534:久しぶりの鬼ころし
エレベーターで一層に戻る。時間は午後五時半。出入口で午後六時というところか。いつもと同じぐらいの時間で帰って来たことになる。結局二十三層ではあんまり稼がなかったが、二十四層の階段を見つけられた分で今日の成果は十分すぎると言える。
スライムをバツンバツンと焼きながらちょっと急ぎ足で出入口へ向かう。ドロップはほとんど無かったが帰って来たぞという満足感は得ることが出来た。
退ダン手続きを行って査定カウンターへ。査定カウンターはちょっと並んでいた。あぁ、この時間で鬼ころしへ向か……バスと電車の時間があるからあんまり変わらないか。十分ほど待って査定の番が来た。
「今日もお盛んなことで結構ですね」
「変な言いまわししないでください。査定お願いします」
五分ほど待って結果が出て来た。二百十一万六千百二十五円。まあまあの金額。歩いてるだけの時間が若干多めだったが、二十三層でそれなりの密度で戦ったおかげで割と儲かったかな。
芽生さんにレシートを渡し、自分の財布の中身を確認する。うん、買い出しに行く分はある。要らんものを買って帰る事も出来るな。
「じゃ、お先。バスが来てなかったら自転車で帰るので」
「はい、お疲れ様でした。くれぐれも変なものを買いすぎないように注意してくださいね」
更に念押しをされるが、保管庫に仕舞ってしまえば芽生さんにもバレないからな。さて何が待っているか楽しみだ。
バスの時間をみてしばらく来ない事を確認すると、駐輪場まで戻って自転車を取り出し、全力で漕ぐ。駅にたどり着くとそのまま電車で清州方面、一路鬼ころしへ。車で行くとかえって遠回りになるからな。時間は節約したい。夕食はコンビニ飯だな。
◇◆◇◆◇◆◇
電車を乗り継ぎ清州駅。そして鬼ころし。久しぶりに見る鬼の面を斜めに割ったようなデザインがされているこの看板もなつかしさを覚える。買うものは大量のパチンコ玉と先日破られたツナギとインナースーツの予備の購入は確定している。後は軽くぶらついて色々見よう。
まず武器のコーナーへ立ち寄る。そういえば直刀を研ぎに出した事は無いな……と思い出し、カウンターへ向かい直刀を見せる。
「そうですね……ミリメートル単位でちょーっとだけ曲がってるかもしれませんが問題は無いと思います。下手に研いでしまうよりはこのままお使いいただく方がいいと思います。商売上研ぐ方が儲かりますが、このシリーズの製品は折れず曲がらず切れ味そのままが売りになってますのでまだまだそのままでいいと思いますよ」
儲けさせられなくて悪いが必要ないと言われればそこまでだ。そのまま使わせていただこう。しかし、ツナギもそろそろ新しい製品が有ればそれを試してみたいところだが、この上のグレードの装備になると革が入ったり色々と重たくなったり、袖ぐりが窮屈になったり行動に阻害が出る可能性がある商品が多い。今のまま動ける前提で考えると防御力は相変わらずになってしまうが変更はしないほうが良さそうだな。
必要なものをさっさと買い揃えてまず経費で落とす分の会計を終わらせておく。パチンコ玉三千発はかなりの重さになっているが、レシートと共にバッグ経由で保管庫に放り込む。これで重さはゼロだ。必要なものは買いそろえたし、後は適当に見まわる事にしよう。お値段は十五万円ほどだった。
食品コーナーはまた種類が増えたらしい。ボア肉だけでなく、オーク肉のレトルトコーナーも出来ている。お値段は……うん、買えない訳じゃないがチャレンジングな値段なことに間違いはない。しかし、後学のために一つだけ買っていくというのは……後学のためだ、後学のため。
やはりここは定番のカレーが良いな。しかし角煮も捨てがたい。また自分で自分の選択肢を増やしてしまった。そういう時は……両方買う! これで悩みは消えた。誰かが脳内で無駄遣い……無駄遣い……とささやいているが、しっかり稼いでいるのだからこのぐらいは出費の内に入らないだろう。
武器も防具も食品も見回った。他に買い足したりするものは思い浮かばない。さっさと帰ろう。帰り道すがら明日の昼食をなににするか考える。最近は肉っ気が多いからな。野菜もきちんととらないといけないな。ボア肉をサイコロ状にして煮物に投入するのも良いな。よし、それでいくか。大根、人参、蓮根、蒟蒻、椎茸、さやえんどう……味付けは麺つゆ入れて後は適当に。多めに作って夕食分も確保しておこう。
そうなると家の食材では足りないな。買い出しにも出かけよう。ついでに夕食もコンビニ飯からスーパーの惣菜にレベルアップだ。
ミルコ用のお菓子と飲み物も追加しておこう。コンビニより種類があるから色々と選びがいがあるな。見た目に似合わないかもしれないが今度は和菓子を提供してみよう。せんべいを何種類か選び、それとペットボトルのお茶。そういえば食べた後のゴミ処理はどうしてるんだろう。やっぱりスライムに食わせているんだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇
スーパーでまず、入口のお好み焼き屋で注文をすると、中へ入っていき念のため食パンと卵とキャベツを補充する。ライフサイクルの維持は大事だ。たまには豆腐でも食べようかな。夕食にちょうどいいサイズの小型の豆腐を一つ買っておく。
そのままスーパーをグルグルと回り、食肉コーナーへたどり着くと、ウルフ肉のスライスがあった。査定の価格とここでの値段の差と重さを考えて……うん、そんなに高くは無いな。探索者にとっては自分で加工する手間を考えて面倒くさいと思ったら買う程度だろうな。薄切り、切り落とし、ステーキ用、それぞれ用途別に切り分けられている。
誰か探索者が持ち込んだのか自前の伝手があるかは解らないが、ここにもダンジョンの手が伸びてきていることに時代の移り変わりを感じる。ウルフ肉の需要が拡大しているという話は間違いではないという事だろう。
グレイウルフ肉だと手に取って確認した後籠に入れている主婦らしき人達を見ることができるということは得体のしれない肉ではなく、ちゃんとした食肉であると認知されているんだな。
探索者稼業がちゃんと社会の一部分として認識できる出来事を迎えたところで俺も今日の夕食と、明日の昼食兼夕食のための買い物を継続する。パックライスとお好み焼き、それに一人用の小さい豆腐でたんぱく質も取れて野菜も取れてこれで夕食は充分だな。後は買っておくべきことが無いかメモ帳を確認する。
お菓子を買いそろえるとそのまま会計、家に帰って着替えて荷物を仕舞って風呂を沸かしたら遅めの夕食といこう。パックライスにスーパー入り口のお好み焼き。これはキャベツが多めに盛られていて結構お買い得感がある。実際はちょい高めなんだろうが、自分で作る手間を考えたら必要経費だ。自分でもちょっとマヨを足しておこう。
食事に満足したら風呂に入る前に、保管庫に放り込んだパチンコ玉を袋から出してバラでしまい込む。同じパチンコ玉だと……認識してくれたようだ。これでまた十数日分の釣り餌が確保できたことになる。今後はバードショット弾も使って適度に在庫から減らしていこう。
風呂に入って一日のおさらいをする。もっと近くでパチンコ玉売ってたらいいのに。今日は破れたツナギとインナーの買い足しというついで買いがあったからいいものの、パチンコ玉だけ手に入れるという際は鬼ころしまで足を運ぶか通販を活用するぐらいしか思い浮かばないな。
パチンコ玉も、当初は深く潜っていくにつれてこのまま保管庫のスペースを占拠するだけのお荷物になる可能性が高かったのだが、まさか出番が来るとは思わなかった。なんでも持ち歩いてみるものだな。
今後は見えてる敵の時はバードショット、見えない敵の時はパチンコ玉と使い分けていこうかな。パチンコ玉のほうがバードショットより音がでかく、モンスターにも気づかれやすいと思うんだ。まだはっきり試してないからわからないけどそんな気がする。
射出して雷を纏わせるならダメージの面でも今のモンスターには充分効果を発揮してくれている。燃費は悪いが手段の一つとして確保しておくのは決して悪くない。複数目標に対して連続発射できるように俺の腕がもう一段階二段階上がってくれれば、さらに奥の階層や二十四層以降でモンスターに囲まれた場合威力を発揮してくれるだろう。
さて、考えることはこのぐらいか……明日の昼食は決めたし、何層を回るかを確認するぐらいか。鬼ころしへ往復した分遅い時間になっているし、今日は明日の仕込みをしてもう寝てしまおう。風呂から上がるとササっと煮物にぶち込む野菜とボア肉を切ってどんどん投入。一煮立ちさせたところでタッパー容器に入れて冷蔵庫に放り込み、具材にゆっくり味を染み込ませる。朝起きてもう一回煮ればなかなかいい感じに仕上がってると思うよ。じゃあお休み。
因みに世界最大の蜘蛛は三十センチぐらいらしいよ。明らかにダンジョンスパイダーのほうが大きいね。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





