461:お帰り田中
四千百万PVありがとうございます。そしてお帰り。
途中一度目が覚めてしまった。いくらダーククロウの布団セットに包まれているとはいえ、ファッキンホットなこの時期に光熱費を気にして夜中に冷房をタイマーで切るような事はするべきでは無かった。
おかげでちょっとだけいつもより寝覚めは悪い。体の疲れが取れていないとかそういう訳ではないが、いつもより寝覚めは悪い。快適な睡眠に慣れてしまったせいだろう、罪な奴だなといいながら枕をポンポンたたく。
とりあえずいつもの時間には起きれた事を良しとしつつ、いつものご機嫌な朝食を作る。冷蔵庫の中と保管庫の中を確認し今日の帰りは買い出しに行く事を確認すると、着替えてすぐメモに残す。買い出しに行くという事は夕食は出来合い物で済ませるという事でもある。さて、昼飯も含めてどうするかな。朝食を作るついでに昼食も作ってしまうか。
特に食べたいものがこれと言って思い浮かばなかったので、今日の昼食はサンドイッチだ。食パンにレタスと焼いた塩胡椒ウルフ肉にごまだれを少々。それに輪切りにしたトマトを挟んでWLTサンドと行こう。これなら朝食を作る片手間でついでに出来る。
弁当と朝食を作り終わると早速実食。やはりいつも通りの朝食は体の調子を見るのにちょうどいい。もし朝食が進まなかったらそれは体のどこかに異変が起きているサインかもしれない。今日のところは問題は無さそうだ。
朝食を片付け終わり、いつものタッパー容器に昼食を詰めるとダンジョンルックにお着替え。今日も引き続き九層を巡って己の限界にチャレンジしていく予定だ。査定最高記録を目指すつもりはないが、そこそこの収入は確保したいと考えている。毎回六層と九層で飽きないのか? と他の人は思っているかもしれないが、巡っているうちに自分が強くなっている実感を感じられるのは間違いないのでそれを楽しみにしている。
万能熊手、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
お泊まりセット、……乾いてるのを確認して今取り込んだ、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日も昨日も同じ装備だが、毎回確認する事に意味がある。もし何かしらの異常があれば探索を中止して補給物資を買い求めに行かなければならないからな。その抜けが無いことを確認するのは重要だ。
◇◆◇◆◇◆◇
いつも通りの道、いつも通りの電車、いつも通りのバス、見慣れた格好の探索者。バスの密度はここ一ヶ月高め。受付で順番待ちをする事も時間の無駄と感じなくなってきた。これが慣れか。
そしていつも通り日帰り申請をしてエレベーターで七層へ、降りたらすぐに六層で茂君。七層に戻って早めの昼食と、毎日のルーティンをこなす。平和だなぁ。今日も九層をギリギリまでグルグル回って行くか……と思っていたんだが、懐かしい顔がこちらへ向かってくる。
「安村さん! お久しぶりです!! 」
昼食のお手製サンドイッチを食べて食後のコーヒーを飲んでいたら久しぶりの顔を見かける。田中君だ。田中君が帰って来た。
「お、戻ってきたんだな。お帰りなさい」
「はい、ただいま! 武者修行の旅が終わったので帰ってきました! 」
武者修行の旅だったのか。探索で武者修行とは一体……ああ、そういうことか。
「もしかしてCランクになって帰って来た? 」
「さすがですね、その通りです。余所のダンジョンに通う同じ会社のメンバーでパーティー組んで、そこで頑張ってきました」
探索者証を俺に見せつける。きちんとそこにはCランクと書かれていた。ついでに、末尾の番号は1になっている。一回探索者証失くしたんだな。
「これで誰かに引っ付いてオーク狩りに勤しんだりできるようになったわけだな」
「そういう事になります。今後は時々お世話になるかもしれませんがその時はよろしくお願いします……と、挨拶はこのぐらいで、僕が居ない間に随分人が増えましたね」
田中君は久しぶりの小西ダンジョンの様子に驚いている。それもそのはずだ。居ない間に鬼殺しが生まれてエレベーターが公表されて、さらにそこから一か月で他のダンジョンから小西ダンジョンに拠点を移した探索者が増えて。一番美味しい時期を逃したのかもしれない。
「そうだな、ちょうどいない間に色々あったよ。積もる話は……狩りながら行くか? 俺芽生さんが居ない間は一人で十層以降に潜るの止められてるんだよね。田中君が一緒に居れば条件はクリアってことになるんだけど」
「初オーク肉は試験で全部持っていかれちゃいましたけど、小西でのオーク肉はまだですからね。是非ご一緒させてください」
やっとホームグラウンドに帰ってこれた、という気持ちが大きいのか、田中君のテンションは高い。
「俺は今日は日帰りだからあまり長い時間付き合う事は出来ないけど、それでいいなら行こうか十一層」
「文月さんにはかなわないと思うんですけど俺なりに頑張るんでよろしくお願いします」
「ちなみに試験受けた時は何人だったの」
「四人ですね。小西ダンジョンはやっぱり数が多すぎるのかそれとも人数のおかげか、かなり楽に潜って帰ってこれましたよ」
言い方を聞く限りだと清州ダンジョンで試験を受けた訳ではないらしい。Cランクになるための合宿免許的なコースがあったりするんだろうか。気が向いたら調べてみよう。
「とりあえず今の時間から逆算して……十一層では二時間ぐらいは狩りできるかな。今すぐランニングしながら行くならもうちょっと長くは出来るかもしれないけど、午後六時には七層に戻っておきたい」
「了解です、早速準備してきます。なんかゆっくり休憩してたのに申し訳ないですね」
「こっちとしても稼げるタイミングではしっかり稼いでおきたいからな。ちょうどいいから問題ないさ」
早速田中君とそれぞれのテントに戻って出かける準備をする。二時間だけのオーク狩りだが九層をグルグル回るよりはちょっとだけ儲かる。十層往復するだけでも結構な稼ぎを得られるのは間違いない。一人で回るよりも二人で回ったほうが精神的に楽だという事もある。
「さあ、行きましょうか初小西十層」
田中君が若干神妙そうな顔で覚悟を決めている。自転車がちょうど二台あったので使って八層まで行き、八層を歩きながら近況報告をする。ワイルドボアも近づいてきた奴を処理しながら時々落ちるドロップ品をそれぞれ持つ。いつも通り肉は田中君行きだ。
「にしても、田中君がCランクになぁ。どんな心境の変化? 」
旅に出るっていうから普通に旅行に行っているかと思っていた。そういえば旅行のお土産貰ってないな。何処に旅行に行ったかも知らないし、お土産要求されてたのは出かけた後だったから伝わってないだろうから仕方ないか。
「なんかみんなCランクになって僕だけDランクのまま置いてけぼりみたいな印象を受けまして。なんか急にさみしくなっちゃったんですよね。それにCランクから取れるオーク肉は利益幅が大きくて。あんまり数が取れない分なのかもしれないですけど、取れるようになっておくだけでも評価されるかなって」
「持っておいて損はない資格、みたいな位置づけなのかCランクは」
あ、ダーククロウだ、焼こう。きちんと羽根も回収していく。とりあえず羽根は潰れないように外側のポケットに入れておこう。
「そうですね。後は……刺激が欲しかったってのも嘘じゃないですね。時々は深く潜って違う環境を楽しむ、そんな探索者であっても良いかなって思いまして」
「たしかに刺激は大事かもしれないな。今後は時々いくつかのパーティーの助っ人しながらボア肉をメインにしていく感じか」
「たまに清州の同僚に連絡取ってオーク肉取りに行くのに混ざったりもするつもりですが、基本的には前と大きく変わらない感じですかね。例えば会社から誰か派遣されてくるならその人と潜る、という形になるかもしれませんね。何せエレベーター使えますし」
会社として小西ダンジョン常駐班を設置するなら更に人が追加派遣されてくる可能性もあるわけか。確実に肉を確保する手段としてエレベーターが使えるかどうかは割と重要だ。
「そのためには鬼殺しにならないといけないが……鬼殺しも臨時パーティーで行くとか? 」
「臨時かどうかは解りませんが、会社から何を言われるかでしょうね。鬼殺しになって帰ってこい、も可能性として有るでしょうし」
「そのほうが移動時間を丸々狩りに使えるから効率はより上がるだろうね」
「さすがにソロで鬼殺しになれる探索者はまず居ないでしょうから、しばらくエレベーターはお預けだと思います。会社としてそこに商機を見出せば何人か送られてくるんじゃないですかね」
俺なら行けそうな気がしないでもないが黙っておこう。正攻法じゃないし。
「そんなわけで、今日は一つ宜しくお願いします」
「まあ田中君とは初めてじゃないし、動きは大体覚えてる。俺がカバーするから」
話を軽く詰めている間に九層への階段へ着いた。慣らし運転はここからだな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





