484:休憩、来客、ご案内
テントに戻って昼食。朝ピンときたウルフカツ野菜サンドを食べるため、保管庫に詰め込んであったお弁当を取り出す。
作ってから実時間では五時間ほど経っていることになるが、保管庫の中に入れていたおかげで三分ぐらいしか経過していない。口にしてみるとまだサクサクしている。出来立てを時間が経っても食べられるというのは中々に嬉しい。保管庫が有って良かったと思う瞬間の一つでもある。
一緒に挟んだ野菜もまだシャキシャキとしていて油にまみれていない。つまり食べごろだ。自画自賛で申し訳ないが今回は上手に出来た。次回また揚げ物に挑むときは何にするか考えておこう。何が良いだろう。一口大にして唐揚げ風にするのもいいな。
三人分ほど作って来たサンドイッチは二人分食べていた。どうやら思った以上にお腹が空いていたらしい。多めに作って持ってきて正解だった。夕方の買い出しは夕飯を少し買い足すだけで良さそうだ。後は食パンと卵だな。メモっておこう。
食事のついでにいつも通りおやつを供えると、今日はおやつだけ消えて本人は現れなかった。何やら忙しいのかもしれないな。雑談はお互いが暇なときにやればいいのだ。今日はこの後の予定もあるし、迂闊に呼び出したらそのままダラダラ雑談を続けて一日を終えてしまいそうだ。
色々と聞いてみたい事もある。この廃墟のモデルとか、滅んだ文明の話とか。多分知ろうとすると長い話になるに違いない。ダンジョンマスター本人の話にもちょっと興味がある。だがほどほどにしておかないと好奇心はネコをも殺すとも言うからな。ネコは大事にしたい。ネコと和解せよ。
この後の予定は七層に上がって茂君した後、九層でキュアポーションを集めるという流れだ。今後を考えると予備はあればあるほど良い。邪魔になったら査定に出せばいいのでストックは多めに確保しておくに限る。
手早く食事を終えるといつも通りコーヒーを沸かし飲む。一服して軽く体を動かし、問題ない事を確認する。さあ行くかな、とエレベーターに行こうとしたところで俺のステータスブーストがかかりっぱなしの耳にほのかな雑音が混じり始めた。よく耳を澄ますと、足音と話し声らしい。
誰か到着したのかな? 到着したとして誰だろう。ちょっと見に行くか。自転車を駆り二十層への階段方面へ走らせていく。すると四人の人影がこちらを向き、驚いている様が見える。
まともに視認できる範囲まで来て解った。相沢パーティーだった。
「なんで先に……いや、先に居てもおかしくはないのか。それより何でマウンテンバイクがここにあるんだ? 」
「お久しぶりです安村さん。いい自転車ですね」
第一声はマウンテンバイクらしい。俺の存在感は自転車に負けているという事か。
「昨日搬入したんだ。この階層の地図作りに便利そうだと思って」
「そ、そうなのか……まてよマウンテンバイクが搬入できるって事はエレベーターもあるんだな? 」
「あるよ、そこまで案内したほうが良いよね」
「そうして頂けると助かります。帰り道が楽になるので」
鈴木さんは相変わらず丁寧だ。相沢君も少し見習ったほうが良いんじゃないのか。マウンテンバイクから降りて手で押しながら二十一層の案内をする。
「とりあえずこっち。一応エレベーターのある建物には目印を掲げておいたし、エレベーターのある半地下の前には椅子と机が置いてあるからすぐわかると思うよ」
「また変なものを置いてるなこのオッサンは……ちなみにテントは何処に張ってあるんだ? 」
「俺たちはエレベーターの建物の上だ。下階にもスペースはあるし他の建物でも気に入ったところに縄張りを主張すればいいと思うよ」
「この階層、陰からなにか出てきそうですね。興味深くはありますが」
「今のところ、だけど何かに出くわしたことはないかな」
出てくるとしたらダンジョンマスターぐらいのものか。でもお菓子が無いと出てこないからな。安全と言えば安全だろう。
「まあ、セーフエリアなのは間違いないよ。変なものは出てこない事は保証する」
「マウンテンバイクは充分変なものだと思うが」
相沢君から突っ込みが入る。そう言われてみればそうかもしれない。
「まあ歩くより移動に便利だし良いんじゃないの。七層の誰かにいつの間にか置かれてた自転車と違って、こっちは受付嬢にも確認の上で持ってきたし」
「確かにエレベーターが直接つながるならスライムにさえ邪魔されなきゃ楽だな」
「七層の自転車も増えたりするんでしょうか? 」
鈴木君が真っ当な疑問を口にする。とりあえず俺は自転車を増やすつもりはないな。誰かが興味本位でわざわざ持ってこない限りは無いだろう。
「誰かが運び入れるなら増えるんじゃないかなあ。自転車じゃなくてもバイクでも三輪車でもカートでも、出入り口とエレベーターが許す容積なら何でも持っていける気がする」
「ただ、今更七層に物を増やす理由にはならないんじゃないか? 」
「誰か鬼殺しにエレベーターでの荷運びを頼んで、自分は七層に普通に下りて商売……てのも可能になるし、エレベーターが使える以上重さや容積の都合は他のダンジョンよりも自由が利くようになるから、今後の人口増加を見据えて今のうちに店を出すのも有りなんじゃないかな」
「なるほどな……でもそこまで増えたか? 七層まで来てる探索者は確かに増えたが商売になるほどというほどでは無いと思うぞ」
「何を売り買いするかも含めて糸口を見つけるのが商売人じゃないかな……と、ここだ、ここの半地下にある」
四人を半地下に案内する。半地下には空間と謎に並べられた机と椅子。そしてゴブリンキングの角を掲げると壁の反対側に見えるエレベーター。
「なるほどな、ここまで整えてくれてたわけか。これも自分が便利になるように……ってか? 」
「まあそうだ。後非常用に水も置いといた。とりあえずこれだけあれば体裁は整えられてるだろう? 」
「人が住んでるって感じにはなってるな。よし、場所も解った事だし寝床を探しに行こう。……その、悪かったな付き合わせて。どうせ今から七層にでも行こうとしていたんだろう? 」
相沢君が珍しくしおらしい態度を見せる。多分、手分けして迷うか、上に気合で戻る気だったのだろう。その手間が省けて有り難いしエレベーターですぐに帰れるから便利になった、ありがとう。
勝手に訳すとこういったところか。
「まあな。今日は一人だしそう焦って稼ぐ日でもないから。二十一層の地図を作り切ろうと頑張ってた帰りだから気にするな」
「そうか。じゃあ気を付けて帰ってくれ」
「なに、もう一稼ぎしてから帰るさ。そっちも帰りは気をつけてな」
エレベータに乗り七層へ行く。さあここからは稼ぎのお時間だ。まずは急いで茂君して一時間ほど費やした後、自転車が六層側にあったので借りて八層側まで移動する。
狩る時間をちょっとでも取るため、八層はランニングで通過する。往復ともランニングすれば半周分ぐらいは余分に時間が稼げる。時間的に見て、九層ではギリギリ二周ぐらいする余裕があるか。目的のキュアポーションは四本ぐらい集められればいいかなぁといった具合だ。時間は有限、大事に使おう。
九層に入っていつもの中級コースを回る。ワイルドボアとジャイアントアントも見飽きるぐらいに戦ってきた。昔立てた目標のジャイアントアント六千匹はとうに超えてしまったと思う。ジャイアントアントの牙は値上がりしたし、ワイルドボアも革が安くなったものの肉の値段が上がったので、出やすさとドロップ率を考えて合計すると増収ということになる。
さあ今日もダイエット……兼小遣い稼ぎ頑張りますか。
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