541:ほぼチーズ 1/2
朝だ。昨日はチーズの事だけ考えていたから少しだけ寝つきが悪かったが、寝起きは爽やかだ。ありがとうダーククロウ。今日も体調は良く、天気もいい。部屋から出たらきっといつもの蒸し暑さを感じるだろうが、それはそれこれはこれ。ダンジョンの中に入れば気温湿度は階ごとに一定だ。ダンジョンに潜るまでの我慢だな。
いつものゴキゲンな朝食を作ると、今日一番大事なイベントを攻略するべく一晩寝かせたカレーを温めなおす。グツグツと煮えたぎってきたカレーに、これでもかとチーズを投入。とろみを越えてドロドロになりつつあるカレーをネバネバとかき混ぜる。
焦げ目がついてきたところで火を止め、温めたパックライスをタッパー容器に開けると、その上からカレーをかける、というより垂れ流す。ちょっと味見をしてみたがチーズカレーと呼ぶにふさわしい量のチーズの暴力だ。いやむしろカレーチーズかもしれん。このドロドロ感を大切にしていきたい今日だ。
カレーというバランス栄養食を作ったことで今日のご飯はこれだけである。料理と言ってもやったことはレトルトカレーにジャガイモを追加した事とチーズを混ぜ込んだ事ぐらいしかやっていない。手抜きと言えば過去一番の手抜き料理かもしれないが、満足感は何故かいつもよりある。これもカレーの魅力、カレーの魔力、抗う事叶わず。
ちょっとサラダでも千切って持っていくか。レタスを適当な大きさにちぎりトマトを適度に輪切りしてこれもタッパー容器に入れて野菜として持っていくことにした。これで本当にカレーだけなのかよ! というツッコミを回避できる。だが食べる相手は芽生さんだ、彼女は以前作ってもらうご飯に点数は付けないというとても素晴らしい事を言ってくれていたので、それに甘えることにしよう。
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
カレー、野菜、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
枕、お泊まりセット、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も日帰りなので食事は一食分しか確保していない。今日はどんな楽しみが俺を待ち受けてくれるのか。
◇◆◇◆◇◆◇
空調が効いていてもそれなりに暑い中ダンジョンへ向かう電車とバス。今日も帽子は脱いだまま道中を過ごす。バスを降りて今日は開場前に現地到着。開場までのわずかな時間だが、中で涼んでいよう。しばらくして芽生さんも到着。
「今日は本当にカレーですか? 」
第一声が昼食の事。芽生さんらしいといえば芽生さんらしい話だ。
「チーズ山盛りカレーにしてきた。粘り気に期待するがよい」
「ちゃんとお焦げも入ってますか? 」
「その辺は抜かりないぞよ。ちゃんと焦げ目がついたところまで確認してから火を落としたからな。ただ、ベースがレトルトカレーなのはご愛敬だ」
「なら味には文句のつけようが無さそうですね。チーズのチーズっぷりに期待しましょう」
開場時間になってぞろぞろと入ダン手続きに向かう。今日も小西ダンジョンはそれなりに賑わっている。入ダン待ちの列に並んで順番を待ち、五分ほどで入ダンとなった。
何事もなく、エレベーターが混むことも無く二十一層にたどり着くと、そのまま二十二層へ下りる。下りたところで目の前に湧いていたゴキを潰すと、芽生さんに確認を取る。
「今日はそのまま二十四層へ下りて、二十四層で昼食……ってことでいいんだよね? 」
「そのつもりでお昼作ってきてくれたんですよね。問題ないですよー」
今日は二十四層の探索を充分に進められそうだ。長丁場とはいえ同じ階層を巡り続けることに比べたらやることが多い分気合も入るというもの。まずは二十四層に下りるまでウォーミングアップを兼ねた狩りを行っていく。
真っ直ぐ二十三層の階段までを急がないペースで進む。道中引っかかりそうなモンスターはすべて倒し、収入にしていく。ここまででスキルオーブにもお目にかかった事は無い事だし、それを見越しての戦闘でもある。倒して来たモンスターの数を考えて、そろそろ何か出ないかなーと思う頃ではある。だが期待しすぎるとまた物欲センサーが反応して何も出なくなってしまうからな。尻をパッパッと払って漏れ出る物欲を散らす。
二十三層への階段に向かう間のモンスターも分布が大体わかって来た。芽生さんの指示の前にパチンコ玉を弾いて呼び出し、確認して頷かれる回数も多くなった。時々、もっと近いのが居たと言われるのはご愛敬だが、今のところ問題にはなってないのでヨシとしとこう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつも通り三十分ほど時間をかけて二十三層に下りる。ここまでは順調そのもの。ちゃんとヒールポーションも拾えた。二十三層から二十四層にかけてはまださっきまでほどには覚えられていない。覚えきるには通う回数がまだまだ足りない。しっかり頭に入れていこう。索敵に頼り切るのも良くないし、通り抜けるだけだとして油断するのも良くない。
「三時方向三匹」
「了解」
プシュン! パチン! パチン、パチン……と気持ちいい音を鳴らしてパチンコ玉が反響音を何度か響かせながら何処かへ飛んでいく。発射方向を間違えなければこっちへ戻ってきて自打球を受けることも無い。
そして最初の音に釣られるように出てくるモンスターが今回はゴキ三匹。一匹を雷撃で倒した後一匹を近接で倒す。雷撃でも倒しきれない事は無いがまだまだ時刻は午前中の始まり。昼休憩で回復するとはいえ、無駄打ちは止めておくべきだろう。
プシュン! パチン! パチン、パチン……またモンスターが出てくる。ここではこの繰り返しだ。慣れて来た。そしていい意味で飽きて来た。これでグルグル二十四層を回れるな。
◇◆◇◆◇◆◇
二十三層を歩き終わり二十四層へ。同じく三十分ほどかかった。ここから先は時間勝負というのが普段だが、今日は二十四層で休憩が取れそうなエリアを探してそこで休憩、お昼ご飯という流れだ。目標は今日中に階段を見つける。二次目標はスキルオーブを拾って帰る。三次目標は……何事もなく無事に帰れることかな。
いつも通り階段下りてすぐのところには何も居ない。きっと、初めてみるあの巨大な蜘蛛に戸惑って我を忘れてしまってもいいように出来ているんだろう。結構親切設計だな。
「今日は昨日とは違う方向へ歩いてみよう。時間はあるしドローンもある。迷って帰れないという事は無いはずだしお昼ご飯セットはここにあるから四時間ぐらいは余裕を持って探索が出来るかな」
「四時間あればさすがに全体を見て回れる広さだと思いますよ。二十五層への階段見つけたらどうします? いつも通り覗いて倒して強さを見て、それから帰りますか? 」
「もしかして、の範囲だけどそうなるかな。まあ細かい事は階段見つけてからでいいんじゃないの。昨日の話じゃないが、見落としてしまっている可能性だって十分あるんだし」
そういいつつ次の索敵を促す。三十歩進んで九時方向にプシュン! パチン! パチン、パチン……蜘蛛が四匹釣れた。まだ五匹編成というのには出会っていない。さすがに五匹は出ないのかもしれないな。この小西ダンジョンの難易度なら出てきても不思議はないんだが……
「五匹の群れは見当たら無さそう? 」
「見える範囲では四匹編成ばっかりですね。もしかしたらこの階層は四匹ばっかりかもしれません」
小西ダンジョンの難易度もさすがに深い階層では他のダンジョンと同じなのか、それとも他のダンジョンでは三匹編成ぐらいが一般的なのか。他のダンジョンでここまで潜ったことが無いから比較のしようがないし、そもそもBランク探索者に知り合いは居ない。そして二十二層以降に潜れる他のダンジョンも知らないときている。これでは小西ダンジョンの現在の難易度が高いかどうか確かめようがないな。
「四匹最大……これが多いのか少ないのか。少なく感じるのは体が慣れたせいかな? 」
「他のダンジョンと比べられないですからね。それに湧いてる密度もそこそこですから、きっとこれで難易度が高い方なんでしょう」
「そうか。まあ気にせず行くか。気にしてリポップ量が増えるわけでも無さそうだし」
「対応できてるので問題なしとしておきましょう」
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