477:生理的に無理なもんは無理
「今回は七層みたいに自転車をコッソリ運び入れた訳じゃないので、堂々と自転車を転がしていける。探索途中で誰かに出会ったとしても言い訳は充分にできるし、受付嬢が目撃者として居てくれている。安心して乗りまわせるけど、もし他のパーティーに出会ったらトランシーバーで連絡ちょうだい。もしかしたらエレベーターまで随伴する事になるかもしれないから」
「解りました。誰も来ない事を祈りつつ早速始めますか」
芽生さんとは違う方向へ走り出す。さすがにマウンテンバイクとはいえ、こう瓦礫と砂が多いと足を取られるが、それでも歩くよりは幾分か楽に活動できている。これはマウンテンバイクをそのまま二十一層に置いておくことも考慮していこう。
とりあえず道なりに走る。走り回って階段らしきものを見つけたら自転車から降りて調査。それをひたすら繰り返す。地下街への入り口みたいなものは無く、各建物にそれぞれ地下が有ったりその地下が倉庫だったり酒場めいたものの残骸だったり、建物によっていろいろある。
勿論平屋建ての建物もあったが、そこの地下に階段が有るという可能性は薄そうなのでスルーしている。建物を回って見つからなかったときの最終手段として残しておこう。
一時間ほど調べながらマウンテンバイクで走った。まだ階段は見つからない。らしきものは数か所あったが、エレベーターホールに向いているような地形ではあったが、建物の高さが低いため候補に入れなかった奴だ。
やはり何かしらの大事なオブジェクトがある場所は大きな建物であってほしい……となれば、大き目の建物の中を探索すれば階段は見つかるんだろうか。
やることが少ないようで多い。自転車に乗っては建物をしらべ、怪しいところがあれば降りて調べる。建物に入った時は念のために上の階にも足を運んでいる。さすがに上の階から階段が下に伸びている事は無いとは思いたいが、もしかしたらそんなトンチキなつくりをしているかもしれないので丁寧に調べていく。
更にしばらくうろうろしていると、芽生さんから反応があった。
「こちら芽生ちゃん、それらしい階段を見つけました。案内するのでエレベーターのところまで来てください」
あっちで当たりらしきものが出たらしい。早速集合して、芽生さんについていく。他の階段らしいところに比べて広く大きな階段がそこにあった。確かに怪しいなこれは。しかし、建物に直接階段が張り付いている形になっていて、普通の建物だと誤認して素通りしていたかもしれないな。
「よく見つけたなこんなの。俺だったら見逃していたかもしれない」
「頑張りました」
フフンと胸を張る芽生さん。
「ちょっと入ってみるか。索敵ONにしてればモンスターが居るかどうか解るからそれで判断しよう」
「すぐ近くに居たら戦います? 」
「赤くなってたら戦闘、そうじゃなかったら戻って道完成させるのを優先。それでどう」
「それで行きましょう」
階段を下りていく。結構長いぞ、これは当たりだな。思ったより早く見つかって良かったと思うべきかな。昨日は探索するルートに入れてなかった場所なのでどっちにしろ俺一人では見つけられなかっただろう。
階段を下りきると、二十一層とそう変わらない光景。ここも見方によっては迷宮みたいなものかもしれないが、二十一層に比べて建物は少なく、あっても平屋建ての建物が多い。階段の見つけやすさからすればこっちのほうが見つけやすいかもしれないな。
「レーダーに反応ある? どう? 」
「結構いますね。ただまとまっているという訳じゃなく、こうバラバラな感じがします。一グループ当たりの数は少ないかもしれませんね」
「一番近いほうへ行ってみるか」
芽生さんに先導されて行くと、徐々に生命活動のような音が聞こえてくる。カサカサと身軽な音をさせる。本当に巨大なんだろうか。
「そろそろですね……あ、赤くなっ」
芽生さんが途中でしゃべるのを止める。視界に入り現れたのは巨大なゴキ。大きさは一メートルをはるかに超えているだろう。かなり迫力のあるゴキだ。一メートル半ぐらいはあるだろうか。平べったいのは相変わらずだが、這い寄られたら背中にうすら寒いものが走る程度では済まないだろう。それがかなりのスピードで迫ってきている。
「でかいな。予想より更にでかかった」
「い」
い?
「嫌……でか……きも……」
芽生さんが絶叫を通り越して喉からかろうじて絞り出すような声でつぶやく。かなり膝に来ているらしくガクガクと体を揺らしている。これは初戦は使い物になりそうにないな。
とりあえずどのくらい硬いかを測ろう。スケ剣射出で頭の部分を狙ってみる。かなりの硬さを覚悟していたが無事に刺さり、そのまま黒い粒子に還った。よし、この手は使っていけるな。脳を潰せばこのゴキは死ぬらしい。時々頭を潰しても生きて動き回る奴も居るからな。それに比べれば可愛いもんだ。
ドロップは……見慣れた赤い魔結晶だ。少なくとも大きさからして五千円より安い事はないだろう。ちゃんと拾ってスケ剣も回収する。
「もう倒したぞー」
「はい……はい……」
まだ立ち直ってないらしい。大分精神的ダメージを受けている。これはメンタルケアが必要だな。
「いいか、相手は黒い粒子だ。黒い粒子がたまたまあの形をしてるだけでゴキじゃない、黒い粒子なんだ」
「黒い粒子……? 本当にゴキじゃない? 」
「ああ、ほんとうだ。ちょっと黒くてテカテカして、素早く動くぐらいの物で、間違いなく黒い粒子だ、今確認したから間違いない」
「……ほんとに? 」
嘘だ、とかいうと泣きそうなので無理に信じ込ませることにする。とりあえずファーストインプレッションはかなり悪い形での一戦になった。同時に何匹も来なかったのは幸運というべきだろう。もしあの調子で連戦になっていたら噛まれて毒をうけてキュアポーションのお世話になっていたか半狂乱の芽生さんのフレンドリファイア上等のウォーターカッター乱舞に巻き込まれた可能性が高い。
「……本当に大丈夫? 生理的に無理ならこの先を諦めるけど」
「もうd……いえ、慣れるまで時間をください。何とか乗り越えて見せます。そしたら家に出るゴキも大丈夫になるはずです」
どうやら完全に無理、というほどまで心は折れていないらしい。もう少し俺が対応して、戦ってる様を観察してもらって、それから徐々に慣れて行ってもらうしかないな。もしかしたらその内俺が生理的に無理なモンスターが出てくるかもしれないし。
「わかった。次に近いモンスターへ行こう。一つずつ確実にこなしていこう。相手するのが無理な間は俺が対応するから、それを横目に見て慣れて行こう」
「そうします……足を引っ張って申し訳ないです……」
「そんな事が有っても仕方ない。生理的に受け付けないものの克服は難しいからな。ゴブリンで忌避感を感じてドロップアウトをする人だっているんだし、おかしい事は何もないぞ」
「そう……ですよね。Bランクになってゴキが怖くてダンジョン探索者やってられないですよね」
そうそう、その意気だ。このまま持ち上げて行こう。
「覚悟が決まれば次のモンスターを探そう。次に近いのはどっちだ? 」
「こっちですね」
見渡す限りの廃墟とは言えないこの光景視線を遮られる物は結構多い。モンスターは建物の中にも居るんだろうか。もしそうなら……いや、一匹二匹かくれるだけのスペースは充分にある。建物から這い出して来る可能性は小さくない。【索敵】スキルが無かったら不意打ちを喰らうところだったかもしれない。その点芽生さんが【索敵】を手に入れたことはとてもタイミングが良い。
「たくましい相棒を持って俺は幸せだよ」
「私じゃなくて【索敵】のほうに、じゃないですか」
「それをちゃんと扱えてる相棒に、という事にしておいてくれ」
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