483:二十一層巡りの終わり
朝だ。昨夜はいつもより早く寝た分早く目が覚めた。もう睡眠は充分だという事らしい。目が覚めればお腹も自然に空いてくる。そして朝食を作る前に一祈り。ダーククロウさん今日も良い睡眠をありがとう。
いつもの朝食を作ってる途中で今日はサンドイッチにしようと思いついた。朝食をよく噛んで手早く片付けると揚げ物を作る。使うのはいつものウルフ肉。ウルフカツと新鮮野菜のサンドイッチ。保管庫が有れば出来立ての温かいまま食べられる。早速油を用意し、カツを揚げる準備だ。
ウルフ肉二パック分ほどのカツを用意すれば他の材料を良い感じに使い切れると思う。なのでそこそこの量を揚げる事になるだろうが、まあそのぐらい揚げておいて、サンドイッチに使わない分はとりあえずダンジョンに持ち込んで食い足りなかったときの予備としておこう。
ザザッと肉に切り込みを入れて塩胡椒して小麦粉をつけて卵液に漬けてパン粉をまぶしてそのままジュワーっと気が済むまで揚げて、良い感じなところで油から上げておしまい。これを肉が全部揚がるまで繰り返すこと三十分。
トーストにレタスと一緒に挟んで軽く押し、適度に平たくなったところでチャック袋に入れて一人分、二人分、三人分……と余分に作って完成。余ったカツもチャック袋にキッチンペーパーで挟んで程よく油が切れるようにして保管庫に。パンはこれで無くなるから今日の帰りは買い出しだな。
今日は一人で二十一層の地図の完成が目標だ。できる範囲で二十一層の地図を埋めて提出するのが理想だ。マウンテンバイクはまだエレベーターのところに残ってるはずなのでこいつで走りながら残りの部分を埋めて行こうと思う。時間が余ったら九層でも巡ろう。
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
枕、お泊まりセット、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
地図の用意、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日の重点ポイントはお弁当と地図だ。とりあえず飯が有ればなんとかなる。収入は進捗次第だが、ぐるっと回るだけなら昼までに終わるだろう。
早速お弁当を片手に、いや保管庫にぶら下げてダンジョンへ出かける事にしよう。今日は終末ピクニックとしゃれこもうじゃないか。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンに着き受付で日帰りと伝えておく。
「また今日も稼がない感じですか? 」
「うまくいけばそれなりってとこですかね。できれば歩くだけの仕事を完成させてきますよ」
「期待して待ってます、ご安全に」
一層を駆け抜けさっさとエレベーターに。二十一層へのボタンを押すと持ち物の確認。ペンも地図もある。十五分ほど暇な時間が出来たので、前回芽生さんが描いた地図と自分の地図のマージをしておく。これで俺が行ってない範囲についてもある程度共有できた。後はこの地図を完成させれば終わりだ。
とりあえず地面部分だけでも埋めてしまえば、地図だと言い張る事は可能だ。二十層への階段も二十二層への階段も明記されている。最低限、地図として機能する事は現状でも充分だが、ギルドに提出するだけの信頼性を求めるにはやはり地面をすべて埋めてしまう必要があるだろう。
二十一層へ着くと動かされてないマウンテンバイクを見て、まだ誰もたどり着いてない事を確認する。よし、自由に使えるな。さっそくマウンテンバイクを繰り出し、まだ見ぬ地面を埋めていく。
ブロック単位で地図が描き加えられていく。細い道を通ったり既に通った道との距離的な折り合いを区別し、時には戻ってそこまで描かれた地図と見比べ、確実に一つずつ空白を潰していく。
一時間かけて、とりあえず外周と言える部分を一周描き加えることに成功した。後は内側を埋めていく作業だ。これは複数人でやるほうが確実だが、ここに居るのは俺一人。仕方がないので階段やエレベーターに近いところから埋めていくことにする。
地図埋めは、楽しい。何も描かれていない所、誰も……いや、一人? を除いて知らない場所を紐解いてバラバラにしていくのが楽しい。先行探索者の特権だ。地図が出来て攻略サイトの充実したところを理解した前提で歩みを進めていくほうが楽ちんでいいが、最近はこういうのも悪くないなと思い始めている。
なんせ地図を提出してしまえば細かいところの修正が無い限りは永遠に俺が作った地図、というものが残る事になる。これはこれで探索者としての実績の一つだろう。
さて……大体の道は巡って行ってない所はもう無いな。これで地図は一応完成か。完全な地図を作ったのは十三層、十六層、二十層以来になる。結構頑張ってるな俺。
もうちょっと建物を回って入れる建物かどうかだけでも見ておくか。ご飯の時間になるまで廃墟をさまよう。ホラー方面が苦手ならこういう探索も苦手になるんだろうが、俺はそこまでホラーが苦手ではないので何かが出そうな雰囲気でも構わず探索していく。
突然物陰から何かが飛び出してくるとか。ぞろぞろとモンスターが無言で這い出て来るとか。そういう妄想をしてしまう。ここは何処かの世界のどこかの滅んだ場所。多分例の滅んだ文明の一風景なんだろう。もののあわれとでも言うのか。
人間の生活の痕跡ではあるものの、具体的にどんな人がどんな暮らしをしていたのかまではうかがい知ることは難しいだろう。ただ、我々と同じようなサイズの同じような人型が暮らしていたであろうことはうかがい知ることができる。壊れた木製のジョッキらしきものや樽、かろうじて原形を残している皿等があるあたり、この建物には酒場らしきものがあったのだろう。とりあえず色々写真とっとこ。
実際に酒が残っている訳ではないが、残り香的なものを感じ取ることでどのような場所だったかをうかがい知ることは出来る。さすがに食べ物は……さすがに残ってないだろうし、残っていたからと言って口にするつもりはない。ただ文化的なレベルを調べる手助けにはなるだろう。
こうなってくると色々面白いな。ダンジョンをより深く知るためにも、ダンジョンから吸い上げられる元の文明について、知ったところで何かが変わる可能性は……未来に対する警鐘という意味を持たせることはできるな。
どんなスキルがどのように作用していった結果文明が滅ぶほどの出力を得てしまったのか。どんな交流の結果……いやそれは難しそうだな。俺は専門家じゃないしな。スキルだってまだ見ぬものが色々あるんだ、今の知識で物事を断言する事は難しい。
食器が四セット残っている。もちろんダンジョンオブジェクトなので破壊する事は出来ないし、皿は持ち上げることはできないしスプーンらしきものも机に張り付いたままだ。きっと家族か気心の知れた仲同士で食事に来た風景が残っているんだろう。わざわざこういうものを残しているあたり作り込み具合が凄いな。サバンナマップでもこのぐらい作り込まれているほうが嬉しかったな。
今更できてしまったダンジョンに文句を言っても仕方がない、今後に期待しよう。今後とは具体的にどういう状況を指すかは解らないが、例えば新しいダンジョン、例えば深い階層。ゲーム的に言えばサブイベントが豊富、みたいなやつだな。
こういった廃墟で文化を調べるのもサブイベントみたいなものか。調べて誰かに報告して報酬をもらう訳ではない。そういう流れも今後は出来ていくのかもしれないな。ダンジョンの機密事項がいくつか解除になって行って、大手を振ってダンジョンについて調べられるようになってきて、そこで初めてこれらの記録が役立つようになるんだろう。
しんみりしたところでお腹が空いてきた。テントに戻って昼食にするか。ついでにおやつのお供えもしておこう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





