54:四層で初めての苦戦
よし、大分落ち着いてきたな。走って吐くことはもう無さそうだ。
「そろそろ大丈夫~」
「おっけー、じゃぁどうする?四層行く?」
「Eランクでも四層潜って大丈夫なのかな」
「五層までは行けるね」
「四層から剣もったゴブリンが出てくるって聞いたけど」
「うん、斬られたら普通に肉切れると思うから、間違っても素手で対応したりしないでね」
「マチェットでなんとかなるかな?」
「やってみてダメそうなら撤退で」
「そうしよう」
三層はまだゆっくり回ったことはないけど、四層までの道は知っておきたいからな。
道中のゴブリンを難なく倒しながら進む。時々三匹連れで出てくるが、後ろの一匹をパチンコ玉で倒している間に一匹ずつ二人で一刀のもとに倒し、時間差をつけて残りの一匹を倒す、というパターンを作ることが出来た。
魔結晶はでるがヒールポーションは出ないな。出てもええんやで。
「体が完全にこなれたら三層も一人で回れるようになるな」
「そうなると潮干狩りする機会も減りますね」
「熊手でゴブリンを倒せるかどうかか……良さそうなパターンが思いつかないな」
「そろそろ熊手卒業したらどうなんです? 」
「熊手は俺の日常ルーティンだからいいの、アイデンティティーなの」
熊手を持たなくなったら俺はただのツナギヘルメットのおじさんになってしまうからな。
「俺のドロップテーブルだと、グレイウルフが百二十五円でゴブリンが五百円なんだ」
「どうしたの急に」
「いや、人によってドロップって変わるのかな、と思って」
「リアルラックって奴? 」
ゴブリンがまた一匹出る。俺より先に文月さんが足を踏み出すと、一直線に槍を突き出しゴブリンをそのまま頭の後ろまで貫く。うまく体を動かせているらしい。
「そう。ゴブリンがヒールポーション落とす確率が四%ぐらいで、そのおかげでゴブリンは結構価値が高い事になってる」
「グレイウルフの肉とどっちが落ちやすい感じ? 」
「肉かな。ただ、ゴブリンは他に何か貴重なもんをくれそうな気がする」
「極レアドロップみたいな? 」
「そう。まだお目にかかったことないから解らないけど」
「私はそこまで計算しながらモンスター狩りしたことないなー」
「生活が懸かってるからな」
またゴブリンが出た。今度は俺の番か。素早く近寄るとゴブリンが棍棒を振りかぶってる間に首を跳ね飛ばす。慣れてくるとこれ楽でいいな。次の階層でも同じように処理できればいいんだが。
剣を持ったゴブリンが出てくるという事は、マチェットでは武器負けするかもしれない。肉厚が薄いので、剣のほうがより肉厚だった場合マチェットがたたき折られるか最悪マチェットを貫通して俺ごと切られるかもしれない。そうなったら熊手しかこちらの攻撃手段はない。なんとか回避してスキを見つけるしかないだろうな。
暫くして四層の階段が見え始めた。
「ちなみに次の階層もこんな岩肌なの?」
「そうみたい。私も小西の四層は初めて潜るんだけど、事前情報だとあまり変わり映えしないらしいよ」
「ずっとこんな感じなのかね?」
「五層はサバンナみたいになってて、見晴らし良いですよ」
「それは見てみたいが今の装備じゃ無理だろうな」
「ワイルドボアってイノシシが新しく出てきます」
イノシシか。名前からしてなんか強そうだな。
「体当たりしてくるような気がする」
「うん、一直線に体当たりされるから吹っ飛ばされないように気を付けないと。後牙があるから刺されると怪我しますよ」
「ヒールポーションで治ることを祈るしかないか」
「1ランクならまぁ大丈夫じゃないかな」
「予備を持っててよかった」
◇◆◇◆◇◆◇
四層の階段を降りる。確かに見た目は変化ないな。いつもの洞窟風の光景が広がっている。階段を降りてすぐに襲われることは……無さそうだ。
ゆっくり四層を進んでいく。ゴブリンの数も増えている事だろう。警戒するに越したことはない。
しばらく進むと四匹ほどゴブリンがたむろっているのを確認した。見たことないゴブリンが居る。あれがきっとソードゴブリンだろう。他のゴブリンより一回り大きい。人がいないことを確認すると小盾を保管庫から取り出す。無いよりマシなはずだ。
「どうする?」
「剣持ちは任せます。多分力も強いので、うまく回避してスキを作らせるのがいいかと」
「それで行ってみよう。とりあえず遠距離で一匹釣りだすから、まとめてくるかどうか確認しよう。まとめて襲ってきたら……どうしようか?」
「順番はソードゴブリンに集中してください。周りのゴブリンは引き付けて時間差をうまくつけて退治してみます」
それでいくか。まずパチンコ玉を剣持ちに向かって射出する。
ぐおおお痛てえ、何が当たった! ぐらいの感じでこちらを見る。剣持ちはこちらをターゲットにしてくれたみたいだ。ソードゴブリンは剣を振り上げたままこちらに向かってくる。身体能力も他のゴブリンに比べて高いらしく、一人だけ足が速い。
小盾ごと切り裂かれるような事態にならないことを祈りつつ、相手の剣の軌道を見る。
上段から真っ直ぐに俺の首筋を狙って剣が振り下ろされる。俺は小盾を構え、当たる瞬間に小盾で弾こうとする。当たる瞬間に左腕を外へ斜めにし、傾斜を利用して弾き飛ばそうとする。しかし、予想より相手の攻撃が重く、小盾にひびが入った。それでもなんとか攻撃を往なすことが出来た。
ちょっとまずいかな。長期戦になったらこっちが不利になりそうだ。でも、相手の攻撃をはじけたなら胴体から首にかけてがら空きである。そのスキを見逃す手はない。俺はマチェットを剣持ちゴブリンに突き刺した。ダメージは入ったはずだ。
しかし、ワンパンチワンキルというわけには行かない様で、どうやらまだ耐久力に余裕があるらしい。俺はすぐにマチェットを引き抜くと、続けて横に一薙ぎした。だがこれでも致命傷にはならないらしい。これは予想より強いな。
一旦距離を取ると、もう一度相手に向き合う。ダメージは蓄積させているようで多少動きが鈍くなった。これは剣を持っているほうの腕を狙ったほうが確実に相手の選択肢を減らせたはずだな。次に生かそう。
周りを見ると文月さんが若干苦戦しているようだ。三匹相手に囲まれては上手く往なすことが出来てないらしい。一番離れてたゴブリンに対して牽制のパチンコ玉を射出する。周りに人が居ないのは確認済みだ。ならば最大出力で打ち出しても問題ないだろう。
俺は保管庫からパチンコ玉を打ち出す。プシュンという音とともにゴブリンの頭にパチンコ玉がめり込む。相手は体勢を崩しそのまま倒れた。
これで一対二に持ち込めたはずだ。アイコンタクトで確認する。どうやら理解してもらえたようだ。
そろそろパチンコ玉の在庫も気になる。戻ったときに補充しておこう。もう少し大きめの物を選んだほうが威力は上がってくれるだろうから、一周り大きい奴を買おう。
ソードゴブリンは傷を押さえながらもまだ闘志は衰えてないようだ。再びこちらに向かってくる。
再度こちらに剣をふるってくるが、軌道は見えている。剣の軌道をそらすために今度はマチェットで応戦する。
ガキンと剣とマチェットがぶつかり合う。さすがにマチェットでは抑えきれんかったのか、ぶつかった部分のマチェットが凹む。やはりマチェットでは厳しいか。他の武器を見繕いに行こう。
力とマチェットで剣を左に受け流す。そのままの流れでマチェットを相手の首筋へ横薙ぎする。が、その瞬間バックステップで避けられた。相手の体勢が整う前に一歩先へ出て返す刀でもう一度首筋を狙う。
剣が意外と重たいのか、ソードゴブリンは体勢を崩したままだ、チャンスだ。今度は上手く首に斬りつけることが出来た。そのまま体重を乗せて左へ向かってマチェットを振りぬく。
相手の首を半分ぐらいまで切断できただろうか。ソードゴブリンは黒い粒子になって消えた。なんとか勝てたぞ、と一息つきたいところだが、文月さんの援護に入らなければ。
残ったゴブリンは二匹。残ったゴブリンに対して一気に距離を詰めると、棍棒を力で奪い取る。ゴブリンは急に武器を取られたせいか足元がおろそかになっている。このまま殴りつけるか。
棍棒はソコソコな重さだったが、ゴブリンの頭を砕くには十分な重量をしているようにみえる。俺は一気にゴブリンに棍棒を叩きつけると、ゴブリンは黒い粒子になって消えた。
棍棒も粒子になって消えた。どうやら持ち越しは出来ないらしい。文月さんは一対一で優位に戦えたのか、戦闘は何とか終わった。
◇◆◇◆◇◆◇
初めての四層での戦いはいつも通り難なくこなせたとはとても言い難い。特にこっちの装備にダメージがでかい。マチェットは少し凹んでしまったし、小盾は次に攻撃を受けたらきっと割れてしまうだろう。
今までで一番苦戦したかな。ソードゴブリンがまた複数で襲ってきたら対処できる自信が無い。ここは三層へ撤退するべきだな。
「きっつい……」
「こっちも装備がボロボロだ。三層へ戻ろう。安全マージンは取っておくべきだ」
「四層はもう一人ぐらいいてくれたほうがいいね」
「あてはあるん?ちなみに俺にはない」
「私も無い」
「今後の課題だな。装備を更新するなり戦略を立てるなりしないと厳しいな」
「ソロの限界が四層って言われるのはなんとなく納得できたよ」
慣れが必要だな。その為には四層で活動できる装備を確保しなくては行けなくて、装備を確保するためのお金を貯めるために三層までで装備を整えて……どんどんRPGみたいになっていくな。
もっと重くて肉厚の武器が必要だ。この際斧でも持つか?それとも遠距離から狙うか?
さっきの規模でもう一度遭遇すれば、怪我をする可能性が高い。安全を考えれば戻る一択だ。今度こそマチェットが折られるかもしれない。マチェットを失えば潮干狩り以外にできることが無くなってしまう。それに、この小盾はもうだめだ、次にあの攻撃を受けたら確実に割れる。
「このまま四層で無理して攻略するメリットが無い。それに情けないがこっちの武装が心もとない」
「ソードゴブリンが出てきたら逃げて、普通のゴブリンだけ狩るのは?」
「それこそ三層でいいんじゃないか?多少凹んだけど普通のゴブリンなら対処可能だと思う」
「そうしますか。初四層はちょっと苦い経験になったね」
「その分得るものはあった。この間の飲み会で教えてもらった情報は正しかったって事だな」
「あぁ、一応情報は仕入れてたんですね」
情報は命だからな。下手に新しい階層に挑んでケガして帰ってきたら何の意味も無い。
「スライムがミッチミチになった日の前日に、ダンジョンから脱出した臨時パーティーでちょっとした打ち上げした際に色々教えてもらったんだよ。このままの装備だと四層五層は厳しいぞって」
「まぁ、ツナギも卒業したほうがいい……って、なんか左袖破れてません?」
「あぁ、再会する前にグレイウルフに噛みつかせてみた」
「またそんな自分の体で実践するようなことを……」
「防御力を確かめたくて。とりあえず先に戻ろう。帰り道で襲われることもあるかもしれないし」
「そうですね。自分で実験するのはもう止めても無駄かもしれませんこの人」
すぐさま三層に戻った。運がいいことにリポップに出会う事は無く、三層の階段を上る。
ソードゴブリン、せめて戦利品ぐらいほしかったな。まぁ一匹相手にしただけでドロップが期待できるほど俺のドロップテーブルは優秀ではないんだが。
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