51:小西ダンジョンはアットホームなダンジョンです
百五十万PV越えありがとうございます。
今日も電車とバスを乗り継ぎ……駐車場拡張されねーかな。
ダンジョン探索者を始めてから通勤経路が電車とバスのおかげで、自動車をほとんど動かす機会が無い。今度、最寄り駅の駐車場調べて電車代とにらめっこする作業でもするか。
ベストなのは小西ダンジョンに無料駐車場が出来る事。
ベターなのは小西ダンジョンに有料駐車場が出来る事。
次はバス停最寄りに有料駐車場がそこそこの値段で空いてる事、だな。開いてたとしても他の探索者が契約してそうなものだ。田舎だし、安く借りられそうなんだけどな。
小西ダンジョンにたどり着き、まず確認することはダンジョン出入り口だ。昨日みたいにみっしり詰まってないか、言い直せばまた「あふれ」そうになっていないかどうかを確認する。
ダンジョンで入口にはいつもの職員さんしかいない。ということは、あの異常事態は終息したと見ていいのだろう。残念……いや、良かった。
今日はちょっと試したいこともあるし、文月さんも居ないし、危険が危ない検証をしながらダンジョン生活が出来るぞ。さっそく入ダンしよう。
「あ、安村さん。ちょっといいですか」
入ダン受付で止められる。
俺、何かしましt……昨日やらかしたな、盛大に。
「な、なんでしょう?私今日はまだ何もしてませんよ」
ちょっと声が上ずった。
「いえ、確かに昨日は盛大にやらかしたというかやってくれましたというかですね。それについてちょっと、もし来訪したら呼んできてくれと言われてまして」
「はぁ、どちらに行けばいいんでしょう?」
「会議室の場所、解りますか?そちらにお願いします。こちらも準備するので」
「解りました。今から行っても問題ありませんか?」
「今からのほうが助かります。じゃぁお願いします」
会議室に通されることになった。これで二回目か。会議室はプレハブハウスの二階だ。
壁紙を張っただけの簡素な部屋で、その奥はどうやらギルド長である課長級の人物の部屋らしい。
俺に用がある人物はその奥から現れた。
「どうも安村さん、二日ぶりですな」
「これはどうも……えっと、課長さんって呼ぶのとギルドマスターって呼ぶのどっちがお好みです?」
「ギルドマスターのほうが偉く聞こえる気がするな。今後はギルマスって呼んでもらおう」
この人、案外ノリがいいな。
「ではギルマス、本日のご用件をうかがっても?」
「昨日のスライム駆除、本当にお疲れさまでした。当小西ダンジョンとしては、ダンジョンが使用不可能になることを一日で解決するための助力をしてくれたことに対するお礼状を出すことになりまして」
「あ、じゃぁダンジョンはもう落ち着いたんですね」
「えぇ、昨日のような増殖は今のところ確認されていません」
嬉しくもあり、悲しくもあり、かな。
「それじゃぁ、感謝状みたいなものってことですか」
「本当は金一封でも出したいところなんだけどね、そこまで儲かってないから、ウチ」
「まぁ、そうですね」
「そこは否定してほしいなぁ。もしくは俺がこれから儲けさせますよ! とか」
「努力はしましょう」
「というわけで安村さん。ついてはご協力について、ギルドマスターより直接御礼申し上げます」
形式的に深々と頭を下げ、感謝状をもらう。
「あ、ちょっとまって」
ギルマスは俺に感謝状を渡そうとするとキャンセルムーブを決め、感謝状の「ダンジョン庁ギルド管理課課長」の部分をマジックで二重線を引き消した。
代わりに「小西ダンジョンギルドマスター」と手で書き加えた。
「安村洋一
この者、小西ダンジョンでの探索者職務に精励されましたことは他の模範と認められるので
ここに表彰します
小西ダンジョンギルドマスター 坂野平治」
感謝状をもらった。
「割とノリ軽いですね」
「まぁ、色々と緩いからねウチは。キツいのは駐車場の面積ぐらいだ」
「なんとかならんですか、駐車場は」
「昨日の騒ぎのおかげでダンジョンに対する印象ってさらに悪くなりそうなんですよ。有料駐車場の契約とか、頼みに行きたいのは山々なんだけどねぇ」
「もう暫くは電車とバスですかね……」
「地主とは金額で折り合いがつかなくて。せめてもう少しギルドに実入りがどうにかあれば三、四台分ぐらいは確保できそうではあるんだけど」
そういうギルドマスターの表情はあきらめの境地に達している。無理だって事だろうな。
「まぁ、地道に探索することにしますよ」
「後昨日の救護班の方々ですが、スライムの挙動がほぼ通常通りに戻ったことが確認できたので今日は来ないと連絡がありました。お伝えしておいたほうが良いと思って」
「解りました。まぁ今日はほどほどの探索で終わらせようと思います」
「そうしてくれるとありがたい。それじゃこれで」
二、三会話を終えて会議室から出て感謝状をバッグに突っ込む。やっぱり駐車場の話は難しいか。
このスキル売ってたら周辺の土地買い上げたりも出来ちゃったりしてたのかなぁ。
移動の不便は心の不便だ。心の不便は身体にも影響を及ぼす。
あ~自家用車通勤してぇ。
◇◆◇◆◇◆◇
再び出入り口に戻ってくる。
「お話は終わりましたか」
「えぇ、まぁ感謝状受け取るだけだったので」
「金一封出ました?」
「残念ながら」
「あー、やっぱりですか。まぁしょうがないです、ここ赤字経営ですから」
「黒字になれば皆さんにも金一封出るかもしれませんね」
「その為には強い探索者と交通の便と立派な庁舎と十分な職員が欲しいですね」
職員さんの凄くあきらめたような表情を見ながら入ダン手続きを進めると、早速中に行く。
今日の目的はグレイウルフだ。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンに入るとスライムは……まぁ、普段通りの感じに戻ったか。
多分増殖のキーになってたスライムは分裂に飽きたのか、それとも倒されたのか。
なんにせよ今日は二層へ向かって、余裕があれば三層へも行きたい。
真っ直ぐ二層へ向かおう。道中のスライムはいつも通り駆除していく。
途中で気づく。まずいな、直接二層へ行くと保管庫の中の半日分のスライムのドロップの言い訳がしづらいぞ。よし予定変更だ。まずは一層の密度の濃いところで全力で狩る!しばらく経ったら二層へ行く。
これでいこう。何事も予定外のことは起こるものだ。
昨日回らなかったところをあえて回る。もしかしたら狩り残しが居たならそれを狩りつくすことでドロップをごまかせる。そう思っていた時期が俺にもありました。
増えすぎた反動なのか、いつもより少ない。これでは誤魔化しが効かないではないか。とりあえず目に付くスライムを高速で処理しようとする。
ん、高速で?
ダンジョンの中に入ったなら、ステータスというものがしっかり機能しているはずである。なら、もしかして自分が思っているよりもスピードもパワーもメンタルも強くなっているのでは?
スライム相手してるうちに試してみるか。自分が知覚できるギリギリの速さをイメージして、十メートルほど先へ無理やり全力で移動する。すると、体が悲鳴を上げる前に一秒ちょっとでそこへたどり着くことが出来た。百メートルなら十秒台で走れる速さだ。
この速さを維持したままスライムを狩れるならもしかして、この密度の低さでも全力で狩りしてるように見えるかもしれん。人通りを気にせずに目にしたスライムに全力で近寄ってはいつものパターンに落とし込む。スライムを掴むときに試しに力を込めてみると完全に握りつぶせそうなぐらいの力が出た。
……やってみるか。
俺は核を狙ってそこを握りつぶすつもりで手を突っ込んだ。
スライムはパン!と弾けてそのまま飛び散った。もしかしてこれは熊手も必要ないのでは?もう二、三十匹試してからやろう。
高速(自称)でスライムに近づくと核を認識してそこに手を突っ込み核を握りつぶす。近づいて握りつぶす。近づいて握りつぶす。
もしかしたらスライムにとっては、自分が何をされたすらも解らないかもしれない。しかし結果としてスライムは消滅し、たまにドロップをくれる。
これは効率化がさらに捗る。昨日の段階でこれに気づいていたらもっと稼げていたのでは?いや、ここまでのステータスを得るための経験値が昨日のスライムの群れだったのかもしれない。
今は己の限界に再び挑むときだ。一時間でどれだけいけるか再びタイムアタックを始める。条件は今までより悪いが、今までより良い結果が生まれそうな気がした。
◇◆◇◆◇◆◇
一時間経った。二百四十匹ほど処理できた。もういいだろう、一層で狩りしてたというアリバイはできたと思う。隠しスライムドロップを多めに持って帰るけど、一杯ドロップしましたーてへ♪ぐらいで許してもらえるだろう。
気を改めて二層へ向かう。二層へ向かう道中のスライムも少なかった。しかし、素手でも潮干狩りって呼ばれるんだろうか?その辺はちょっと気になる。
怪奇!潮干狩りおじさんは謎の拳法家だった!!なんて呼ばれてもおかしくはないのかもしれない。
十分ほど走って二層にたどり着く。息は切れてないのでスタミナも強化されてるんだろうなぁ。試しにその場でジャンプしてみると、天井に余裕で手が着いた。勢いあまって頭もぶつけたが、跳躍にも問題は無く機能しているらしい。
これはアクロバットな戦闘が期待できそうだ。マチェットを取り出し意気揚々と二層へ降りる。
ここ二日間実質的に封鎖されていたから数が増えててもおかしくはないんじゃないか、と多少気にかけてはいたが、そんなことはないらしく。二層にモンスターが詰まっているような感じはなかった。
身体の感覚を確かめつつ、二層を徘徊する。
どうやら、ステータスを用いてうまく体を動かすには頭の切り替えが必要らしい。自分がダンジョン外で体を動かす感覚とダンジョン内で体を動かす感覚は別もののようだ。
ただ単純に「全力で走る!」と頭で考えて行動すると、普段ダンジョン外で体を動かす感覚に近いものになるらしい。ステータスを用いて体を動かす場合、その上で更に全身の筋肉・神経を開放する……違うな、もう一歩上を行くイメージが必要になってくる。
普段使わない脳を使ってるような……言葉にすると難しいな。とにかく使う領域が脳の外側に拡張されている。火事場の馬鹿力を常時使うような感じだろうか。
もっと深く潜る探索者たちはこの感覚を常時発動させているんだろうか、だとしたら凄い集中力だな。
パチンと切り替えられれば楽なんだが。
目の前にグレイウルフが見える。距離は二十メートルぐらいか。あれを目標にしよう。
マチェットをしっかり握り、両足に神経を集中する。目はグレイウルフのほうをしっかりと見据え、前傾体勢になる。そこから両足に一気に力を入れて……走る、いや跳ぶ!
集中線みたいなものが見える気がする。視界が線のように流れる。あっという間に俺はグレイウルフに近寄ると、相手がこっちを振り向く前にマチェットをグレイウルフの前に置いた。グレイウルフはマチェットの通り道のまま真っ二つになる。
……ふぅ。全力を出すと精神的に疲れるなこれは。スライムだともっと気楽にできるんだが。
って、グレイウルフで真っ先に試したいことがあったのにそれを忘れてたな。次でやろう。
もう一匹グレイウルフを探し出すと、わざと相手の前に出る。
こっちに気づいたグレイウルフは真っ直ぐに駆け寄ってくると、噛みつきに来た。よし、狙い通りだ。
俺はそのまま左腕を前に出し噛みつかれる。
痛くない。むしろこそばゆい感覚が伝わる。噛まれた部分を見ると、ツナギは牙に沿って引き裂かれている。俺はそのまま腕に力を入れると、腕を振るう力だけでグレイウルフを投げ飛ばした。吹き飛ぶグレイウルフ。持っていかれる左腕のツナギ。しまった……
破れたツナギの部分を見ると、白い歯型跡が残っている。皮膚を貫通しては……いないな。
グレイウルフの攻撃力はこれで把握できた。多分あいつは急所を狙われない限り俺にダメージをもう与えられない。これで気が楽になったし、試したいことができた。
実際にステータスが身体に反映されるためには、それは「能動的」に、つまり意識して身を固めれば防御力を上乗せすることが出来る。速度、攻撃力、防御力、五感についてはこれで大体どうすればいいか掴めてきた。
吹き飛ばされたグレイウルフは壁にたたきつけられた後、こちらに近づいてくる。あれでダメージが入ったのか、脳を揺さぶられたのかフラフラしている。可哀想だから早めに楽にしてあげよう。
近寄るとマチェットを素早く振り下ろして、首を落とした。
これで二層はソロで攻略できるな。何匹でも来……いや三匹ぐらい常に周りにまとわりついてほしい、かな。それぐらいだと余裕をもって対処できそうだ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





