504:二十二層・午後の仕事
存分に休憩をとったところで行動再開だ。さっきと同じく二十二層へ向かってひたすらモンスターと戦い続ける。さっきみたいに毒を受けるケースもあるのだからより慎重かつ収入が目標値に達するために切磋していこう。
マウンテンバイクにまたがると二十二層へ。【採掘】スキルが有れば道も再舗装したり穴ぼこを埋めたり色々できるだろう。建物を修繕していくという手もある。そうなれば二十一層がより居心地のいい場所として人気が出るだろう。ついでにまた小西ダンジョンは妙な事をし始めたと話題になるに違いない。
二十二層へ下り、一匹狼たちを危なげなく処理しつつ広い道までまっすぐに進む。ゴキが飛ぶ理由というかパターンを見つけ出すためには、まず三体同時にかかってくるというシチュエーションが必要なんじゃないだろうかと今のところの当たりを付けておく。
二匹ずつの相手が多く、三匹相手にする事はあまり無い。小西ダンジョンの難易度にしてはこの階層は緩いと感じる。まさかダンジョンの作り方と探索者ランクが連動しているはずもなく、そんなところで口裏を合わせるような蜜月な関係でない事は経験上承知の上だ。
つまりこの階層では三匹同時に相手にしなくちゃいけない、というのがハードモードなのだろう。ここより下の層では四匹相手も考えうるということだ。ますますここで力をつけていかなければならないな。
「次ー、十時方向蜘蛛二匹ー」
「あいよー」
芽生さんの若干気の抜けた声が聞こえてくる。一応最深層なんだからもうちょっと気張っても良いような気がしないでもないが、ゴキ相手にガチガチに震えていたことを考えるとかなりの進歩だと言える。どうやら索敵のほうも若干の成長が行われて、モンスターの種類をある程度判別できるようになったらしい。
二匹相手なら多少気が抜ける。すると意識はその瞬間から宇宙へ飛び出し、脳内に居る何者かとの交信を始める。
こうやって今好き放題スキルをぶっ放すことができるのは【採掘】スキルが無いおかげだ。所持していた場合あちこちの建物が崩壊したり燃えたり、水浸しになったりしているはずである。採掘モードがON/OFF出来れば問題ないのかもしれないが、それも含めてどこで手に入るのかを調べておくのも必要か。もしかしたらこの辺でドロップするのかもしれない。手が空いたらメモ帳に書いておこう。
「次四時方向蜘蛛三匹」
「あいよ」
次は蜘蛛三匹。蜘蛛も三匹になったら違うパターンで攻撃してきたりするんだろうか。警戒はしておこう。用心しながらでも手早く倒すことはできるが、蜘蛛も直接噛みつきに来るかもしれない。念には念を入れた行動を心がけても数秒、そうほんの数秒だけ余分に時間がかかるだけで済むんだ。
「ふむ……三匹で何か変な行動をしてくるという事は今のところなしか」
「蜘蛛も三匹がトリガーで何かしてくるんですかねえ。だとしたらこの先厄介ですよ」
「ゴキも蜘蛛もここより下の階層に行ったら三匹四匹グループになるだろうからまた飛びついてくるかもしれんな」
「あ、次多分ゴキ三匹です。二十メートル位進んだ後建物の中」
言ってたらきたよゴキ三匹。飛びついてこないようにする一番楽な方法は、三匹とも感電させて動きを鈍らせるのが楽だと言える。芽生さんのウォーターカッターも飛ばしてはいるが、さすがに一日二日で頭部を切り刻むことが出来るほど成長するわけでも無し、とりあえず俺が最大出力で二匹に対して雷撃を撃ちこむ。残った一匹を芽生さんに自力でなんとかしてもらい、二匹順番に止めを刺していく。
どうやら雷撃を撃った後なら飛んでこないという事も解ってきた。元気であることと、同じグループがピンチであることが条件かもしれない。やるなら三匹同時か、それとも時間差をつけて二匹をマヒさせて残り一匹を芽生さんに任せるのが良さそうだ。
蜘蛛対策もゴキ対策も【雷魔法】が対複数相手の攻撃の起点になってる現状は何とかしておきたいところだな。眩暈を起こし始めたらちょっとまずい事になるから安全率を取りたい。
索敵スキルをフル回転させながら安全に探索……安全に探索とは今更だが不思議な語感だ。ともかく安全にやれる範囲で探索をする。ぶっちゃけると金稼ぎだが、直球過ぎるので安全な探索と言い通す。
ダンジョン側も無駄な人的資源の消耗を繰り返されるよりも定期的に出来るだけ大量の魔素をダンジョン外に排出してもらうほうが大事だろう。そしてダンジョン庁も儲かる。三者ともに利害は一致しているのだ。
流石にこれだけ長い時間……おおよそ三日か。二匹相手には完全に後れを取ることはなくなった。三匹相手だとまだ微妙なところだが、ゴキが飛んだり跳ねたり、蜘蛛が消化液をブワッと吐き出すような新しい戦闘パターンを開発してこない限りは心配ないだろう。
そうなってくると、頭にも時間にも余裕が生まれる。余裕が生まれると探索が作業化する。探索が作業化すると意識は再び虚空の彼方へと旅立つ。
ダンジョンオブジェクトに手を加えられるという現状唯一無二らしいスキルである【採掘】スキルがそうポンポンと出るとは考えにくい。俺の【保管庫】と同様にレアドロップ中のレアドロップなんだろう。そういう意味では既に一人は確保され管理されているだろう日本のダンジョン事情は少し未来が明るいのかもしれない。
海外ではどうなってるんだろう。ちゃんと鎖につながれた探索者が管理されているんだろうか。それともどこぞのストリートアーティストみたいに変な彫刻を施しては逃げたり、そんな事をやってたりするんだろうか?
スキルとしての【採掘】は色々使い道があるだろう。迷宮マップに最短経路を壁を削って表示させたり、道を広げたり、出来ることは色々あるだろう。清州ダンジョン一層みたいに道を広げたり、壁に「エレベーターはこっち」と彫り込む事だってできる。そのうちギルドでやってくれないかな。時々だが、エレベーターがどっちか聞かれる事がある。案内板ぐらい出せるようにはなってほしいものだ。
っと、ゴキ三匹だ。戦闘に集中しないとな。さっき見せてきたパターンを思い出す。手前の一匹を感電させて動きを止めて、その間に後ろの一匹へ、同時に芽生さんが攻撃を始める……と、今回は何もなかった。もしかして芽生さんが飛びかかるタイミングに理由が有ったりするのだろうか。
ゴキを二匹とも処理し終えると一息つく。一服していくかい? と言わんばかりにヒールポーションが出た。相手の出方を詳しく調べるにはもうちょっと経過観察が必要だな。出来れば空を飛んでくれないのがベストだが。
◇◆◇◆◇◆◇
午後から四時間ほど、途中休憩も挟みつつ集中して狩りを行う。あれ以来飛来するゴキにはまだ出会っていない。もしかしたら特殊個体だったのかもしれないが、それならそれでドロップのほうをもう少し何とかしてほしかった感はある。
モンスターをたくさん狩れる順路もだいたいわかって来た。ちょうど階段のあたりまで戻ってきたところだ。ここからもう三十分かそこらギリギリまで狩り続けられるタイミングだが、ここはもう上がってしまう事にしようかと思う。
「ここまでにするか? ちょうど階段近いし、時間的に行って戻ってするよりも素直にスッパリと切り上げたほうが無理が無くていい」
「目標には届いたんですかね? 」
気楽に槍をグルグル回しつつ芽生さんが質問してくる。数だけ見れば……多分足りてる。
「とりあえず足りてる……はず。燃料はバッグに直接入れてるから保管庫に入ってないし、保管庫の中身をざっと計算してダンジョン税引いて……うん、ギリギリ足りてるな」
「なら帰りましょうか。目的を達成したら素直に撤退するのが一流の仕事だと何かで読みました」
なんかその話俺も読んだことがある気がする。自分が一流だとは思ってないが、目的を達したので帰ろうとするのは自然な動きだ。下手な欲はかかないに限る。
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