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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第七章:マイペース・マイライフ

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544/1244

544:稀によくある とは偏りがあるという意味

 二十四層に戻って来た。相変わらずの存在感のあるクイーンスパイダーが我々探索班を見下ろしている。見下ろしてくるだけで何もしては来ないのだが、圧迫感だけはある。


 二十五層の探索はぶっちゃけていうと楽だった。ゴーレムに殴られて吹き飛ばされたり場合によっては骨折、粉砕される危険こそ高いものの、二十四層のモンスターに比べて素早くないし、カメレオンは【索敵】ですぐに見つけられて倒されてしまう。


 索敵のおかげもあるが、反撃の余地なく倒せてしまっているのはスキルをここまで鍛え上げたおかげかもしれない。だとしたら日々の終わりのスキル打ちっぱなしの修行の成果が表れたって事で、これも中々頑張ったんだなと自分を褒めたくなる。


 さて、二十四層をどう回ろうか。とりあえず階段のほうに戻り、その後は通ってない道を通りながら巡回路を探す……いや、二十五層に行ける以上巡回路も必要ないのではないか? ま、細かい事は良いか。とにかく階段へ戻ろう。全てはその後だ。


「まず二十三層への階段へ戻って、その後適当にうろうろしよう。時間はまだまだあるし、階段まで戻った後もう一回ここまで来てもいいし、新しい道を開拓するでも良い」

「とりあえず戻りますか。なんか今日はもうやり切った気分で一杯ですが」

「じゃあ階段まで行って帰る気持ちになったらそのまま戻っても問題ないな。たまにはそんな日が有っても良いというか、せっかく稼げる機会に稼ごうとしない芽生さんに俺は若干の違和感を感じる」

「他人を金の亡者みたいに言わないでください。必要な分しか稼いでいませんよ」


 そうかなあ……まあ本人が言うんだから必要な稼ぎなんだろう。もしかしたら家族に重い病気の人が居て入院費を稼いでいるとかそういう可能性が無きにしも非ずだ。細かい事に突っ込むのは止めておこう。


 階段へ向かってまた索敵をしながらパチンコ玉を弾き続ける。出てくる蜘蛛とゴキ。いっその事ハエタタキみたいなものでバシッと一発で倒せるようになればいいなあなどと考えていると、目の前に光る玉が落ちる。


「お? これは久々のご対面ですかねえ? 」


 芽生さんが目ざとく気づき、早速拾い上げる。しばらく黙りこくったまま、ノーと発言しこちらに渡してくる。


「【毒耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」


 毒耐性か……つまりゴキに噛まれても毒状態にならない、というスキルらしい。他にどんな毒物への耐性がつくかは解らないが、もしかすると酒に酔わなくなるかもしれないな。アルコールやニコチンは体に毒として作用する。これを覚えればタバコ吸い放題酒飲み放題体に悪いことし放題になる可能性もあるのか。


「うーん……差し迫って取る必要はないな、売るか」

「いくらぐらいなんですかねえ? 毒耐性。それなりに高いといいんですが」


 早速探索・オブ・ザ・イヤーの相場価格を参照してみる。相場コーナーは……


「三千万円だそうだ。【魔法耐性】と同じ金額だな」

「結構高く売れますね。いや、でも取れた場所を考えると安いのかも? 」

「人気があるスキルではない事は確かだな。でも需要が無いわけではない、と。なら需要があるうちに売ってしまうほうが良いな。今日は探索はここまでだ。手早く撤収してギルドに売りにだそう」

「賛成です。あ、保管庫に入れないでくださいね。残り時間からバレちゃいますから」


 おっと、もう少しで保管庫に放り込む所だった。危ない危ない。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 急ぎ気味に二十四層から二十三層、二十二層を横断する。必要最低限のモンスターだけを倒して二十一層へと走り抜ける。ここで稼げるかどうのとか言ってる場合じゃない。今一匹当たりで稼ぐお金よりも、【毒耐性】スキルを売り払う事のほうが遥かに金になるのだ。一番金になる手段が真っ直ぐ二十一層まで戻る事なら、当然その最短を狙うのが筋だ。


 索敵で明らかに攻撃範囲に入りそうなものだけを釣っては殴り、釣っては殴り、最速でダンジョンを駆け抜けていく。五層で初めて【火魔法】を拾った時もこんな感じだったな。何にせよ取引は時間との勝負だ。


 ここ小西ダンジョンにエレベーターが有って本当に良かった。エレベーターが無かったら十時間ほど全力で駆け上がってようやく取引に着手することができるスキルを、今我々はもろもろの時間を含めて三時間ほどで取引の場に出すことができる。


 慎重にかつ大胆に残りの階層を駆け抜けて、二十一層に到着。今日はスキルの打ちっぱなしも無しだ。そのままマウンテンバイクをフルスピードで漕ぎだすとエレベーターに到着。エレベーターを動かしてようやく落ち着いて呼吸をする。【毒耐性】をもう一度手にして残り時間を確認する。ここまでで……およそ二時間。一層に戻って査定にかけて、三時間というところかな。午後四時には取引待ちの時間に出来るだろう。


 エレベーターに居る間に荷物を整理。二十五層でかなり楽で儲かる狩りをしたおかげでいつもとそんなに収入は変わらない。何よりもキュアポーションがでかい。これ一本で七十二万円。こいつでどこまでの疾患が治るかまでは理解していないが、値段なりの効果が保証されているという事だろう。これで何処かの誰かが助かる。そう考えるだけでも運んで持ってくるだけの意義が生まれる。


「今日はかなりの戦果だな。早く帰るのが嘘みたいだ」

「出来れば取引のほうも手早く行いたいところですね。近場で引き取り手が居てくれれば一番なんですが」


 場合によっては北海道まで飛んで取引……なんてことも視野に入れなければならないからな。近場で取引できるならそれが一番だ。


「どういう層に需要があるのかも知りたいところだな。日常的に毒に接していて、それでいて金を持ってそうな人か。正直Bランク探索者以外ではあまり需要が無さそうにも見えるけど」

「そういえば【魔法耐性】ってスキル以外にも耐性ついているんですかね。覚えたは良い物の現状使った場面がボス狩りぐらいなもんですが」

「どうなんだろ。【毒耐性】の引き取り手によっては効果が有ると考えてもいいかもしれないぞ」


【毒耐性】の毒がどこまでの範囲を毒として認識してくれるのか。それによって変わってくるような気がしないでもない。


 一層に着いた。再びダッシュで出入口へ急ぐ。今日はスライムも無しだ。ごめんなみんな、今度ゆっくり狩りに来るからな。また今度な。


 退ダン手続きに行くと、意外そうな顔で出迎えられた。


「お早いお帰りですね、何か異変でもありましたか? 」

「ちょっと……いや、かなりいいことがありましたんで急ぎで戻ってきましたよ。手続きお願いします」

「はい……はい、どうぞ。お疲れ様でした」


 退ダンが終わると査定カウンターへ。いつも通り仕分けた荷物と、ポーションをそれぞれ出して、一本だけ混ざっているキュアポーションを目立つようにして渡す。


「なるほどー、これがキュアポーションのランク3って事ですかー。ちゃんと見分けているんで大丈夫ですよー」


 初出……という訳ではなく、どうやら新しいポーションが発見されるたびに内部でちゃんと相互確認が行われているようだ。つまり、二十五層以降に潜っている探索者が他所のダンジョンにも居るという事か。


「それと、これを拾いましたのでギルド経由で取引に出したいと思います」

「スキルオーブですかー。どれどれー……はい、確認できましたー。とりあえずギルマスのところへ持っていきますねー」


 スキルオーブの確認が取られたところで今日の成果が出てくる。二百二十五万六千七百五十円。充分過ぎる成果だ。これであと二時間も二十五層に籠っていたら更に多い収入となっただろうが、その場合スキルオーブに出会わなかったかもしれない。そう思うとお得だな。ちなみにカメレオンの革は希少素材という事で一枚三万円となっていた。希少の割りに安く感じる気はするが、人気が出ればもっと上がるだろうと楽観視しておく。


 ひとまずギルマスの声がかかるまで暇なので先にレシートを渡しに行く。芽生さんはニンマリした後振り込みに行った。


「さて、声がかかるまで暇ですね。雑誌でも読んで過ごしますか」

「三千万とは書いてあるものの実際にいくらになるかは解らないからなあくまであれは参考価格だ。三千万で買うという人に連絡がつかなかったら次に安い人に連絡して……と握手できるまでたらいまわしにされるシステムになってる。実際にはいくらに出来るんだろうかな」

「なるべく高い人が暇で居てくれると良いですねえ。探索者だと潜っていて連絡がつかない人も多いでしょうからなかなか難しそうではありますが」


 暫く相談しながら待っていると、ギルマスが階段から下りて来た。


「安村さんお待たせ。詳しくは部屋で話そうか」

「はい、今行きます」


 三人一組でぞろぞろとギルマスルームへ向かう。ギルマスは椅子に座ると開口一番に問いただしてくる。


「これ、多分二十二層以降のスキルオーブだよね? いいの、本当に出しちゃって」


 やっぱり最初の疑問はそこからか。大体予想通りの疑問だ。


「芽生さんとも相談しましたが、この手の耐性スキルはパーティーまとめて覚えられる方が効果が高いんです。なのでどちらかが持っていても意味がないし、差し当たって必要なスキル、というわけでもないので売りに出すことにします」

「相談済みなら話は早い。早速相手を探すことにしよう。取引相手に希望があれば聞くけど、どうする? 」


 ある程度の無理は聞いてくれるらしい。


「そうですね、出来れば近場で取引したいですね。北海道や沖縄だと一旅行になってしまいますし」

「なるほど……だとするとこの辺かな……ちょっと待っててね。今から取引の連絡つけるから」


 ギルマスはあちこちに電話をかけ始めた。数度の電話確認の後、解りました。時間がギリギリですがそれでなんとかやってみましょう、という一言と共に電話を切り、こちらに向きなおした。


「今日中に清州ダンジョンまで行ってもらいたい。 三千万円で連絡がついた。これなら条件として成立すると思うんだ」

「それは良いんですが……芽生さん通帳は? 」

「持ってます。何時スキルオーブが取引に出されても良いように持ち歩いてますから」

「と、言う訳で二人とも今すぐに向かえます」


 確認を取るとギルマスは清州ダンジョンへ電話をかけ、今から取引のために会議室を一つ借りたいという連絡、それから今から向かうので開けておいてとそれだけ伝えて電話を切った。


「小西ダンジョンから来ました。十九番会議室をお願いしますと伝えれば通じるようにした。立ち合いは清州ダンジョンの人が行ってくれるらしい。君ら二回目だし前回の手順は覚えてるよね? 後はそちらでよろしく頼むよ。スキルオーブも返すね」


 ギルマスは今回同行しないらしい。予定があるのか、それとも清州ダンジョンのギルマスに来るなと言われたのか。どっちにせよ今からとる行動は一つだ。真っ直ぐ清州ダンジョンへ向かおう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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四十過ぎたオッサンが肝機能障害とか恐れないの?酒・煙草をやるやらないじゃなくて、残りの人生を健康に過ごせる可能性があるのに三千万円なんて端金で可能性を捨てる理由がまったく分からない。
今後、どんな毒攻撃する敵が出るかもわからないのに、しかも稼げるオイシイ階層見つけた後で・・・何で滅多に出ないスキルを3000万で売るって選択肢が出るんだ?とりあえず保管するなり使うなりしてダブったら売…
[一言] いっそミルエモンに効果聞いてみればええのにw あとお金余ってるからなんかもったいなく感じるなぁ
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