49:職員の夜は遅い
昨日は二回投稿してました。本当は今日二回投稿するはずでした。
ローファンタジー日間二位、週間七位、月間二位、四半期七位ありがとうございます
side:小西ダンジョンギルド
「……多い」
「多いですねー」
「多すぎる……」
小西ダンジョンギルド職員四人が魂の抜けた状態で精算作業をしている。
今日一日で査定されたスライム素材は魔結晶を入れて三千個近く。
それが一つ残らず確実に存在するかどうかをチェックするのが現時刻での彼女たちの仕事である。
たとえば銀行の窓口業務は十五時に終了するが、そこで銀行員の職務が終わるわけではない。
その日に取引された金額をすべて数えなおし、一円単位で正しくそこに存在するかをチェックする業務が行われる。
同じ行為を今彼女たちはしていた。
査定カウンターも支払いカウンターも小西ダンジョンには一つしか存在しないので、書類上の不備が起きる可能性は非常に低い。
が、現物と照らし合わせての精算業務は一つ一つ数えて確認する必要があるため、その日の査定量が多ければ多いほど時間も手間も人手もかかることになり、ミスが起きる可能性がある。
なので職員はミスが起きないよう各自ダブルチェックしながら精算作業を行っていた。
今日は入ダン受付担当・査定・支払い・本来の精算担当の四人で精算を分担している。
「大事故にならなかったのは救いなんじゃないですかねぇ。これで二層も三層も増えてるってなってたら明日も明後日も定時に帰れませんよ」
「嫌なフラグ立てないでほしいですねー。今日一通り回って正常化したんじゃないんですかー?」
「例えば、だけど」
「はい?」
僅かな希望に胸を弾ませながら聞き入る。
「高速で分裂するスライムが発生したとします。そいつのせいでスライムが溢れてた場合、そのスライムさえ駆除してしまえばその後の発生は自然に収まっていくことになるよね?」
「なりますねー」
「その場合、高速で分裂するスライムが居ましたって報告が届くはずなのよ。でも、そういう話は今日は上がってこなかったわ」
「つまり、明日も続くって事?」
希望が潰える。
「だから、何か一匹のせいでスライムが大繁殖した場合報告が上がってくるはずだから原因はそれじゃない、って事にならない?」
「つまり、もっと他の要因でスライムが大増殖したと」
「でも、危ない自称研究者の仕業じゃないかって話は?」
「それも確定情報じゃないしね。どっちにせよ、最低明日までは覚悟しろって話よ」
「人増えないですかねー」
「毎日こうなら一人二人増えてくれてもいいんだけど、普段はもっと早く終わるからねえ」
「……魔結晶数え終わりました。後はゼリーです」
魔結晶の山を大き目の袋に入れて、袋に個数を記入すると、次の作業に移った。
「そういえばヒールポーション出るって話、本当だったみたいね」
「あぁ、おじさんがスライム掘りしてる間にゴロっとみんなの前で出しちゃいましたからね」
「見てたの?」
「そりゃ目の前でやってたわけだし、他にやることも無かったし、場所離れるわけにもいかないし」
「前にスライムが出したって言って持ってきたのは本当にスライム産だったって訳ね」
スライムが出す可能性があるという話は探索者間では共通認識だが、ダンジョン職員にとってはそれは珍しい事で、それも小西ダンジョンのような過疎ダンジョンでは滅多なことではお目に掛かれない事だった。
スライムがヒールポーションをドロップする可能性について論じられたのは最近の話ではない。
スライムゼリーが美容に効果があるなら、美容そのものにも働きかけるヒールポーションが出ても何らおかしくないのでは?という疑問から生まれたもので、実際にいくつかのダンジョンではスライムを集中的に狩ることによってヒールポーションのドロップに成功している。
「あー、お肌に悪いー。一個あけて塗っちゃダメ?」
「ダメ。それに、スライムゼリー直接肌に塗りつけても効果はないんだって」
「あれ、そうなのー?」
「あれは化粧水に混ぜ込むことによって肌への浸透率を助ける働きがあるって話よ」
「ほうほう、ってことはその辺のやっすい化粧水にこれを混ぜ込めば……」
「そう上手くいかないらしいわよ。企業秘密の作業が必要なんだって」
「なんだー。そっかー」
残念そうにうつむく。それだけこの作業が面倒くさいという事だろう。
「それに、今ここで一個減ってもらうとさっきまでの作業またやり直しになるんだけど、やりたい?」
「やりたくないですー」
「じゃぁ大人しく作業に戻りましょうね~」
「なんかこう、ギルド専用のらくちん精算アイテムとか欲しいですね」
「スライムゼリー適当に詰め込んで持ち上げたら一定個数ずつ格納されてくれるみたいな?」
「あぁ、いいですねそれ。時代劇で小銭数えるときに見たことがあります」
「スライム魔結晶なら大きさも均一だから同じ要領で行けそう」
「誰か設計図書いてくれないかな。商品化してアイデア料で私も一儲けするんだ」
「もうだれかやってるでしょ」
小西ダンジョンの明かりは二十二時頃まで煌々と輝き続けていた。
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