452:ショッピングモールデート 2/2
四千万PV越えました、ありがとうございます。
その後、三回のお着換えバトルを挟み、無事に着るものを選んだ結衣さんだが、もちろんこれは一つの店で終わればの話。
次の店次の店と目移りしていき、また気に入ったものがあれば足を止め、気に入ったものがあればお着替えタイムからの披露。
全ての店で、という事は無かったし、下着の店は恥ずかしそうに前を通り過ぎ、とりあえず一通りの店を巡った。荷物はすべて俺の両腕にぶら下がっている。正直保管庫が使いたくてたまらない。重くは無いが、歩きづらいのは間違いない。
気が付けば昼をとうに過ぎており、腹が燃料補給を訴えてきている。
「お腹減ったな。一旦荷物置いて食事にしない? 」
「そうね、そう言われてみればもうこんな時間。荷物置くのに車まで来てくれる? 」
そのまま駐車場へ。結構近いところに車が停めてあったらしく、荷物を全て車に押し込むとフードコートへ来た。
さて、何を食べるかな。同じ店でもいいしせっかくのフードコート、色々選べるので食べられない物が有っても困ることはない。せっかくだし服が汚れ無さそうなものを選びたいところだ。
カレー、うどん、パスタ、ハンバーガー、カツ丼、ラーメン、ちゃんぽん、リブサンド。大体の物はある。後はこの間行った食べ放題を含めたいくつかの専門店がある。
「さて何食べようかな、選び放題だ」
「また食べ放題行く? あっちでも選び放題よ」
結衣さんがこの間の店のほうを指さす。
「昨日焼肉行ったばかりだからなあ。今のところは普通に腹を満たしたい」
「焼肉かあ、豪勢でいいね。何かあったの? お祝いとか」
「昨日一緒に回ってたパーティーがバーベキュー用の肉を調達しに来てたから俺も肉食いたいなあってなってさ。そこの焼肉屋、ウルフ肉の食べ放題もやってたよ」
「ウルフ肉ならそんなに費用かからずなんとかやっていけそうな辺りがまた。ダンジョン潜らない人には珍しいでしょうね」
「こっちは食い飽きてるけど、何か店なりに独自のアレンジを加えてないかどうか確かめたけどね。ちょっと肩透かしを食らったかな。まあそんなわけで今日は食べ放題は無しで何かお互い好きなものを食べよう」
「そうしましょう、席は……適当に空いてるから注文先にしてから席を探しても問題なさそう」
昼とはいえ流石に平日、ピークタイムも過ぎているのでフードコートが満員になるほどの客入りは無かった。見渡せば数席空きが見つかる。数分後、冷やしたぬきに唐揚げを乗せたそばを持った俺と、チーズたっぷりのトマトソースパスタを持った結衣さんと合流、適当な席に座る。
「麺類という共通項は持てたな」
「好きなものを好きな時に食べる。大事でしょ」
「まあそうだな。ではいただきます」
「いただきまーす」
ズルズルとそばを啜る音と、パスタを咀嚼する音がほんのりと響く。お互い服に汁を飛ばさないようにしながら、只目の前の食事を満喫するだけでなく、できるだけお上品に食べようとしているが、そばはそばだ。やはりズルっと香りを楽しみながら食べたいところ。
「最近どんな感じ? ちゃんとダンジョン潜ってる? 」
「ここで話してるとまた前みたいに誰かが聞いてるかもしれないぞ」
結衣さんはハッとした顔をして、周りを見回し探索者らしい人がいないかどうか確認を始めた。
「大丈夫、親子連ればっかりでそれっぽい人は居ない。それとも、遮蔽物の無いベンチかなんかで情報交換する? 」
「さすがにそこまでやる必要は無いと思うが……まあ、週一ぐらいで最下層まで潜ってるよ。後は基本一人、昨日はパーティーだったけどね」
「一人でフラフラ十層うろついたりしてない? 約束したんでしょ? 」
結衣さんが心配そうに声をかけてくる。小西の十層を一人で突破出来たらもうBランクになっててもいいんじゃないかな。あそこはそのぐらい密度が高く戦うのが厳しい。
「その辺はちゃんと守ってるから。十層から下には一人で近づかないと強く約束させられたよ」
「よろしい。無理をしたところで数の暴力にはかなわないからね」
「保護者が一人増えた気分だ。そこまでしなくても九層の中級者コースを一人で回るだけでそれなりの収入にはなってる。Bランクにいつ成れるか解らないし、他にやることが無い以上ダンジョン税を納め続けるかギルドからのお願いを聞くぐらいしかないんじゃないかと思ってる」
「ギルドの大きなお願いは最近聞いたし、しばらくは平穏って感じ? 」
「芽生さんが本業に精を出してる間は細々と稼いで行こうかなって。お金は有って困るもんじゃないし、家に居てもやる事ないから。最近は日帰りが多くなったおかげでダンジョン飯にもご無沙汰だ。なにか新しい刺激が欲しいところ」
特に奇抜な料理を現地でやろうとかそういう事は考えてない。家で作った料理を持ってきて現地で食べることが多くなった。家で作るのでレパートリーは一気に増える。タッパー容器に料理を詰め込んで温かいまま食べるというサイクルを繰り返している。
「料理本でも買って研究する? キャンプ飯とダンジョン飯の本とか色々出始めたよ」
「何冊かは持ってる。一冊ぐらいなら持ち込めるから参考にしつつ、手持ちの食材でご飯作ってからのんびり狩りしてる感じかな。結衣さんのほうは最近小西ダンジョンで見当たらないけど、清州ダンジョンに戻った感じ? 」
結衣さんは……というか新浜パーティーは最近小西ダンジョンで出会わない。メインで通ってるのが七層から十五層にかけてなのも理由かもしれないが。
「ちょっと清州のギルドマスターに目をつけられてるから移動しにくい感じ。小西ダンジョンに人が流れてほしくないような感じがひしひしと伝わってくる。割とどうでもいい依頼というか、達成させやすい依頼があってそれをこなして、清州ダンジョンに張り付けようとしてるような」
「目をつけられてると大変ですなあ。他人の事は言えないかもしれないけど」
俺も小西のギルマスには目をつけられている。というか勝手に小西ダンジョンの重要人物に位置付けられているだろうと思う。
「一応時の人だからねえ安村さんは。別に追われてたりするわけでもないけど元凶の一つではあるから。エレベーターの事だけ黙っておくという手もあったのでは? 」
「こっそり使うのは発表されるまでにそれなりにやらせてもらったし、良いんじゃないかなみんなで使って。他のダンジョンから人を吸い寄せてしまうのも目的の一つだし」
もうちょっとかけ放題の揚げ玉をかけておけばよかったかな? と思いつつそばを啜る。
「少なくとも現状は今の感じで不満は無いな。九層往復するだけでも下手な仕事の月額手取りを大幅に超えて収入になってるから不満は無いし、他のパーティーについていくなら十五層でエレベーター用の魔結晶集めたりできるし……ああ、そういえばあの魔結晶、ちゃんと重さで比較すれば他の魔結晶でも行けるって話したっけ? 」
「なにそれ、初耳。例えばワイルドボアなら何個なの? 」
結衣さんには伝えてなかったっけ。そういえば誰にも伝えてなかった気がする。これは伝達ミスだな。
「エレベーター一駅分、例えば一層から七層なら十個あれば。ジャイアントアントなら六個かな。ちゃんと重さ通りの燃料として稼働してくれるみたい」
「査定の買い取りの重さで五千円分ぐらいなら良いって事ね。次回小西ダンジョンに行くときに参考にさせてもらおうかな」
「別ポケットにジャラジャラ入れてるのを人に見られてるからいつでも魔結晶を持っているという話になっているようだ」
保管庫に入れて有るとはいえ、出来る限りは同じ魔結晶でまとめておきたいもんだ。今保管庫には三種類の魔結晶がそれぞれバラバラの個数で詰め込まれている。今度十五層十六層を巡った時にまとめるか、ジャイアントアントで統一してしまうか、ちょっと考えておこう。
「どんなに少なくとも往復分は残してあるから大丈夫と言えば大丈夫なんだが……最近は出来るだけ自力で行ってもらうようにしてるよ。そのぐらいの努力が出来なきゃ探索者やってほしくないという気持ちがある」
「その点楽をさせてもらったのは大分ありがたかったかな。未だに居るの? 乗せてって欲しいって人」
「居る。でも俺の都合もあるから七層まで連れて行って、そこから先は自力で攻略してもらう事にしてる。でないと帰り道の十五層から七層までの分勿体ないし、俺も自分の稼ぎがあるし」
「なるほど。落ち着いてはいるわけね……ごちそうさま。じゃあ最近十四層にはほぼ行ってない感じなのかな」
「そういえばそう……寝袋とか置きっぱなしだな。一回回収して綺麗にしないと」
流石に使ってそのまま放置のままではキノコやカビが生えているかもしれない。実際に使う時に使えないでは問題だな。今度十五層へ連れて行って欲しいという人が居たらその人に十四層まで連れて行ってもらうか。
「ごちそうさま。とりあえず……今から何する? 」
「そうね……何も考えてない。ボーっとするのももったいないし、明日から潜る準備に食料でも調達に行こうかな」
「おれもそうしようかな……今家にほとんど食べるものが無い」
次に行くデート先は食品コーナーということになった。カートを片方が押して片方が入れていく……ならデートっぽいが、それぞれ食わせる人間が違うのでカートをそれぞれが押して食べるものを考えていく。
さて、夕食に何食べようかな……肉じゃが食べたいな。総菜にするか自分で作るか。自分で作るなら多めに作って、翌日ダンジョン内昼食として使いまわせるな。自分で作るか。そのほうが何を材料に使うか選べるし、今から買う食材で何を放り込んでいくか考える。後は明日の夕食の分もレシピを考えながら多めに放り込んでいく。
結衣さんは値段とにらめっこしながらまた値上がってる……などとぶつぶつ文句を言いつつも必要な食材を入れていく。やはり野菜は大事らしい。向こうは食べ盛り五人所帯だから苦労するだろう。
おっと、忘れちゃいけないシーズニングの補給だ。こいつは自宅で料理を作る時にもお役立ちだ。ウルフ肉だけは大量にあるので材料を軽く炒めて肉にかけて和えて終わりのシリーズは俺の中で大人気だ。おかげで毎日ウルフ肉焼いただけという食事の幅を広げてくれている。
最近はウルフ肉が大活躍するおかげで肉を買う事が少なくなった。そういえば鶏肉に当たるような食材は今後ドロップされたりするんだろうか。牛肉より高い鶏肉……どれほどの味わいがそこに用意されているのか。
何時になるかわからないまだ見ぬ食材に思いをはせながら、買うものは全部買った。食パン二斤と随分高くなった卵、そしてキャベツを二玉。これだけあればしばらくは買い物に来なくても済むな。
お互い買うものを買い終わり会計を済ませると、カート越しに自分の車へ向かう準備をし始める。
「今日は楽しかった」
「俺もだ。またよろしく……今度は多分ダンジョンで? 」
「そうなるかも。小西ダンジョンがどれほど賑わってるか調査って名目で行く事にする」
結衣さんと別れ、自分の車に戻り買い物デートは終わった。帰ったら買った物を仕舞ったりもう一度着直してみたりして、ちゃんと動けるかどうか確かめつつ、夕食の用意をしよう。
今日一日……うん、楽しかったな。良い休みになったと思う。
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