462:行くぞ田中
九層の中くらいのところを進みながら、十層の心構えを軽くレクチャーする。
「六匹までなら俺一人でも、八匹でもギリギリスキル込みで対応できるから出来る限りの数を担当してくれると嬉しい。後酸だけは気を付けて。基本的には九層の森に近いところと変わらないから、できるだけ引き付けつつ倒すようにすると酸も撃ってくる可能性が下がるから」
「解りました。覚悟しておきます。予定としてはどんな感じで? 」
「ここで肩慣らしして暖機運転して、十層入る前にちょっと休憩してから十層に入る感じでいこう。ここで田中君の限界数を見させてもらうからその残りを俺が相手する感じで行こう」
早速ジャイアントアントが六匹くる。田中君は率先して飛び出すとそのまま順番をつけて二匹倒す。残りの四匹の内二匹はこっちに素直に向かってきてくれているのでそのまま一匹ずつ丁寧に頭に直刀を突き刺す。
残り二匹。一匹は酸の撃ち出し体勢に入った。雷撃ですぐさま黒い粒子に還すと残り一匹がこちらに向かってくるが、その間に田中君がさっと近寄り倒す。今のところ問題ないな。ここで躓くなら諦めてここでボア肉を集める所だった。
「さすがに向こうでもパーティー組んでただけあってその場の連携慣れはしてるね」
「前にも安村さんとは組んでますからね。それを思い出しながらですし、安村さんが後ろで場を見てくれているので安心して突撃出来ます」
「じゃあこれからはそういう形で。酸が来そうなら優先して雷撃していくから思う存分前で戦ってほしい」
よし、ちょっとだけ楽が出来るな。そのまま四匹から六匹の集団を相手にしながら十層の階段前まで半周分歩き通すことにしよう。
ワイルドボア四匹が現れた。二人とも前へ出て短時間で倒すように心がける。その分前に進めるし時間が勿体ない。出来るだけ早く十層へもぐりこんで十層を突破し、十一層でオーク肉を稼ぐ時間を取りたい。ジャイアントアントにしても同じだ、少し早めに倒すよう心掛ける。
先日の訓練の結果、一時間近くスキルを使いっぱなしにしても眩暈が起こらない事は確認済みだ。十層片道ずっとスキルを使い続けても問題ないぐらいには進歩していると思いたい。田中君も居る事だし、雷撃する機会はその分減るだろう。十層突破が楽しみだ。
九層をさっさと半周して階段にたどり着き、お互いに問題がないことを確認した。さて小休止、水分取って十層だ。俺はそろそろ一人でもいけそうな気がしてきているが、田中君は小西ダンジョン十層の洗礼をまだ未体験のはずだ。
「十層に突っ込む覚悟できた? 俺は出来てる」
「ちなみに何匹ぐらい来ます? 体験談でしかまだ聞いたことないんですよね、十層」
やはり未体験だった。経験者として最悪のパターンだけでも伝えておかないとな。
「ちゃんと一グループずつ対処するなら一回で最大十匹かな。一番外側でこれ。二分に一回ぐらいのペースで現れるから、戦闘時間含めて二分から三分に一回はエンカウントするぐらいのイメージで。階段までぶっ通しだからエンカウント確認したらハンドサインで」
「了解っす。足引っ張らないように頑張ります」
「まあ、酸喰らわない限り大丈夫だし、喰らってもヒールポーションの在庫はある。ただ痛いから気を付けるのと、完全に急所に喰らったら多分ヒールポーションじゃ済まないからね」
「やっぱり小西ダンジョンだけここの難易度はおかしいですね。Cランク試験の時はさっきまでぐらいの密度でしたよ」
田中君が若干呆れ気味に手を振る。やっぱり小西ダンジョンは他のダンジョンから見ても十層の密度は異常らしい。
「小西ダンジョンの狭さ故だ。その代わり階段までが近いから移動時間が短くて済む。それに何より試験は試験だからな。こっちが本番と思えばこそだ」
「そこそこの強度の敵を長く味わうか、きついのを短く味わうかですか。どっちもどっちですが、集中力が続くかどうかを考えたら短いほうが楽は出来そうですね」
「終わったら休憩も取れるし、力を出し切るつもりで乗り越えれば何とかなるって。実際俺は何とかなってる」
「安村さんがバックアップしてくれるなら安心できますね……っと」
田中君が休憩を止めて体をポキポキ鳴らし始める。俺も休憩は充分とれたと感じたのでポキポキ鳴らし返す。
「中々凝ってますね。ボッキボキじゃないですか」
「あー、自宅にマッサージチェアおくのも悪くないな。今度検討してみるか。福利厚生で経費になるならぜひ導入したい」
「さすがに無理じゃないですかね」
全身の筋を伸ばしてミチミチ言わせると休憩を終了させる。十層に下りようかと言いだそうとしたところでワイルドボアが三匹寄って来たので近接攻撃で対応。一応今からスキルをフルに使って行く予定なので省エネにした。ドロップはきちんと出た。
「さ、行くか。魅惑の十層へ」
十層の階段を下りる。いつも通り、ワイルドボアとジャイアントアントの足音で騒がしい十層だ。最近はエレベーターを使うために自力で下りていく探索者も増えたらしい。にぎやかだという事はそれなりに通りやすくなるという意味でもあるが、今日は残念ながら人がいないようだ。
他のダンジョンでは自分の実力を確かめるためにもここで何分間耐えきれるかを勝負するというチャレンジが行われるらしいが、ここでやると多分死ぬ。まだ俺も死ぬと思う。出来るとしたら二パーティーぐらいでひたすらここを回り続けるという修行だと思うが、そこまで出来るパーティーならそれぞれ行ける所で稼いだ方が効率は良いんじゃないだろうか。
まあ何にせよあまり長居したくないエリアであることは確かだ。自分のペースを超えてモンスターが湧き出てくるのはストレスにもなる。さっさと抜けるに限る。
「早速来るぞ、戦闘準備」
親指、八、四。前に来た時は小寺さん達と一緒だったからかなり楽だったが今回はそうもいかないからな、しっかり気合を入れて臨む。
奥側の二匹が近寄ってくるのを確認すると一匹を斬撃で、もう一匹を雷撃で処理し、そのままスピードを殺さないように近づいて二匹とも潰す。田中君のほうを見ると一匹が酸の射出体勢、すぐさま雷撃で黒い粒子に還す。
ドロップを拾うとあごをしゃくって前へ進むことを急かす。さすがにここでドロップ品の持ち直しをする時間はない。待ってれば待ってるだけモンスターは寄ってくるのだ。出来る限り短い時間で突破するにはお互い一時的に持てるだけ持つ。
人さし指、七、四。ちょっとした癒しタイムだ。近寄ってくるのを待って一匹ずつ処理していく。らくちんらくちん、移動時間と肉を稼げたのでよしとする。
親指、十、六。最大数が来た。田中君がこれを何回か乗り越えられれば今後の探索活動もかなり楽になるだろう。一匹ずつ向かってきているようで、順番に一発ずつ入れて確実に倒していく。奥の射撃体勢の二匹を雷撃で吹き飛ばすとこっちも一匹ずつ迎撃、無事に乗り越えた。第一関門は突破だな。
親指、六、三。かなり楽をさせてもらった気がする。三匹順番に近接して終わり。ドロップはそれなり。
その後は三分おきぐらいのペースで順調に六から十の敵が来たが、三回目の十匹相手で感覚をつかんできたのか、自分の立ち位置とこっちに押し付ける相手を明確にして動けるようになってきた。よしよし、その調子だぞ。
親指、九、五。階段前の最後の一回。面倒くさいので全て雷玉で終わらせる。同時に五個発生させられるようになったのでそれを各自のジャイアントアントに配って破裂させる。俺も割と成長したな。
そのままドロップを拾うと階段に駆け込んで、十一層へまず下りておく。階段を下りたすぐのところに敵影見えず。ここで一息休憩だ。
「何とかなりましたね。かなりおんぶにだっこだった気がしますが」
「初回にしては頑張ってたと思うよ? チョコ食べる? 」
「食べます。ここでチョコ食べる事になるとは思いませんでしたが」
素直に受け取り口の中でゆっくり溶かしているようだ。俺も水分を取るとチョコを一つ。甘くて体に染み渡る。バニラバーとは違ったカロリーの補給に体が喜んでいる気がする。
「さて、休憩したら本番のオーク狩りだ。出来るだけ稼いで帰るぞ」
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