468:社会見学3/4 長官面談
更に他のギルドマスターからの質問が飛ぶ。
「パーティーメンバーはそこに全員そろっていますか? 全員の顔を見たいところですが」
芽生さんに目線を移す。芽生さんは全力で首を横に振っている。
「顔出しNGとの事です。ちなみにパーティーは二人です」
笑い声とどよめきが同時に来る。顔出しNGが受けたのか、それともパーティーメンバーが二人であることに驚かれたのか。多分両方だな。
「二人で二十一層まで行ったということはあなた方もステータスブーストとかいう技能の使い手だと考えていいですか? 」
「はい、二人とも使えます。ダンジョンマスター曰く、これはスキルで言う所の【身体強化】に当たるとのことです」
「スキルなんですか!? では、スキルオーブ無しに使えるスキルという事で良いんですか? 」
「そう考えても構わない、というのがダンジョンマスターの見解でした。ただこれも基本的にダンジョン内でしか作用しないスキルですので、誰でも使える、と一口に言うと語弊があるかもしれません」
一息つく。他のギルマスたちは下を向いたり上を向いたりロールケーキをそのまま齧ったり自由だが、それぞれ何かしら考えることがあるらしい。
「語弊がある、というと? 誰でも使えるなら国民、いや世界中の人々全てに使用する事が可能という事になります。これは大事な事では? 」
「説明が難しいのでゲームみたいに説明しましょう。【身体強化】スキルを十全に扱うには、身体強化スキルを使用する、という意識的なスイッチと、モンスターを倒した分の経験値が必要になります。世の中のほとんどの人たちはモンスターを倒すという経験がないはずなので、【身体強化】スキルを全ての人間が保持していても使用する事は出来ない、ということです」
ゲーム的に説明したらほとんどが納得したのか、前のめりだった姿勢を止めて椅子に深く座り込んだ。
「スキルを地上で使うと眩暈や気怠さを感じるという報告が上がっているのは、【身体強化】についても同じだと考えますか? 」
「考える、というよりそういう仕組みになっているようです。スキルを使用するにも黒い粒子の存在が不可欠で、ダンジョン内は黒い粒子にある程度満たされていますので、空気中の黒い粒子を使用する事でスキルを発動させられます。勿論限度はあります。が、ダンジョン外には現状ほぼ無い状態です。その場合自分の体内に残っているであろう黒い粒子を使ってスキルを使用する事になります。地上ではスキルがあまり大っぴらに使えないというのはそこの理由もあると思います」
「なるほど……黒い粒子が必要ですか。これはたとえば黒い粒子で出来ている食品を摂取する事で賄ったりも出来るのでしょうか? 」
「現状では不明です。そこまでは問わなかったので聞いとけばよかったですかね」
そういえば聞き忘れてたな。ダンジョン探索者がウルフ肉を食べれば食べるほど経験値が貯まるなら、喰うだけで強くなることができるな。アスリートのダンジョントレーニングの一助にもなるかもしれん。次会ったらそれとなく聞いてみるか。
「ゴミについてですが……」
「自分のゴミは自分で処理しろ、だそうです」
「はい……」
あ、引き下がるの早い。これは最初から可能性を考えてなかった奴だな。そういえばスライムって核のゴミも処理してくれるんだろうか。気にはなるな。
「結局黒い粒子って何なんでしょうか」
「魔素、という事までは聞いています。それ以上の事はここではちょっと話せないですね」
「魔素、ですか。何らかの物質であることは間違いないのですね」
「そういう事になります」
その後もいくつかの質問と応答が進み、結局ギルマスとのやり取りをもう一度再現する形になった。ハッキリ俺から聞いたほうがまだ信用できると思われているのだろうか。それとも、公の場だから言質が取れているとさせたかったのだろうか。いずれにせよ、ここで話せることはもうこれ以上は無さそうだな。
「他に質問が無いようでしたらギルマ……坂野課長と交代しますが」
「もう皆さんこの辺で良いでしょう。会議を先に進めます。安村さんは坂野課長と交代してください。会議が終わり次第個人的に聞きたいことがいくつかあります。出来ればそのまま残っていてください」
坂野ギルマスに席を譲り、再びソファーに戻る。後は他のダンジョンの現状を報告し合う話と、ゴルフの予定が今月末にあるらしいことが分かった。この暑さでよくゴルフする気になるな。俺にはよく解らん。
しばらく寛いでいると、ギルマスがちょいちょいと手招きをし始めた。なんだなんだ、とパソコンのほうへ行くと、どうやら会議通話は終わりになり、個人通話に切り替わっていた。
「安村さん、私はダンジョン庁長官の真中です。先ほどは質疑応答ありがとうございました」
ギルマスからマイクを受け取り、返答をする。
「これもまあ、仕事の内だとは思っていますので」
「しかしあれですね、探索者が無職扱いなのはあまりいただけませんね。これは厚労省のほうに掛け合って職業としてきちんと定める必要がありますかね? 」
探索者が無職扱い、というのを気にしているらしい。たしかに、探索者が無職カテゴリならやりたいという人も少なくなるだろう。
「とりあえずあと三か月ぐらいは無職のままのほうが良いですね。失業手当がまだ貰えてますので」
すると、言い方が気に入ったのか笑いだした。割とフランクな人らしい。
「正直な方だ。来年度中には探索者をちゃんとした一つの個人事業主の職種として割り当てられるよう掛け合ってみますよ。まあそれはそれとして、一つ確認しておきたいことがありましてね。先ほど言い留まっていた魔素についてです。坂野課長からの報告には、その魔素をダンジョン外に持ち出す本当の所の理由について非常にぼかされた返答文が帰ってきていたので、正しく伝えてもらうためには本人に直接聞くのが早いと思いまして」
「仰る通りです。では、覚悟をお決めになっておいてください。おそらく一般的な観点から言えばとんでもない話になると思いますので」
「大丈夫ですよ。ローファンタジーは大好きなので大体の事柄には対処できると思います」
そう言われるとグッと持ち込んでいきたくなるな。安心して話せる。
「多分機密レベルの話になるのでさっきは話しませんでしたが、ざっくり言うと他次元の他の文明では魔法が発達していて、魔素を利用して魔法が使える文明が存在します」
「なるほど、いきなりの話でびっくりだよ。それで? 」
「その文明が魔法の発達とそれに伴う戦争でほぼ崩壊しました。同じことを二度繰り返さないために、その文明のある星から魔素を抜き取って魔法を使えなくしようという試みがありまして」
「その試みの一つがダンジョンだと? つまり、その他次元他文明のある場所からダンジョンというフィルターを通して、この星には無い魔素を吸い取らせている、という理解で良いかな」
「そういう事になります。代償としては数千年後に現れるであろう生物学的変化や、今後生まれて来るであろう子供が生まれつきスキルを有している可能性が指摘されていますが、少なくとも我々が生きている間はそういう事はないだろう、との事です」
真中長官はモニタから離れると上を向いて目頭を押さえている。大分効いたのだろうか?
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