466:社会見学1/4 火曜日が来た
新しい朝が来た。気持ちいい朝だ。やはり冷房は朝までつけっぱなしで寝るほうが気持ちよく眠れるな。ダーククロウの布団セットもあいまって更に気持ちがいい。
ゴキゲンな朝食を食べて、さて今日は火曜日、芽生さんやギルマスと約束の日だ。小西ダンジョンへ行ってギルドマスター級会議の報告会兼見学会が行われるらしい。
出来る限りの報告は二十一層へ到達した時に行ったと思うのだが……いや、詳細まで話すというところまではいかなかったか。途中で投げ出されたんだったな。今日はその詳細な部分を再度報告するという形になるんだろう。
念のためいつもの探索者スタイルに着替えておく。案外手早く終わってそれから潜ることになるかもしれないし、丸一日かけて会議を行うでもないだろう。さすがにそこまで多くの報告が行われるという事は考えにくい。
普段のギルマスの仕事ぶりを見るに、月例報告会というぐらいだからその月の収支を報告して黒字転換したら拍手したり、新しく鬼殺しが出たら拍手したり、階層が進んだら拍手したり、そういう和やかな会議である可能性が非常に高いと考えておく。
なんか訪問販売の売上報告会みたいなイメージがどうしても頭から離れない。実際どんな感じなんだろう、というのを知っておく意味でも体験しておいて損は無いと考える。とりあえず昼ご飯どうするかな。まだ家で調理している時間はある。念のため二人分、いつものウルフ肉の生姜焼きに野菜を添えて用意しておくか。
生姜焼きのたれというかシーズニングというか、肉を適当に薄切りにしてたれに漬けて揉んで焼いて終わりという便利な文明の利器がこちらにはある。
その間に野菜を千切って散らして炒めて、キャベツを刻んで別容器に入れておき、ウルフ肉を焼いて終わり。今日はいつもと違って少しだけバターを垂らしておいたのでまた更に違った味わいになるだろう。後はいつも通りパックライスを温めて終わりだ。
今更思ったが、我が家はキャベツの消費量が多いな。まあとにかくお弁当が出来たので後は出かけるだけになった。
万能熊手、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
お泊まりセット、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
会議に出席するだけかもしれないが、指さし確認は大事である。さて出かけよう。そして出かける今になって気づく。会議って何時からだ? 昼からだったりしたら午前中潜って昼から会議に出るという事も出来るが、十一時からとかそういう中途半端な時間だったらどうしよう。
「今更なんだけど、今日の会議何時からか聞いてなかった」芽生さんにレインを送る。
「とりあえずダンジョン着いてギルマスに確認してみましょう」おぅそうだな。
とりあえず家を出ることにした。電話かけても誰もいない可能性があるし、遅れるよりは早く着きすぎてしまっているほうがマシだ。スライム潮干狩りして待ってても良いしな。
◇◆◇◆◇◆◇
というわけでダンジョンに着いたー。芽生さんとはバスで合流した。
「洋一さん、大事な事を聞き逃すの時々ありますよね」
「日付しか記憶してなかった。歳かな」
バスに揺られつつ、もし時間が余ったら何するかを詰めておく。
「とりあえず二時間以上空きがあるならウルフかダーククロウをちまちま狩りましょう。それより短かったら大人しくスライム潮干狩りしましょう。やれることと言ったらそれぐらいしかないですね。後はお昼を挟むならご飯を食べに行けるかもしれません」
「お昼かー。お昼一応作ってきたんだよね、ウルフ肉の生姜焼き」
「生姜焼きですか、ギルドにレンジが有ったらパックライス温めさせてもらって端っこで食べて待つのが良さそうですね」
「それぐらいしかなさそうだ。早めに終わって昼からちょこちょこと狩りに出かけられると一番良いんだが」
バスがダンジョン前に着いた。とりあえず建物に向かう……と、レインに着信あり。結衣さんからだ。先日の質問の答えだろう。さては今までダンジョンに潜りっぱなしだったんだな。
「そう名乗ったの? 」 名乗った事が意外だった、という反応か。
「勘でなんとなくそうのかなって」 返信しておく。
「結衣さんですか? 」
スマホのやり取りに芽生さんが訊ねてくる。
「何故そう思った? 」
「だって他にやり取りしてる人思いつかないし。洋一さん他にレイン交換してる人居なさそうだし」
「ひどくね? まあ合ってるんだけど」
「なんかあったんですか? またデートの約束でもしてるんですか」
若干拗ねている気がする。とりあえず、先日エレベーターで運んだ怪しい四人組の話をする。結衣さん経由で話を持ってこられたという事と、ムキムキマッチョマンで統制が取れ過ぎたパーティーだったので日ごろから体を鍛えている軍関係の人間じゃないかという事を推察してその辺を結衣さんに質問として投げておいたことまで話して、ようやく納得したらしい。
「そんなことがあったんですねえ。民間のダンジョンなのに公的機関も目をつけ始めましたか」
「今後は清州からこっちにコッソリチームを派遣するようになるかもしれないな。そうなると二十八層や三十層へ到達するのも彼らのほうが早いかもしれない」
「ということはつまり……ゆっくりダンジョンに潜れますね」
「再び自由が手元に戻ってきた気がするよ」
ダンジョンの建物内に入り、そのまま二階の応接室とギルドマスター室へ。
「安村と文月です、入りますよ」
「はいよ、どうぞ」
ギルマスはさすがにパターの練習はしてなかった。会議用の資料なのか、色々纏めたり髪を整えたり忙しそうだ。
「ああ、すまんね。もうすぐ会議だからちょっとあわただしくてね。出番までその辺でくつろいでてくれるかな。ドリップマシン自由に使ってくれていいから」
どうやら本当に忙しいらしい。忙しい事もある、という事を覚えた。ちゃんと仕事しとるやん。そういえばリヤカーの手配の時もかなり早かったな。
「洋一さん洋一さん、ギルマスが働いてますよ。珍しいですね」
「そうだな芽生さん。珍しいな」
「君らが普段どういう目線で私を見ているかがよく解ったよ」
拗ねながらも会議の支度は済ませたらしく、凛々しい顔でパソコンの前に陣取る。カメラ使ってのビデオ通話で会議は行われるらしい。俺たちはフレームアウトしたところでコーヒーを飲んで寛ぐことにした。
◇◆◇◆◇◆◇
会議は踊る、されど進まず……ということはなく、極めて順調に進んでいるようだ。各ダンジョンの月間収支報告と入退場人数の確認、それから持ち込まれる物品の変化について等、報告する事はそれぞれのダンジョンで違うらしい。
大きく変わったのは東海地方……というより小西ダンジョンに近いダンジョンだ。何処のダンジョンも十五層近辺のドロップ品の査定が減少している、という事らしい。理由は何となく察せられる。小西ダンジョンが探索者を吸い上げているんだろう。
清州ダンジョンの番になった。清州ダンジョンのギルマスらしい前沢課長からの報告が入る。こちらに関係があるからか、ギルマスはスピーカーのボリュームを少し上げてくれた。
「ここ一ヶ月の変化ですが、Cランク以上の探索者が若干名減少しております。原因については後から説明がされると思いますが、探索者が他所のダンジョンに流れているようです」
話し声が一瞬止まる。多分小西ダンジョンの事だろう。ギルマスがこっちに目線を送ってウィンクしてくる。俺のせいか。
「そのおかげでドロップ品の納品金額が最終的に五パーセントほど減少する結果になりました。ですが新たにCランク認定された探索者数が先月に比べて増えておりますので、彼らが続けて清州ダンジョンに潜り続けてくれるならその分の収支減少幅は確保されると思います。入場人数については新規に探索者になった者が増加傾向にあるので人数の大きな増減はありません。また、ウルフ肉の需要増加に伴ってウルフ肉の供給が追い付くかについての問題ですが、これも他所のダンジョンで発表されたドロップ確定方法の流布によってウルフ肉の需要増に追いつくスピードでドロップ品の査定が増えておりますので、その点については問題ないと思われます」
ここで一呼吸会話が途切れると、ここで他の人から質問が入る。
「Cランク以上の探索者が減少した事についての見解をおたずねしたい」
「それにつきましては、この後の発言者である小西ダンジョンの坂野課長から詳しい説明がされる事と期待しております」
「Cランク以上とそれ以外の探索者では査定される金額に大きな隔たりがあります。その分をカバーするほど探索者数が増えている、と考えてよろしいですか」
「探索者の平均昇級速度を考えますと、半年ほどの長さで見れば再び昨月までの売り上げを確保するのは難しくないと判断しています。お手元の資料の二十三ページに詳しく記載されていると思いますが、査定金額のグラフが添付されていると思います。それによると……」
清州ダンジョンでの金額ベースでのやり取りの解説が始まった。多分関係ないので適当に聞き流しておこう。大事なのは清州からそれなりの人数がこっちに流れてきている、という事だけは確かだ。
「……質問が無ければこれで終わりたいと思います。次、小西ダンジョン、坂野課長の報告をお聞きしたい」
ようやくここの出番らしい。何を発言してくれるのか、そして真面目に仕事をしている様子を見れるのか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





