481:のんびりがっつり二十層
周辺の索敵できる範囲では、モンスターは二匹連れか三匹連れしか残ってないらしい。そのまま残って二匹三匹と体を慣らしていくという選択肢が一つ。一度休憩して二十一層まで戻って改めてまた来る、というのも選択肢の一つ。二十層へ上がって好き放題やるのも選択肢の一つ。さてどうするか。
「このまま二匹三匹を相手にするか、一回戻って休憩するか、二十層で息抜きするか思いつくだけで三種類の探索が出来る。どうするね? 」
「個人的にはこのまま続けるか二十層へ行くかのどちらかですね。対多戦闘をやるにしても、二十層で肩慣らししてから行くという選択肢もありますから」
「ふむ……今日は稼いで帰りたいからな。今日の克服訓練は必要分出来たと考えて、一旦撤収するか。二十層で真面目に稼いで査定額が少ないと文句を言わせない事も必要だ」
「じゃ、二十層へ上がりますか。スッキリと全力戦闘が出来る環境は大事ですよね」
ゴキとは一旦お別れができるようになるからか、芽生さんに元気が出始めた。
「いずれは二十二層でも同じようにできるようになろう」
「善処します」
索敵しつつ階段へ戻る。どうやらリポップはしてなかったらしく素直に階段に戻る事が出来た。二十一層に戻るとマウンテンバイクを駆って二十層の階段まで行く。
やはり歩きより自転車のほうが楽でいい。七層よりもガタガタの道だが、今回はちゃんとオフロードを考えて自転車を購入してきた。歩くよりは早くなったのは間違いないと思いたい。そうでないとわざわざ六万円もはたいて買った分が無駄になってしまう。
この六万円で買ったのは効率だ。これから何回か使って移動時間を短縮させて、その間に狩りをして稼ぐ流れを作る。たとえば自転車を使って移動時間が十分短くできる場合、十回乗り続ければ百分の時間を六万円で買ったことになる。その間に六万円以上稼げればそれで元が取れる、といった具合だ。
いくらなんでも今日だけ使って後は放置という事はあり得ないだろうから、これからも使い続けることでより稼げるようになるという算段だ。
二十層の階段に着き、階段手前にマウンテンバイクを駐輪する。今回は自転車台を持ち込んでいないので路駐だ。移動の邪魔になると苦情を入れてくる他パーティーもまだ居ないので少なくとも今日は使い倒せる。問題は今後も使えるかどうかだが……今度こそ安村と名札でも付けておこうか。少なくとも受付嬢はマウンテンバイクを持ち込んだことを知ってるわけだし、俺の名札を貼り付けてあっても不思議はないだろう。
二十層に上がる。今度はさっきまでと違い普通に複数のモンスターが出てくる。気合を入れて戦っていこう。単体での強さは蜘蛛やゴキのほうが上のはずだから、こっちは安心して対多戦闘に移れるし、なにより何回も通った分だけ慣れている。
「さー、気分を変えて狩りとしゃれこみましょう」
「ゴキじゃない限りは大丈夫みたいで何よりだ。さあ精々稼いで帰るぞ」
二十一層と十九層の階段の間を一往復する。その間に出てくる三種類のモンスター、バトルゴート・レッドカウ・ダンジョンハイエナをうまいこと倒して稼いで帰る。二十一層に潜る時のいつものルートだ。
この中ではダンジョンハイエナが一番戦いやすく倒しやすい。最大出力の雷撃一発で黒い粒子にできるので時間効率が良く、なおかつ一番査定額の期待値が大きい。美味しい敵という奴だ。何より低確率でヒールポーションをくれる。俺としては高確率でも何ら問題はない。低確率という所だけが欠点だな。
そういえばゴキも蜘蛛もヒールポーションをくれたな。魔結晶の個数から倒した数を考えるに、ダンジョンハイエナよりも蜘蛛とゴキのほうがくれる確率は上のようだ。まだまだデータ不足かもしれないが、とりあえず期待は大ということにしておこう。
早速ダンジョンハイエナがバトルゴートを襲っている。良い感じにお互い消耗したところで漁夫の利を狙いに行く。
「……よし、今だかかれ」
「あいあいさ」
タイミングを見計らって、ダンジョンハイエナがバトルゴートを倒し切らないギリギリのラインを見切って行動を開始。まずはやられかけのバトルゴートを雷撃してこちらで止めを刺し、確実にドロップ権利をもらう。その後で足が速くこちらに向かってくるダンジョンハイエナを追加雷撃で数を減らした後、一対一で戦う。
ダンジョンハイエナも攻撃パターンはグレイウルフと似たようなもので、違うのは速さとタフさだが、攻撃さえ入れば倒れてくれる程度には消耗しているし、もともと雷撃だけで撃破できる相手だ、難は少ない。あっさりと直刀の一撃を受け入れたダンジョンハイエナも順番に倒されて行く。残ったバトルゴートを落ち着いて対処すれば、比較的消耗が少なく多くのドロップを得ることができる。
このダンジョンではドロップの権利はラストヒットに与えられる。最後の一撃さえ入れられるならどれだけ消耗していようと関係ないらしい。
二グループ分のドロップを御馳走様した後、更に十九層の階段へ向かいながら出てくるモンスターを順番に屠っていく。
「こっちのほうが性に合ってますねえ。一匹ずつ釣るよりも体が動かせて楽ですねえ」
「運動にもなるし腹の肉も落ちるしいいことづくめだな」
「やっぱりしばらく二十層にしません? こっちのほうがいろんな健康によさそうなんですが」
「午前中は二十二層、午後は二十層、こうだな。完全にゴキに慣れてくれたら二十二層の地図を作りながらでもいけるんだが」
「むむむ」
「何がむむむだ」
二十層だとゴキが出ない分精神的に楽なのか芽生さんは口数も多い。そこまでゴキが嫌いらしい。俺も好きという訳ではないが、家で発生したら自力で駆除できる程度には慣れてるのでそこまで露骨に嫌悪感を催すわけでもない。
まあ、虫と人型は無理なものは無理……で押し切る事も出来る。二十二層からおそらく二十四層にかけてひたすらゴキと戦い続ければさすがの芽生さんでも慣れ切って近接でも戦えるようになるだろう。甘やかすわけではないが期待はしている、といったところか。
レッドカウを一対二で笑顔でボコボコにしながらストレスを発散している芽生さんを見るとなんだか心が晴れやかになっていく気がする。あ、お肉だ。これは一つだけへそくりにストックしておこう。
キュアポーションのランク1ももう少し予備が有ってもいいかもしれない。今までは四本だけストックしていたが、今後ゴキに噛まれて何らかの感染が発生した場合に力になってくれることだろう。その為にソロ九層で回って集めておくことも考慮しておくか。
芽生さんは見つけた先から我先にとモンスターに近づき、大暴れしている、撃ち漏らしになりそうなもの、横合いから殴りつけそうになるものを相手取る立ち位置をキープしつつ、芽生さんの邪魔をしないように戦いを続けることで少しでもストレス解消になれば良い。
しかし、数がそこそこ多いおかげでそれなりに忙しい。さっきまでとは大違いだ。その分しっかり稼いだという実感が残るはずだ。汗をかいてお仕事を頑張るとしよう。
レッドカウが三匹親子でくつろいでいるのが次に見えて来た。子供は可哀想だから最後にするか、最初にするかは割と悩みどころだ。今のところ結論は得られていない。一丁前に大人扱いして順番を気にせず倒していくか、それとも親が力尽きるさまを見せてから最後に倒すか、それとも可哀想なシーンを見せないように先に倒すか。
芽生さんはその辺どう考えているんだろう? 気になる……などと考える余裕があるぐらいには二十層での戦いには慣れた。とりあえず近寄った先からぶん殴っているので優先順位は近いほうから、という事になるようだ。そのほうが真っ当な考えなんだろうか。
レッドカウを倒すときのお作法……またダンジョンの疑問が一つ増えたような気がする。
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