444:小寺パーティーfeat.安村
本日二話目です。一話目がまだの人は一つ戻ってね
考え事をしているうちに八層を越えて九層に入った。八層では丁寧にダーククロウも処理している。茂君ほどの戦果は出ない物の、ここではまだスキルオーブのドロップ報告がない。つまりこの数少ない中に可能性を見出すことができる。出たら儲けもんだが、人口が増えた今自分の手で拾い上げることは難しくなっただろうな。ちょっともったいなかったかな?
九層の中級者コースを歩いていく。四匹から六匹のワイルドボアとジャイアントアント相手に無理をしない程度の負荷をかけつつ戦う。全力で戦うなら四層ぐらいだが、細く長く体力と魔力の回復量を維持しながら戦うにはここはちょうどいい。もう一段階ステータスブーストと雷魔法の使い勝手が上がれば十層もソロで行けるようになるかもしれない。
十層をソロで突破できるという事は実質的に十五層までソロで行けるという事になる。骨ネクロやオーク四体の構成には手がかかるだろうが、時間をかければ確実に倒せるようにはなるはずだ。
手早く進んでいくと、後ろから近づく足音が聞こえて来た。他のパーティーかな。さすがにソロとパーティーでは手数が違うので殲滅速度も違う。後ろから追いかけられたら追いつかれてしまうのは必然だ。ここは大人しく前を譲ろう。
「やぁ、おはようございます安村さん」
小寺パーティーと出会った。エレベーターで十五層へ行かないのは珍しいな。ここ最近は十五層まで下りて十六層で狩りをしている事が多いと言っていた覚えがある。
「あれ、こんなところで何してるんです? いつもならエレベーターで十五層まで行くでしょうに」
「ちょっと肉を集めてバーベキューでも開こうと思いまして。それでボア肉とオーク肉を集めに来たんですよ。安村さんはいつもの巡回ご苦労様です。良かったら付き合っていきませんか? 」
「って事は十一層十二層も行くんだよね。九層グルグル回るよりは暇つぶしになりそうだしついて行こうかなぁ」
「安村さんがついてきてくれるならより多くドロップを持って帰られますからね。予定より内側に潜る事も出来そうです」
「安村さんも日帰り予定ですよね? 九層ぐるっと回るより儲かるかもしれませんよ」
大木さんや中橋さんも続いて勧誘を薦めてくる。みんなが良いなら付いて行こう。
「じゃあ肉はそっちに渡していくという事で、肉と革以外は俺がバッグに入れていくよ。後で仕分けしやすいし、まだほとんどドロップ拾ってないから区別もつけやすいし」
「それでお願いします。僕も楽になるので」
メインポーターをしている中橋さんへ提案し、了承される。ついでにここまでに掻いた汗を落としてくれた。彼は【生活魔法】の使い手でもある。服を綺麗にし、汗や垢を落とし、体を綺麗にする術を会得している。全身を洗われているようで少しくすぐったく、そして気持ちいい。ラノベでよくあるウォッシュだ。
「以前【水魔法】で同じことができないか芽生さんに試してもらった事があるんだが、洗濯機の中の洗濯物の気持ちが解ったよ。あの時は気化熱で低体温症になりそうになった。やっぱり本物は違うなぁ」
「またそんな無茶をして……風邪ひかなくてよかったですね」
そのまま中級者ゾーンを歩きつつ十層へ向かう。ほぼ一人一匹体制なので移動にも戦闘にも余裕がある。人数が多いってやっぱり大事なんだなと感じさせられる。
「安村さんはよく一人でこんな所歩いてますね。私にはまだまだ怖くてとてもじゃないけどうろうろできませんよ」
大木さんが自身の身長より小さいとはいえ、他のパーティーメンバーよりも一回り大きい両手剣を振り回しつつ呟く。
「得物も大きいですしね。その分隙ができやすいというか……もう少し短い剣に変えてみたら? 」
「それだと俺の取り柄というかカッコよさが無くなってしまうじゃないですか」
どうやら大剣を振り回すという事にロマンを追い求めているらしい。気持ちは解るがそこにこだわる必要はあるのだろうか。まあ本人が満足しているなら良いか。
十層の階段までたどり着いた。見回した感じ、誰も疲れた雰囲気は見せていない。
「このまま行きます? それとも休みます? 」
「人数多いし大丈夫じゃないかな。心配なら少し休息とってからのほうが確実だけど」
「じゃあ水分だけちょっと。喉が渇きました」
ゆっくりと水分を取ることになった。まあ実質休憩だ。スキルもほとんど使ってこなかったおかげで疲労はほとんどない。一時間耐久試験と言われてもこの人数なら何とかなりそうではある。だが今日の目的はオーク肉も含めての肉集めだ、耐久試験じゃない。
念のためあちこちを解すと、軽く頬を叩いて十層へ突入する。人数が居るおかげで階層に入った瞬間感じる圧も弱くなる。
早速ジャイアントアントが十匹お目見えしたが手間取ることはない。
大木さんは手早く両手剣を振り回し近いほうから順番にジャイアントアントを切り裂いていく。その後ろから酸が飛んできそうだったので雷撃で黒い粒子に還す。
野村さんは十三層へ通うようになってから得物を片手剣からメイスに変えた。スケルトンに手間取るのを考えると、剣で斬りかかるよりも鈍器で殴りかかるほうが手間が少なくていいと感じたらしい。八十センチぐらいの長さの鉄製メイスを振り回しつつ、ジャイアントアントの頭を殴り潰していく。この勢いを利用してスケルトンの核まで殴り割ろうとしているんだろう。
中橋さんは鉄鞭という変わった武器を使うようになった。同じく十三層で悩んだ末、たまたま鬼ころしに飾られていた色物武器コーナーで格安で見つけたらしい。店員曰くこれを好んで使う人は三人しか見たことが無いと言っていたそうな。鎖で分銅が繋がっているタイプではなく、段のついた棒が伸びている、水滸伝で呼延灼が使用している硬鞭と呼ばれるタイプだ。
剣で良いんじゃ? と言いたくなるが、本人が気に入って使っているし中々に使いこなせているようなので意見するのは野暮だと思ったので言わずにいる。
小寺さんは俺と同じ剣使いだが、俺の今の直刀に比べて肉厚の西洋剣に近い形のものに最近変えたらしい。攻撃を受けてから弾くか受け流すかして戦うというスタイルは俺に割と似ている。同じ武器を使うとスタイルが似てくるのは、多分同じモンスターを相手にしていくからだと思うが、他所のダンジョンへ行けばもっと違った戦闘スタイルも見られるんだろうか。
と、そういえば田中君も片手剣だったな。レイピアほどではないものの細身の剣を使ってひらひらと攻撃を避けながらの戦い方は確かに俺とは違うな。田中君、元気にしてるかな。
田中君の事を思い出す余裕がある程度には温い。一人で九層の一番外側を回っているのと変わらない。やはり人数が居ると楽が出来ていいが、ひりつくようなスリルを味わえないのは少し物足りなくも感じる。
「安村さんが居ると楽でいいなぁ。こっちも攻撃手段のスキルを何か一つ拾いたいところです」
「ん~と……八層か十層で出るまで踏ん張るという手段もあると思いますよ」
「お? ということは他の層ではドロップした人が居るという事ですか」
察した小寺さんが指摘する。そうだよ。
「まあね。十一層オークで【生活魔法】が出たって情報のお返しという事で」
「スキルオーブがいつ何層で出たかの情報は貴重ですからね。売るにしても使うにしてもやっぱり一発当てたいですからね」
「ただ、十一層でジャイアントアントを相手にするほうが出る可能性は高いかもしれません。そのほうが負荷がかからなくていいですし、肉も取れますよ」
「その感じだと十二層でもまだ出てないと見ていいですかね」
会話が続く。会話ができる程度に温い戦闘だ。まあこのメンバーなら十層はもうただの通り道だ、気にせず行こう。おそらくワイルドボアの肉は四人でバーベキューするには十分な数がもう集まっているはずだ。後はオーク肉をどのぐらい集められるかだな。
そのまま五人で問題なく進んでいき、十層から十一層へ三十分ほどでたどり着く。やはり人数が多いと移動も速い。芽生さんと二人だと普段は四十分かかっている。手数はやはり正義か。
十一層へ下りると、いつもより内側を歩く。目的はオーク狩りなのだからオークが多く出やすい、やはり森に少し近づいた辺りを探索する。
十一層でも森に近づくとオークが四体連れで出てくる。一人余るので中橋さんと野村さんがセットでオークにあたる。オークも鈍器で殴り続ければダメージが蓄積されて力尽きるらしく、鉄鞭とメイスで何度も殴打する姿が俺の目に映し出される。殴られるたびにオークがア゛ーッ、ア゛ーッという叫び声をあげている。ボコボコにされたオークが半泣きで黒い粒子に還っていく様は少し可哀想に見える。そこはやはり剣のほうがよかったんでは……
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