489:再戦
休憩を程よく取ったのでエレベーターで早速十五層へ。気力は満ち満ちているし、実力のほうはボス以外の相手についてはもう心配がない。ゴブリンシャーマンの【火魔法】もダメージにならない事は確認済みだ。つまり純粋にゴブリンキングと一対二で戦って勝てるか、だけが勝負どころになる。
「前に言ったかどうか覚えてないので再確認。【魔法耐性】のおかげで保温カイロぐらいの温かい程度にまで体感温度が下がっている。おそらく喰らっても弾き返すぐらいの勢いで吹き飛ばせばダメージはほぼ無い」
「前回新浜さん達と行った時に試したわけですね。それで雑魚戦で負ける可能性はほぼゼロになったと思います。ボスについてはどうするんです? 」
楽をして勝ちたい、というのは芽生さんも同じらしい。槍を握ったり離したりしながら調子を確かめている。
「スキルでダメージを与えつつ、前後で挟んで一対二という形になるかな。後、【水魔法】で濡らして雷撃するというのは中々にダメージが大きかったと思う。何ならフィールド全体に【水魔法】を拡散させて雷撃して雑魚をまとめて処理するという方法も取れなくもない」
「前回よりは余裕のある戦闘が出来るでしょうから……っと、どうしましょうね。迂闊にスキルを使いすぎてボス用に残ってないという可能性はゼロじゃないですので出来るだけ楽したいですね」
「あの時に比べてスキルの持久力も火力も上回っているはずだ。前回みたいにゴブリン軍団を潰したところで力尽きて眩暈を起こすという可能性は低いと思う」
実際一回のチェインライトニングで倒せる数も増えていた。今は更に増えているだろう。数発で全て倒すこともできるようになっているかもしれない。自意識過剰は良くないので出来るだけ少なめに見積もっておくことも大事だろう。
俺は正面からゴブリンキングに勝てるのか。今戦っておいて勝てれば、二十二層以降の探索への大きな自信とすることができるな。
十五層に着き、エレベーターが開いていつものスケルトン三体とこんにちは。ここにこいつが居るという事は同じタイミングで十五層にたどり着いた探索者は居ないという確認もできる。エレベーターから角を外してすぐ戦いに行く。二体は芽生さんが倒したので残り一体を倒す。
「なんか久しぶりに来た気がしますねえ」
「実際久しぶりなんじゃないか? 俺は何回か来てるが芽生さんはここんとこ二十層にしか寄り付いてないはずだし」
ボス部屋への道すがら、一か月近くこの階層とはご無沙汰な芽生さんがやぁ久しぶりとでも言わんばかりの態度でスケルトンをボキボキに砕いていく。ちゃんと核を潰すような形で戦っているあたり、八つ当たりではない証拠だろう。八つ当たりする理由が有るとすればやはりゴキの相手をした分だけちょっとストレスが溜まっていたかもしれない。
そんなストレス解消に付き合わせられる骨達もたまったものではないだろう。骨ネクロダッシュには付き合うが、もう好き放題暴れてくれといった具合だ。結局スケルトンはほとんど芽生さんが相手にしてしまった。どうにも相性というものがあるらしい。
「さて、到着したが……居るかな、中」
「ノックして返事があったら居るんじゃないですかねえ? もしかしたらタイミングが悪く中に人が居るとか、人が去った直後……それならここにスケルトンは居ませんね。ともかく開けて中を確認してみては? 」
「気軽に言うなぁ。ま、そのぐらいゆるいほうが上手くいくかもしれん。準備が大丈夫なら開けるけど、いい? 」
「こっちはいつでも大丈夫でーす」
久しぶりにボス部屋のドアを開ける。中の明かりはつく。聖帝様……いやゴブリンキングはいつものポーズで待ち構えておられた。
「お、ちゃんと居たぞ。タイミングが良かったようだ。お邪魔しまーす」
「お邪魔しまーす」
中に入って扉を閉めると、ボス戦開始のスイッチがONになったらしい。ゴブリンキングがさっと手を挙げて、ゴブリンたちが一気にこちらへ向かってくる。
まずは前回と同じで一発食らわせてみるか。チェインライトニングを発動し何匹倒せるか実験だ。稲妻が一瞬で部屋内を走り、十二匹ほど吹き飛んだらしい。初めての時の二倍の出力が出ているという事か、俺も強くなったもんだな。
芽生さんはウォーターカッターで一気に八匹ほど吹き飛ばしている。こっちも中々の出力だ。これは雑魚倒すまでに三分かからないな。
「そのままスキルで数を減らそう」
「りょ」
もう一丁チェインライトニング。また十匹ほどが吹き飛んだ。あと三発も打ち込めばゴブリンはほぼ殲滅完了するだろう。
ゴブリンシャーマンがファイアボールを放って来る。盾で受け止め勢いを上に逸らせる。頭の上をすべるように流れて行ったファイアボールはそのまま後ろの扉に当たって消えた。うん、大したこたぁないな。鍛え方が足りんよ鍛え方が。足りないのはスキルのほうだけど。
俺がファイアボールを逸らしているのを見た芽生さんが同じように槍先で滑らして見せている。なんか向こうのほうがかっこよく往なしてるなぁ。ずるい。
お互いスキル数発だけでゴブリンを殲滅し終わった。余裕はまだある。残りはゴブリンシャーマンとゴブリンキングだ。ゴブリンキング用にスキルの使用回数を残しておくためにゴブリンシャーマンは近接で削ろう。
「シャーマンは近接で、スキル回数は余裕を持たせて保持」
「向こうから近寄ってきてくれないかなぁ」
無茶を言いなさる。ゴブリンシャーマンはそれほど【火魔法】が得意という訳では無いようだ。威力はそれなりに強いが、スキルのイメージングをするために足を止めてなければ打てないらしい。実際、最初に居た位置からほとんど移動をしていない。固定砲台と考えたほうがいいな。
そのまま飛んでくるファイアボールを弾きつつ、一匹目の両腕を跳ね飛ばすとそのまま二匹目へ向かって走る。前も使った肉の盾戦法だ。ゴブリンシャーマンは魔法耐性があるのでお互いに撃ちあってもダメージを受けない。黒い粒子に還るまでの短い間、盾として役立ってもらおう。
ゴブリンシャーマンはフレンドリファイアをものともせずにこちらにファイアボールを撃ち出してくるが、こちらには立派な肉の盾がある。そのまま肉の盾を抱えながら二匹目を切りつけに行き、一発で黒い粒子に還す。やはり耐久力はソードゴブリンと似たようなもんかな。
二匹目、三匹目、と来たところで寿命が尽きたらしく、肉の盾が黒い粒子に還る。最後の一匹から放たれたファイアボールを自前の小盾で弾くと四匹目も処理。近づくことができればどうということはないな。
芽生さんは……先に倒していたようで、ゴブリンキングに相対する形で既に構えている。ちょっとお待たせしちゃったかしら。……あれ、扉ちゃんと閉めたよな。開いてるということは誰かが開けた事になるな。
ゴブリンキングの前に躍り出ると、ゆっくりとゴブリンキングは立ち上がる。
「前はここでヒールポーションタイムでしたね」
「今回は問題なさそうで何より」
「また前回みたいな終わらせ方は無しですよ」
「今度は正面から力勝負でいくさ。それにお客さんも居るしな」
「お客さん……ああ、本当ですね」
芽生さんが索敵で後ろを確認したらしい。閉めたはずの扉が開いている。おそらく観客が居たか、もしくは中で見学してるか。俺からは見えない位置に居るのかもしれないし表で待っているのかもしれない。
「お客さんは外から覗いて見学中ですよ。どう立ち回りますか」
「出来るだけ前後で挟みたい。そのほうが楽に戦えるだろうし、お互いの動作で邪魔をしたくない」
「了解。精々正攻法で戦うとしましょう」
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