464:山分けの難しさ
次回飯テロ(予告)
さらに十一層を一周して戻って来た。体が十一層に慣れたのか、お互い被弾せず遅れもせず、実に順調な探索が出来た。目的のオーク肉は二十個ほど手にいれることができた。宿泊ならもうちょっと稼いでから帰る所だが、ダンジョンのルールは順守しなければならない。
「名残惜しいが帰ろう。ちょっと休憩してもう一回十層突破だ」
「帰り道こそ油断しないようにしないといけませんしね。最後の最後で怪我したり損したりするのは御免被りたいところです」
「その為にも水分とカロリーは大事だ。ほらチョコとカロリーバー」
チョコの包みとカロリーバーを渡す。田中君は受け取るとムニムニと咀嚼し始めた。そして水分が欲しくなったらしく手持ちの水分を飲む。
「相変わらずこのカロリーバー、味は美味しいんですけど喉が渇きますね」
「そこだけが欠点かな。それ以外はパーフェクトなんだが」
この手のカロリーバーの難点は喉が渇く。唾液が出るような口の中ならまだいいが、しっかり動いて汗をかいて水分が欲しい時にこれを口に入れるとパサパサしてどうにもならなくなるし、歯に張り付いて気になって集中できない等の問題がついてまわる。
特に今は一仕事終えての休憩だ。これから集中が必要な十層突破前に歯にカスがへばりついたままでは俺は集中できない。しっかり口の中をすすいで出来るだけ違和感の無いようにしておく。
「さて、十層の帰り行こうか。二回目だから大体どうなるかは解ってるし、行きより楽に帰れるはずだ」
「そですね。気を抜かず真面目にやってれば抜けられるという自信が持てたので肩の力を抜いていこうと思います。サポートお任せします」
「任された」
十層に上がる。すると、タイミングよく九層側から現れるパーティーがあった。これは運が良いのか悪いのか。稼ぎは少なくなるが気合を入れた分ほどのモンスターは寄り付いてこないという事になる。
「ありゃ、ちょっとの間お休み歩きタイムだな。まあこんな日もある、急かずに行こう」
「五分ぐらいは楽が出来そうですかね」
「そうだな、でもまあ気を抜かずに行こう、【索敵】スキルがあればこの辺も楽なんだろうけど」
「僕そんなスキルオーブ拾ったら迷わずに換金すると思います。明らかに年収より多く稼げそうなので」
索敵スキルをわざわざ覚えた芽生さんがここに居なくてよかったと思う。
そのまま五分ほど歩き続けたところでリポップを始めたのか、ジャイアントアントが湧き始めた。
親指、九、五。四匹任せつつ、こっちも近接で仕留めながら酸の発射体勢に入ったジャイアントアントをピンポイントで雷撃していく。これは余裕だな。元々Dランク時代が長かったおかげで充分なステータスブーストが出来ているのか、田中君の動きにあまり淀みや無駄がないし速度も明らかにジャイアントアントの動きを超えて翻弄さえしている。
人さし指、七、三。ワイルドボアは肉を十分に集めたが、田中君的には多すぎて困る事はないだろう。エレベーターが使えない関係上明日の朝一で地上に戻る事になるだろう。その点はパーティ-を組むとしては不便だな。
親指、七、三。数多く向こうに任せる。酸の発射姿勢になったらこっちで対応するのであらかじめこっちの手を空けておく。案の定、一番後ろから来ていたジャイアントアントが酸を撃ち出しそうな姿勢に移行し始めたので即座に雷撃。お互い無傷で切り抜ける。
「もっと密接して戦うほうが酸は飛んできにくいよ、体験上」
「まだ噛まれて大丈夫という自信がないのに中々厳しいこと言いますね」
若干話す余裕が出て来た。良い傾向だとは思うが、話に夢中で敵に気づかないという事態にはなりたくないので一言二言話すだけに留める。長く話したかったら九層へ行ってからでもできるからな。
親指、九、五。全部いっぺんに近寄って来たのでチェインライトニングで一掃……したかったが二匹生き残った。まだジャイアントアントを一発で倒すほどの威力にはなっていないのか、それとも出力が足りなかったか。どっちでもいい、倒すことに集中しよう。
こっちで手数が稼げた分、田中君の動きを見る。出来るだけ密接して、というアドバイス通りにギリギリの距離で避けるようにしている。酸の心配は無さそうだ。これに慣れればソロで九層を巡る時でもグッと楽になるはずだ、がんばれ。
そのまま順調に十層を潜り抜けて階段まで一歩、という所まで近づいてのジャイアントアント十。もうスキルの出し惜しみはしなくて良いだろう。最大出力でチェインライトニングを発射、五匹飛ばせた。残りを二人で片づける。ドロップを拾ったらすぐさま階段へ移動、階段を駆け上がる。
階段を上がった九層、周辺に敵影無し。これで一息つける。
「ふー、無事抜け切れたな」
「これを毎回文月さんと二人でやってたわけですか。よくこんな所抜けられましたね」
「抜けられるようになったのはCランクになってからだからな。それまではひたすら九層でスキルとステータスを磨いてたよ」
「あっちでパーティー組んでる時もそうでした。ひたすら九層に潜って素材を集めて帰るのを繰り返して……って感じですね。パーティーメンバーにスキル持ちが居たので多少楽は出来ましたが」
Dランクでスキル持ち。かなり幸運なのではないか……と思いつつ、自分らは除外、自分らは除外と脳内で唱えておく。
一休憩終えると九層の一番外側を歩き、帰り道のクールダウンをしていく。さっきまでの密度と比べれば何ともない、何なら俺一人で狩り続けてもいいぐらいの量を相手にしながら帰り道を急ぐ。
三十分かけて九層を抜けると、八層はランニングで抜ける。田中君は普通についてきている。
「急がないと間に合わない感じですか、もしかして」
「ちょっと急いだほうが良いと思う。ほら、ドロップの山分けの時間も要るし」
「そういえばそうでしたね。急ぎましょうか」
そのままペースを上げて、ワイルドボアを爆散させつつ走ったら二十分で七層に到着した。自転車が有ったので乗り、一旦俺のテントまで戻る。さあ山分けの時間だ。どうやって山分けしよう?
田中君と荷物の中身を出し合う。ボア肉が五十五個、ボア革が十八枚、蟻の牙が二十九個、キュアポーションランク1が九個、オーク肉が十二個、ヒールポーションランク2が二個。後は大量の魔結晶。魔結晶はこっちで引き取りかな。田中君の前ではどの魔結晶が何個あるか、何てのを見分けられるのを不思議がられるはずだ。
芽生さんとコンビなら何の魔結晶が何個とはっきり物を言えるので山分けがしやすい。それ以前にドロップ品の管理は俺が保管庫でやってるから査定結果を二等分して渡すだけで済む。楽というか適当というか、その辺を任せてくれている芽生さんの度量は中々のものではないだろうか。
「肉は全部田中君で良いとして……さて、後はポーションで適当に分ける感じか。肉とポーションそっちが総取りぐらいでどうかな」
「ちょっともらいすぎじゃないですかね? もうちょっと少なくても良いような気がしますが」
「じゃあヒールポーションのランク2を一本だけもらっておく。その辺で手をうとう。でないと延々押し付け合ってる間に門限が来てしまう」
「解りました、それで行きましょう」
田中君は引き下がった。ここで押しつけ合いをしてモヤモヤし合うよりもすっぱりお互いのラインを決めるほうに天秤を傾けてくれたようだ。
「よし、山分けも終わったところで俺は急いで帰るわ。忙しなくて済まんな」
「いえ、門限破りをするよりはマシだと思いますから」
「じゃ、またダンジョンで会おう」
時刻は午後六時。自転車で六層前まで行ければ充分間に合う時間だ。ダッシュで帰ろう。門限破りで門にだきついて開けてくれーとすがる行為はやりたくないし、後で怒られるのももっとやりたくない。俺も良い歳なのだ、怒られて頭を下げるのはまあいいとして、毎日の約束を破るようでは小西ダンジョンの探索者として情けない。
◇◆◇◆◇◆◇
エレベーターの中で荷物を仕分け、一層に戻って帰り道を急ぐ。無事に門限を破らずに出入口まで来ることが出来た。久しぶりに時間ギリギリまで粘っていたような気がする。今日はごゆっくりでしたねと受付で言われる程度には久しぶりだ。
「今日はごゆっくりでしたね。何かありましたか? 」
「中で臨時パーティー組んだおかげですね。最初から宿泊ならこうはならなかったんですが」
査定カウンターに行っても珍しいと言われる。ギリギリまで粘ってもそんなに収入が変わらないのは確かだ。スライム数匹分最後に狩るかどうかを悩みつつ結局手を出さずに帰って来た分、時間は短かった……いや、あんまり変わらないか? これは十層で他所のパーティーと出会わなかったら一層を全力ダッシュするところだったな。
査定が終わり本日の儲けが出る。二十六万五千八百十五円。そこそこだった。やはり田中君のほうがちょっと多めになったかな? まあ誤差だ誤差。後腐れなくお互い気持ちよくまたパーティーを組むための費用だと思えば安いものだ。
支払いを振り込み依頼にして、まだちょっとだけ明るい中バスを待つ。良かったな田中君、Cランクになれてあこがれのオーク肉を手に入れられて。これで会社内でも田中君の評価がちょっとぐらいは上がるに違いない。
Cランクになったという事はその気になればパーティーを組んで十七層以降、レッドカウにも挑戦権が与えられたという事だ。もしかしたら一緒に行く事もあるかもしれない。楽しみにしておこう。
さて夕飯を何にしようかな……
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