527:休憩と来訪者と
自分達のテントに戻ると昼食休みだ。新しい階層に向かうのは自覚できないストレスが溜まっている可能性がある。今日のお弁当的に現地で食べても良かったのだが、きちんと休憩をとって目に見えない疲れを癒すことも大事だと思うので帰って来た。
勝手知ったる我がテント、気を抜いて寛ぐにはちょうどよく、机の周りでだらしなく身体を投げ出したまま持ってきたお弁当の冷しゃぶウルフサンドを食べる。うん、今日も中々の味わいだ。このために昨日半日ダンジョンに潜ったのだからな。
「お昼がサンドイッチなら気軽に二十三層で食べながら探索しても良かったのでは? 」
「そう思わなかったわけでも無いけど、芽生さんが索敵使いっぱなしで疲れるだろうし、食べてる後ろで湧いた場合食べながら戦闘するか最悪お弁当を投げ出してでも対応しなきゃいけなくなるから。休憩は休憩としてしっかりとりたいからね」
「なるほど、ちゃんと気遣われてましたか。じゃあ今は全力で気を抜いていい時間ですね」
「そういう事、ゆっくり休んで。コーヒー飲む? アイスもホットもあるけど」
「夏場なので気分的にアイスで。できれば甘いほう」
ミルク入りの甘いコーヒーを渡す。やはり疲れた頭には糖分が重要だと思う。限度はあるが、索敵で使っている分頭と目をいたわる必要がある芽生さんには必要なカロリーのはずだ。
俺は甘くないほうのコーヒーをホットで淹れる。コーヒーはブラック、砂糖はいらねぇ。中途半端に入れると酸っぱくなってしまうからな。酸味の効いたコーヒーはあまり好きじゃないんだ。
適度に冷めたところでコーヒーをグイッと胃に入れ、昼食を食べたことで頭にかかるモヤを覚醒させていく。さすがに食べ終わったからさぁ今すぐ行くぞ、という雰囲気ではなく、しばらくだらける。
だらける、と言っても時間を忘れてぼーっとするわけではなく、胃袋にステータスブーストをかけるようなつもりで頑張って消化してもらう時間として三十分ほど休憩する、という意味だ。芽生さんはテントの中で全力で寝転がっている。
「昼からはどのくらい回れるかな。四時間ぐらいは二十三層探索に費やせるから……運が良ければ階段まで見つけられるかもな」
「階段の場所にもよるでしょうけど、基本的には通り過ぎる階層ですから詳細な地図を作る必要は無いと思いますねえ」
ゴロゴロ~っと転がりながら芽生さんがテントから出てくる。床は綺麗にしてあるとはいえ服が汚れるぞ。
「そうだなあ。とりあえず今日は写真撮るだけとって帰って、地図繋いで細かいところは明日見る。階段に近いところは詳細に調べる、ぐらいで良いんじゃないかな。無理に今日中に探し出す必要もなさそうだし」
「気張らず気をつけて行きますか。手慣れた相手とはいえ数は二十二層より多いんですし、全体を見たらまた一つ一つ建物を確認していきましょう」
そうするか。とりあえず時間まで適当に放り込んであるマンガや雑誌を眺める。そろそろ月刊探索ライフの新刊が出るころか。今夜にでもコンビニで確認しておこう。探索ライフと探索・オブ・ザ・イヤーを置いてくれる近所のコンビニには色々と助かっている。本屋が減ったおかげで本を一冊買いに行くだけでも車を出さないといけないのは面倒だ。
ボーっと雑誌を眺める時間がしばらく続く。月刊誌とはいえ誌面はそう分厚くない。二十分もかからずに読み終わってしまった。新しくもう一冊と行きたいところだが、胃袋が軽くこなれてきたところなので準備運動をしておく。
「もう行く準備ですか、まだちょっとゴロゴロしていたいんですが」
芽生さんらしくない発言だが、しっかり休憩したいというサインだろう。
「まだゴロゴロしてていいよ。俺は休憩明けの運動に専念するから」
「はーい」
二冊目の雑誌に取り掛かり、まだ寝そべっている。せっかくなら女性誌でも持ち込んでみたほうが芽生さんのためになるか?
「なんかリクエストあったら他の雑誌も仕入れておくけどなんかある? 女性誌とか週刊誌とか」
「そうですねえ。今度適当に買ってくるので保管庫に放り込んでおいてください」
自分で選びたいらしい。確かに俺の趣味で選んでもろくな事になら無さそうだからな。その辺は芽生さんに任せよう。
芽生さんはしばらくすると準備体操に合流し始めた。ゴロゴロタイムは終了らしい。そのまま二人でやるストレッチを軽めにやり、今から使うであろう筋を伸ばし、軽く息が上がる程度に満足したところで休憩は終了する。
「さて、出かけるか。四時間ぐらいは探索できるだろうからその間にいくら稼げるかとどれだけマップが把握できるか、そして四匹出てきたときにどう動くか。課題はこの三つだな」
「いくら稼げるかはともかく、マップは早めに次を見つけておきたいですね。足踏みするなら二十二層でも二十三層でも同じですから、どうせ行くなら早く二十四層へ抜けたいです。きっとそのほうがお金になります」
二十三層より二十四層のほうが何となくモンスターも多そうという従来のイメージ的にはその通りだ。
「十一層と十二層ぐらいの違いかもしれないから一概に二十四層のほうが厳しいとは限らんのじゃないか? たとえば二十四層のほうが蜘蛛が多いとか、そういう傾向かもしれない」
「なるほど……どっちにせよ二十三層を攻略して、二十四層へ足を踏み入れてそれから考えますか」
「何にせよ今からは二十三層の探索だ。気合を入れていこう」
「おー」
マウンテンバイクにまたがり二十二層のほうへ出かけようと漕ぎだすが、しばらくすると前方にパーティー発見。あのシルエットには見覚えがある。
「あれ、安村さんこんなところで。こっちはようやく到着ですよ」
小寺さん達だった。
「これはこれは。ひとまず二十一層到達おめでとうございます。エレベーターは一番背の高い建物、旗が道側に出てる建物にありますからそこへ行くと上へ戻るのもすぐですよ」
「やはりここにもエレベーターはありましたか。道理で自転車なんて持ち込んでるはずですね」
「あると便利ですよ。移動時間を短縮できてその分稼げますから。ただ二台しかないんで使うなら自分で持ち込むかじゃんけんするなりしてください」
「そういえばBランクおめでとうございます。ネットで話題になってましたよ。安村さん達はその様子だと下の階層へ? 」
これは言っていいものなのかどうか悩むな。一応一般開放は二十一層までという建前になっている。Bランクになったとはいえ探索許可が出ているかどうかとは別問題だ。三秒ぐらい考えて次に言う言葉を絞り出す。
「ちょっと声では言えない所へ行ってきます」
「なるほど……察しました。お気をつけて」
こっちの事情を察してくれたらしい。深くは聞かずにいておいてくれるようだ。
「変な言い方ですがゆっくりしていってください。壊れそうなものでもダンジョンオブジェクトなので頑丈にできてますから、崩れそうな建物でも心配する事は無いと思います」
「それを聞いて安心しましたよ。この様子だと建物で休憩中に突然崩れて下敷きになったりはしないかと心配しているところでした」
「スキルを全力でぶちかましても崩れなかったんで問題ないはずです」
芽生さんが会話に参加する。確かに解りやすい指標ではあるな。あれだけ全力を出しても壊れないというのは確実な証拠になるだろう。
「たしかに。ダンジョンじゃないとあれは試せないからな」
「……セーフエリアで何してるんですか? 」
「誰も居ない所を目標にして特訓、ですかねえ。ターゲットが壊れないのでバッティングセンターかゴルフの打ちっぱなしみたいな感じで中々に爽快感がありますよ」
「今度、その建物に何か目印でも付けておいてください。近づかないようにするんで」
避雷針を用意しておけという話らしい。今度持ってくるか。でもダンジョンオブジェクトじゃないから壊してしまいそうな気がする。
「ちゃんと誰も居ないのを確認しながらやってますから大丈夫ですよ」
「本当かなぁ……? まぁとりあえずエレベーターに向かってみます。十四層に置いてきた荷物の回収もありますし、特に決まった場所、みたいなものはあったりしますか? 」
パーティーの場所取りについて聞かれた。自分たちの所以外は知らないからなぁ。そういえば相沢君達がどこに張ってるのか、確認してないや。少なくとも的の建物じゃない事は解ってるんだが。
「まず相沢君達がどこかに張ってるのと、エレベーターのある建物の上層に二パーティー分あるのは間違いないです。それ以外は空いてるところを自由に使っていいと思います」
「参考にします。では、とりあえずご安全に」
「ご安全に」
会話はほどほどにしてお互いやることがあるので別れる。二十二層へ下りて早速単品ものを駆逐するとそのまま広い道なりに道中のモンスターをシバキながら二十三層へ向かう。ここまではもう何ともないな。三匹出てくるケースもちゃんと対応できている、道がはっきりしている分気を散らす事もなく、索敵に同時に複数グループが引っかかる事もなかった。
とても順調すぎて何かあるか、と身構えたが、特に何事もなく三十分ほどで二十三層への階段へたどり着く。さぁ、午後のお仕事はここからだ。
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