479:食事前で良かったね
二十二層を巡るではなく、階段近くのモンスターを倒すことを優先して動いていく。どうやらこの辺は固まってモンスターが出る訳ではないらしい。迂闊に動き回るとどんどん集まってくる可能性は否定できないが、索敵スキルをうまく利用する事で一匹ずつおびき出すことに成功している。
芽生さんは蜘蛛のほうに関しては問題なく戦えることを確認できた。だが、ダンジョンコックローチのほうはそうにもいかないらしい。
まだゴキとの戦いは俺の仕事だ。だが、横目に見つつも戦い方、弱いところ、自分が戦う時はどうすればいいか等、その辺りは学習しているらしく、ブツブツと何やら唱えている声は聞こえる。さっきまでよりは大分マシになったらしい。
今は蜘蛛と戦っている。こいつもゴキもそうだが、雷撃一発で体力を削り落とすことはできない。まだまだ修行不足だな。ただ、雷撃して行動を鈍らせることはできるのでその間に近寄って止めを刺すことはできる。
と、糸が飛んできた。避けきれず腕に絡みつき、そのまま引っ張られそうになる。結構強い力だが、糸を直刀でなんとか断ち切る。引っ張る力は強いけど切断はそう難しくはないらしいな。糸を切り落とすとその衝撃で蜘蛛が少し後ろに下がる。その隙に二歩、三歩と足を踏み入れて頭にそのまま直刀を突き立てると黒い粒子に還った。それと同時に腕に絡みついて残っていた糸も消える。切り落としても糸はモンスターの一部と認識されているらしい。
予想通りというか想像通りというか、蜘蛛は糸を落とした。糸巻き棒に巻かれた形でいくらかの長さの糸が巻き取られている。触ってみるが粘着力は無い。そこは現物とドロップ品が一致しないのは初めてではないからスルーした。ぱっと見ただの糸だが、試しに少しほどいて力いっぱい引っ張ってみる。ステータスブーストをかけて徐々に力を強めていくが中々千切れない。これは下手な繊維や金属よりもよほど強靭にできているらしい。
ゴキもそうだが、耐久力が低い訳ではなく魔法耐性も少しあると見たほうが良いだろう。さすがにBランク領域、物理一辺倒でもスキル一辺倒でも戦いにくくはなっているようだ。
「集団じゃなくて単体で存在するのは次で最後みたいです」
「じゃ、それを片付けたら階段まで戻ろう。今は顔見世だけということで」
「次、進行方向二時ぐらい、です」
ゴキがまた出てくる。さすがに出てくるだけで悲鳴を漏らすような事はなくなってきたが、戦うのはまだきついらしく、芽生さんのほうを向くと全力で首を横に振っている。これはしばらくかかりそうだな。雷撃最大出力で痺れさせるとそのまま直刀で頭部の後ろをぶっすり。魔結晶とヒールポーションが出た。【保管庫】で鑑定するとランク3。これ一本で中々の稼ぎになるので二十二層では充分稼げたとしておこう。
魔結晶の個数を数えると、合計十四個と糸とヒールポーション。ダンジョンハイエナよりも出る確率が高めなのか、たまたま上振れてるだけなのか。次回以降に検証をしたいところだな。
「よし、テントに戻って昼食だ……と、ご飯食べれる? 」
「思い出さなければ大丈夫だと思います。思い出すと……ちょっと少なめにしておいたほうが良いかも」
「じゃあさっきまでの事は忘れよう。今二十一層に着いた。そんでもって今からお昼だ。そう自分に言い聞かせておいてくれ」
階段をササっと駆け上がり、二十一層へ戻ってくる。相変わらずの荒廃したマップだが、索敵をしてモンスターが居ない事をちゃんと確認したからか、芽生さんがほっとしている。
「セーフエリアだぞ、物陰からモンスター出てきたりはしないぞ」
「解ってはいるんですが、さっきとマップが同じだとちょっとまだ心にダメージが」
「いつもよりゆっくり休むか。収入はそれなりに得ることが出来たし、いつもに比べたら少なくなるだろうが二十二層の体験と今後の課題は出来たんだ。それだけ得るものがあったと前向きに考えよう」
マウンテンバイクを転がしてエレベーターのある建物まで行き、マウンテンバイクを停めるとテントまで階段を上り、お待ちかねのアヒージョを頂く。もしダンジョンコックローチがゴキ独特の汁やなんかをまき散らすタイプだったらこの昼食も食べる度にそれを思い出すような事になっていたかもしれないな。今後しばらくアヒージョは封印しよう。
ちょっと物足りないのでアヒージョの余っている油を少し継ぎ足してウルフ肉を追加で焼く。油にいろんなエキスが染み込んでいる分ただの焼肉よりは美味しく頂けるだろう。
「大丈夫か? 食欲は……無いわけではないな。食事前の出来事で良かったな、もし胃袋が詰まってたら吐いてたかもしれないぞ」
芽生さんの食のスピードを見てみるが、いつもよりは遅いもののちゃんと食べてはいる。本当にメンタルがやられてたら食事どころじゃないだろう。そこまではいってないようだ。
「ごめんなさい……今日は足手まといですね。相棒としてちゃんと仕事が出来てない」
珍しくしょぼくれた芽生さんだ。頭ではわかっていても体が追い付かないという奴だろう。
「索敵はきちんとできてた分、半分は仕事したってところかな。それ以外は……今度俺が苦手なモンスターが出てきたときは逆に庇ってもらう事に期待しておこう」
「怒らないんですね……怒られるほうがいっそスッキリするんですが」
「怒って克服できるならいくらでも怒るけど、そういうわけにはいかないだろ? 」
「そう、ですね。もう少し時間をください。何とかモノにしてみます。見てるだけじゃなく、なんかこう、戦果になるようなものが欲しいです」
完全にやる気がないわけではなく、やる気を出したいけど背中の一押しが欲しい、という心境だろうか。こういうときは一気にドンと押すよりも一歩ずつ積み重ねていくほうが大事だ。
「じゃああれだな、瀕死で置いておくから止めを刺していくってのでどうだろう? 」
「トドメですか……頑張ってみます。それで慣れるようになるかは解んないですけど、多分今のままだとダメだと思うので何かしらのアクションは必要だと感じてます」
「いきなり数が来るようなところに突っ込んで荒療治という手も無いわけじゃない。けど、刺激的過ぎるからそれは無しだ。ゆっくり休んだらもう一度階段のすぐそばで釣りながら戦ってみよう。小西ダンジョンらしからぬ戦い方ではあるけどこの際使えるものは階段でも何でも使ってしまおう」
「ご迷惑をおかけします」
芽生さんが頭を下げる。そのまま頭を掴むとぐぐぐ……と持ち上げていく。
「あいたたた」
「相棒だろう? 迷惑をかけることも織り込み済みだ。まず気分を持ち上げていくことが今の課題だな。その為にはまず頭から持ち上げよう」
「わかりました、わかりましたからその後頭部へのアイアンクローをやめてください。ダンジョン内なのでかなり痛いです」
俺の手を振り解くと、ヨシ! と覚悟を決めたのか軽くガッツポーズし、その後食事のペースが普段通りに戻って来た。良いぞ、その調子だ。
「覚悟を決めたらお腹が空いてきました。午後からは頑張ります」
「その決意を維持していければ第一次段階クリアだな」
期待する、と声をかけると逆に期待に潰されるかもしれんな。あえて言わないようにしておこう。食事をしたらいつもより多めに休憩をとる。気分を落ち着かせるためにも適度な休憩は大事だ。
調子が悪いなら午後は二十層でのんびり探索という形でも良かったんだが、本人が頑張りたいという意思表示をしてくれているのでもう一度二十二層へ行こうと思う。
時間はあるんだ、徐々に慣れてくれればいい。次回次々回のトライアルでモノになってくれればいいな程度の軽い考えをしつつ、俺もしっかり休もう。一時間ぐらい仮眠を取ってしまおうかな。
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