56:中華屋で
「誤字報告一覧」という機能に気づくことが出来ました。皆さん訂正本当にありがとうございます。
「こんばんは~やってますか~」
ここに来るのは二日ぶり三回目だ。店主の爺さんが元気に仕込みをしている。
「おう、いつもの兄ちゃんか。今日は買い取りか? 飯か? 両方か? 」
「両方でお願いします。十五パック程ありますけど、いかほど要ります? 」
「全部貰おうかね。冷蔵庫に余裕があるんだ」
「解りました。じゃぁ前の通り四千五百円でお願いします」
「あいよ、ちょっと待っとれ」
奥から現金を出してくるとその場で支払ってくれた。
「隣のはコレか? それともパーティメンバーか? 」
「「パーティメンバーです」」
ハモった。爺さんから冷たい水を受け取ると適当な席に座る。
「今日は何にするかな……」
「お爺さん、カニある? 」
「そうだな、ネギみそ焼きとかどうだい」
「じゃぁそれとチャーハンで! 」
「俺は鶏唐定食と餃子」
「あいよ、ちょっとまってくんな」
爺さんが厨房に戻る。
「そういえば鶏唐の話してましたね。私も頼めば良かったかな」
「一個分けてやるから」
「もっと豪勢に注文しないんですか? 」
「マチェットの代わり用意する金が要るからな。幾らかかるかも解らんし今は貯めておく」
そういえばお互い個人的な話をすることは無かったな。これを機に話題を膨らませてみよう。
「そういえばダンジョンなんで潜ってるんだ? 」
「前にも言ったじゃないですか、お金とダイエットですよ」
「豪勢に使ってるようにも見えるけど」
「奨学金返しながらだと、割のいいバイトよりもダンジョン潜ったほうが早くて」
「単位は大丈夫なのか? 」
「去年取れる単位は全部取ったんで必修単位ってそんなに多くないんですよね」
「だからか。大学生のわりに講義に出てる節があんまり無かったからさ」
「心配してくれてたの? やっさしー」
「オッサンに付き合ってたせいで単位落としたなんて事になったら申し訳ないからな」
半分は優しさで出来ている。もう半分はソロで巡るより効率が良さそうだったから、だ。それを言わない分も優しさで出来ている。残りはパーティプレイの楽しさか。
彼女が居ると自分では思いつかない気付きに出会うことが何度かあった。見破られた時は完全に俺の迂闊のせいだったのだが。
きっと俺一人であれこれ考え付くよりも、彼女と他愛もない話をしてみたりしていたほうが議論やそれに伴う検証やその他色々とがきっと良い方向へ行くだろうと思っている。
「そういえば、スライム増えた原因の人、結局何してたんですかねぇ」
「スライムにいろんな餌やって反応の違いを見比べたりとか、餌付けして分裂を頼み込んでみるとか、そんなことをしてたなぁ」
「してたなぁ……って見てきたように言いますね」
「実際会ってるからな。楽しそうだったからゼリー飲料一個恵んでやったぞ。後ちゃんとギルドマスターにも報告した」
ゼリー飲料を分けてやった以外は全部報告したはずだ、ありのままを。
「ギルドマスター? 」
「小西ダンジョンギルドのマスターだからギルドマスター。試しにそう呼んでみたら気に入ったみたいで今後そういう風に呼んでくれとさ」
「そんな軽くて大丈夫なんですか、ギルドの管理責任者が」
「実際大丈夫じゃないだろ、赤字経営らしいし」
「まぁ、ギルマスの事は横に置いときます。何が原因で増えたんでしょうね」
「餌付けでゼリーやったら勝手に増えた可能性? 」
「ゼリーあげるだけで増えるなら、もう何百人も同じ事やってると思いますし、ニュースにもなってますよきっと。なので他の原因があるはずです」
「う~ん……あ、そういえばだが、前に俺も餌付けしようとしたことがあってな」
「さらっと二つ目の爆弾投げ込むのやめません? 」
爆弾とは何だ。その辺に野良がいたら猫でも犬でもまずなんか食わせてやろうと思うのは人間心理じゃないのか。最近は居つくからダメって風潮はあるが。
「まぁまぁ。で、食わせてやった後にサクッと駆除したら、なんとゼリーと魔結晶の両方がドロップしたんだ」
「それ百%でですか? 」
「二匹試して二匹ともだった。ただ検証数が少なすぎてそれが原因とは言えないな」
「ちなみに何あげたんです? 」
「いつものカロリーバー」
「……カロリーバーあげて百三十円回収ですか。金策としては微妙な効率ですね」
「動物用の配合飼料なんかを使って他のモンスターでも検証してみてもいいかもしれないが……労多くして功少なしってなるような気がしないでもない」
餌付けに限らず、他に何かがトリガーになってドロップが変化するような事があるんだろうか。部位破壊みたいな。
「ゴブリンが勝手に食べ漁って満腹になったら止めを刺すとか」
「ゴブリンが食ってくれるかどうかから確かめないといけないのか。気の長い作業だ。巡ってゴブリン二十五匹倒すほうがうまみがありそう」
「なんで二十五匹? 」
「そのぐらいの割合でヒールポーション一本くれるんだよ。実際には更にその六十三%の確率で、らしいけど」
話が逸れて行ってるな。本道に戻すか。
「で、だ。結局増殖を始めた現場を目撃したわけじゃないんだ。犯人と思しき奴を見かけてちゃんと報告はした。その後の調べでは似たような事を他のダンジョンでもやらかしてたらしいんだが」
「今頃は手配書が出回ってる頃ですかねえ」
もう出回ったと思う。他のダンジョンに入ろうとした時点で捕らえられて終わりのような気がするけど。
「スライム増やして何の利益があるんでしょう?安村さんみたいにタップダンスがしたいとか」
「あの動画見たのか。出演料いつ振り込まれるんだろう」
「広告料が十再生あたり一円として……五万再生超えてますね」
「ってことは五千円は受け取ってるはずだから五百円ぐらいは貰っても損はないんだな」
「みみっちぃですね」
等と言っていると料理が届いた。
文月さんの注文したカニのネギみそ焼きは、カニの甲羅を器にしてほぐした身を小口切りしたネギと味噌で和えたシンプルな一品だ。酒にあうと見た目が語っている。俺も酒飲みなら外せない所だろう。
チャーハンは、いかにも寂れた中華屋のチャーハンというチャーハンだ。
「せっかくだからチャーハンの肉はウルフ肉にしといたよ」
爺さんも解っている。さすがだな。
俺の注文した鶏の唐揚げ定食は前にも注文した品だ。サックリ揚がっているのが気に入ってまた注文してしまった。なので語ることはない。
代わりに注文した餃子だ。爺さんが一つ一つ包んでいるらしく、形がバラバラだ。流行りの羽根つき餃子ではなく、一個一個が個性を主張していると言えば聞こえはいいが、これもいかにも中華屋って感じだ。ただ、汁気が少し多いようにも見える。焼きが甘いわけじゃなさそうなので、中の汁気が多いんだろう。
いただきますすると、まず餃子からいただいてみる。肉汁が結構詰まっている。脂身の多い豚肉を使っているようだ。熱くて口から零しそうになるが、ハフハフしながらいただく。初めて食べる中華は、一口目はまず何も付けずに食べてみるのが俺のルールだ。
「ウルフ肉ってサッパリしてていいですね」
「自炊はあんまりしないタイプ? 」
「しますが、拘らないタイプではありますね。安村さんもでしょ? 」
「まぁ、あまり手の込んだ料理は好きじゃない。サクッと作れてサクッと食べれる物までかな」
そういえば唐揚げ定食も主食はチャーハンだ。まとめて二人分作ってたから同時に来たのかな?
文月さんは無言で唐揚げを一つ持っていくとかぶりついた。
「ん~、サクサクでいいですね」
「唐揚げ一個当たりのカロリーは平均百キロカロリーぐらいだそうだ」
「今日は一杯動いたし、一杯頭使ったからいいんですよ」
「さよか」
しばし、お互い無言で料理にありつき続ける。爺さんはなにやら仕込みをしているらしい。さっき俺が渡したウルフ肉をタレに漬けて……さては、唐揚げの仕込みか!
ウルフ肉の唐揚げ……食べてみたい。しかし、今から仕込んでいるんじゃ最高の唐揚げを食えるのは少なくとも今じゃないだろう。
お互い八割ほどまで箸を進めたところで、ふと問われた。
「そういえば、例の体の動かし方どうやって気づいたんです? 」
「あぁ、あれはスライムがあまりに少なすぎるからスライムとスライムの間を高速に移動しようとして、誰よりも早く! って念じて動かしたら動いた、みたいな? 」
「安村さんって行動の最初にスライムが絡んでる事多いですよね」
そりゃ仕方ないだろ。まだ四種類のモンスターしか見たことないし、ツナギヘルメットバールで戦えるモンスターなんてスライムしかいなかったし。
「まぁそれでだ、素早くなれるなら力強くもなれるんじゃないか?と思ってスライムを思い切り握ってみたら、素手で核を握りつぶしてスライムが弾けとんだ」
「食事中~」
「ゼリーの話なんだから食事中でもノーカン」
「で、腕力が強くなったという事は攻撃力が高くなったと仮定して、防御力はどうか?と思って」
ツナギの食いちぎられた部分を見せる。文月さんは呆れた顔でこっちを見る。
「あ~……」
「そういうこと」
そんな目で見るのはやめてくれ。思い返すと確かに俺が悪い。
「で、私は今後もそんな実験に参加させられると」
「強制はしない。ただ、失敗した時にカバーしてくれる人がいると心強いなーって」
「じゃぁせめて私の居るところで実験してくださいね。そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
「モンスター狩りの効率が落ちるので」
「なるほど? 」
「一人で二層で頑張ってるより、二人で三層を片っ端から回るほうが明らかに効率上がってますからね。奨学金を返し終わるまではこれを逃す手はありません」
確かに俺にとってもうまみはある。一人でゴブリンひたすら狩り続けると集中力がどうしても落ちる。スライムだと平気なのに不思議だな? それにやはり人と話しながらのお仕事は少し気がまぎれる。
「四層のリベンジ行きたいんだが」
「それもそれ! これもこれ! 」
「まぁ、予定を決めてこの日とこの日は絶対! ってのは縛りが厳しい。お互いの生活もあることだしな。ダンジョン内で会ったら組んでパーティープレイという所でどうだろう」
「良いでしょう。ただしもう一つ条件があります」
何言われるんだろう。荷物持ちかな。やっぱり槍とか重いからか。
「餃子もください」
俺は苦笑いしながら餃子をもう一皿注文することにした。
今日の支払いは俺が持とう。
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