542:ほぼチーズ 2/2
引き続き、狩りをしながら建物を捜索していく。ここ三回の傾向から見て、階段同士の距離は徒歩三十分ぐらいという可能性が高い。そして細い道よりも広い道に階段が出来ている回数が多い。つまり広い道を基準にして階段から三十分の距離を探すのが効率的ではないか、という予測が立つ。
と言ってもまだ階段周りすらまともに探索できていない。まずはとにかく歩いて狩って、地図の既知の範囲を広げていくことが大事だ。周りのモンスターを一蹴したところでドローンを飛ばし、撮影して地図を確認する。この辺りは一度撮影はしてあるところだな。モンスターさえ倒せばまたドローンを飛ばす時間と建物を調べる時間が出来る。
「こうちまちまと調べるのにも飽きてきました。次のマップが恋しいです」
「だなあ。さすがに四マップ続くとこう、ちょっと精神的に来るものがある。例えばこのダンジョンに宝箱が有って、それがこの階層に存在するとかならもうちょっとやる気も出そうなものだけど」
「宝箱……出現するとして、やっぱりトラップがあったりするんでしょうか? 」
宝箱かぁ……ダンジョンものの定番ではあるな。トラップがあるかどうかはともかく、ダンジョンが用意してくれた命がけのアトラクションだ。偶に次元のはざまに飲まれて深い階層に放り込まれて必死で抜け出して来たら俺最強になってましたって奴だ。この世界で宝箱を設置する意味は……どうなんだろう、あるんだろうか?
「アトラクションとしては怪我する程度のトラップなら有ってもいい気はするが、それで怪我して探索が進まないんじゃ意味がないからな。でも宝箱か……迷宮マップにあるなら面白いとは思うぞ。ただこのマップで宝探しと言われると、たまたま覗いたら置いてあってラッキーぐらいの気持ちでいかないと難しいだろうし、中身にもよるけどモンスター倒して回ったほうが稼ぎにはなりそうだ」
「難しいこと考えてますねえ。宝箱が有るというだけで楽しみが増えるんですよ。ダンジョンマスターの都合とかそういうのを考える必要は無いんですよ? 」
そういえばそうだった。別に俺がダンジョンを経営するわけではないんだから細かい事を気にする必要なんてなかった。言われてみれば、無いよりあったほうが楽しそうではある。どうやら、すっかり小西ダンジョンを経営管理している気持ちになっていたようだ。
プシュン! パチン! パチン、パチン……四匹。
プシュン! パチン! パチン、パチン……四匹。
なんかスライム狩りみたいに形式化してきた。ここまで来ると慣れを通り越して完全な作業だ。作業化できればもう怖くないぞ。こんな深い階層で形式の決まった戦闘をするとは思わなかったな。
プシュン! パチン! パチン、パチン……三匹。
プシュン! パチン! パチン、パチン……四匹。
建物を見回りながらモンスターを倒していく。さっきの話ではないが、念のため宝箱らしきものがないかどうかも軽く見て回るが、有るとするならやはり迷宮マップに先に設置されているだろうし、望みは薄いな。
プシュン! パチン! パチン、パチン……四匹。
プシュン! パチン! パチン、パチン……三匹。
おっと、怪しい建物を発見。建物の高さも充分ある。これは階段の可能性が……階段だ! ついに見つけた。地図を確認すると、直線距離で三十分ほどの位置にある。廃墟マップでは階段と階段の間隔が一定であるという法則でもあるんだろうか。いや、思い返してみれば他の階層でも三十分ぐらいの距離にあったな。
「この小西ダンジョンでは片道三十分ぐらいのところに階段が出やすい法則でもあるんだろうか」
「ダンジョンの規模で大体決まってるとかじゃないですかね。清州ダンジョンだと一時間ぐらいの距離にあるみたいですし」
「あ、でも十層はもっと近い距離にあるし、二十層は逆に一時間ぐらいの距離にあったな。十層おきに違うとかそんな法則でもあるのだろうか」
「何にせよこれで今日の仕事は一段落ですか。そう思うとお腹空いてきましたね」
時計を見る。ちょうどお昼ごろだ、お腹が空いても良い時間だな。階段にでも座ってお昼ご飯タイムにするか。
「階段周りにモンスターは湧いてなかったよね」
「そうですね、この二十四層は階段周りには湧きにくいのかもしれません」
「だったらここでお昼にするか。ちょうどいい時間でもあるし比較的安全なエリアらしいし」
うん、下手に戻ったり行ったりするよりここで休憩を取るのが良さそうだ。
「お昼はカレーでしたよね」
「チーズどっさりカレーだぞ。どっさりしすぎて驚くなよ」
まだ熱いと言えるタッパー容器を保管庫から取り出し、スプーンと共に芽生さんに渡す。芽生さんは蓋を開けてチーズっぷりに驚きを通り越して呆れている。
「チーズインカレーというよりカレーインチーズになってません? 」
「やり切ったという思いは伝わっているはずだ。ちゃんとお焦げも入ってるし」
「それは良いんですが、チーズが多すぎて米と中々混ざりませんよこれ。チーズが伸びるを通り越して全てが繋がっています」
芽生さんがびろーんとカレーを伸ばし、容器から中身だけを持ち上げることに成功していた。チーズの威力を存分に発揮させている。正直やりすぎたとは思っているが、後悔はしていない。
「チーズを練って米と混ぜて食べたらカレーとチーズの味がする。そういう食べ物になってしまったな。あ、野菜もあるよ」
思い出したように保管庫から生野菜のタッパーを取り出して渡す。芽生さんは何とかスプーン一杯分のカレーを掬い上げて食べ、そして口の中でしばらく噛み締めた後米を更に食べる。
「次回はもっとチーズ少な目でお願いします。さすがに濃すぎて食べづらいです」
「適量だと思ったんだがなぁ」
チーズの味がひたすらに広がるカレーを味わいながら米を口に入れる。確かに、ちょっと入れすぎた感はある。次回は真面目にやろう。だが、アツアツのチーズにカレーというのは悪くない選択肢だったと思っている。冷めていたら焼きチーズカレーとしてより粘度の高い食べ物になっていた可能性を考えると、ちょっとどころじゃなく入れた気もする。
過ぎたことは仕方ない、次回に活かそう。細かい事を気にせずに食事タイムを楽しもう。しかし、これで冷たい飲み物を詰め込むと胃袋によろしくない気がしてきたので常温で放り込んであるお茶を取り出し飲む。
元の味がレトルトなのでカレーについて文句はない。何にせよカレーだしな。チーズのお焦げも良いアクセントになっている。チーズも一種類じゃなく三種類入れたので様々な香りがするチーズ……ほぼチーズだこれ。
「これはカレーではない。カレー風チーズドリアと呼ぶ方がふさわしい食べ物だ」
「そういわれると……確かにそんな感じはしてきました。そう思うと若干箸が進む気がします」
そう、たっぷりチーズドリアだ。今日のご飯はカレー風チーズドリア。カレーではなかった。そう言い聞かせることにした。よし、今日の料理は失敗してないぞ。美味しく食べ終えるとぬるいお茶でのどを潤して一息つく。やはりこの周辺にはモンスターは寄り付かないらしい。
「索敵大丈夫? 来てたら対応するけど」
「ん……今のところ平気ですね。ここのモンスターあまりうろつきませんから、リポップしない限りは問題ないと思います」
なるほど、芽生さんなりに傾向は掴んでいるってことか。ならちょっと安心して休憩できるな。芽生さんと二人食べ終わり、ゆったりした時間が流れる。
「この後はどうするね。二十五層を覗くのは確定としてその後何処をどう巡るか」
「二十四層の密度は濃いですからね。確実に稼げる場所としては二十四層で良いと思いますが、二十五層のモンスターの数や強さにもよりますが場合によっては二十五層を色々回るのも面白そうです」
「二十五層の情報なかったからな。事前情報無しで下に潜るのは初めての試みかもしれない。このマップに来るまではある程度の情報を調べて来たから良いものの、この先は何が出て来るかもわからない」
「それはそれで探索心が刺激されますねえ。ここから先は完全に未知の領域ですねえ。どんなマップで来るんですかねえ。やたら暑いのとかやたら寒いのは勘弁願いたいですねえ。でもそんな極端なマップなら情報が出回ってそうですが」
確かにそうだ。ここからはBランクでもそうそうたどり着けないようなマップになっているのか。それとも帰ってくるものが少ないのか。いや帰ってこないようなマップなら注意喚起は流れているだろうしそういうマップではないんだろう。
「行ってみれば解るって事で。いざ入って見てがっくりするかもしれないし、少なくとも頭の上のアレよりもインパクトが有るという事は無いだろう。そういえばアレの情報も流れてなかったな。楽しみに取っておかせるという誰かの粋な心遣いかねえ」
胃が落ち着くまでしばしの歓談と休憩を挟み、落ち着いたところで二十五層への階段を下りることにした。さあ何が待ち受けている事やら。
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