454:チキチキ四層猛レース
四層爆破レースが始まった。全身を軽くストレッチし、まずいきなり側道へ向かう。ランニングしながら駆けこむと一分もしないうちにゴブリン四匹。なんか久しぶりだぁこの感触。そのままスピードを上げて順番にゴブリンに駆け寄ると肩をポン。ゴブリンがボン。魔結晶がポロン。
十秒もしないうちにゴブリン四匹は黒い粒子に還り、ドロップ品に変わる。ドロップ品をそのまま収納すると次へ向かって駆け抜ける。
また一分もしないうちにゴブリン三匹とソードゴブリンが出る。今度は雷玉。久しぶりに使う雷玉を全ゴブリンに向けて発射。当たった瞬間ゴブリンは消滅し黒い粒子に還る。ドロップは出なかったのでそのままランニングの姿勢のまま次のポイントへ。
これを眩暈がするまで繰り返すのが【雷魔法】を鍛える自己鍛錬だ。もちろん体力的にもランニングを続けて行けるかどうかにもかかっているので、体力的にも中々に良い運動になっている。
走る、爆破する、ドロップを拾う。走る、爆破する、ドロップを拾う。
よし、やることが定型化されてきた。もう頭で考えることは無い。さあ、意識を遠い宇宙へと飛ばし、ヒールポーションだけは拾い忘れないように元気に走り回ろう。眩暈がするまで。
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結果、五十分ほど走り続けながら【雷魔法】を撃ち続けることが出来た。さすがにここで一旦眩暈が来る。次は回復力のテストだ。十五分間スキル無しで狩りを続けて、時間が経ったらまたランニングスタイルで爆破を続ける。次の眩暈までに何分間かかるか、それが今の自分の持久力ということになる。以前は三十分ほど走り続けることが出来たような気がする。
より長く走り続けることができるようになっていれば、確かな成長を味わう事が出来るし、その間に十分なドロップとヒールポーションを得ることができるようになっているだろう。
さっきまで走り回っていた四層を歩く。ゴブリン達と出会う回数は三分の一ぐらいに下がってしまっているのでつい走り出しそうになるが、今は回復の時間だとぐっとこらえながら戦う。
今気づいたが実質一時間ほどランニングを続けたという事になる。結構なカロリー消費のはずだ、もしかしたら肩ポンダイエットとして新しいダイエット方法の開発をしたのかもしれない。ただしスキル所持者に限るというのがネックだな。一般には広まりそうにない。
道なりにモンスターが居そうなほうへフラフラと歩いていると三層側の階段まで歩いて戻って来た。時間を見るとスキルの使用を止めてから丁度十五分ほど経っていた。もう一回ここから始めるか。再び肩ポン爆破ダッシュの時間が始まる。
今のこの体の仕上がり具合ならソロ狩り最高金額を叩き出すことも不可能じゃないという自信に満ち溢れて来た。今度は別の側道へ行こう。まだ巡ってない所はある。そこにはゴブリンが溜まっているに違いない。
少し進んでからまた側道に入り、少し開けたところに出るとそこにはゴブリン五匹。ごちそうさまです。近寄って一秒、肩を叩いて一秒。次のゴブリンまで走って二秒、肩を叩いて一秒……合計十三秒で五匹のゴブリンが倒れる。後には魔結晶のドロップ。ヒールポーションは出なかったが魔結晶だけでも数を集めればそれなりの収入にはなる。細かく刻んでいこう。
すぐに次の場所へランニング。歩いている時間はタイムロスだ、出来るだけ走って行こう。モンスター同士の距離が離れていてもタイムロスだ、そういう時はチェインライトニングを使おう。地面に手をついてドロップを拾うのもタイムロスだ。範囲収納でまとめて拾ってしまおう。
四層では二か月ほど前にスキルオーブがドロップしているのであと一か月ぐらいは出ないだろう。スキルオーブを期待するだけタイムロスだ。ひたすらにゴブリンを葬り去っていこう。
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再び眩暈を感じた。時間は……五十分。十五分インターバルでまた走り続けられる。それが確認できただけでも成長の証として感じられる。これを始めた頃は十五分ほどで限界が来ていたのでかなりの成長率だ。
ここから十五分の休憩という名の歩き狩りの予定だったが、予定を変更してランニングだけは継続して五層側の階段へ向かう。腹が減ってきたのだ。今日のお弁当を食べて水分を補給し、その間に体内魔力の回復をさせよう。
そうと決まれば真っ直ぐに五層への階段へ向かう。十分ほどして到着。周りにモンスターもスライムも居ない事を確認すると、保管庫からタッパー容器とスプーンを取り出し、肉じゃが丼を食す。昨日の夕食に食べた時よりもより具材につゆが染みていて美味しい。保管庫に入れておいたおかげでつゆがご飯に染み込む時間も短くなっており、素のままのご飯と汁を少し吸い込んだご飯と二種類の米を味わう事が出来る。
うむ、食が進むぞ。もうちょっと持ってきても良かったぐらいだ。タッパー容器の後片付けが楽になるように、トーストしてない食パンでつゆの一滴まで綺麗に掬い上げると腹も良い感じに満たされた。これでまたしばらく修行できるな。
濃い味付けの物を食べたのでそれなりに喉が渇く。眩暈がするたびに水分は取っているが、ここでも少し多めにとっておく。……ふぅ、良い昼食だった。
腹が落ち着くまで十五分ほど歩きでゴブリンを狩りつつ、また肩ポン爆破を続ける。正直肩ポンでなくてもチェインライトニングでもいい。だが肩ポンのほうがテンポよく戦えるため、ゴブリンの肩か頭に手を置くことは忘れない。そのほうがなんか倒してる実感がわく。
あと四時間半ほど狩り続けられる時間がある。その間にヒールポーションを何本集められるか楽しみだ。もう一度意識を宇宙へ飛ばし、大虐殺を繰り広げていこう。
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また五十分が経過し、眩暈が発生した。今はインターバルを含めて一時間が限界だと見ていいだろう。しかし、一時間集中できれば今のところ問題は無さそうだとも考える。仮に二時間集中できたとしても、その時は先に体力が尽きると思う。一時間走り続けられるということは、十層もスキルを使いっぱなしで全力で移動できるのではないか。
まだ試す許可は下りていないが、今度十層を巡る時に一人で戦って回ってみたいと申し出てみよう。一人で十層に下りれるようになったらオーク肉も自力のみで調達可能になるかもしれない。
何より、持久力が上がったという事は時間当たりの連発量が上がる事にもなる。殲滅速度も向上するからより多くのドロップ品を持ち帰ることが可能だ。これは収入に直結するのでかなり嬉しい。
期末考査が終わるのが楽しみになって来た。やはり強さを何らかの形で実感できるのはいい。最もわかりやすいのは査定金額だな。多くそして速く狩れば狩るほどその結果が出る。とてもいい。
移動ペースを歩きに戻して十五分、そして五十分またランニングスタイルで狩りを始める。今日は緑色のモンスターばかりを目にしながらその緑を黒い粒子に変えていく。黒板を見ているような気分だ。もしかしたら目に良いのかもしれない。
肩ポンするのも怠くなってきた。雷撃だけで終わらせて近くに走り寄ってドロップを回収するという手段に変更する。直接触れて電撃を流すのと雷撃で離れた所から電撃を流す。使うエネルギーに変化がないかどうかもチェックしていこう。
そのまま雷撃のみを使い続けて四十分、眩暈が訪れた。どうやら直接触れたほうが消耗は少なく済むらしい。また十五分歩きの時間だ。時間的に見て後二回は続けられるな。肩ポンより雷撃のほうが倒すまでの時間はかからないし、その分移動も速くなっているから狩っている速度は変わってないかもしれないな。
歩いて冷静にゴブリンに近づき、こちらへ向かってくる足さばきを観察しながらゆっくりとゴブリンと相対する。たまにはゆっくりして逝きなさい。
ゴブリンは俺を見つけるとまっすぐに向かってくる。変なフェイントを入れようとしたりせず、とにかく棍棒で何処かを殴ろうとしてくる。こちらはステータスブーストをかけているので冷静に見ていられる。ゴブリンのその遮断機のような棍棒の振りをギリギリのところで避け、俺からすればゆっくりと、しかしゴブリンからすれば素早いだろう動きで直刀を頭に突き立てる。
ゴブリンはそのまま勢いを無くして倒れ込み、黒い粒子が傷口から噴き出し、やがて全身が黒い粒子に変わり始め、そして散っていった。
モンスターが散っていく様をゆっくり眺めるのは久しぶりの気がする。たまにはこうやって最後まで見届けてあげるのもモンスターのためになるだろう。ならないか。ならないな、うん。
だが完全な作業であったゴブリン退治に花を添えてくれた事に違いない。さあ引き続き作業を進めていくぞ。
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あれから更に時間は過ぎ、午後五時になった。今日は撤収だ。目的のヒールポーションは五十二本になった。これだけあればよほどの事故が無い限り大丈夫だろう。歩くと時間が勿体ない、駆け足気味で戻ろう。
各層二十分でランニングスタイルで走り抜けていく。道中のモンスターもきちんと処理していく。最近は三層まで人が訪れているおかげでモンスターと出会う回数も少なく、雷撃を十数発撃っただけで済んだ。ドロップもほぼ無かったが、今日の収入には期待できる。ポーション五十二本という事は五十七万以上のギルド買い取りとそれとは別に査定にかけるゴブリンとソードゴブリンの魔結晶が三百個ほどある。
合わせて査定にかければ六十万を超える。日帰り九層負荷キツメと同等以上の収入だ。貰える金額を楽しみにしながら、出入り口を抜けて退ダン手続きを終える。
「なんか今日は機嫌いいですね。良い事でもありましたか」
「記録を更新できそうなので。査定が楽しみです」
「それは何よりですね、お疲れ様でした」
受付を通り抜けて査定カウンターへ。手持ちの魔結晶をザラザラと空ける。
「ヒールポーションだけ別枠査定という話なんですが、伝わってますでしょうか」
「あー、今日の分限定ですよねー? 聞いてますよー」
まず、魔結晶の買い取りだ。ゴブリンソードは相変わらず保管庫の肥やしだが、何かの機会に一斉処分しよう。これからの時代はスケルトンだ。スケルトンの剣の買い取り価格は三万円ほどらしい。溜まっている本数は芽生さんには内緒にしてある。
しばらくしてヒールポーション以外の分の金額が出てくる。十万とんでとんで九百十二円。これに、まだ確認されてないヒールポーションの代金が今日の売上だ。
支払いカウンターで依頼を実行した旨と、依頼書を支払いカウンターで返す。
「こんな結果になりました。充分でしょうか」
支払いカウンターで確認する。支払い嬢は査定嬢に二、三確認するとヒールポーションの本数を確認する。
「ちょっと待ってくださいね……はい、確認できましたので受領しました。これで今日の依頼は完了です、お疲れ様でした。にしても予想の倍ぐらい取ってきましたね」
どうやらやりすぎたらしい。さすがに五十二本は多すぎたか。支払いカウンターでまず査定したヒールポーション以外の分を現金で受け取り、ヒールポーションの分は振り込みにしてもらう。
合わせて六十七万ほどになった。ソロで日帰りで稼いだ金額としては最高金額じゃなかろうか。普段なら一泊してる分狩りと修行に回した気がする。
報酬を受け取ったところで疲れが急に押し寄せてきた気がする。今日は真っ直ぐ帰ろう。夕飯は家にある野菜でサラダを誂えてそこにコンビニ飯があればいい。なんかあんまり料理をしたくない気分だ。かといって帰り道に食い物屋を……ああ、そういえばテレビで紹介されていたとんかつ屋があったな。あれは……あれは明日以降でいい。今日は真っ直ぐ最寄り駅まで帰りますか。
とても仕事をした。階層は浅かったが己の限界に挑んでみた。そう感じた一日だった。
おっと、芽生さんの返事を確認しておかないとな。レインには……
「火曜日なら大丈夫です。小西へ行けばいいの? 」 返事来てた。
「なんかギルマスが用事あるらしい。会議に付き合ってほしいとかなんとか」送っておく。
駅に着いたころ、返事が返ってきていた。
「了解、火曜日行きますね」これでいいだろう。多少早く着きすぎてもまた何か時間つぶしを考えておくか。今日は大人しく帰って寝よう。多分見えない疲れがたまっている。早々と寝て、明日の英気を養おう。
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