528:ドローンは適切に扱いましょう
二十三層に下りてまずは初回にも出て来ていた蜘蛛三匹。次もここへきて蜘蛛三匹だったら固定リポップ地点という事になる。落ち着いて一匹をスケ剣で迎撃し、残りを一匹ずつ倒す。ここの湧きは覚えておこう。
さっき描き始めた地図を頼りにまずは広い道へ出つつ、そこまでの建物の様子を観察しながら高さと様子を更に描き加えていく。さすがに階段のすぐ近くに次の階段、とはいかないだろうからこの辺りに階段がある可能性は低い。しかしゼロではないので、目で確かめてきっちりと地図を作っていく。
索敵に従って隠れているモンスターをおびき出しては目の前で丁寧に狩り、広い道へ出た。ここまではさっきと同じだ。ここから先、さっきはドローンを飛ばして全体図を確認していたが、今からは細かいところを覗いていく。
二十二層と同じ方法だが、ドローンを飛ばした範囲の建物を一つ一つ確認しながら進む。ドローンから階段が確認できればベストなんだが、ドローンの音を聞きつけてモンスターが集まってしまった場合ここの強さのモンスターでは対処しきれない。いや、実際に対処は出来る可能性は高いがやりたくないというのが本音だ。
かき集めて片っ端から射出で済ませる。スケ剣とゴブ剣がある数までなら気楽に倒せるし消耗もしないのでモンスター処理という点ではとても楽なのは間違いない。
しかし、視界外からモンスターをかき集めて来てもまたそこでリポップするのであんまり解決にはならない事を経験上知っている。というか先日二十二層でもうやった。
あの時は大変だった。ドローンを迂闊に飛ばした結果三十数匹のモンスターが一気に近寄ってきたため、通常戦闘を放棄してすべて射出で対応した。肉体的には楽な戦闘だったが精神的にはあまりよろしくなく、背中を何かが通り抜けるようなうすら寒さを感じる戦闘だった。おかげで何本か行方知れずのゴブ剣とスケ剣もできてしまった。アレを拾い切れなかったのは結構大きい。
大量のゴキと蜘蛛の群れに襲われるという経験でかなり精神的ダメージを受けたし、芽生さんも俺の後ろで騒ぎながらウォーターカッターを乱舞させていた。同じ失敗をしないためにも索敵できっちり付近のモンスターを片付けてからドローン探索に入る、という約束をした。
そんなわけで、こうやってちまちまと確実にモンスターの相手をしている訳だ。これがゴキや蜘蛛じゃなくバトルゴートやダンジョンハイエナだったらまだ生理的に受け付けただろうに、こいつらの見た目が悪い。
大量の虫に襲われて覆われていくっていう映画あったな。テレビの映画のロードショーでやってたのをボーっと見てた記憶がある。あれは第三者視点から見るから面白いのであって一人称視点で見て面白いものでは無いという事を再認識した事件だった。
さて、この建物もハズレ。この建物は入口が崩れてるのであり得ない。そっちの建物は半地下だが階段ではない……と。一つ一つ調べるのは手間だが先に進むためには必要な事だ。こういう時D部隊みたいに人数が居れば楽に地図を作ることも出来るんだろうが、こっちは民間でしかも二人パーティーだ。一人が索敵できるおかげで奇襲を受ける事は無いぶん楽ではあるが。
広い道へ出た最初の部分については、モンスターが寄ってこない範囲に限っては階段は無いらしい。一度道なりに歩いてみるか。もしかしたら道中にあからさまな階段があるかもしれないし、全体マップを把握しておくのも大事だろう。
「このまままず道沿いに行ってみよう。道が円形にループしている可能性もあるし、そうじゃないかもしれない。とりあえずまずは全体把握をしておくだけでも違いは出ると思うんだ」
ろくろを回すようなジェスチャーをしながら提案する。
「そうですねえ。何処をどう行っても同じならまず全体図を把握する事が大事かもしれないですねえ」
意見が同じくできたところで再び前へ進む。道なりにモンスターを排除しつつ、細かいところは相手との距離を見て、近そうなら倒す、こっちへ来なさそうなら放置するという形にした。それでも二十二層に比べると密度は二割から三割増しぐらいに湧いている。これは良い運動になるぞ。
ドローンで撮影し終わった部分まで来ると、周囲のモンスターを片付けてまたドローンを飛ばして先の様子を見る。どうやらこの広い道を折れた先にたまり場があるようだ。複数同時に来る可能性もあるから注意して釣らないといけないな。
おっと、ドローンに釣られて一グループ引っかかってしまったか。覗く範囲は控えたはずなんだけどな。手元に素早くドローンを引き寄せるとスマホとドローンをまとめて保管庫に放り込み、迎撃態勢をとる。ゴキが四匹、こちらに向かってくる。
二匹に雷撃をかましてほぼ戦闘不能にしてその場に置き去りにし、残る二匹を腰を低くしながら芽生さんと一匹ずつ対応する。二人とも頭から尻まで二枚おろしに出来るようになったのは大きい。先週までは硬い頭を避けてから柔らかい腹から尻にかけて攻撃を加えるという二動作で攻撃していたのが一動作で済むようになった。
残ったほぼ戦闘不能になった二匹を処理して戦闘一旦終わり。魔結晶は出た。ここのマップは百パーセント魔結晶をくれるので解りやすい。ただ大きさはバトルゴートやレッドカウと同じ大きさのようだ。
ここでこれだけ動けるなら、二十層なら全力で走りながらひき逃げの要領でひたすら倒して走り回るという行為が出来るようになっているかもしれない。今度気まぐれに試してみるか。ただ、ここの階層以上の収入が得られるかというと微妙なところではありそうだ。
この階層でここまで美味しい思いが出来るなら、二十五層へ行ったら一体どれだけの収入を得られることになるのだろうか。モンスター密度はいかほどなのか。モンスターの強さはどれほどのものなのか。非常に楽しみではある。
そういえば、ちゃんとした探索が行われているダンジョンがどこにあるか、というのも今度調べておかないといけないな。メモに書いておいて帰ったら調べよう。
「何メモってるんです? 」
「ここ以外に探索が二十一層以降まで進んでるダンジョンってどれだけあってそれがどこまで進んでるのかなって」
「あー、気になりますねそれは。解ったら教えてください、参考にするので」
そもそも日本国内には認知されてる範囲で何個ダンジョンがあるのか。調べようと前に思った覚えが有るような無いような。結局なんで調べなかったんだろう。調べたところでスタンプラリーを行う訳ではないとかそんな理由だったか、それとも完全に忘れているのか。事実は闇の中だ。
「少なくとも清州ダンジョンと高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは行われてるとみて間違いないはずだ。後は何処にあるのかな? 」
「何処にダンジョンが何個あるのかを全部知ってるわけでも無いですからね」
「官民系のダンジョンは全部二十一層以降探索に入ってると考えても良いと思うんよね。もし遅れてたらダンジョン庁が部隊送って無理にでも潜らせてるはずだから」
民間に二十一層まで解放しているダンジョンは、D部隊なら二十二層以降も探索できるようになっているか、表向き二十一層まで潜る、とそういう事になっているんじゃないかと経験上予想する。
「それなら、Bランク探索者を探すというのもポイントか。二十二層以降に潜れないのにBランク探索者として活動するのは自分の地位や名誉をひけらかす以外には特に役に立たないはずだからな」
「Bランク様のお通りじゃあ~とかやりたいお年頃でも無ければそういう事になりますね」
「芽生さんそういうのやりたい? ギルドの建物に入って控えおろう~みたいな」
「それただの恥ずかしい人ですよ。そんな事しても一円も査定額増えませんし。Bランクをひけらかせば査定価格が高くなったりダンジョン税が免除されるなら一考の余地はありますが、現状そうなる可能性はゼロなのでやるだけ無駄ですね」
ですよねー、解ってた。
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