491:二十二層再突入……の前の小休止
ボス部屋を出る。さっき覗いてたらしいパーティーは居なくなっていた。どうやらしばらくリポップに時間がかかると思ってか、部屋周辺から移動したらしい。その証拠に十四層側へ向かう通路のスケルトンが処理されている。
「お客さんは早々と退散してたらしい」
「そうみたいですねえ。顔ぐらい見ておきたかった気がしないでもないですが」
みられて問題のある戦闘では無かったので端っこで見学してても良かったのだが……その場合、鬼殺しであると判定されるんだろうか? あくまで戦闘に参加する事が条件なのか、それとも倒した時にその場に居たのが判定なのか、はっきりしない所ではある。しかし証明のしようもないのでこの話は横に置いておくとしよう。
「さ、二十一層に戻るぞ。一応ボス戦だったしちょっと休憩して……ついでにミルコにお菓子をお供えしてから向かうとしようか」
エレベーターまでのモンスターを倒しつつ向かうが時間が経っていないせいもあるのだろう、エレベーター前の三体以外はまだ湧いてなかった。三体を倒しその三体の燃料をそのまま使って二十一層へ戻る。
「そういえば前回のゴブリンキング戦でもらったゴブリンキングの魔結晶、まだ残ったままなんだけどこれもついでに査定に出してしまうか。飾ってあっても邪魔だし」
「記念品じゃなかったんです? 取っておいても良いのでは」
「今日の戦いで割といつでも取りに来れることがわかった。欲しくなったら取りに来ればいい」
「いつとった物かどうかはあまりこだわりが無いと? 」
「そうだな……小西産初回限定と言われると勿体ない気がしないでもないがどうしよう」
「お好きにどうぞー」
「う~ん……よし、保留。なんかあるといけないから残しておく。芽生さんはどうするの」
「記念品ですけど角以外は興味ないですね。査定に回してしまいましょう」
角はともかく魔結晶は金に代えてしまっていいらしい。んじゃそうさせてもらおう……って待てよ。今俺の保管庫の中でゴブリンキングの魔結晶はどうなっているんだ?
ゴブリンキングの魔結晶 x 二
……混ざってしまった。これではどっちが初回の魔結晶か解らなくなってしまったぞ。
「前言撤回。両方査定に出そう」
「もしかして、保管庫に放り込んだら混ざりましたか」
ピンポイントで保管庫の状態を指摘される。俺の頭の中がどうなっているか見透かされた気分だ。
「……うん」
「それは残念でしたね。次回同じようなことがあれば保管庫から取り出しておく事をお勧めします」
「こんな事なら家に飾っておけばよかったなぁ」
初回ドロップ品という特殊チェックマークは俺の心の中だけに存在するマーキングだったらしい。そこまで保管庫は俺の心を見透かしてはくれなかった。これも鍛え方が足りないからだろうか。もっとスキルを鍛えよう。具体的にどうすれば鍛えられるのかは解らないが……また前みたいに限界ギリギリまで射出してみるとかが必要なんだろうか。
悲しんでいる間に二十一層に着いた。悲しみを振り払い、探索を前へ進めよう。なぁに、未練が一つ減ったと思えば逆に問題はない。お金にもなるしな。
二十一層へたどり着き、ひとまずテントへ。そこまで疲れる戦闘ではないとはいえ、緊張の糸は切れた。ここは少し休憩してからもう一回二十二層へ行こう。
ついでにお菓子と飲み物をその辺に並べておく。自分の食べる分を用意して振り向いたときにはもうお菓子と飲み物は無かった。目線をやってない内に引き取りに来たらしい。気が付けば消えてるなんてスライムみたいな動きをする奴だな。
とりあえずお供え物は無事に引き渡されたので自分もカロリーを取る。ハンガーノックを起こすほどの戦いは行わない予定だが、少しお腹が空いている。補給しておけば途中で集中が切れることも無いだろう。程よくカロリーを摂取したところで仮眠を取ろう。
「ちょっと横になる。疲れた訳ではないけど念のためだ。十五分ほどで起きる予定だからもしアラームで目覚めなかったら起こして」
「了解。私は椅子で横になってます。そこまで疲れてないんで」
テントで横になって少しだけ目をつむる。アラームを十五分ほどでなるように設定しておくと、そのままほんの短い時間の睡眠をとる。睡眠と言っても意識を手放すほどの睡眠はできないだろうが、横になってるだけ体力は回復するだろう。
頭の中で保管庫のスキルの成長には何が必要なのかを考えておく。数多くの保管か、数多くの出し入れか。ミルコは燃費が凄く良いスキルだと言っていたような覚えがある。それだけかなりの負荷をかけなければいけないということか。質量か、数か。質量を満たし切るのは難しいだろうから数で試してみることにしようか。
前に茂君に繰り出したように同時に百個単位で取り出しをしようと試みるのも一つの手だ。ダンジョン内であの数だったが、ダンジョン外ではあそこまでの数を同時に動かすのは難しいだろう。速度を戦闘速度ではなくゼロで指定して射出してみて、ダンジョン外では何個同時に出せるか。それを試して今の限界を知ることができるんじゃないだろうか。
保管庫を鍛えることで何がどう変化するかも気になる。後はそうだな。自宅でパンを焼いてみよう。良い感じに発酵させるために時間加速を使ってみるという手がある。保管庫の中身を全部取り出す必要があるが、たまには時間間隔を百分の一から百倍にしてみて、パンの発酵時間が百倍になるなら、数十秒放り込んでおくだけでパンが膨らむことになる。
カップラーメンなら二秒か三秒で出来上がる。パンの発酵なら四十分だから……三十秒もあれば十分膨らむだろう。それ以外にも漬物を作ったり自家製梅酒作ったり色々応用が利くはずだ。手作りパンなんて作った覚えはないが、カレーの時にチャパティを手軽に作れるようになるのは間違いない。今後は保管庫をもっと色々応用していこう。
……考え事をしていたらアラームが鳴る。頭は回り続けていたが体の疲れはちょっと取れたと思う。起き上がって伸びをする。芽生さんは……爆睡していた。寝ないって言ってなかったっけ。
ゆさゆさと揺り起こし、コーヒーを淹れる……のはちょっと手間だな。こういう時は保管庫の冷えたコーヒーを飲もう。
まだ冷えているコーヒーのおかげで目はばっちり、脳のほうもモヤが取れていくような感覚を覚える。これでまたしばらく戦えるな。
芽生さんがゆっくりと起き上がる。
「あれ、寝ちゃってた? 」
「椅子でゆっくりしてるだけで寝ないって言ってたの誰だっけ」
「多分知らない人ですね。その時他の誰か通りかかりませんでしたか」
とぼける芽生さん。まあ俺が起きてたから行動には問題ないからいい。二人して仮眠してたら危うく時間までに帰れないか、今日の稼ぎがそれなりに少なくなっていた事だろう。
「まあ、起きれたからヨシ。休憩も補給も終わった事だし、二十二層の続きを回るか。時間はまだまだある事だしこのまま帰るのは時間が勿体ない。出来る所までは地図を埋めて帰りたい」
「あいあいさー。もうゴキを怖がる子もいないですしゆっくり回れますね」
顔をササっと水で拭き、目を覚ましたところで行動開始だ。またマウンテンバイクでキコキコと走り、二十二層の階段へ。もう階段の位置は暗記したぞ。これで地図が無くても二十一層をウロチョロする事は可能になった。
二十二層の階段前にマウンテンバイクを路駐し、階段を下りていく。また階段を下りた所には単品で数匹、蜘蛛かゴキが居るはずだ。放っておいて後ろから襲われる、という可能性もあるので放っておく事は戦闘中の割り込み事故やリンクにもつながるので地道に潰していこう。
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