513:ダンジョンピクニック 6/11
休憩を終えて二十層に入った。ここから先は地図は要らない。ただひたすらに一方向を目指せば階段にたどり着ける。しいて問題点があるならいつになったら階段にたどり着けるか少々不安になるぐらいか。
「ここから先はとても簡単な作りです。この木と木の間に沿って真っ直ぐ行けばいつか階段にたどり着けます。大体一時間ぐらいでたどり着けるはずです。初回なんでもう少し時間がかかるかもしれませんが、進む方向さえ見失わなけりゃ大丈夫です」
と、方位磁石アプリを起動して自分の方角を確かめる。
「なんか見慣れた光景ですね、清州ダンジョンの八層も同じ構成だった気がします」
「最初来た時俺も同じ感想でした。なのでそれにならって真っ直ぐ行けばちゃんと階段がありましたよ」
「急にマップの難易度が下がりましたね。その分モンスターが多かったりするんでしょうか」
「木が邪魔で視界が開けてない分密に感じるかもしれませんね。実際のところはあんまり変わらないと思いますよ」
横田さんと地図の確認をし終えて、前を見る。階段付近にこそモンスターが居ないものの、行く先にはミステリーサークルがいくつも見えているしバトルゴートも居る。ダンジョンハイエナはまだ見えていないが、それぞれの木の足元やまだ見えない場所に居る事は確か。そしてそれぞれのモンスターのポップ位置が十九層に比べて密だ。
「さて行きますか。その気でいれば突破は簡単。お互いのパーティーで半分ずつと行きましょう」
「同時四匹までですか。五匹目が居たら安村さんのほうでお願いします」
「任されました」
「りょーかい」
十九層とあまり変わらない探索が続く。風景を楽しむ余裕はちょっとない。実際のところは結衣さん達が居ないほうが保管庫が使える分より自由に余裕のある探索が出来るんだが、隠し事ってのは隠すというコストがかかる分だけ面倒くさいと感じる。
普段は雷撃だけでなく保管庫からの射出も使って戦う二十層だが、今日は射出の代わりに新浜パーティーというわけだ。攻撃手段としての信頼性は射出のほうが過去の蓄積から見て上だが、ドロップを自動で拾ってきてくれるところは新浜パーティーのほうが上とも言える。
道なりに木に寄りかかって休んでいるレッドカウをシバき、バトルゴートとダンジョンハイエナの喧嘩の仲裁に入って喧嘩両成敗と両方をボコボコにし、ドロップを回収しながらまっすぐ進む。
「数は多いけど最初に十九層に来た時ほどのプレッシャーはなくなりましたね。これも慣れって事でしょうか」
「多分ね。今日一日かけて慣れれば次からは山盛りのドロップ品を持って帰れるよ」
「具体的には一日でどのくらいいけます? 」
「そうですね……日帰りでこのぐらいは」
指を三本立てる。新浜パーティーからおぉ~っというどよめきが聞こえる。どうやら新浜パーティーもここまで稼いだことは無いらしい。
「他に二十一層までたどり着いたパーティーはおるんですか? おらんのなら独占できるっちゅうことになりますけど」
「残念ながら最低一パーティーは確認されてますよ。なので狩場が被らずに自由に倒しまわるというのは難しいかもしれませんが、さっき渡した二十層のほぼ完成した地図は出回ってないはずなので、迷わずに階段まで帰ってこられるならこの道筋以外でも探索は出来ると思います」
「安全に探索しようと思ったらこの道を往復するだけでええっちゅうことですな」
「まあ、そういう事になります。解りやすいですし、最悪迷っても方位磁石一つあれば来た方向帰る方向は解りますから、スマホアプリでも実際の物でも、持ち込んでおくと便利ですよ」
実際にこの道はちょうど南北を示している。戦って色々と動いている間に来た方角が解らなくなった場合、来た方角のモンスターは密度が薄いはずである。リポップしている可能性こそあるものの、それを目印に方角を再認識する事は出来る。
なのでドローンと方位磁石、慣れたなら方位磁石一つあれば十七層以降の小西ダンジョンは攻略できるようになる。新浜パーティーが二十層に入り浸るつもりなのかは解らないが、その場合いい助言にはなるだろうが、清州ダンジョンの事は放っておいて良いのだろうか。
「そこそこの密度が居るので楽しいですね。後、ハイエナからハイエナするのにも慣れてきました」
「楽でいいでしょ、戦う回数が一、二回分ぐらい体力と精神力の浪費を防げます」
ダンジョンハイエナの対応にも慣れて来たのか、噛みつき以外の攻撃にはあまり気を回さずに二人一組で確実に倒す方法はもう完全と言っていいと思う。後は一人ずつ如何にして戦うかになるが、スキルが無いと厳しい戦いになるだろうから、横田さんと結衣さんの手数をどうするかが問題になってくるだろうな。
「これ、スキル無しで一人で相手するのは中々骨が折れるね。やはり戦力強化が大事かな」
多村さんが気づき始めたようだ。
「正直なところを言うと厳しいと思います。素早く動いて相手の後の先を取って一撃加えるというやり方でも無いと厳しいと思います」
「なるほど、ステータスブーストのレベルからして僕らはまだまだってことかな。その点二人でこの密度の敵と戦い続けてる君らはもう一歩二歩先に行ってると」
「そこまでは言いませんが……まあ、ある程度自信はありますね」
芽生さんが隣でドヤ顔をかましているがスルーしておこう。ステータスブーストに先に気づいて、そして小西ダンジョンで密度ある戦闘の繰り返し、そして一足先に巡った二十層での探索。その分の戦闘経験値でこちらに分があるといったところだろう。
「ここ一か月ぐらいで追い越されたって感じですかね。ちょっと悔しいかも」
あまり悔しそうにしてはいないが結衣さんがあきらめの表情を見せる。
「エレベーター使って移動時間分の戦闘を短縮したことで追いついて追い越したのかもしれません。そういう点でも小西ダンジョンはもう一つ武器があるって事でしょうかね」
同じ時間の流れを過ごしている以上、戦っている時間が長くて密度が高いほうが蓄積される経験値的なアレもその分多くなる。それを意図的に短縮できる以上小西ダンジョンの武器は強いと言える。
「Cランク探索者の促成栽培ですか。確かに往復する時間で経験値を貯められると考えれば我々との差が出来ても不思議はありませんね」
「清州ダンジョンは広いからね。仮にエレベーターを使わないとしても、移動時間分の差は開く一方かもしれません。もしかしたら小西ダンジョンに通っている鬼殺しはみんなそれぞれ実力を高めているかもしれないね」
横田さんと多村さんが小西ダンジョンをほめちぎっている。間接的にはエレベーターを設置させた俺をほめちぎっている。何となく恥ずかしいのでそこそこで止めてもらいたい。
今の戦いの形で大きな問題なくいけることを確認すると、階段まで向かうまでの道中のモンスターをあらかた吹き飛ばしながら進む。七割位は進んだかな、と時計を確認する。もうちょいだな。今ドローンを飛ばせば階段が見えてくるあたりの位置だろう。
近場のモンスターを狩り終わって手が空いたことを確認すると、ドローンを飛ばす。進行方向にドローンを向けると……あった、階段だ。
「もうちょっとで階段見えるよ。そう遠くない位置で」
「どれどれ……ほんとだ、ちゃんと階段がある。解りやすい位置でいいですね」
「あそこまで行けば夕食ですか。肉楽しみですね」
「えっと……二十パックはあるので何パックか食べるのについては問題ないですが、一パック一万五千円というのを考えながら楽しんでくださいね」
値段を聞くと一同ぴたりと喧騒が止む。そして一斉に俺から目を逸らす。どうしたんだろう?
「そんな高かったんですかアレ。毎回全部食ってましたわ」
「値段を聞くと流石にちょっと……」
なんだか様子がおかしいぞ。これは問いただしておくべきだろうか。
「もしかして、値段知らずに潜るたびに全部食べてた、とかそういう? 」
「……はい」
「オーク肉より高いとは認識してましたがそこまでとは……」
「調味料そんなになくても美味しく食べられるし……」
これは一回も査定に出してない奴だな。確かに深い層のドロップを持ち帰るのは中々に難しい。その場で消費して満足できる食糧類は食べてしまっても問題はない。
「止めはしませんがほどほどにしてくださいね。夕食の後も狩りするんですし、エレベーターが使える以上多少無茶な荷物を背負って帰ることも出来ますが全部食べきるような……せめて我々の分ぐらいは残しておいてくださいね」
念押ししておく。これで全部食べられるという事は回避できるだろう。ついでに自分の分も食べられるようにしておこう。
思わぬ注意事項が発生したが、それでテンションが下がるわけでも無く、それならいつもより多く持ち帰ろうとして逆に気合がはいったらしく、レッドカウはさっきまでに比べてさらにボコボコにされている。可哀想だと思うが美味しい君がいけないのだよ。
そういえば芽生さんも肉に大喜びしてたなぁ。でもここまで派手には騒がなかったし、持ち帰る環境も方法もあったので出来るだけ美味しく食べられる方法を探していたな。やはり手軽に持ち帰りが出来る環境というのも探索者には大事なのだろう。
一方バトルゴートのほうは不人気のようで、突き刺しが有効で切り裂きは効果が無いとハッキリわかってきたらしく、突進を避けて突き刺すという形にしていくことで解決を見たらしい。ただ平田さんだけは拳で語り合いたいらしく、突進を正面から拳で殴りかかろうとしてぽーんと投げ出された事が何度か。
ダメージはポーションを使わなければならないほどではないらしいので問題は無いが、もうちょっとこう、なんか危なげない方法は無いのかとも思うんだが。
「いつか正面から殴り勝って見せますわ。それが出来るようになるまで頑張ろうかと」
本人は衝突して吹き飛ばされないまで頑張るみたいなことを言っているが、割と見ていてハラハラするので適度にしてほしい。
何回か事故と事故未遂を繰り返しつつ、ポーションを使うほどの傷も負わずに階段までたどり着くことは出来た。引率役って結構疲れるものだなと思いつつも、全員皆無事のまま階段を下りた。これでやっと休憩できるぞ。
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