450:実際特別な理由が無ければデートするには便利なんじゃないか。色々あるし
今日も気持ちよく汗をかいて起きる。ダーククロウさんありがとう。昨日は冷房をかけてもまだ暑かったので、布団を丸めて抱き着いて寝た。その分のダーククロウスメルが体内にかなり吸入されたのであろう。途中で寝苦しくて起きることも無くグッスリ眠れた。
ダーククロウ抱き枕……良いかもしれない。俺の嫁的カバーをかけて抱きしめて眠ると最高に良い眠りをもたらせてくれる。何と贅沢な一品であろうか。
もしかしたら何処かが既にやっているかもしれないが、使うダーククロウの羽根の量を考えると恐ろしい値段になりそうではあるが、オタクの経済力なら普通に買ってしまいそうな気がする。
今日はオフの日だ。一日何をするでもなく、ただボーっとしようと思う。エレベーター騒ぎも一区切りつき、俺以外にもエレベーターを使ってみた! という動画が数本公開され、小西ダンジョンにも鬼殺しが増えたという証拠でもあり、小西ダンジョン自体の知名度と探索のしやすさ、そして儲けやすさが勝手にアピールされて行く。
俺のやるべきことは大体やり切った感がかなり出てきた。もう俺が居なくても小西ダンジョンは黒字を出し続けられるだろう。だからといってダンジョン通うのを止める……というわけではない。
少なくとも後二年、いやもう一年半か。芽生さんが無事卒業するまではこの関係を通して楽してダンジョンへ通い続ける。お互いの人生設計のためにも俺の老後の資金のためにも、稼ぎ時は今だ。
どうひっくり返しても、探索者業は体力勝負だ。若いほうに軍配が上がる。そして一番若いのは今だ。今稼がなければ後で稼ぎなおしたいと思った時、今ほどは稼げなくなっていくだろう。稼ぐなら今、それは間違いない。
何時ものゴキゲンな朝食を取ると家事をこなす。家の中の家具を保管庫にしまい込んで全床を掃除機で掃除して元に戻す。これも手慣れて来た。最初の頃は戸棚をガシャンと落としてしまって中に入っていた皿なんかが割れてしまったのではないかとヒヤヒヤしたものだ。
窓も外側をメインに綺麗に拭いていく。窓の汚れも綺麗にしてくれるとありがたいんだが、そういうのは【生活魔法】や【水魔法】の管轄なんだろうな。時間はまだまだある。家中の窓をピカピカにすると、ほぼおおよその掃除は完了した。
寝巻も洗濯して普段着に着替える。今日はお出かけの予定だ。ここ三年ぐらい夏物の衣服を買いに行った覚えがないので、色々見繕おうということだ。ついでに昼飯も調達するかな。
何にせよ、店が開くまでにまだ時間がある。しばらくテレビやニュースを眺めていようか。
◇◆◇◆◇◆◇
一般のテレビニュースにもダンジョンについての情報が最近は増えて来た。ダンジョン近辺の美味しい店なんかで食レポをしたり、今熱いダンジョンは! なんてフレーズで今頃小西ダンジョンを放映したりしている。一般マスコミはフットワークが重いな。それとも何か別の飯の種を見つけたのだろうか。
しかし、小西ダンジョンの近くに中華屋以外に食い物の店は無かったはずだ……と思ったら、ダンジョンから車で五分という距離に他にとんかつ屋があったらしい。しかし、マスコミ連中は小西ダンジョンには駐車場が無いという事実をよく解っていないらしく、店までダンジョン探索者がたどり着けないという事にまだ気づいていないらしい。車で五分の距離を飯のためだけに歩けというのは厳しい話だろう。
これは紹介されている店には申し訳ないが流行らないだろうと思っている。小西ダンジョンの交通事情をよく確認せずに紹介してるテレビ局側のミスだなこれは。ただ、気にはなるので今度行ってみよう。もしかしたらボア肉の新しい卸先の可能性もある。あえて探索者の格好をしていくことで声をかけやすくなる効果もあるだろう。普段から探索者スタイルで出歩いているのが功を奏するかもしれない。
ちょうど駅へ向かう方向にあるし、自転車で食べに行くのもそれほどロスにならない。覚えておこう。忘れたら思い出した時に行こう。
……と、レインだ。
「結衣です。今日暇ですか」 結衣さんからだった。
「今日は暇ですよ。デートのお誘いですか? 」先手を打ち込んでおこう。
……しばらく返事がない。きっと効いたのだろう。続きはこちらから送るか。
「ショッピングモールへ行こうと思っていたんですが、良ければご一緒しますか」よっと。
「行きます! ちょうど用事が今出来たので! 」すぐ返事が来た。
今用事が出来たなら仕方がない、ご一緒しよう。送り迎えするというコースもあるが、向こうがどこに住んでるかも知らないからな。
「現地集合で良いですか? 場所は前に食べ放題に行ったところですが」場所指定、あそこなら田舎のデートに必要なものは一通りそろっている。家族連れでも好評だ。
しまった、せっかくのデートなんだしショッピングモールと言わずに名古屋まで出ておしゃれな所を回ったほうが良かっただろうか。
「なんだったら名駅か栄のほうまで足伸ばしますか? 」追加で送信。
「移動とか荷物の手間を考えたらショッピングモールのほうが有り難いです」
どうやら似た様な価値観の持ち主で良かった。収入からすればデパートで良い服を買うだけの収入はあるはずだが、他に買いたいものがあって貯めてるとか秘めたる野望があるとかそういうのかもしれん。他人のお財布の事情を詮索するのは止めよう。
「じゃあ、パン屋の前で待ち合わせという事でいいですか」
「はい、よろしくお願いします」 敬語で返って来た。もっと緩くていいのに。
行く先、ヨシ。
財布の中身、ヨシ。
スマホ、ヨシ。
待ち合わせ場所、ヨシ。
あ、時間指定し忘れた。今連絡……ヨシ。
服装……うん、汚らしくは見えないはずだ、ヨシ。
髪型……は適当でいいか。寝癖がついて無ければヨシ。
車のキー、ヨシ。
財布とスマホはちゃんと保管庫から出しておかないとな。ボディバッグに放り込んでおけばいいだろうし、最悪ボディバッグから出したふりをしよう。
結衣さんの事だから少し早めに出てドキドキしながら待っているかもしれない。早めに出てその時間を短くしてあげるほうが良いか、それともあえて待たせて待つ楽しみを味わわせるほうがいいのか。道路が混んでるかもしれないし少し早めに出るか。
◇◆◇◆◇◆◇
道路はそれほど混んでなく、平日な事もあってかすんなりとたどり着いた。もうちょっと混んでるかと思ったが、天は俺に味方しているらしい。ウィンカーを左に出しながら右に曲がる自動車も、タピオカスマホイヤホンのフルアーマー自転車も、決死の覚悟で二車線道路を横断しようとする歩行者も居なかった。
無事に駐車場へ車を停めると早速……いや、こっそりパン売り場を覗き込む。結衣さんは先に到着……していなかった。
「ふむ、さすがにこんなに早く来ることはなかったな。よしよし」
「まずは第一段階、女性より先に到着するイベントはクリアですか」
「そうだな、じゃあゆっくり待つと……なんで居るの」
気が付くと俺の後ろに隠れるように結衣さんが居た。いや居たのは良いが、何故普通に話しかけてこなかったのか。
「多分考えることが同じだったから? 」
「先に待っててくれるつもり満々だったと? 」
「そういう訳ではないんですが、ゆっくりしてから家を出ても良かったのですが待ってる時間がアレというかそのですね、待ちきれなくてですね、とりあえず先に着いて待ってるほうが気が楽かなと思って」
結衣さんはもじもじしながら白状する。かわいい。
一歩下がって結衣さんの服装を見る。動きやすさを優先したのかパンツスタイルで、上着も暑さを感じさせないよう白を基調とした透け感のあるブラウスに内側にキャミソールを身に着けている。ショートカットの髪形のせいか、涼しさが感じられてとても似合っていると思う。
一方俺は薄手のジャケットに無地のTシャツと自分の中で無難だと思う上半身に、太ももに余裕が出始めたデニム。上半身はともかく下半身はだらしないかもしれないな。
「そう考えるだろうと思って早めに出てきたのは正解だったかな」
「そういうことにしておいて。で、安村さんの今日の用事は? 」
「ちょっと服を見繕うぐらいかな。せっかくだし選んでもらうか。おっさん臭くない方向性で行きたい」
若い意見は貴重だ。こういう機会でも無ければ人の意見付きで服を選ぶことはないだろう。
「ファッションにそれほど造詣が深い訳ではないですが、私目線で良ければ」
「よろしく頼む。自分で選ぶと着脱と使いまわしだけ優先するからセンスに自信はないんだ。そっちの今日の服装は涼しげでとても良いね、そんな感じで一つ頼む」
「任された。責任重大ね」
「いや、そこまで気負わなくていいよ」
さあ、デートを楽しむとしようか。
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