549:失業手当貰わないほうが儲かるんじゃないかね? と作者は思う
二十五層を探索し終わり、二十四層へ戻って来た。階段周りはやはり比較的安全らしい。ランダムポップらしき蜘蛛四匹を処理すると、固定ポップのモンスターはここには寄り付かないようだ。二十五層で頑張った分の休憩を入れることにした。
芽生さんには宣言通りお菓子とコーラを渡すと、少し額に当てて体の熱を冷ました後ごきゅごきゅと豪快に飲んでいく。実に美味しそうに飲むね。口元に少しこぼれたコーラもまた様になっている。
俺も負けずに冷えたエナジードリンクを飲む。手は腰に。こっちも立派にオッサンをしている。これでまたしばらく戦えるぞという気概が高まり、脳みそになにかのエネルギーが蓄積されているように感じる。たまにはいいな、エナジードリンク。飲みすぎるとカフェイン以外の理由で夜眠れなくなりそうなのが少し不安だが夜までにはまだ時間がある。それまでに消化吸収されて体の外に排出されてくれるだろう。
「さて、ゆったり戻りますか。予定よりも少しだけ短い二十五層探索になったので帰り道は急がなくても済む」
「焦ってミスするような事が無いように、ですか」
「そうそう、こういう時こそ何かしらの事故が発生しやすい。事は常に慎重かつスマートにだ」
水分とカロリーを満たすとそのまま真っ直ぐ上へ戻る。慎重に進んでいるのでモンスターの叩き忘れや警戒し忘れもない。安全だが少し退屈でもある帰り道を無事に歩きとおし、二十一層の階段まで戻って来た。
階段まで戻ってきたらやることは一つ、スキルの打ちっぱなしだ。周辺のモンスターや人はいない事が索敵で確認されている。今ならどれだけ派手な音や水たまりなんかの残骸を残しても誰からも苦情は飛んでこないだろう。
安心していつもの太めの雷撃をぶっ放す。これでゴーレムも一撃で倒せるようになれば更に階層を進めるのが楽になる。その為の練習だと思って気合を入れて打ち出す。
芽生さんも、より薄く、より鋭くをイメージしてか、こっちの雷撃を切り取るようにウォーターカッターを打ち出す。
「カッターも良いけど、水圧で相手を押しつぶすようなのはどうだろう? 」
「んーと……こうですかね? 」
芽生さんの手から水が大量に漏れ出し、一筋の線を描くとまっすぐ突き進んでいく。それは道中一滴も水を垂らすことなく、目標にしていた建物の壁に激しくぶつかる。
「そんな感じ。そいつでモンスターを押しのけるような感じで。もっと慣れたらそれで穴をあけるイメージでどうよ」
「そういうのも有りですね。ゴーレムの体を崩すのには効果があるかもしれませんし、カメレオンぐらいならこれで穴が開きそうです……と、慣れない事をすると眩暈が早いですね」
「イメージ慣れする事が大事って事か。俺もそろそろ……あ、来たわ」
二人して眩暈を起こしたようだ。膝から崩れ落ちる前に退散しよう。そこで両者頷いて大人しく二十一層の階段を上る。
へろへろだが、一時的なものだと解ってはいるので眩暈が落ち着いたところでマウンテンバイクにまたがりキャンプ地へ。キャンプ地へたどり着くと一息休憩。
「さぁ仕分け仕分け……後お供えお供え」
荷物整理ついでに保管庫の中のシュワシュワとお菓子をお供えしてパンパン、と手を叩く。するとシュルッとお供え物は消えていった。うん、今日もしっかり見られていたようだ。この反応の速さはきっとお菓子を待っていたな。
来た時にお供えするのではなく帰り道にお供えしていくのは、今日も一日無事にダンジョンに潜れましたありがとう、という意味も込められている。そういう意味では昨日お供えを怠ったのはワンミスだったかもしれんな。今日の分を昨日は儲かりましたということでお供えしたということにしておこう。
かといって怪我したらお供えをしないか? と言われればそれはノーだ。次回はうまくいきますようにという気持ちを込めてお供えをする。
魔結晶で二袋、革、糸で一袋、ポーションで一袋。よし、いつもの分量……よりちょっと重いかな。収入は期待できるな。キュアポーションは三本も出た。これだけで二百十六万。こんな小瓶三本で。大航海時代の胡椒みたいなものか。同じ分量の金と交換できそうなそのフォルムはヒールポーションが流線形、キュアポ-ションのほうは肩みたいな意匠が施されている。
違うのは中の液体の色。その色だけで査定を行う査定嬢の腕は確からしい。さすがに飲んでみて、うんこれはヒールポーション! なんてやっていては中身が減ってしまうし、腹が減って仕方がないだろう。
戻る準備を終えたのでエレベーターで一層へ。十五分の間に小腹が空いたのでカロリーバーを胃袋に入れておく。今日の夕飯なににするかな……たまには焼きそばもいいな。ダンジョン肉ではなく普通に豚肉とキャベツともやしを入れたシンプルな奴がいい。焼きそばに在庫がないから帰りのコンビニで調達しよう。豚肉は……まだ冷凍庫にあったはずだな。
「何を悩んでるんです? 」
「夕飯。たまには麺類にしようと思って何を作るか思案してた」
「コンビニ飯じゃダメなんですか? 」
「ダメではないけど作りたい気分なんだ。そして明日の昼夜は何食べるか。悩みは尽きない」
うーん……カレーでもいいがちょっと気分ではないな。とんかつ……は今日食べた。フライものもしばらく距離を取っておこう。煮物は最近続いたのでパス。選択肢を徐々に絞り込んで好きなものを食べよう。明日はチートデイだな。
「食べる事とダンジョン以外に何かないのですか」
「金稼ぎの事しか頭にない御仁に言われても説得力がないなあ」
「ぐぬぬ……その内何か別なことを考えましょう。それまでは金稼ぎの事しか考えてない子でいいです」
しょうも無い言い合いをしてる間に一層に到着。時刻は午後六時。出入口と退ダンが済んで六時半。門限はちゃんと守ったぞ。今日は実にスムーズに探索が進んだ、と思う。
一層を若干急ぎ足で抜けて退ダン手続き。
「おかえりなさい、順調でしたか? 」
「おかげさまで。順調そのものでしたよ」
「それは何よりです」
査定カウンターへいつも通りドロップ品を出す。慣れた手つきで次々と処理されていく。手際のよい仕事を見ていると心が休まる。慣れない仕事にあくせくしてる姿もそれはそれでほほえましいが、プロの熟練した作業を見るのは楽しい。
しばらくして査定結果が出た。三百万三千七百五十円。うむ、極上だ。そして初めての三百万超えだ。スキップでも始めたい心持ちだ。ウキウキしながら芽生さんにレシートを渡し、芽生さんがレシートを受け取ると、にやつく笑顔を見せつけ、思わずハイタッチ。
忘れず支払いカウンターで振り込みをすると今日の探索はおしまいだ。
「じゃ、明日はお休みで。おれは少ないけど非課税のお小遣いをもらいに行く」
「解りました。精々英気を養っておきます。しかし先に自分で言っておいてなんですが、ここまで稼げるなら非課税のお金をもらうより潜り続けるほうが経済的なのでは」
「そう思わんでもないが、非課税って言葉の響きが素晴らしい。貰った金額をそのまま何かに投資しても後に響かないってのが特にいい。書類さえ残してればいくらもらったかも計算できるし」
「私なら打ち切りにして潜って稼ぎますけど……」
「それにあれだ、日々稼ぎまくって脳内物質がドバドバ出てる間に気が付かない疲れなんかが溜まってることがあるかもしれないしな。その為の休日だと思ってくれ」
バスを待ち、電車で家へ帰る。俺の頭の中の計算だと、あと四日ぐらい働けばダンジョンで一億稼いだ男という事になる。一億というキリのいい数字を達成するのは中々に気持ちがいい事ではあるだろうな。実際に一億超えたところで何かパワーアップしたり新しい力に目覚めたりはしない事は解っているが、満足感は充分に得られそうではある。
さて、最寄りのコンビニに着いた。焼きそば用の袋めんを……二種類ある。安価の中華麺と、お高い中華麺だ。それぞれ七十八円と百四十八円。どっちにするかな……お高い麺と安価な麺、そこにどのぐらいの違いがあるのだろうか。そして俺にはそれを区別する事が出来るのだろうか。
悩むな……どうしよう……ぐぬぬぬぬぬ。
こういう時は二分悩んで、答えが出なかったら両方買……両方買って両方作って味を確かめるという手があるな。よし、それでいこう。後は具にはんぺん辺りを追加しよう。ソースは家にある。というか持ち歩いてる。他の食べ物は……ミルコ用のお菓子を追加しておくか。今回は味の濃いガツンと来るものをメインにチョイスだ。
家に着くと早速着替えて料理開始。麺を二つともあけて、見た目を確認する。値段が倍近く高い分何か拘りがあるんだろう。モチモチ感が違う気がする。とりあえず同じ料理法と材料で作り分けてみるか。
試しに作ってみた。出来上がりは……うん、何となく見た目でもわかる。お高いほうは麺へのソースの絡み方もいい具合になっている。さて、味見だ。まずは安いほうから。
うん、普通に焼きそばだ。祭りの屋台で五百円ぐらいで売ってそうな、胃には溜まるが味にはそこまで文句をつけてはいけないような、そういう感じの出来栄えだ。
続いてお高い麺。こっちは明らかに味が違う。麺のモチモチが続いている。コシがあり、ソースをもっと少なくても充分美味しく頂けるようなそういう出来栄えになった。たかが七十円だが、その差はかなりある。悩んで両方買った価値はあった。
これは、明日まで保管庫で寝かせて朝焼きそばサンドにして食べよう。今日のところは安いほうを食べて満足しておいて、明日の楽しみを増やしておこう。
明日は一日休みと言っても、一日ずっと時間がかかるわけではない。空いた時間で色々しよう。今日は洗濯さえしておけばいいだろう。風呂に入って今日のところは寝よう。最近やってない保管庫を鍛える訓練をしながらの睡眠で多少疲れて眠っても朝までには元通りになるだろう。
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