557:二十七層
さっき飛ばしたまだ壊れていない投げがいのあるゴブ剣二本とドロップを拾うと、気を取り直して探索を進める。道は分かっているのでまたゴーレムが二体出てくる場所まで進む。今度は油断しない。というか一人で立ち向かおうとしない。冷静に芽生さんのカバーが入るのを待ってから攻撃に転じることにする。同じ無茶をしてまたヒールポーションのお世話になることは防ぎたい。
今回は芽生さんの手が空くのを待って、芽生さんが片方のゴーレムに攻撃をし始めてから反撃に移った。同時に二体来なければゴーレムの周りを歩き回りつつ、攻撃が来たらその腕を足場に目まで飛び乗って攻撃する事も容易い。
正直なところ痛い思いをするのは一日一回で充分だ。検証は毎日コツコツとやっていくべきで、一日にまとめてやるような事はしたくない。いくらヒールポーションで痛みも消えていくとは言え、痛いものは痛いわけで。今日は大人しく、手順を守って安全な探索に切り替えていこう。後はゴーレムが一体出たぐらいで階段が見えてくるはずだ。それまでは芽生さんにお任せしよう。
予想通りゴーレムが一体、危なげなく倒すと階段が見えて来た。階段までにはやはり二、三匹カメレオンが居たらしく、芽生さんがウォーターカッターをきっちり飛ばしていく。
階段前が綺麗になったところで休憩を取る。さっきカロリーバーを食べたものの、まだお腹には余裕がある。もう一本胃に入れておこう。芽生さんにも一本渡し、水分をお互い補給する。カロリーバーはそこそこ口の中の水分を吸い込んでいくので、この乾燥したマップではなおさら喉が渇く。
水分を口に含んでよく濯ぐ。口の中が渇く。これが本物の砂でできていたら埃っぽくてしょうがないだろうが、そこは謎の配慮が行き届いているらしい。ただ水分をひたすら空気中に放出させられているような、そんな感覚だ。
「さて、ここからが未知の二十七層。これを抜ければセーフエリアだが……」
「セーフエリアだが? 」
「この環境でキャンプを張るのは中々に厳しいものがあるな、と」
居住スペースという意味では二十一層が一番居心地が良かったように思う。次が十四層、七層は……キャンプとしては一番それっぽいものだったな。謎に明るいとはいえ気温的には七層と似たようなものかな。
「何にせよ、まずは到着するのが先か。水分補給したら行こうか。マップは今まで通り複雑でない事を祈るよ」
二十七層へ入る。マップの見た目は変わらないが、また小部屋に出た。部屋にはゴーレム二、後は解らない。……と、早速芽生さんがウォーターカッターを飛ばしたので、カメレオンは居たんだろう。いまだに見分けがつけられないのは、カメレオンの擬態能力がそれほど優れているのか、それとも俺の目が悪いのか。出来れば前者のせいにしたい。
カメレオンを処理し終わった芽生さんとそれぞれ一体ずつ相手し、危なげなくゴーレムを倒すことが出来た。二十七層に入ったところはこれで一掃できたようだ。
「いきなり三体じゃなくて安心した。さすがに階段下りて一発目というのはきついからな」
「もうちょっとこう、溜めの時間が欲しい所ですよね」
「出来れば下りの階段前とかだと盛り上がる所だな」
「出ないのが一番楽なんでしょうけど、そこまで楽をさせてくれるダンジョンじゃない事は私たちが解ってることですからね」
小部屋を出るとまた二択。先を見通してみるが、どっちも奥へ続いている。
「よし、こっちへ行こう」
俺は右を指さす。
「なるほど、つまりこっちですね。さあ行きましょう」
芽生さんはすたすたと左に歩いていく。あれ?
「信用ないなあ」
「信用あるじゃないですか。選んだ道は大体外れ、中々に信用できる理由ですよ。もっと誇ってください」
大体外れる……なるほど、そういう考え方も出来るか。ぐすん。
◇◆◇◆◇◆◇
気分を持ち直して芽生さんの後ろを歩く。やはり二十七層、二十六層よりも頻繁にウォーターカッターが飛ぶ。それだけ見た目上以外の部分にモンスターが湧いているという事であり、それだけ深い階層まで来たんだなぁという感想が脳から漏れる。
ゴーレムも出てくるが、頻度が高い。一匹だったり、二匹だったり確定二匹ではない。それは有り難いが、ちょっとカメレオンの数が多すぎるように感じる。芽生さん大丈夫かな、持つかな。
「大丈夫? 無理してない? 方向指示してくれさえすれば雷撃で対処するけど」
「じゃあ十時方向距離二十メートル、一時方向距離三十メートル」
「あいよ」
指示された方向と大体の距離に強めの雷撃。すると反応があった。焦げた物体が突然現れ、そして黒い粒子に還っていく。本当に居た。確かにそこに居た。二番目の場所にも一撃を入れると、確かに手ごたえがあった。次に指示された時はもっとよく目を凝らして観察してみよう。
「次、正面十メートルど真ん中」
「……見えん」
首を振って見る角度を変えてみても居ないように見える。試しに雷撃をすると、ちゃんと黒い粒子が飛び散った。居たらしい。
「居たでしょ? 」
「さすが索敵、なんとか肉眼で観察できればいいんだがなんかうまい方法無いかな」
「索敵もう一個出して覚えるのが一番手早そうではありますが」
「無事に二十八層についたら、しばらくスキルオーブ出るまで粘ることも選択肢の一つだな」
この発言はフラグじゃないぞ。あくまで現実的な路線の話なのでこの後大けがを負うとか決してそういうものじゃない。ゴーレム三体ぐらいは出てくるかもしれないが予想の範囲内だ。そう易々と最悪のパターンをひいてたまるか。その為に念を入れて準備をして時間を作り、必要最低限の労力で最大の利益を得られるようにしているんだ。
……などと言っていたら、本当にゴーレムが三体出て来た。どうしようと一秒考えるが答えは決まった。決して素早い相手じゃない。回避に専念するなら三体分の攻撃を避けきることもできるだろうし、最悪の攻撃を受けるパターンはさっき潰した。芽生さんが後ろからゴーレムを順番に殴り倒していくのを待つ間、ひたすら避け続ける。現状での最適解はこれだ。まずやってみて、より最適なものが有ったらそれを選ぼう。
ゴーレムは最初に見つけたターゲットをしばらく追いかけ続ける。ゴーレムを発見した時点で俺が前に出たため、ターゲットは俺になっているはずだ。俺が右に動くとゴーレムたちもこっちを見る。ヘイト管理は今のところうまく出来ているようだ。
その間に芽生さんには隠れているカメレオンが居るなら倒してもらって、その後でゴーレムの数を減らすのに参加してもらう。上手くこっちでヘイトを取れるように、ゴーレムの視界内でうろうろして攻撃が来たらとにかく回避する。カウンターは考えない。
芽生さんの動きをひたすら待ってゴーレムの視線を引き付ける。ゴーレムはきっと疲れというものを感じないだろうから、先に疲れたら俺がアウトだ。できるだけ最小限で、消耗しない避け方。かといってギリギリ当たらない距離をよけ続けるような達人技は持ち合わせてはいない。正直必死だ。
後ろのゴーレムが倒れる。一体目退治確認。残った内の一体が芽生さんのほうを向く。これで一対一、それなら反撃に移れるぞ。ゴーレムのパンチに乗って目までジャンプして叩き割るいつもの戦法で倒す。芽生さんのほうをちらりと見る余裕が出来るようになったが、向こうもやり方は同じみたいだ。あっちの方が若干得物が長いので楽にぶん殴っているように見えるが、本人はギリギリかもしれないな。
「やっぱり一発でぼーんと殴り倒せる分カメレオン相手のほうが疲れなくて済みますね」
「それはそれで俺が楽をしすぎている気がしないでもないが……まあいいか。芽生さんが納得できるならそれでいいよ」
「普段から色々と負担をかけてますからね、ご飯やら荷物やらなにやら。その分戦闘でイーブンに持っていけるだけのものを蓄えていきたいのですよ。そのための【索敵】ですから」
その辺はある程度なあなあで済ませてくれていいんだけどな。ここまでやってきて負担割合が大きい小さいなんて事で喧嘩する……いや、そんな事もないな。お互い進んでやってる役目、下手にかき回してややこしくするよりはそのままの君でいてくれ。そのほうが色々と楽でいい。
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