467:社会見学2/4 小西ダンジョン報告
レビューいただきました。ありがとうございます。
それと全体的に表記ゆれがあったのを修正しました。
ゴホン、と咳払いをするとギルマスが説明を始める。
「先月も申し上げましたが、我がダンジョンにエレベーターが設置されました。今回は設置した事を公表してからの初めての報告となりますので、少し長くなるかもしれませんがご容赦を。まず、売り上げに関してですが、有史以来初めて小西ダンジョンは黒字を達成する事が出来ました。これもエレベーターの稼働により、十五層周辺の探索をして稼いで帰ってくる探索者の増加……そう急激な増加と言っていいでしょう、そのおかげであります。また、エレベーターの利用可能化により入場者数も増加する事になりました。エレベーターの使用手順については有志による手伝いもあって極めて分かりやすく解説されている動画と資料……動画のほうは資料の二十七ページにアドレスが載っていますので会議後そちらを参照して頂けると幸いです。入口からエレベーターに乗り、使用料金を入れてエレベーターが稼働して七層に着くまでの様子が動画として撮影されています」
「その有志の動画の撮影者が誰かというのは判明しているのですか」
質問が飛ぶ。坂野ギルマスは目線をこちらに移す。頷く。俺って事でいいよ、もう。
「判明しています。これもダンジョンを円滑に運営するために貢献してくれたと言えるでしょう。後で賞状か景品か何かを贈っておこうと思います。彼らの助けによって我々は極めて小さなコストで大きな実りを得られたことになります」
「アットホームなダンジョンで良いですな。家にもそういう子飼いの探索者が幾人か欲しいところだ」
「それがウリですから。入場者数についてはウルフ肉のドロップ方法の向上によって一層だけでなく二層、三層での探索を目的とする探索者が微増しているところです。そのおかげもありウルフ肉の査定量が飛びぬけて多くなったため、探索者一人当たりの平均査定金額についても増加しています。全体的な売り上げが上がっている傾向から見て、今後も継続的に黒字を確保できていくことが可能であると考えます」
坂野ギルマスが一息つく。すると他の参加者から質問が飛んだ。
「ウルフ肉のドロップ方法について公開した人物と、エレベーターの件で活躍した探索者は同一人物ですか? 」
他の参加者から質問が飛ぶ。もう一度坂野ギルマスがこちらに視線を送ってくる。頷く。もうどうにでもなーれ。
「同一人物です。なお、該当パーティーは二十一層への到達も達成しており、二十一層でダンジョンマスターとの再接触にも成功しています。彼らの貢献は非常に大であると考えます」
会議参加者からのざわつきが聞こえてくる。画面がこちらに見えている訳ではないのでどういう表情で驚いているのかは解らないが、坂野ギルマスは若干にやついている。
「二十一層での会話の内容については一部を記載してあります。資料の……二十八ページあたりに雑感として乗せてあるので参考にしていただきたい。全ダンジョンでそうである、とははっきり言う事は出来ませんが、おおよその部分は同等であると考えてよいと思います」
「当該人物を証人として呼ぶことは出来ますか? ここまで特定のパーティーが関与しているとなれば直接聞くのが最も手早いと思いますが」
なるほど、これを見越しての俺たちの参加か。ギルマス、仕事が早いな。
「実は、もうその場に居る……という事であってますか、坂野課長」
参加者の誰かから質問が飛ぶ。
「はい、今同席してもらっています。長官には事前に確認を取っておりますから今すぐ証言してもらう事も可能です」
坂野ギルマスが答える。言い方からして相手は目上……ダンジョン庁の長官というあたりだろうか。えらい人に出会う事もあるもんだ。無職が国政の長官と会談する事になるとは人生中々悪くないな。
「では、替わってもらってもよろしいかな? 坂野課長」
「解りました。替わりましょう……というわけで後よろしくね」
ギルマスは席を空けると自分のコーヒーを淹れ始めた。芽生さんはどうするんだろう。と思ったらこっち側に来て画面をのぞき込む姿勢になった。中腰は辛かろうて。
「椅子貰っておいでよ。そのままの姿勢で居るのは辛かろう」
「そうします」
芽生さんはふよふよと一階へ出かけた。トイレか、それとも逃亡か。
「えーと、お電話……じゃないな、替わりました。安村と言います、無職です」
他のギルマスたちの顔を初めてみる。若い人からそろそろ退職じゃないかという人まで様々だ。清州のギルドマスターは……なるほど、この人か。いずれ会う事もあるだろうから顔は覚えておこう。
「無職……ですか? 探索者ではなく? 」
「職業的には探索者は今のところ無職扱いだそうです。ハローワークでそう言われました」
「そ、そうですか……」
悪い事聞いたみたいな顔をされた。気にせんでええんやで。
「では安村さん、いくつか質問をさせていただいてよろしいか」
「はい、答えられる範囲で答えます。ただ、全員に対して公言して良い内容かどうか悩ましい場合は……どうしましょう? 後で長官に直接申し上げる形のほうがよろしいでしょうか? 」
「そうだね、その場合はそうしてもらおう。質問の前に手元の資料で小西ダンジョンに関する部分を読んでおいてもらいたい。そのほうがお互いの思考の落差が小さくて済むだろう」
手元の資料の小西ダンジョンのページを確認する。この資料の内容については共有されているという事で良いだろう。具体的に問題になりそうなダンジョンの目的については、最初に小さく伝えてあるドロップ品を持ち帰るというところまでで抑えられている。ここは後で長官に報告だな。
「ではまず……ダンジョンがどこも似た構造になっているという話だが、これはテンプレが有ってそれに沿って作られているため、とある。これはそれぞれのダンジョンマスターが示し合って同じ構造を用意したという考えの方向性で合っているかね? 」
ダンジョンが似たような形ばかりなのが気になるらしい。
「ダンジョンマスター曰く、現在あちこちに存在しているダンジョンについてはそうです。ただし、今後増加する可能性のあるダンジョンについてはその限りではない、という話を直接聞いています」
「という事はダンジョンが今後も増加する可能性があるということかね」
「そうですね、ダンジョンの目的であるドロップ品を持ち帰るという探索者活動があまり思わしくないペースで進むようなら、新しいダンジョンマスターが、もしかしたら兼任したダンジョンマスターが更にダンジョンを建設する可能性はあると言っていました。つまり建設されているけれどまだ確認されていないダンジョンが発見された場合、ダンジョンの構造を見ることでこれが何時建設されたものかを確かめる手段になりうると思います」
芽生さんがパイプ椅子を抱えて持ってきた。カメラの視界に入らないように画面を見ている。どうやら映りたくないらしい。次の質問が飛んでくる。
「ドロップ品を持ち帰ってもらう事が目的、という事だがそれによって彼らはどのような利益を生み出しているのか解りますか? 」
ドロップ品の目的か。何処まで話して良い物かちょっと悩むが、当たり障りのない部分までは話しても大丈夫かな。
「ダンジョンに関わる人ならみんな知っていますが、モンスターは倒すと黒い粒子に返還されます。その黒い粒子が元となってできているものがドロップ品です。ですのでドロップ品を持ち帰るという事は、ダンジョン外に黒い粒子を持ち出すことと同じ意味を持ちます」
「その黒い粒子を持ち出すことでダンジョンマスターたちにメリットがある、ということですか。では、黒い粒子を持ち出すことで環境的な影響が起こるという事でよいのかな? 場合によっては環境破壊を起こす、最悪の場合はモンスターが自然発生するという状態にもなりはしないか? という点が疑問として挙がるのだが」
なるほど、ダンジョン外でモンスターが発生する可能性か。確かに気にするところだな。
「ダンジョンマスター曰く、現在のペースで探索者が黒い粒子を持ち出す場合、ダンジョンマスター達が目標としている量を産出するまでには数千年単位の時間経過が必要ではないか、という事でした。これは仮に十倍の速さで持ち出されるようになった未来でも数百年かかることになります。そこまで先を見て環境破壊を気にするならばダンジョンを早期に封鎖してしまう必要が有ると思います。が、その前に次の世界大戦が勃発してしまうほうが早いと私は考えます」
軽く笑いが起きる。平和ボケここに極まれりかもしれないが、ダンジョンで鍛えられ身体強化でより強靭となった兵士が戦いに投入されるというのは容易に考えうる。だとすると、黒い粒子をまき散らし終わる時間よりも先に戦争が起きる可能性のほうが高いだろう。
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