559:二十七層延長戦 1/2
アラームが鳴り、仮眠時間が終わったことを教えてくれる。ダーククロウの枕のおかげで疲れはほぼ取れている。体をタオルで拭くと服を着なおし、芽生さんのテントを先にガサガサしてタオルを放り込むと、体のあちこちを伸ばして早速夕食の準備だ。
保管庫の中とは言えさすがに数分経っている。気温が少し高めのここでアチアチのシチューを食べるのは少々暑すぎるかもしれないが、そのままお出しするとボア肉の脂が固まっていて口の中の味わいが少々残念なことになる。ちゃんとコンロで温めて、パックライスをバーナーのほうで再度温める。
隣のテントから少々着崩した格好で芽生さんが出てくる。
「おはようございます。ゆっくり眠れました」
「その割には服のあちこちにスキが多いぞ」
「うーん……一度下着姿を見られているのでアレに比べたらまあいいかなって」
「俺はあんまりよくないが……ここで俺が見ているってことはミルコも見てることになるがそれは良いんか? 」
「そういえば保管庫スキル保持者は観察されているんでしたね。私も近くにいる以上その対象って事ですか」
そう言うとちゃんと服を着なおす。段々だらしなくなってきているような気がするが、その分気を許されていると思うと悪い気はしない。限度はあるけどな。
「さて、そろそろ程よく温まったかな……シチューのほうは良さそうだな。後はパックライスか。三人分用意しなければ」
「じゃあパックライスのほうは私が見てますんで容器と付け合わせの準備しててください」
「そうする。そっちは任せた」
タッパー容器を取り出し人参しりしりとさっき食べきれなかったクズ野菜の胡麻油和えの残りを添えると、食器を三人分。そして程よく温まったらしいパックライスと順番に皿に盛って、シチューをかける。お手軽だがしっかり煮込まれたシチューがさらにトロみを増し、よく煮えていることを確認させてくれる。
「ご飯の用意できたぞ。ミルコもおいで」
食事が出来上がるとミルコを呼び出す。すると待ってましたと言わんばかりに転移してきて正座で現れた。
「安村のご飯は美味しいからね。これはなんて料理だい」
「ブラウンシチューだ。牛の乳から作られたバターと小麦粉をベースにしたソースを軽く焦がして、そこに野菜や肉をぶち込んでまとめて煮た料理だ。世の中では中々に人気がある一品だ」
「それは楽しみだね。こっちは? 」
どうやら食事に興味津々らしい。出来るだけ固有名詞を使わないように説明をしていく。
「そっちは人参しりしりと言って、人参という……シチューにも入っているそれを甘く炒めて鳥の卵を和えてある。そしてこれはシチューを作る際に出たクズ野菜を炒めて油で和えたものだ。ダンジョンで食べるには割と贅沢な料理であると思ってくれていい」
「なるほどね、保管庫があるからこそ楽しめるメニューという事は分かった。早速食べよう、いただきます」
いただきますを覚えていたらしい。良い事だ。早速俺もシチューを味わい始める。昼よりさらに煮込まれたシチューは野菜のうまみがルーに溶け込んで、しかも煮詰まったルーがさらにトロトロになってご飯とよく絡む。今日も料理はうまく出来たな。
ミルコは早速一口食べ、目が輝いているように見える、どうやらお気に召したらしい。早速ぺろりと食べるとルーのお代わりを要求する。結構な量を作って来たと思うので二杯ぐらい食べるには問題ないだろう。それ以上は俺の分がなくなるのでほどほどにしてほしいが、ともかく美味しく食べてくれることは嬉しい。
ボア肉を多めに入れたおかげでしっかり煮込まれたボア肉がホロホロと口の中でとろけていく。ウルフ肉ではこの食感はきっと楽しめなかっただろう。オーク肉だったらもっと美味かったかもしれないな。今度はオーク肉でも試してみるか。かなり高級な食事という位置づけになってしまうが値段分の美味しさは提供してくれるだろう。しかし、オーク肉ならやはりカレーを選択したいところだな。
「これ美味しい。また食べたい」
ミルコがリクエストを出すのは珍しい。おれはダンジョンマスターの餌付けに成功したようだ。
「ここで昼食を取る時にはまた作ることにするよ」
「あとシュワシュワの奴おくれ。アレも美味しい」
コーラをご所望らしい。早速保管庫から出して渡す。ダンジョンマスターは嬉しそうにゴキュゴキュと飲み始め……ゲップ。ダンジョンマスターもゲップはするらしい。
◇◆◇◆◇◆◇
夕食をきっちり食べ終えて時刻は午後九時半。まだ半日近く時間が残っている。休憩してまた二十七層に戻って、しっかり稼いでから帰るとするか。ちなみにミルコは満足した後、お菓子をもらってさっさと帰った。何とも現金な奴だ。
「さて、今からの予定だ。二十七層で巡ってない所を探索しておこう。もしかしたら階段から階段まで一周してたどり着ける可能性もあるからな。そうすればグルグル回り続ける探索ルートが確保できる。リポップ時間から見ても美味しいルートの開拓が出来るはずだ」
「普段日帰りであれだけ稼いで帰ってられるんだから今日の収入はかなりのものになるかもしれませんね」
「帰りの荷物が大変なことになりそうだ。今度こそ指がちぎれるかもしれない」
今でさえ、魔結晶で二袋になっている。これが四袋になると指二本あたり一袋という計算になる。かなりの握力と腕の力が必要になってくるな。
「革とポーションと魔結晶の一袋ぐらいは手伝えると思うので、それ以上は頑張ってください」
「最悪の場合荷物をここに置きっぱなしにして次回取りに来る、という形になるかも」
この階層でいくら稼げるようになるか。それを実感してからでも遅くはないだろう。まずは二十七層に体を慣らして確実に倒していけるようにするのを優先していこう。二番目が地図作りだな。
「とりあえずもう少し体を休めてから出発かな。無事にたどり着けた安心感と仮眠明けの頭で少々気が緩んでいる気がする。濃い戦闘を行うにはもう少し目が覚めて腹が落ち着いてからでいいや」
「じゃあもうちょっとだけゆっくりしますか」
更に三十分ほどゆっくりして、それから二十七層への階段へ行く。二十九層をチラ見していくのも悪くないがせっかくの宿泊コース、長い時間戦えるのに稼がないのはもったいないからな。
◇◆◇◆◇◆◇
二十七層へ上り、階段手前の三叉路をまだ行ってない方向へ真っ直ぐ進む。モンスターは相変わらずのメンツだが、心も体もフル充電された状態なので油断なくカメレオンを念入りに潰しつつ、たまに来るゴーレムをきっちり倒し、問題なく探索は続いていく。
ゴーレム以外は芽生さん任せなので俺の仕事は右に左に真ん中に、と範囲収納でカメレオンのドロップを拾い集めていく。
道中の小部屋にはゴーレムが窮屈そうに体育座りしていた。近づくとこっちに向かってくるが、天井が低かったらしく、全身を伸ばすことが出来なかったようだ。こんな狭い所に固定で湧くことは無さそうなのでたまたまここに湧いてしまったんだろう。かわいそうに。
手早くゴーレムに近寄り目を破壊すると、心なしか少しうれしそうにゴーレムは黒い粒子に還っていったような気がする。次はもっと広い所に湧くと良いな。
やはりループ構造になっていたらしく、二十六層への階段へ戻ってくることが出来た。しかも、たどり着くまでの時間を考えるに、歩いた距離はこっちのほうが近かったと思う。
「やっぱり今回は俺のほうが正しかったことになるな。たまには当たるという事だ」
「ループしていたならどっちを選んでも当たりなので今回の判定は無しという事で」
今回は勝負無しとなったらしい。次回の勝負までオアズケだ、次こそ正解のルートを当てて見せよう。水分補給して、少し体を休めた後もう一度二十八層への階段へ、行きに使ったルートをたどって戻っていく。ぐるっと回る形になるのでモンスターのリポップについてはあまり考える必要がない。後二周ぐらいしたら固定リポップの場所もはっきりするだろうな。
ゴーレム三匹の相手も慣れて来た。まだまだ改良の余地はあるが戦い方マニュアルは脳内に蓄積され始めている。最近上がったばかりだが、ステータスブーストがもう一段上がれば更に楽に戦う事が出来るようになるだろう。
さて、もう半周しますか。
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