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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第六章:盛況小西ダンジョン

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520:価格交渉、買い物、そして自由

 駅まで一緒に行った後、改めて駅で別れた。今度こそはお別れだ。俺も家に着くと、早速電話をかけて布団の山本へ連絡する。


 今から行っても問題ない事を確認すると、軽くカロリーバーを胃に詰めてコーヒーを飲み、胃袋を落ち着かせてから出発する。何をするでもまず腹が膨れているほうが落ち着いて交渉できるからな。


 布団の山本へ到着。早速いつも通り店内に羽根を運び込んでもらう。物をまず渡して、いつも通りの品質であることを確認してもらう。値段交渉はその後だ。


 いつも通り冷えたお茶を出してもらって寛ぐ。今日は水饅頭を提供してくれた。これプルプルしてて好きなんだよね。くず粉とゼラチンと寒天とどれを使っているかで味わいが変わるが、個人的には寒天の奴が好きだ。


 品質の確認が終わったらしく店長が出てくる。真剣な顔で出てきたので、これから値段交渉を行うという事は解っているらしい。


「お待たせしました安村様。いつも通り高品質な納品をありがとうございます。それで、今日は値段交渉にも来られた、そう認識してよろしいですか? 」

「話が早くて助かります。この度ギルドの買い取り価格も例外的に大幅に上昇しまして。その分、できればその分以上に高く買っていただけると助かるんですが」


 しばし、どちらも話さない。お互いに静かな時が流れお茶を一口飲む。やがて店長が切り出した。


「価格改定で査定価格が上昇したことで市場のダーククロウの羽根も同額以上に値上がりしてまして……その結果なんですが」

「以前にもまして一定の品質の品物の入荷が難しくなった、そういう認識でよろしいですか」


 値上げにかこつけて最高品質のダーククロウの羽根もより値段が上がった。市場価格をちゃんと確かめたことは無いが、価格改定が有ってまだ時間がそう経っていない。探索者によるダーククロウの羽根集めがそうそう多く納品される事も無いだろう。市場は一時的なバブルみたいなことになっているはずだ。


「はい、なので安村様から直接卸していただくというのは、良質の製品を提供するためには何が有っても絶対確保しておくべき、という事になりまして、営業共々色々と話し合った結果このような金額でいかがでしょうか? 」


 店長が真っ直ぐな目でこちらを見ながら一枚の紙を提示してくる。いつもの書面だが、百グラム当たり三千六百円と書かれている。前は二千六百円だったので千円の値上がりだ。ダーククロウの羽根が査定価格で六百円値上がりだったので、それを大幅に超える金額と言える。


「正直に申し上げまして、安村様がお相手でしたらお互いに値上げ交渉でギリギリのラインで交渉を続けて心証を悪くするぐらいなら、最初からこちらで出せる最高の価格をお見せしたほうが誠意を見せられると思いました。なので、この価格でいかがでしょう? 」


 ここで芽生さんならもう少し行けるんじゃないか、という所だが、俺はそこまで金にがめつくはない。細かくはあるけど。この価格で良いんじゃないだろうか。


「こちらも相棒から出来るだけ搾り取ってこいとは言われましたが……まあそれは置いといて、お気持ちは確かに受け取りました。そこまでおっしゃるならその価格で今後もお引き受けさせていただきます」


 頭を下げる。つられて店長も頭を下げる。そして頭を上げ、握手。今日の分の収入は十八万円。芽生さんの分を抜いて十二万六千円といった所か。


 書面を交わしていつも通り七対三に分けてもらったお金を確かめ、懐に仕舞う。今後も良く利用させてもらおう。


「これで一件落着です。こちらもより商売に精を出すことが出来ます。また羽根が溜まりましたらいつでもご連絡ください。真っ先に対応させていただきます」


 俺としては六百円値上げしてくれたらそれで良かったのだが、向こうからそれ以上の価格を払っても良いと言ってくれている。つまりこいつにはもっと価値がある。そこを念頭に入れてはおこう。


 今更だが、個人事業主とはいえダンジョンを行ったり来たりしているだけの探索者にとって、ギルドだけが社会的なつながりになることが多い。俺にとってはギルド以外で唯一と言ってもいい社会的つながりがこの布団の山本だ。この際情報を仕入れておくのもありかもしれないな。


「私は御社としか取引が無いのでよく解らないのですが、今回の価格改定で色々と変わったりはしてるんですかね? ダンジョンに籠ってばかりだとあまり実感が無くて」

「そうですね、革製品を取り扱っている会社からは歓迎する動きが出ているようですね。製品の買い付けタイミングが被ると他社とも交流が無いわけではないので」

「なるほど、買い付けの時の世間話ってところですか。面白い情報が有ったりしますか? 」


 ちょっと姿勢を整えなおして業界の話を振ってもらってみる。


「そうですね。後は繊維業者ともいくつか話を交換し合う事もあります。あちらも羽根を使う事があるようですので、時々は競争相手になりますね。それによると深層……具体的には十七層より下でしたか、モンスターの毛や糸を素材にした新製品を開発するために素材を手に入れたいけど希少価値もあって価格が高騰気味で中々手が出ないとかなんとかいう話を聞いたことがありますね」


 バトルゴートの毛とダンジョンスパイダーの糸か。確かに糸に関してはBランク探索者でないと手に入れられない素材だし、毛のほうもCランク探索者でも十七層以降の素材を持ち帰るとなると中々に難しいところだろう。その点では小西ダンジョンでは頑張りがいがあるとも言えるな。何せ帰り道の分の荷物を考える必要性が薄い。


 更に言えば小西ダンジョンでBランク探索をしているのは俺達だけだ。ダンジョンスパイダーの糸に需要があるならギルドに卸すことも大事だが、もしもの時用にストックを持っておくのも大事かもしれないな。ちょくちょくへそくりに入れていくことにするか。


 その後も二、三話題を確認し合った後、これ以上居座ると邪魔になるからと退散させてもらう事にした。色々とためになる話も聞いた。布団と枕の売り上げも中々好調らしく、専属を雇ってでも手に入れたいと言っていたが、荷物の輸送の観点から専用の背負い袋みたいなものを使わないと難しい事を伝えておいた。実際に専属探索者を雇うかどうかは解らないが、伝えておかないよりは伝えておいたほうが良いだろう。


「では、また取引のほうよろしくお願いします」

「こちらこそ、納品をお待ちしております、では」


 布団の山本を後にして、そのまま買い出しに出かける。いつものスーパーとホームセンターへ行き必要分を補充、特にコーラは飲みつくしてしまったので箱で買う。後はクーラーボックスに合うサイズの保冷剤の板を四枚。現地に置いておく用と交換用だ。これも経費で落ちるだろう。


 スーパーにも寄り、食品を補充すると、たまにはアイスを買って帰ろうということになる。お高いアイスがお得な値段で売られているのでパイントサイズの物を選んだ。多少嫌なことが有っても家に帰れば美味しいアイスが待っていると思えば全てを許せるようになる。これは精神の安寧を得るためには非常に大事だ。


 なんならもっと大きいサイズでもいいのだが、あまり大きすぎても食べきれないしカロリーの取り過ぎになる。今家に置いておくならパイントサイズがちょうどいい。お客さんが頻繁に来るようなら別だが今のところその予定は無い。来るとして芽生さんが飯をたかりに来るぐらいか。


 美味い飯を食った後のデザートとしてはお高いアイスは出すのにちょうどいい。また今度来る可能性も考えて二つ買っておこう。バニラとチョコで一つずつ……チョコを二つ。冷凍庫も空きがあるし詰め込んでおくにはちょうどいい大きさでもある。


 お高いアイスを買って帰る。そう思うだけでもう心が躍る。家に帰って早速冷凍庫に詰めよう、そして味見をしよう。


 明日は一日休みだ。だらだらとしながらアイスを食べるのも良いし、この先どう探索していくのかを考えるのも良い。休みと言いつつダンジョンに潜ってもいい。




 自由は手元にある。その中で何をするかを選択できる自由を楽しもうじゃないか。ダンジョンはいつも同じ場所で俺を待ってくれている。もし行く先に悩んだら、その時はダンジョンで潮干狩りをしよう。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日の更新有難う御座います m(_ _)m [気になる点] 休日にアイスを一箱ぺろりと....? (*´﹃`*)ジュルリ… [一言] アイスは心の安寧! (๑•̀ㅂ•́)و✧
[一言] ドロップ品の卸し先も大事だけど そろそろ装備品関連の「お得意様」先が欲しいところ 今のところキャンプ用品店や専門店の汎用品で間に合ってしまってるけれども
[一言] そうして彼は潮干狩りに向かったのだった 完 ってなんだか浮かびましたw
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