480:荒療治はしない派
一時間でアラームが鳴った。ボーっとしていたら軽く浅い眠りに入っていたようだ。芽生さんは……丸くなって寝ている。眠るだけの体力はあったようだ。午後からはもうちょっと進捗が進んでくれるように祈ろう。後は芽生さんの神経の図太さ次第だ。
珍しくナイーブになっているという前提で、もう一度一匹ずつ釣って倒す。可能なら攻撃も加えてもらう。蜘蛛に関しては問題ないようなので、蜘蛛が出てきたら戦闘を任せよう。ゴキが出てきたら、雷撃で弱らせてから攻撃してもらう事で、ちょっとずつ慣れてもらうしかないだろうな。
「おーきろー、休憩終わりだぞー」
芽生さんをゆさゆさと揺する。いつもの枕を使っているおかげでパッと目が覚めてガバッと起きる。
「おはようございます」
「おはよう。今からの予定は覚えてる? 」
ちゃんと自分が何をするべきなのか確認してもらわないとな。
「えっと……索敵して出来るだけ単体でいる奴を相手に練習、蜘蛛が出たら戦う、ゴキが出たら……手助けください」
「よしよし、よく覚えてたな」
「午後からは頑張ります。今度こそ……今度こそ一撃入れてやらないと。でないと洋一さんに見捨てられてしまいますからね」
「別に見捨てるつもりはないんだが、気負わないでね。それだけは伝えておくよ」
◇◆◇◆◇◆◇
再び二十二層に下りる。さっきと空気は同じ感じだが、モンスターは湧き直したようであちらこちらからカサカサ……と、ジャイアントアントほどじゃないが動くような音が聞こえる。
まず、目に見える先に一匹ゴキが居る。パチンコ玉を弾いて早速誘い出す。パチンコ玉に気づいたゴキは一直線にこちらへ向かってくる。適度な距離まで来たところで雷撃最大出力をお見舞いすると、ひっくり返って柔らかい腹を露出させる。
「今だ、トドメを」
「よしきた……えい」
決めたらしい覚悟の大きさと掛け声の大きさとダメージ量に大分ばらつきは見えるが、ウォーターカッターを三枚ほど打ち出し腹に向けて撃ち出す。まずは遠距離から慣れるという事だろうな。
ウォーターカッターは確実にゴキの腹を深く削り、致命打となったらしい。そのまま黒い粒子に還る。第一弾克服作業は無事に済んだな。ドロップを回収しておく。
「じゃ、次の索敵よろしく」
「りょ、りょうかい」
若干ダメージは受けたらしい。キュアポーションじゃ精神的ダメージは治らないだろうし、一本二万円とお高い上に手持ちの数が無いからな。毎回使って無理やり治すような荒療治はできるだけしないほうがいいしな。俺自身がやるならまだしも他の人に向けてやるのはなんか違うと心がストッパーをかけている。
「次、二十メートル先、進行方向二時」
「あいよ……っと」
パチンコ玉で音を出しておびき寄せるのにも慣れて来た。この狩りは楽でいいが爽快感は無い。出会った先から首を切り落として回るようなスタイリッシュな戦闘はこの先はしばらく味わえそうにない……等と考えていたら次は蜘蛛が出て来た。蜘蛛は……連続して頼むのもなんだし俺が相手するか。蜘蛛の行動パターンはまだあるはずだ、そいつを引き出してやらないとな。
今のところ蜘蛛は真っ直ぐ向かってくるパターンと、糸を飛ばしてくるパターンがある事が解った。糸の場合は回避するか、わざと受けてその後引き寄せられる前に切断する事で続いて噛みつきに来る。おそらく糸で動けなくなった場合、現実の蜘蛛と同じ動きをするなら消化液を体内に注入し、その後ゆっくり探索者を美味しく頂くんだろう。そっちのパターンになりたくはない。
今回は直接噛みつきに来た。飛びつきに来るタイミングを見計らってこっちからも走り込み、すれ違いざまに噛みつき兼体当たりを回避、そのまま横を走りながら直刀で斬り裂いていく。しばらく切り裂いたところでギブアップなのか、最後まで切れ込みを入れることなく途中で黒い粒子に変わり始めた。
蜘蛛は柔らかい。糸さえなければ、これはジャイアントアントの酸さえなければと同じ感想だな。足でも胴でも首でも何処からでも斬れる。止めを刺すには胴体に攻撃を加えなければならないから糸が来るまでの間、つまり近寄るまでの勝負と言っていい。
糸を避けるか受けるか。受ける場合、武器を取られないようにだけ注意すれば、糸が張り付いても切断する事が出来る。切断にそれほど力は必要ないので安心だ。出来るだけパターン化した戦闘にできるよう、今のところ受けて切るようにしている。
しかし、これが複数同時対応しなければいけない事を考えると避けるほうが賢明であるとも言える。複数相手にするのはまだ未体験なのでそれでうまくいくという保証はない。一対一なら受けられる。それが解っていれば今は良い。
「よし、次次ぃ」
「次は……ちょっと移動して九時方向建物の中」
索敵は常にモンスターの姿をこちらに晒しだしてくれる。とても便利。それが解るだけでも芽生さんが居てくれるありがたさはある。が、先を考えると本人のためにもここはゴキに慣れてもらうのが必要だ。
そして、ゴキが出て来た。芽生さんは……まだちょっとおびえているが、さっきに比べてしっかりとゴキを見据えている。今度も近寄ってくるのを待って全力雷撃して、二人の近くに痺れたまま置いておく。今度は槍で、しっかりと腹を突き刺し、切り裂く。ゴキは黒い粒子に還っていき、後に魔結晶をくれる。芽生さんは小さくヨシ、と言いながら黒い粒子に還っていく様を眺めている。これで少しは克服できたのかな。
今のところ、このマップでは百パーセント魔結晶を落とす。大きくは無いが、これ一粒で七層分エレベーターが稼働するのでとても分かりやすい。ついでに蜘蛛が糸をくれて、おそらくだがヒールポーションのランク3を両方とも落とす。ヒールポーションのドロップ率は解らないが、ダンジョンハイエナと同じだと仮定すると……一匹当たりの価値はやっぱり同じぐらいか。
建物の中には蜘蛛。釣り出して一匹。
「任せていい? 」
「任されました」
短槍片手に走り込むと糸をものともせず回避し、そのままのスピードで蜘蛛に接近、蜘蛛の口にそのまま短槍を突き刺しては抜き、そのまま蜘蛛の口を上に切り開くと今度は上から下に叩いて蜘蛛を地面に押し付ける。最後に背中に刺し込んで終わり。蜘蛛は黒い粒子に還った。
まだまだ無駄は多いだろうけど危なげない戦闘だった。蜘蛛はもう問題なさそうだ。後はゴキが調子よく連続で出て来てくれるかどうかだな。
「調子がいいところで次行ってみよう」
「次は……単品だと後ろに真っ直ぐかな」
またカサカサとゴキが居るので釣って、雷撃して寝かせて、芽生さんがとどめを刺して、ドロップ回収。しばらくこのテンポで戦闘が続く。だんだん行動がゲームじみてきた。相手が単体なら負ける要素はなくなってきたな。
「あー、今ので打ち止めですね。後は複数同時に来そうです」
単体で相手に出来そうなモンスターが居なくなったらしい。
「さてどうするか。複数同時に来るのを許容するか、二十層に狩場を変更するか」
「できればこのままで。このまま慣れて戦いたいです」
「解った。二匹来そうなモンスターを探そう」
「二匹ですか。……だとするとあっちに見えてるはずです」
芽生さんについていくと、確かに蜘蛛が二匹いる。それ以上のモンスターが付いてこないようにいつも通りパチンコ玉で攻撃を仕掛けて釣る。上手く二匹だけ釣れてくれたようだ。
「それぞれ一対一、問題が起きたら声をかけて」
「了解」
それぞれが自分のターゲットを決めるとそっちへ駆けよっていく。芽生さんの動きも気になるが、当面は俺自身も戦闘経験を積んでいかなくてはならない。より簡単に、より手数が少なく、より消耗が少ない戦闘を心がけていかないと地図埋めをしていく余裕がなくなるからな。
飛んでくる糸を回避し、近づきながらさっと雷撃で炒めて動きが鈍ったところへ頭へ一撃。二撃。頭の形が変わったところで戦闘終了、黒い粒子に還り、ドロップの糸、魔結晶、ヒールポーションを得る。
すぐ芽生さんのほうに目をやると、糸を喰らったものの自分で糸を切り離して接近しつつウォーターカッターを打ち込み牽制にすると、次の糸が飛んでくる前に近づき、槍でぶっ叩いた後切り裂いて終わった。あっちも魔結晶をドロップ。二匹相手なら何とかなるな。三匹になると連携が難しそうだな。
モンスターで手一杯で探索が進まないではBランクに認定されてる意味も無ければ狩場を独占させてもらうのも申し訳が無い。今のところの手持ちの戦い方としては避けて糸を切って更に接近して切り刻むのが最も楽に戦える気がする。そこに雷撃を加えて相手を怯ませるのも一手だが、雷撃の分消耗がある。雷撃を撃ち続けても消耗が少なくなるようにスキルを鍛えていくのも大切かな。出来るなら両方使って長時間戦闘できるようにスキルアップしていきたいところだ。
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