言えば安全ですが、会談というには少々人の目が多すぎる気がします。スライムも出なくて人目につかなくてとなるとダンジョン外で会うのが一番なんでしょうが、ダンジョンマスターはダンジョンから出られないらしいですからね。仮に会談をするとして安全な会談をするためには警護が必要になりますし、他人に見られる都合上、ダンジョンマスターの存在を公表するのが先になってしまうんじゃないでしょうか」

「それは残念だな。個人的に聞いてみたいことがたくさんあるんだけどな。その向こうで滅んだらしい文明の話とか、魔力を利用した社会構築のシステムとか色々……そう、色々をだ」


 流石ファンタジー好きを公言するだけはある。一般的にはどうでもいい事だが知識として知っておきたいものはあるんだろう。まだ見たことも無い異世界の生活事情に血が騒ぐという奴だな。


「まあそういうのも含めてまとまったらまた教えてください。聞けることは聞けるようにしておくので」

「何にせよ、二十八層到達おめでとう。しばらくは二十八層から下にはいかない感じかね? 」

「二十八層以降の情報が無いですからね。何か攻略に役立ちそうな情報があればそれを参考にして戦い方を考えるなりするんですが」


 そう、攻略情報が無いのだ。二十五層から先の情報はカメレオンが居た情報ぐらいしかなかった。この先は更に情報が存在していないか、D部隊にしか公開されていないんだろう。官民で情報量に差があるのは、どこまで秘匿しておいたほうが良いか、悪い方向にダンジョン探索が向かないか、等を考慮しているのだろう。


「なるほど……情報があれば潜るのもやぶさかではない、と? 」

「そうですね。こっちは二人しかいませんので、出来るだけ情報を仕入れて念入れをして挑まないと危険ですから」

「解った。こっちに集まっている下層の情報、それを可能な限り提供しよう。それが二十八層まで潜ってくれたダンジョン庁からの報酬、という事でどうだろう」


 二十九層以降の情報か。喉から手が出るほど欲しい情報ではある。それをこっちによこしてくれるのなら大助かりだ。


「それは報酬としては破格なものになりますねえ。良いんですか? そんな情報を流してしまって」

「構わない。Bランク探索者にはBランクなりの守秘義務があるからそれなりに配慮が求められることは分かってくれていると思うしね。それに流したところでBランク探索者はまだまだ数が少ない。むしろ、各地のBランク探索者の情報を集めてダンジョン庁としてこっそり公表できる情報は流してしまって探索の役に立ててもらうほうが重要だからね。そしてダンジョン庁に対してもダンジョンマスターに対しても好意的で優秀な探索者を失うような事も避けたい。だとすれば情報の公開に踏み切ってしまうほうが安全だと考える」


 真中長官の手元には今何層まで潜っている記録があるか、などのデータが一通り集まっている、と考えても良いんだろうな。


「ちなみに、なんですが今何層ぐらいまで潜っているのが記録なんですか? ちょっと気になる所ですねえ」

「それを含めての情報提供になると思ってくれていい。潜ってない階層の情報は渡せないだろう? 情報を揃えたらそちらの坂野課長に渡るように手配しておくのでそれまで楽しみに待って、夏を満喫していて欲しいところだね」


 しばらく時間がかかる、といった所だろうか。その間に食肉や羽根やらを仕入れたりする時間が取れるって事だな。また芽生さんとゆっくり二十層で肉集めたりして食生活を豊かにしていくのも大事だな。それにヒールポーションの在庫も増やしておきたい。


「解りました。では、俺も夏休み……いやまあ探索してなかったら年中夏休みなんですが、深層探索はちょっとだけお休みをもらう感じにしますよ。色々と後回しにしていた仕事もありますし」

「ああ、一部の素材をギルド外に卸しているんだったね。ちゃんと確定申告で収入に挙げておかないとだめだぞ。税務署は怖いからね」


 どうやら布団の山本に出入りしているのはダンジョン庁には知られているらしい。どうやって調べたかというか、調べてどうするつもりだったのかは解らないが、ダンジョン庁もそれなりに調査能力はあるって事かな。もしかしたらその捜査能力を使わせてもらう事があるかもしれない、その時のために覚えておこう。


「さて、今話せるような事はこんなものかな。では、正式にダンジョン庁からのお願いだ。今後も二十九層以降への調査・探索・ドロップ品の回収を任せる。今日はお疲れ様だったね、ゆっくり休んでくれたまえ」

「はい、では失礼します」


 ビデオ通話を終わり、一呼吸する。義務はなくてもちゃんと報連相はしておくべきだという事は充分に解った。


「というわけでしばらく夏季休暇みたいなものを取ることになりました。ふらっとダンジョンには来ますが多分七層辺りに居るはずなので連絡があるなら受付か支払いカウンターに言づけておいてください」

「解った。さっきの情報についてはまとまり次第送られてくるだろうから……何かUSBメモリ的なものはある? あったらそれに入れて渡すけど」

「手持ちにはないので、次に来た時にカウンターにギルマス宛てで預けておくことにしますよ。多分それが一番簡単なはずなので」


 家にはいくつか転がってたはずだ。そこそこの容量の物を渡せるようにしておこう。


「それじゃ、用事は終わったんで帰りますね」


 ギルマスに断りを入れ、帰ることにする。


「お疲れ様。次行けそうなときはちゃんと連絡頂戴ね」

「それ以外で緊急で何かあれば、ダンジョンマスターへの貸しを使わせてもらいますよ。それでは」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「そういうのは事前に教えておいてほしかったなぁ。こっちにもこっちの都合があるわけだし」 国のために働いて欲しくても、対価を支払おうとは言いませんね。
[一言] やっぱ布団やで保管庫バレかな
[良い点] まぁ当たり前の話ですが、きちんと監視されてるんですねダンジョン庁に…。いつか長官を交えた会談の機会があったら、ダーククロウ布団と枕をプレゼントしてあげても良いんじゃないかな? そういえばダ…
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