46:暴露
プレハブ二階建てのギルドの中へ入る。とりあえず一息つけるために、無料で配置されている天然水を一杯いただく。
あー沁みるわー。疲れた体に冷たいお水が沁みるわー。
現実逃避しながら休憩していると、文月さんがにじり寄ってきた。
「これ、査定に出しといた分」
「ありがとう。えっと……おぉ、ちょうど五万円だぞ、五万円。キリが良くていい数字だな」
レシート五枚分の金額を足すと丁度五万円になった。ダンジョン税引いて四万五千円だな。過去最高記録を更新した。やはり、一匹いくらかよりも時間当たり何匹倒せるかのほうが大事らしい。
早速支払いカウンターに行って支払ってもらう。財布の中が暖かくて気持ちいい。
「時給換算でいくらになったー? 」
「二万ちょい」
「おー」
「すげーだろぉ? ありがとね、アイテム拾い手伝ってくれて」
「いいよ、それよりもっと大事なことを掴んだと思ってるから」
やっぱり話題はそっちに移るか。しかし、人がいるところで話したくないな。聞かれる人数は少ないに限るし、うっかり聞かれてしまった時のことを考えると特にな。それこそ潮干狩りおじさんどころの騒ぎじゃなくなるからな。秘密は知る者が少ないほどいい。
「……ここでは話せない、人目がある」
「やっぱ言えないとかは無しよ? 」
「それはしない。今日ご臨終になったスライムたちに誓って話す。後これ手伝い賃」
一万円札を渡す。
「こんなにいいの? 」
「いいよ、拾ってもらわなかったら稼ぎはもっと少なかっただろうし」
「この分だけは役に立ってたってこと?それとも口止め料込み? 」
「口止め料は入ってない。純粋にスライム駆除のお手伝い賃でこれだけ」
「……もうちょっと、出ない? 」
「……じゃぁもうちょっと」
二千円握らせる。
「……これが口止め料? 」
「それはもういいって。ちゃんと言うから」
「なんか、告白みたい」
ある意味告白かもしれんなぁ。
「とにかく他人が聞いてない所へ行こう」
「なに、そんなやばい話なの」
「それも含めて話すよ。とりあえず、午後からはダンジョン内部へ入ってのスライム駆除になると思うんだ。参加するつもりだけど、文月さんどうする? 」
「拾ってるだけで分け前ってのは? 」
「いいよそれでも。ただし二割ね」
「おけまる」
商談は成立した。
とりあえず、バッグ(保管庫)からいつものカロリーバーと粉ジュース、水を取り出すと胃に流し込む。この後のことを考えると味がしねえ……。今のうちにどういう風に順立てて説明するか考えておかないとな。
文月さんのほうを見ると、形容しがたいすごい顔をしている。今のうちに驚いておいてもらおう。後でもっと驚くことになるんだからな。
◇◆◇◆◇◆◇
休憩してダンジョン入口のほうへ向かうと、人がほとんど居なくなっている。どうやら無事ダンジョン内部への侵入には成功したようだ。
入ダン管理の職員に入ダン手続きをしてもらい、ダンジョンに入る。
「お二人様ですか? 」
「今日はお二人様です。私倒す役、彼女拾う役」
「です」
「頑張ってください。このダンジョンの未来が懸かってるんです」
「気張らずに稼いできますよ。それじゃ」
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンの内部はやはりスライムがまだ多かったようで、時々拾い忘れのスライムゼリーが見受けられる。マナーとしてドロップアイテムの放置はよろしくないのだが、状況が状況である。倒した本人が拾いに来るまではそのまま放置しておこう。
どうやら二層までの道に沿って救援班は駆除を始めたらしく、側道のほうはまだスライムがかなり残っている。そっちへ行こう。
側道をスライムを駆除しながら行き、小さな広場に着く。ざっと数えて二百匹ぐらいか、スライムがしっかりと詰まっていた。さっそく駆除を始める。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? 一緒に二層で戦った時の武器も持ってないし。熊手以外に装備あるはずなのにバッグの中空っぽなんだもん、水すらない。安村さんレンタルロッカーも使わない人だったよね。中身は何処へ行ったの? 」
「んー、周り誰も居ない? 」
「居ない……っぽい。そんなに人に聞かれてやばい話なワケ? 」
「やばい。どのくらいやばいかというと……」
俺はちょうどその場に出たスライムゼリーを手に持つと
「【保管庫】収納」と口に出してスライムゼリーを収納する。
「……なにそれ、四次元ポケット? 」
「保管庫。俺の拾ったスキル。異次元空間に物体を収納・取り出しする能力」
「手品じゃないよね? 」
しまった、手品って言っておきゃごまかせたか? でももう遅いか。今になって冷静になってきた。スライム狩りに熱中しすぎて我を見失っていたな。まあ、言った以上ばらしてしまおう。
「手品だったらわざわざ口止めしない。むしろ、できるならそっちで飯食っていくわ」
「取り出せるの? 」
「【保管庫】取り出し」と口に出して、取り出したのはスライムゼリーではなくいつも使っているマチェットだ。違うものを取り出すほうが解りやすかろう。
「うわっ、ほんとに出た。この間のマチェットだ」
「ちなみに入れてる間は百分の一まで時間経過を遅くできる」
「じゃあ、カップラーメン作るのに五時間もかかるの?」
「そこは普通に三分待とうよ。でもまぁ大体あってる」
「いつから? 」
「初めて会った日。あの時バッグの中に実は未使用のままで持ってた」
「じゃあ、じゃあ」
「ちなみにこんな芸当もできるぞ」
俺はパチンコ玉を指先から弾くようにみせかけて保管庫から無言で射出した。例のあの技だ。
飛んで行った先のスライムが弾ける。
「と、こんな使い方もできる」
「便利じゃん! なんで黙ってたの? 」
「冷静に考えてみてくれ。どれだけの大きさが入るかまでは検証してないが、部屋一つ分の荷物を重さ関係なく持ち歩けて、好きな時に好きな速度で出せる能力って、人に知られて無事に居られると思う? 」
「間違いなく引っ越し屋の敵ね。後、麻薬の運び屋とか? 」
「想像力が逞しくて助かる。バレたら俺の命も危ういし、それを知ってしまった君の命も危ない」
「えっ、なんで私まで? 」
なぜにホワイ?と言った顔でこっちを見てくる。肝心なところに気づいてないなこれは。
「それでわざわざ人がいない所……まさか私を口止めするために! 」
「それならダンジョンの中でやらない。入ダン時に二人で入って一人で出てきたら明らかに怪しいしな」
「確かに! 」
「それに、生き物は入らないけど多分死体は入る。だからダンジョンの外で誰も見てないところでコッソリ暗殺して、死体は半永久的に保管庫の中って手もあったな」
「そうしなかった理由は? 」
「一つは、隠し事するより二人で隠し事するほうが罪悪感が半分で済む」
白状したおかげで少しだけ気分が楽になったのも事実だ。それに王様の耳はロバの耳。叫んでしまいたいことだってある。
「他には? 」
「道連れ」
「ひどい! 」
「しょうがないじゃん、こんなイレギュラーな事態が起きることも予想外だったし、バッグの中身が空っぽだったところから気づかれる事に俺が気づけなかったのも、とっさの言い訳が思いつかなかったのも悪い。だから八割ぐらい俺が悪い」
「残りの二割は? 」
「勘の良い君が悪いのだよ」
「ええい、こうなれば一蓮托生? 」
大体そんな感じ。
「そう、二人で楽しようぜ、主にドロップ品の運搬とか」
「あと温かいご飯の宅配とか、後私の槍の宅配とか、なんなら泊りがけの時の装備とか」
「トイレ用品ならバッチリ入れてある」
「さっすが! あとは水とか重たいものも! 」
「こっそりな」
「こっそりね」
よし、うまく抱き込めた気がするぞ。周りに注意しつつ、スライムを駆除しながらお互いの合意点を探ることが出来た。
「でも、私が金で情報を売るとか考えなかったの? 」
「その場合、顔見知りって理由だけで人質になる可能性があるぞ」
「それはやだなー」
「そういう能力を持っている男が知り合い、という情報そのものに価値があるからな」
「あれ、ってことはそのスキルダンジョン外でも普通に使えるんだよね? 」
「うん、やろうと思えば海外で金買って国内に持ち込むだけで十%ずつ利益出せるぞ」
「やるの? 」
やらんよ。思いついても実行する元手が無いしな。
「リスクが高い事はしたくないんだ。せっかくダンジョンがくれたプレゼントなんだから、ダンジョンで使うのが礼儀ってもんだろ」
「そーいうもん? 」
「そーいうもんだと俺は考えてる。ダンジョンはどうも攻略されたがっている気がするからな」
ダンジョンには意思があり、攻略させるために存在する。でなければモンスターは過疎ダンジョンから地上にあふれかえっているだろうし、現代文明は壊滅に近いダメージを受けているんじゃないか。
「じゃあダンジョンの奥にはその意思の持ち主が居るって事? 」
「そう考えるのが自然じゃないかなーと。ほら、よくぞこのダンジョンを攻略した! そんなお主にはこのダンジョンの所有権を任せよう、みたいな」
「そこまで行くのに何年かかるんですかねー」
「さぁな。とりあえず我々が考えることは一つだ」
「なんです? 」
それは明日の飯の心配だ。
「ダンジョンに集中するにはそれなりの資産が必要になるし、なんなら仲間も必要だろう。二人だけでダンジョン攻略できると思う? 」
「普通は思わないね」
「じゃあ、明日の飯を確保するためにスライム退治に精を出すとしますか」
「そうしますか。バッグ一杯になったら言いますから適当に保管庫に詰めちゃってください」
「あいよ」
◇◆◇◆◇◆◇
二時間が経過した。スライム退治は今のところ順調に進んでいる。片っ端からスライムを処理しているためか、後ろには何も残らない。リポップぐらいはしてるかもしれないが、救援隊も居ることだしそろそろ鉢合わせでもしかねない。出会う前に保管庫からバッグの八割ぐらいまでドロップ品を取り出しておく。
いざ出会った時にドロップが無いんじゃ怪しまれるからな。ちゃんと回収してるという事を見せておかないと、何のためにダンジョンに潜っているのかわからなくなる。
およそ全体の半分ぐらいは巡っただろうか。
「一度メインストリートまで戻ってみるか」
「どのくらい駆除が進んだか解んないですからね」
「それに換金に一度戻りたい。バッグに詰め切らない量を一気に査定してもらうと怪しまれる」
「便利なスキルですけど結構不都合も多いですよね」
「俺以外にこのスキル持ってる人がそれなりの数いてくれれば良いんだが、調べた感じ公にしてる人は居ないみたいなんだ」
「ちなみに何からドロップしたんです? そのスキルオーブ」
やっぱりスライムにはなにかしらの縁があるな。こうして話している間にもスライムは俺の手により黒い粒子に変わっていく。
「スライム」
「愛されてますねぇ」
「あんまり嬉しくない。もっとありきたりなスキルが欲しかった。水魔法とか」
「あの、無限に水を出せるけど体がだるくなる奴ですか?」
「水魔法ってぐらいだから、水出す以外に水鉄砲ぐらい撃てそうじゃない? 攻撃手段としても便利じゃないかと思うんだけど、拾ってみないと何とも言えないな。誰が落とすんだ?そのスキルオーブ」
スライムを駆除しながら会話を続ける。段々スライムを見なくても感覚で核がどの辺にあるかすら解ってくるようになった。
「ゴブリンから出たって話は聞いたことがあるような無いような」
「ゴブリンに水魔法ってあんまりイメージ湧かないな」
「出た数が少なすぎて情報が無いんじゃないですかねー。一度調べてみては?」
「そうだなぁ。とりあえずダンジョン出てからだな。そろそろいったん戻るか」
「そうですね、バッグも一杯になってきたことですし」
出口まで戻ることにした。どうやら、出口までの道でスライムがまた大繁殖してる様子はなく、スムーズに帰ることが出来た。
出口に差し掛かると、さっき出会った救援班の人たちとばったり出くわす。
「どうでした? 中の様子は」
「橋頭堡は確保できたけど、壁にはまだ相当数張り付いてるかな。一体どのスライムから増えたんだろう。色違いが出てくるとか一回りでかいとか、そういうわかりやすいのが居てくれればいいんだろうけど」
「どっちも似たようなもんですか。俺たちは一旦戻ります。査定してもらうぐらいの量はドロップも確保したんで」
「そうか、私たちはもうちょっと粘ってみるよ」
「任せます」
◇◆◇◆◇◆◇
俺たちは再び出口へ出た。正直太陽がまぶしい。一旦退ダンすると査定カウンターへ行く。
「戻ってきましたか。お疲れ様です」
「査定お願いします」
「量は……多いですよね?」
ご苦労かけます。
「お仕事頑張ってくださいね」
査定嬢に労いをかけつつ、査定が終わるまで休憩することにした。今日だけでいったい何匹スライムを駆除したのか、考えたくもない。
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