453:個人依頼・ゴブ焼き祭り
今日も目覚めは良い。昨日は冷房をしっかり効かせたのであまり汗もかかず、ここ最近の中では最も爽やかに起きることが出来た。ありがとうダーククロウ。
昨日の夕食は最高のできの肉じゃがが出来た。今日のお昼はその肉じゃがの残りだ。良い感じに汁を吸った肉じゃがをパックライスにかけて肉じゃが丼として食べる予定にしている。今からでも食べてしまいたいぐらいに楽しみではあるが、朝食にはいつものトースト二枚と目玉焼きとキャベツの千切り。
いつも通りの朝食を取ることで体の調子を整えて、昼に最高潮になった胃袋に食わせてやろうという俺の気遣いだ。
いつもの朝食を終えると片づけをしてダンジョンへ行く準備。日に日に洗練されてきた前準備も今日はいつもより更に早い。主に食事をもう作り終えているも同然だからだ。パックライスと昨日の肉じゃがをレンジでチンしてタッパー容器へ詰め込んで終わり。何か口寂しければカロリーバーなりお菓子なりを口に詰め込めばそれで終わり。気軽で気楽な一人ダンジョン飯だ。
保管庫という最高の保温庫であり保冷庫であり保管室があるおかげで、昼を過ぎてもアツアツの肉じゃがと冷え冷えのコーラを楽しめる。今日の腹具合で選べるようにコーラ以外にも複数種類飲み物を用意しておく。万全の態勢で今日も九層一人旅に向かうぞ。
◇◆◇◆◇◆◇
小西ダンジョンへ向かうと、入ダン前に受付で呼び止められる。
「安村さん、ちょっとギルドからお願いがありまして」
お、個人依頼か? それとも九層に居すぎてダメ出しを喰らうのか?
「なんでしょう、スライム狩りならまだやってませんよ」
「やるつもりだったのは解りましたが、今回はそういうものではないです。詳しくは中で聞いてきて欲しいんですが、ドロップ品の依頼という形になってます」
個人依頼は何回か受けたことがあるが、現状の小西ダンジョンでわざわざ依頼をかけてくるのは珍しい。まず内容と報酬についてちゃんと確認してから受ける事にしよう。
ギルドの建物の中に入り、この時間にしては珍しく暇そうにしていた支払いカウンターで事情を聴くことにする。
「安村ですけど、なんか依頼があると聞いたんですが」
「はい、実はこちらになっています」
書面で依頼を渡された。それによると、小西ダンジョンとしての怪我人への緊急医療対策として、いくつか救急箱の形で物品を確保しておくことに決めた。そのため、治療薬としてヒールポーションを何十本か確保しておきたい。一日で取れる範囲で構わないのでヒールポーションのランク1を手に入れてきて欲しい、とのこと。割とざっくりした内容だな。
「これ、まだ出荷してないギルド内のヒールポーションをそのまま利用するのではダメなの? 」
「ダメではありませんが、査定システムの仕組み上一旦査定にかけたものを取り消す処理は結構面倒でして。それならこれからとってくる分をそっちに回したほうが手続き上簡単なんですよ」
「なるほど、査定じゃなくギルド予算から報酬を払う形のほうが問題が無いと」
「はい、それならギルド内の諸経費で賄う事が出来ますので是非新鮮取れたての物を用意して欲しいと」
「事情は分かりました。で、報酬のほうはどうなってます? 」
「ヒールポーションについては一割増で引き取ることを条件とします。後、これにはダンジョン税がかかりませんので、確定申告の時にきちんと収入として計上してもらう事になりますが……どうでしょう? 」
つまり非課税で一万千円。ダンジョン税を取られると九千円の査定になるので二千円増しで収入を得ることができるという事になる。結構おいしい話だな。四層に他に誰も居なければ久しぶりに修行ついでに全力で回ってみるのもいいかもしれない。
「わかりました、その依頼お受けします。今日一日分でいいんですよね? 」
つまり久しぶりの肩ポン爆破任務だ。やる気がみなぎってきたぞ。
「えっと……なんか急に目が輝いてきましたが今日一日分については確実に買い取るという事になってます」
「早速行ってきますがその前に。このぐらいの依頼なら俺じゃなくてもそれこそ下のランクの人たちでも受けられるのでは? 」
当たり前のことを確認しておく。べつにCランクじゃなくてもDランク探索者でもやる分には事足りる依頼ではある。わざわざ俺に持ってくるその理由は何だろう?
「えっとですね、出来るだけ多くのヒールポーションを確保してきてもらいたいんですが、Dランク探索者に依頼すると複数日にまたがって依頼を出さないと確保できないという事になります。そして、Cランク冒険者のパーティーに任せると明らかに過剰戦力になります。そこはいいですか? 」
「なんとなくですが解ります。ヒールポーションが出る三層から四層はそこそこ混みますし、そうなると四層をグルグル回るのが効率的になりますからね」
「そうなると、今ソロで回られてる安村さんが戦力的にもちょうど良いんじゃないか、という事になりまして」
「その辺はギルマスの判断だったりするんです? さすがに皆さんでそこまで理解されてるとは思えないんですが」
「おっしゃる通りです。詳しくはギルマスに直接話を聞かれたほうが早くなると思います。今なら居るはずなんで聞いてみては? 」
ギルマスに直接確認する。それが一番確実か。ちょっと行って来よう。
二階に移動しノック三回。返事を待つでもなく中に入る。勝手知ったる応接室という奴だ。ギルマスは……まだパターの練習をしている。ゴルフコンペは来月辺りにあるのか?
「ああ、安村さん。ここに来たという事は依頼関連かな? 」
「時間が勿体ないので本題から入りますが、私に依頼が飛んできた理由をざっくりで良いんで教えてもらえますか? 」
「いいよ。ざっくり言うと箔付けかな。実は、安村さんを月例報告に呼んで先月出してもらったレポートについて詳細を話してもらいたいという話が持ち上がっててね。下層まで潜って帰ってきていろんな情報を持ち帰ってくれたけど、まだ話してない内容がいくらかあるんじゃないか……要するに私が握りつぶした点について再確認したいという事らしい。ダンジョン庁長官直々の申し出なので、その前に依頼を一つクリアしててちゃんとダンジョンに貢献してますよというアピールの意味も含まれている」
「つまり、面倒ごとがあるのでその前に心証を良くしておこうという話ですか」
「まあ、そんな所だね。受けてくれると話が前向きに進むので是非お願いしたいところなんだが」
「月例報告に呼ばれるのは俺一人ですか? それとも芽生さんもですか? 」
芽生さんも呼ぶ必要が有るかを確認しておく。一人で受けても良いんだが、一人蚊帳の外でぶーたれる可能性もあるからな。
「できれば二人とも在席してもらいたいところだね。彼女の都合があるだろうから最悪安村さんだけでも良いんだけども」
「そういう事なら解りました。確認を取っておきます。で、月例報告っていつなんです? 」
「次の火曜日の予定だ。彼女にも話しておいて欲しい。もしかしたら予定が合うかもしれないからね」
早速レインで「次の火曜日空けられる? ギルドで用事があるらしいんだけど 返事は後でもいいよ」と連絡を入れておく。
とりあえず今日はさっさと四層に潜ってゴブリンをひたすら肩ポン爆破していく。久しぶりの肩ポン爆破、何分間ぶっ続けで爆破し続けられるか己の成長っぷりを確かめることができるな。
「とりあえず予定は聞いておきましたので、俺のほうは早速潜りますね」
「お願いね~」
色々付随してきた理由はともかく、依頼は依頼だ。一日稼いだ分のヒールポーションを納品する。ランクの指定は無かったし、ヒールポーションのランク2にしろランク3にしろ、取りに行くには俺一人では禁止されている領域にある。
芽生さんが今日居るならより気合を入れて取りに行く事も出来ただろうが、そういう訳にはいかなかったのでランク1を仕入れることに集中しよう。芽生さんが最近控えめに潜ってるのもギルド把握済みだって事も今理解した。
入ダン手続きを済ませて久しぶりの階段方向へ。今日は実質タイムアタックみたいなものだ、道中は出来るだけ飛ばしていこう。
それぞれ二十分ほどで一層二層三層を潜り抜ける。ここ一か月で人が増え始めてから三層もにぎやかになって来た。その分四層へ抜ける道へ出てくるゴブリンの数も減った。人の気配がある事はそれほど悪い事じゃない。四層にしても俺みたいに訓練場にしている探索者は居るらしく、一日かけてひたすら四層で戦い続けるという特訓で自分をより強化するのが流行っているらしい。
その四層へ到着。片道一時間。こころもち多めに見積もって午後五時半まではひたすら四層に籠れる計算になる。
現在午前十時半。つまり休憩昼食込みで七時間はここで狩り続けることができる。他の人の気配はしない。今なら四層で爆破し放題だ。そうと決まったら今日は一日爆破修行だ。久しぶりに【雷魔法】の耐久レースができる。よし、いっちょ気合を入れて稼ぐか。
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