471:事前調査は大事、特に命にかかわるものは
二時間の九層巡りと二回の茂君を行い、家まで帰って来た。今日の儲けは二十二万三十円。半日の稼ぎとしてはそこそこ。一日と考えると少ないが、ジャイアントアントの魔結晶を在庫として都合しておいた。今後は二十一層へ行く事も多くなるので、保管庫に貯めておいた。ジャイアントアントの魔結晶で計算すると、二十一層と一層を往復するだけで三十六個必要だ。その分を残しておいて査定にかけたのでちょっと少ない。
ダンジョン庁長官が予想以上にフランクだったのもあるが、形式を重視した会議だというイメージを持っていた俺にとって、あの気楽な会議風景は中々見学しやすかった。やはり若い省庁となると何事にも柔らかいものなんだろうか。
さて、片づけ洗濯夕食を終えて早速やる事は、生姜焼きのたれにウルフ肉を漬けてチャック袋に放り込み、一晩漬けこんでどう味わいが変わるかのテストからだ。美味しかったら今後も使って行こうと思う。
明日は休みだ。布団の山本へ納品に行こうと思う。また五キロずつの納品だ。手元には十四キロほどあるが、今度来る価格改定に備えて少し蓄えつつ、定期的に放出する事で価格が上がるのを見越して売り惜しみをしている訳じゃないんだぞという事をアピールしておこう。そのほうがお互いのためだ。
ここで売り惜しみをして値段が上がってから大量に持ち込んで値段交渉する……というのは商売では基本なんだろうが、お世話になっている会社にそんなことをしても印象が悪くなるだけだ。あくまで表向きは取れるときに取って卸してますという事にしておくのだ。
さて、風呂にも入っておこう。先に風呂に入っておけばいつ寝落ちしても良い。いや寝落ちするぐらいなら極上の布団で眠りたいところだが、そうなった場合風呂に先に入っておかないと布団に俺の匂いが少しでも沁みついてしまう。それはマズイ。せっかくのダーククロウの香りを邪魔してしまう。
いつも通りさっと風呂に入って冷水を浴びて出る。やはり汗がスッと引くのは気持ちいいな、芽生さんは良い事を教えてくれた。
コーラ片手にノートパソコンを起動してCランクネットワークにアクセス。Bランクネットワークというものは存在しなかったし、情報収集面で新たに更新されるようなものは無かった。つまりCランクで一人前の探索者扱いされるという事か。
Bランク探索者は民間だとこの辺ではほとんど居ないとの事だったので、おそらく清州ダンジョンや高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンみたいな大規模ダンジョンに集中しているんだろうな。
さて、二十二層以降の情報を集めようか。まずは出てくるモンスターだ。出てくるモンスターについては二種類、確認できた。巨大な蜘蛛ダンジョンスパイダーと、巨大なアレ、ダンジョンコックローチだ。
蜘蛛のほうは糸を絡みつけて動けなくし、獲物がもがいている間に消化液を注入して殺す、という蜘蛛の行動原理とほぼ同じらしい。おそらく他の文明世界でも蜘蛛というものは存在するんだろう。行動パターンまで同じというのは面白い事だ。
ドロップは糸とヒールポーションランク3。糸についての活用法は見つけられなかった。実際に取ってみないと解らないってところか。ただ、査定価格も解らないんだよな。実際に潜って見て戦ってみて、それからだな。割に合うかも含めて色々と見なければいけない。
ギルドには現在確認されているドロップ品の買い取り早見表みたいなものが存在しているのだろうから、たとえば今日明日でドロップ品を持ち帰っても査定にかけることは出来るんだろう。
巨大なゴキは噛まれると毒らしきものを持っていて、噛まれた部分から皮膚の色が変色していくらしい。どうやらキュアポーションで治癒できる事も書かれていた。
巨大なゴキは魔結晶とヒールポーションランク3だけを落とすようだ。正直会いたくないが、うんざりするほど戦う事になるんだろう。ダンジョンコックローチというありきたりな名称をしているが、こっちがジャイアントコックローチではないのは、ゴキにもサイズが色々あるからだろう。地上で一番でかいサイズは……七センチぐらいか。
古代には一メートルを超えるような奴も生息していたというし、それと同じぐらいだと覚悟しておくしかないな。
どうやらこのサイト、Bランク探索者グループが管理しているらしく潜る際の注意点なんかも色々と書かれている。二十一層に集めておくべき物資や最低限欲しい設備等、一般的に必要な情報はほぼここで網羅できると言っても良いだろう。
Bランク探索者グループ「土竜」というらしい。一つの探索者パーティーで出来ている訳ではなく、一つのBランクパーティーを起点として複数のパーティーがそこに名を連ねているようだ。個人情報に当たるため、Bランクパーティー以外のメンバーについては名が伏せられている。
複数パーティーで戦略物資を共有しつつ、それぞれがダンジョンを行き来し手に入れたドロップ品をある程度山分けとすることで、全てのパーティーに利益が行きわたるように工夫しているようだ。
フォークランド紛争でイギリス軍がやってた戦略爆撃の為の補給機の動きみたいに、とにかく消耗する食料や生活用品はそれを運ぶために同じものを消費する、という悪循環をいかにして工夫して運び入れていくか等を研究し、その結論の一つとして複数パーティーによる物資共有を試みている、といった感じだ。
Bランクパーティーにとっても地上から奥まで物資を運ぶだけでも相当な苦労がある。二十一層へ水を二リットル運ぶために行き来するだけでおよそ六リットル必要とされている。そこから更に探索活動をするために必要な水……と考えるといかに保管庫がチートなスキルであるか、そしてエレベーターが大事かが解るな。
流石に動画での撮影は……うん、リンクは見当たらないな。一つぐらいあってもいいかもしれないが、様子を映すのは検閲が入っていると見ていいのか、それともカテゴリGなので控えめにしてあるのか。そういえばBランクからCランクに伝えてはいけない内容とかもあるのかな。
彼らからすれば小西ダンジョンのエレベーターの話はとんでもない事だろうな。どんな気持ちでこのニュースについて考えたのだろう。俺たちの努力は何だったのかと悔やんでいるのか、それともうちはうち、よそはよそ、という感じだろうか。
芽生さんが期末考査に入っている間に、二十一層のエレベーターのある建物の最上階にポールと旗を路上に向けて設置して一応の目印にしてあるし、最上階の一つ下にはいつものテントセットが置いてある。
後はそこに生活感を出すために水を箱で二つ用意してある。後はクーラーボックスに肉を何個かとマルチビタミンの錠剤、それからバーナーとスキレットが用意してある。最低限ここで生きてますというアピールは出来るだろうと思ってそうした。ついでに表札も出してある。
エレベーターはここの建物にありますが上の階は使ってますよ、という意思表示は出来ているはずなので、わざわざ同じ階層にテントを立てに来る人はまず居ないだろうと考えている。
今のところまだ二十一層にたどり着いた探索者は他に居ない。十七層までの探索制限は今日解除されるが、地図がない上に目印も少ない以上、一日二日で突破してくるのはかなり運が良いと思って良いだろう。
その前に少しぐらい次へ潜る手伝いをしておきたいものだ。新しく地図を描きなおすのに一日かかるかな。モンスターの不安はないので芽生さんと二人で手分けして探せるようにしないとな。保管庫にA3サイズ位の紙と筆記具を用意しておき、それぞれ埋めあって後でマージするという作業でいいだろう。
細かい事は当日になって説明しよう。全ての建物について地下と地上がどれだけ有るかを調べるのは正直骨だろうが、どこに階段が有るかわからない以上調査は必要だ。階段と拠点だけ解っていても道中の道が解らないでは意味がない。
セーフエリアぐらいはきちんとした地図を持っておいたほうが良い。これから進みゆくダンジョンについては階段と階段の間の道と危険個所ぐらいのデータがあればそれで足りる。
これからは七層ではなく二十一層に拠点を構えるぐらいの気持ちで良いな。だとすると机や椅子も持ち込んでしまって、エレベーターの前に交換ノートセットを設置しておいてもいいだろう。
相沢君辺りはまた自分勝手にダンジョンを改造している! などと反発をしそうなものだが、自転車を持ち込むことも不思議ではなくなった現在、そろそろ七層に追加の自転車があってもいいぐらいのものだ。これで大木さんも七層を歩かなくて済むな。
さて、そうと決まれば明日の休みに買い出しする品物をピックアップだ。二十一層用の机、椅子、ノートとボールペン、それから百円ショップで売ってそうな小棚。それから……そろそろ水も買っておくか。いざという時誰かに分けられるようにしておいたほうが良いからな。順番にメモって行く。
買い出しメモが一区切りしたところで今日はこのぐらいで良いだろう。サイトをブックマークしておくとパソコンを閉じる。一日で詰め込む必要はない。どうせ忘れるのだ。今日は同ランク帯の探索者の活動記録が見られただけで充分な収穫を得ることが出来た。
俺もこういう記録を残していったほうが良いんだろうか。そのほうが人のためになる。後続への情報を残す。となれば小西ダンジョンの情報をかき記していく、怒られない範囲で。エレベーター周りの情報を書き込んで……いや、既に残していると言えば残しているのか。エレベーターの使い方については動画にしてもう流している。
今のところ思い付いた俺ぐらいしか知らない情報というのは地図周りだけであり、これはいずれギルドに渡して有料で売られて行くものだ。公開するのはためらわれるな。だとすると思いつく範囲では今のところ無い。大人しく寝るか。
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