459:BランクとD部隊
夕食をたらふく食ったところでインナーシュラフの洗濯、寝袋の水洗い、ゴミの片づけと後片付けをまとめてやって、風呂も沸かす。今日探索した痕跡は後は服ぐらいになった。インナーシュラフの洗濯が終わり次第これも着替えて洗濯しよう。
その間にこれから調べる情報についてメモ帳からピックアップしてあらかじめ整理しておく。調べる項目はBランク探索者について、それとD部隊……ダンジョン作戦群についてだ。今までには出会う事が無かった、もしくは出会ってても気づかなかったのだが。
ともかく、まずはBランク探索者について調べるか。インナーシュラフの洗濯が終わるまでまだ時間はある。その間に出来るだけ情報を集めておくのだ。
ざっくり調べてみると、民間Bランク探索者は全国で十数パーティーほどしかいないらしい。そもそもBランクの上はAランクしかないのだから上から二番目と考えると数が少なくなっても当然だ。だとすれば、Aランクに認定されるにはこれはもうダンジョンを踏破してダンジョンコアを割るぐらいしないとダメかもしれないな。
Cランクもそうだが、Bランクも昇級基準は明確にされていない。Cランクと同様の昇級基準だとすれば、予想されるのはダンジョンに対して一定の貢献をもたらせていることと、それだけの戦闘力が有ると認められていることが必要なんじゃないか。
結衣さんが前に言っていた、できるだけ下層のドロップ品を持ち帰る事。つまり、下層でも充分な戦闘が出来ていることが基準となっている可能性は高い。
俺達の場合、九層をひたすら回っていた事と、おそらく、あくまでおそらくだが一定金額のダンジョン税を納める事が基準として採用されていたんだろう。
なら、Bランクでも同様にできるだけ下層、つまり十七層以降でのドロップ品の持ち帰りと査定が必要だという事になる。それについては充分出来ていると考えるので、足りないのは金額か。後いくら分ダンジョン税を納めれば良いんだろうな。
とりあえず保管庫からレシートを引っ張り出し、今までのダンジョン税をどれだけ納付したかを計算してみる。手持ちのレシートからダンジョンでもらった分だけを抽出して電卓で計算する。さすがに暗算できる桁数ではない。
計算した結果、四百万円分ほどダンジョン税を納めていることが分かった。目下の目標として五百万円ほど必要だと考えておこう。このまま一か月ほど続ければ達成できそうだ。芽生さんと二人で潜る時はいつも二十層での探索をしているので階層に関してはクリアしていると見ていいだろう。
後はダンジョンに対する貢献か。これは……ダンジョンマスターからの回答をダンジョン庁に上げたことである程度は満たしていると考えていいのだろうか。それとももう少し踏み入ったところまで行かないとダメなんだろうか。
しかし、これだけの貢献が必要なんだとすれば、ダンジョンの数だけしかBランク以上の探索者が存在出来ない事になるのでもっと他に判断基準があるんだろう。きっとたまに飛んでくる依頼を達成しているかどうか、なんかも込みなんだろう。
ということは、小西のギルマスは俺をBランクにさせるためにあんな簡単な依頼をこなさせて点数稼ぎをさせたいということだろうか。だとしたら有り難い……ん、まてよ。呼ばれた今度の火曜日の課長級会議で何かアクションが有ると見ていいのか。
……と、インナーシュラフの洗濯が終わったらしい。早速干しておこう。調べ物の途中だがついでに風呂だ。たっぷりのお湯で一日の疲れを癒すのは気持ちがいい。湯船に肩まで浸かり、口からふぅ……と長い呼吸をして短く吸って長く吐く。しばらく繰り返すと頭がだんだんクリアになって来た。
だんだん身体の力も抜け、リラックスの体勢に入る。ちょっとヌルいぐらいの温度の湯が体に染み込んでいく。頭が軽くボーっとしてきた。決して気絶しようとしている訳ではない。湯に身を任せているだけだ。暑い日はヌルい風呂に限る。いつもなら考え事をしながらゆっくり入る所だが、今は汗が引かなくなるからな。
しばらく浸かると最後に軽く冷水を浴びて湯船でかいた汗をひかせてから出る。これでサッパリした。着替えも風呂も飯も終わったところで調べ物の続きに入るか。
D部隊、つまりダンジョン庁直轄のダンジョン攻略部隊についてだ。D部隊という通称は今日高橋さんに教えてもらった。間違いなく国内では屈指の探索者集団だ。ダンジョン探索を仕事にしている点では同じだが、バックボーンが国というだけでも資金力も構成員も一流と言って良いんだろうな。
今日のチームTWYSを見て思った。あの鍛え抜かれた体でならステータスブーストの力を借りなくてもCランク探索者相当の実力はある。じゃあ彼らがステータスブーストをモノにした場合どのくらい先まで潜りこんでいくことができるのか。いや、むしろ今どこまで潜りこんでいるのか。
たとえば高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでは二十一層までの探索は自由に行っていいことになっている。そして二十二層よりも下はダンジョン作戦群だけが探索を許されている。つまり、D部隊はBランク探索者レベルと呼べるだけの実力者がかなり居る事になる。
チームTWYSの皆が誰が欠けてもカバーリングできるように見えたのは、そういう訓練を受けて来たからなんじゃないかと推察する。誰がどういうポジションを担当するかではなく、全員が同じポジションを受け持てるように身体を作っていくマニュアルみたいなものがあるんだろう。一度閲覧してみたいな。
スキルなんかはどうしているんだろう。どっかにD部隊の特集みたいなネタは載ってないものか。探索中に手に入れたスキルオーブはどういう流れで使用、もしくは販売されて行くのか。国の仕事で潜っているんだから拾った人が自由に使っていいという事はないだろうから、拾った人には何かしらボーナスが出るとして、その先スキルオーブの優先順位なんかがどうなっているか。
ふと、そういえばそろそろ最新号が出ている頃ではないかと思い出し、急いで普段着に着替えるとコンビニへ。探索・オブ・ザ・イヤー最新号があった。特集は……小西ダンジョンに移動施設の文字。そりゃそっちのほうが話題になるよな。
ついでに嗜好品をいくつか買うと会計を済ませて急いで家に帰る。さすがに思いついた昨日今日で得られる情報があるわけでもなく……いや、一応公的な部隊なんだし概略とかそういうものは何処かに公開されているのでは?
早速調べると、ダンジョン庁の公式には無かったが、調査している個人ブログが見つかった。どうやら、潜るダンジョン毎に潜る人数や構成などは変化するらしいが、基本的には四人一チームらしい。
たとえば高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでは四チームを一小隊として行動し、一チームが探索している間に残りの一チームは休みを取り、一チームは兵站の確保……つまり食糧や生活用品、嗜好品のセーフエリアへの運搬、そして残りの一チームがドロップ品の搬送を担当するらしい。
高橋さん達が仮にそのチームの一員だとすると、残り三チームがまだ居るわけか。それとも本当に斥候に出て来ただけで、実際に投入されるのはもっと別の……そうだな、兵站についてはエレベーターで解決されるんだし、探索するチームとドロップ品を運んで帰りに食料を運んでくるチームの二つがあれば問題なくなる。むしろ毎日日帰りでも何ら問題はない。
しかし、民間ダンジョンに公的パーティーが潜ることについては問題ないのだろうか。だとしたら大手を振って探索するのではなく、こっそり入り込むというほうが重箱の隅をつつかれずに探索を進められるのではないかな。
その場合、彼らだけが四人一小隊として探索を進めていくことになるか。まあ考えすぎという可能性もあるし、彼らだってステータスブーストを覚える前に鬼殺しになったムキムキマッチョマンの団体という可能性だってある。色眼鏡で人を見るのは良くないか。
探索・オブ・ザ・イヤーをパラパラとめくる。突然エレベーターが出来たことについての小西ダンジョンの公式見解はダンジョンにいつの間にか設置されていた……というのを押し通すつもりらしい。つまり現状でダンジョンマスターの存在やダンジョンについてのボーナス措置は一切隠すという方向性らしい。隠しきれてないあたり、いろんな流言飛語の素にはなりそうだ。
大体想像にお任せします。声を大にしては言えないが察してくれ、という苦しい言い訳の末の一言だという事が感じ取れる。これからいろんな所で言われていくのだろう。ダンジョンそのものを支配している存在はいると。
探索・オブ・ザ・イヤーは小西ダンジョンについての情報を広く求めているらしく、この手の記事には珍しく連絡先が記載されていた。俺も緘口令が解かれたら何か一ネタ提供できるという事か。
今のところ調べる情報はこのぐらいか、後は気が向いたか、必要になった時に情報を集めよう。Bランクに上がってから二十二層以降の情報を求めても遅くはない。今はここ数日で使いそうな知識や身の回りに起きそうな出来事を詰めておくだけで良い。
そういえば、結衣さんからの返事はない。多分清州ダンジョンに潜ってる途中なんだろう。返事を聞けるのはまた後日だな。今日は回収したブツの洗浄洗濯を終えたら早めに休もう。明日もしっかり自分も鍛え抜いていくぞ。
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