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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第一章:四十代から入れるダンジョン

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55:気を取り直して、殲滅


 早速三層に戻ると、装備の確認をする。マチェットはソードゴブリンとつばぜり合いをしたところが潰れてしまっている。刃こぼれも見受けられるので、前みたいにすっぱり切り落とすには向かなくなっただろう。これは両方とも新しいものを買い足す必要があるな。今日の稼ぎでなんとか取り戻すことが出来そうではあるが、今日は実質ただ働きか。しょんぼり。


 もっと肉厚の武器が必要だ。ハンマーや文月さんみたいに槍でもいいかもしれないが、ソードゴブリンが持ってたようなショートソードタイプがいいな。むしろあいつのドロップを狙ってこの貧弱装備をそのまま……は危ないか。三層で地道に稼ぐとしよう。


 時計を見る。後二時間ぐらいは潜っていられるな。


「後二時間ぐらいは居られるけどどうする? このまま三層ぐるぐる回る? 」

「それでいいよ。四層で危ない目に遭うより確実に三層で力つけたいしね」


 グッと腕まくりすると文月さんは答えた。頼もしい。


「そういえば二層と三層の間は長い道あったよね。ちょっと実験がてら試したいことが」

「二百メートルぐらい真っ直ぐな道はあったかな。何するの? 」

「武器強化……になるのかな。今よりダメージアップが望めるかも」

「じゃぁ二層の階段のほうへ行きますか」


 二層から三層への道は少し広い道幅がずっと続く見晴らしのいい通りになっている場所が多い。

 それでも歩いて三十分あたりといったところか。ここが人気あるダンジョンだったら探索者でごった返すところなんだろうが、天下の零細小西ダンジョンである、道中出会って一人か二人。

 逆に考えれば、一人と互いに通り過ぎればあとは無人と言っていい。


 その分モンスターも湧きやすいのだが、三層でてこずるようなことはもう無いので、後は上手くシチュエーションを作り出すことに専念できればいいな、と思っている。


 こういう時に限って広い道の真ん中にゴブリンが陣取ってワルツを踊っていたり、グレイウルフが徘徊していたりするんだが。


 ゴブリンの三匹連れが遠くに見える。距離にして二百メートルぐらいか。肉眼で相手の後頭部を観察し、狙いをつける。


 文月さんに合図を出すと、棒手裏剣を手の中に取り出すと、手を上げて投擲するような構えをする。

 そして手を振りかぶり、棒手裏剣を投げ……るふりをして、保管庫から一秒で相手に到達するイメージを強く持ちながら射出する。


 シュッ という音とともに棒手裏剣は……うまく刺さった。命中精度良いなこいつ。


 頭を貫かれたゴブリンはそのまま消滅する、残りのゴブリンは慌てて周囲を確認してこっちに気づいたようだ。一目散に四匹がこちらへ走ってくる。


「来るよ」

「よく当てるね~この距離で」

「秒速三百メートル、マッハ〇.九ってとこかな。音もあんまりしないし、投げた後隠れれば暗殺になるな」

「もう安村さん一人でいいんじゃないかな」

「そんな事は無い、期待してるぜ相棒」

「あいよ」


 二百メートルを全力で走ってきたからか、ゴブリンは少しお疲れのご様子。よたよたと走ってくる。これは楽に戦える。


 文月さんが最初に来たゴブリンの棍棒を槍の石突きで弾き上げると、槍をそのまま半回転させて穂先でゴブリンの喉元を突き刺す。腕の力だけで引き抜くと、別の個所へまた槍をすぐに繰り出す。いわゆる二段突きという奴か。最初に棍棒をはじいたのも一つに数えると三段突きになるのかな。


 ゴブリンは魔結晶を残し消滅した。


 次は俺の番か。この距離ならどうなるかと思い、棒手裏剣をさっきの速度イメージのままでもう一本投げる。シュッという音とともにゴブリンの眉間に深々と刺さる。そのまま蹴り足で眉間に刺さった棒手裏剣を踏み抜く。更にゴブリンを足場にしてその場で宙返りをするとゴブリンの頭部に向かって飛び降りた。


 棒手裏剣が完全に脳に達したのか、それが致命傷となっただろうゴブリンは消滅した。


 その場で出たドロップと棒手裏剣を拾い上げると、最後の一匹に向き合う。マチェットと小盾を取り出し棍棒を小盾で受け流……したつもりだったが、小盾が限界を迎えたのかついに真ん中あたりから半分に割れる。お前は良い相棒だったよ。そのままマチェットを心臓部に突き刺し、グリグリとねじる。


 それで致死ダメージに達したのか、ゴブリンは魔結晶を残し消滅する。サヨナラ!


「さて、最初に投げた棒手裏剣を回収しないとな」

「世知辛い」

「結構な値段するんだよこれ。二十本で一万円強」

「安村さんにしてはお高い買い物しはりましたなぁ」

「テンションがおかしかったんだよ、うん」

「パチンコ玉も同じ時に? 」

「あんまり責めないで」


 無事棒手裏剣は回収できた。ゴブリン相手に使っても費用対効果がほぼ同じになってしまう。これではハンティングのうまみが無い。

 弓矢とか使ってる人はどうやってコストを捻出しているのか気になるところ。


「レベルを上げて物理で殴る正義がどこまで通用するのか。これってトリビアになりませんかね」

「他の誰かが検証して動画にしたりしてると思います」

「ですよねー」


 次のお客さんが現れた。グレイウルフが四匹。指を二本立てると文月さんがうなずく。


「さぁ美味しいお肉を落としてもらおうか」


 手の中でマチェットをくるくる回しながらグレイウルフに向かう。グレイウルフは飛びかかって爪で引き裂こうと来るが、こちらはその爪を狙ってマチェットを振りぬく。

 グレイウルフの前足は縦に割れるとその勢いを失う。俺はその場で半回転すると頭を切り落とす。


 同じタイミングで踏みだした文月さんは槍の石突き側でグレイウルフを横へ弾き飛ばす。その速さに追随すると、心臓を狙って穂先を沈み込ませる。


 同時に二匹のグレイウルフが黒い粒子に変わる。

 残り二匹、一対一。急所を狙われない限り負ける相手ではない。危なげなくもう一匹も処理すると、お肉が落ちた。


「よし、夕飯はウルフ肉の……」

「唐揚げ! 」

「唐揚げなら中華屋で作ってもらうか。今日の分、ギルドで精算せずに飯屋へ持っていこう」

「買い取ってくれる宛てが? 」

「ある、しかもギルドよりちょっとだけ高く」

「じゃぁそれでお任せ~」


 肉は十パックある。全部買い取ってくれるかどうかは解らないが、ドロップ肉は腐敗しない事には定評があるんだ。売りさばけなかった分を後日ギルドに持ち込めばいいだろう。


「ちなみに唐揚げはもも派? むね派? 俺は両方」

「私はむね派かなー。塩? 醤油? レモンは? 」

「レモン以外はなんでもいける。でも基本何もつけない派。そのままの味を楽しむ」


 よって、レモンを勝手にかける奴は死ぞ。


 このまま三層をぐるぐる回るのだが、壊れた小盾を外したおかげで相手に殴らせてからやり返す、という戦法が取りづらくなった。毎回片手で受け取るのも痛いし、先手必勝で行こうと思う。攻撃は最強の防御なのだ。要は当たらなければどうという事はない。


 こうして二人の防御無視回避重視のパーティーは三層を片っ端から練り歩くことになり、三層からモンスターというモンスターを屠ってはアイテムを奪い取る野盗と化した。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 十七時頃になり、そろそろ帰ろうと提案する。


「もうそんな時間かー。集中してたねぇ」

「頑張った重みがここに……ないけどリストにはあるぞ」

「ほうほう。で、ざっとおいくら万円ですか兄さん」

「計算するからちょっとまっとりゃーせ」


 えっと、俺が個人で拾ったドロップが……メモを取ってたはずだな。

 スライムゼリーが百二十一個。スライムの魔結晶が三十個。グレイウルフの魔結晶が四十個。グレイウルフの肉がx九個。

 これを手持ちのリストから引き算して……おっと、自前で持ってたヒールポーションも抜きだな。

 グレイウルフの肉が十五個、魔結晶が三十六個。ゴブリンの魔結晶が、四十個、ヒールポーションが五本。しめて大体……


「……六万九千円ぐらいか」

「時給換算すると? 」

「九時五時換算で一人四千三百円強。下手なITエンジニア並だな」

「おーゴージャス! 」

「これで夕飯にワンタンスープが付くな」

「もっと高いの行きません? 上海ガニの素揚げぐらいで」

「ちなみにギルド買い取り価格参照なので、肉についてはこれにもうちょっとおまけがつくぞ」

「やっぱりカニ行きません? 」

「割り勘だぞ」

「やったー! 」


 現金な話をしつつ三層から出口まで駆け足で進む。道中遮るモンスターが居なかったため、計算しなおす手間が省けた。


 出口で「今日の稼ぎはどうでした? 」と聞かれたので、指でOKマークだけ作って答える。


「一応お尋ねしますけど、全部スライム素材とかじゃないですよね? 」

「いえ、スライムは数的には半分ぐらいですね。ほとんどグレイウルフとゴブリンですよ」

「それは助かりました。正直、スライム素材はもう暫く見たくないというのが本音でして」

「? もしかして、ダンジョン閉めた後全品検査してたりするんです? 」


 アレを一個ずつ? 査定が終わった後もう一回 ?


「するんです。昨日なんて全員帰りたい顔で安村さんの持ち込んだスライム素材をひたすら個数計算してましたから。わかります? スライム素材って全部個数計算なんですよ。一個でも間違ってたら一から数えなおしなので、非常に神経使いながら計算するんです。それを千も二千も持ち込むから四人がかりでダブルチェックしながら丁寧に丁寧に……」

「どーどー。落ち着いて落ち着いて。今日は……スライム素材は百五十個ぐらいあるだけなんで」

「はーっ、はーっ。……ふぅ。とりあえず査定カウンターのほうへどうぞ」


 よっぽど溜まっていたらしい。本来探索者に文句言うのはやらかし案件だと思うんだが、実際に自分がそれをやれと言われると……あ、ダメだわ。俺そういう細かい作業大好きだわ。


 後ろを見ると文月さんが腹を押さえて笑っている。今度スライムが大発生したら「一番弟子です! 」と紹介してあの壁に挑ませよう。そうしよう。


 査定カウンターへ着くなり、査定担当が顔をゆがませる。


「今日は個数的な意味でいかほどになりますでしょうか」


 明らかに警戒されている。


「三百個ぐらいだと思います。で、まず私個人の分だけ提出しますそれが二百個少々。その後でパーティー分割分を出します。それが七十個少々です」

「やった! 今日は少ない! 」


 本気で喜んでいる。よほど昨日地獄を見たんだろう。


 俺はメモを見ながら、一個ずつバッグから査定希望品を出していく。もちろんリストからだが、こうしないとどういう分け方しているんだ?本当に個人の分としてその数であっているのか?と疑われかねない。


こういう細かいところで気を使っておくのが大事なものを隠すポイントだ。まさかバッグの中身が空だとはだれも思わないだろうからな。


 スライム素材を全部掃き出し、グレイウルフの魔結晶の個人分を出すと「これで個人の分は全部です」と伝える。ほどなくして査定は終わり、俺個人分の金額を書いたレシートが出てくる。一万五千円弱になった。


「じゃぁ次、パーティー分出しますので、査定終わったら二分割してください」

「解りました。数は少ないんですね? 」

「さっきに比べれば」


 ……よし! と言いそうな顔をしながらパーティー分のドロップを引き取ってくれる。


 さっきに比べれば高速で作業が終わる。少し話しながら聞いてみると、主に魔結晶のせいなのだが、スライムは固定買い取りのせいで一つ一つ確実に測らなければならない。


 だが、スライム以外については重さで値段が決まるので、全部まとめて計量してどーん、らしい。スライム以外の魔結晶の買い取りなんかは計量器の重さの上限までならほんの一分もかからず終わらせることが出来るから楽なんだそうだ。


 ……今まで多大な負荷をかけていたのか。ちょっと反省。


 すぐにレシートが二枚発行される。一人分は三万二千八百五十円だ。ここから更に中華屋に買い取ってもらう予定の肉が十五パック分ある。俺の今日の稼ぎは昨日のスライム大洪水と同じかちょっと低いぐらいになるようだ。まぁ昨日はテンションもおかしかったしね! しょうがないね!


 三枚のレシートを受け取ると一枚を文月さんに渡す。


「あと、お肉を夕飯ついでに持っていけば今日のお仕事は終わりです」

「わーい、お疲れっしたー」

「お疲れっしたー」


 適当に言い合いつつ支払いカウンターに並ぶ。二人とも現金と領収書を受け取るとその足で中華屋へ向かう。財布は十分重い、今日は何を食うかな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人で6万超えの収入だけど、命懸かって3万円ちょいはやはり安い。
[一言] 主人公がおじさん構文で喋ってるのは分かるんだけどラフに話すからこそ連れの子はおじさん構文じゃ話さないんじゃないかなとは思う
[良い点] 下手なITエンジニアの給料に詳しいところ。 結構いい線行ってる。
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