442:やっぱりやる事は同じ
今日も気持ちのいい朝を迎える。やはり夏布団は暑くなっても大事だ。掛け布団として暑すぎると感じたら、丸めて抱き着くことで香りを存分に楽しむことができる。ダーククロウさんありがとう。
あれから四日。一日しっかり休んだ後、約束通りボア肉、オーク肉を仕入れにダンジョンへ向かった。特筆するような出来事は無かったが、ただひたすらに肉を集めたため、オーク肉を十個、ボア肉を二十個、ウルフ肉に至っては五十個の保管庫内在庫を保持する事が出来た。
ウルフ肉を集めている時に解ったのだが、グレイウルフが骨にかぶりついて夢中になると、【索敵】スキル上でも赤から黄色に表示が変わるらしい。【索敵】スキルの使いどころとしては価格帯が安すぎるが、確実に判断できる材料にはなった。
九層から十二層にかけては、オークやスケルトンとの一対三やジャイアントアントを同時に何匹相手に出来るかなど芽生さん監視の元で色々と試験してみたが、結論としては俺にはまだ早いという事になった。やはり手数は正義だ。今の俺の実力では十層を越えて十一層に行くにも、十三層を自力で突破して十二層に行くにも、実力不足であることを痛感した。
「やはり私が居ないと探索は成り立ちませんね。好成績を残して休みに入る予定ですからそれまで我慢してくださいね」とは芽生さんの弁である。もう期末考査を好成績で修めるつもりなんだろう。何にせよ自信があるのは良い事だ。実力が伴っている事を願うばかりである。
ソロで潜る間は九層までという約束もした。つまり一人で潜る間はひたすらダーククロウの羽根を集めるか、九層で己の限界を確かめるぐらいしかやる事がない。どっちにしろ自己鍛錬だ。九層の端っこを歩くぐらいなら問題なくいけるので、徐々に中心へ近づいて行って何匹までが限界かを試してみるのだ。
ここの所とんとん拍子に探索が進んでいたが、一旦足を止めることでこの後どうやって探索者として生きていくかを見つめなおす時間が有っても良いだろう。
せっかく二十層まで潜って百万を大きく超える収入を得られるようになったのに、とは思うがこれは二人で楽をしつつ探索を進めた結果だ。俺一人の功績という訳ではない。大きな収入は芽生さんが休みか気晴らしがしたくなった時まで取っておこう。
それでもって六十五万円ほどの収入を得て帰ってきて今日の朝だ。今日もご機嫌な朝食を取る。野菜はいつもよりちょっと多め。バランスを考えてキャベツ以外にスライスしたトマトものせてみた。目玉焼きの黄色とキャベツの緑、トマトの赤で彩りも豊かだ。
朝食を食べつつネットニュースを閲覧していると、小西ダンジョンのニュースが流れて来た。どうやらエレベーターの件を公表したらしい。
公開された情報によると、エレベーターが利用できるようになる条件は二つ。鬼殺しの称号を持つもの。そして小西ダンジョンでのボス撃破実績証明であるゴブリンキングの角を持つこと。この二点を満たしていれば誰でもエレベーターを使えるという話だ。実質ほぼ全部の情報だな。
利用する事は条件を満たせば誰でも可能だが、エレベーターそのものへの破壊、分解、解析等の行為を行わない事が条件に追加されている。また、これらは小西ダンジョンギルドが設置したものではなく、ダンジョンそのものが設置したものであることが強調されていた。
ニュースコメントは朝から大盛り上がりだ。一層から真面目に潜っていた探索者にとっては寝耳に水。情報の確実さを確かめないままに一目見ようと小西ダンジョンに詰めかける探索者も居るに違いない。
一層から七層を経由して十五層まで、時間をかけることなく移動できる手段が存在した事について何故今発見されたのか、何故エレベーターなのか、どうして十四層じゃなくて十五層なのか、等様々な意見がくっついている。すまんなぁ十五層で。
今までだれも見向きしなかった地方の赤字ダンジョンでいきなりこんな金鉱が発掘されたのだ。一層から十五層まで一気に行けるということは単純に移動時間を圧縮して直接自分にあった狩場に移動する事が出来る。
俺以外にもみんな思っていた事だろう。狩場が遠い。ただ歩くだけで時間が勿体ない。もっと早くたどり着いて思う存分狩り尽くしたい。
そんな夢物語を叶えるようなシステムが目の前に現れたという事になる。今の河岸を変えてまで小西ダンジョンに来る者がどれほどいるかは解らないが、観光として見に来るのは充分にあり得るだろうな。
そうなると、一人で暇な俺にもエレベーターボーイとしての仕事が回ってくる可能性が高いと言える。一応はやんわりと断りは入れてあるのだが、何回かは付き合う必要が出てくるだろうな。その時は小遣い稼ぎに実費で補填させてもらおう。
今のところ確実にエレベーターを動かせるのは俺と芽生さんと新浜パーティーだけ。だとすると俺にお鉢が回ってくるのは確実で、おそらく明日あたりギルドから呼び出しがかかるだろう。今日は混乱するだけで済むかもしれない。
せっかくの休みだが、暇つぶしにダンジョンの様子を見に行くのも有りかもしれないな。どうせやる事もないんだ、ゆっくり家事を終わらせてからでいいな。
今日はしっかり布団を干してパジャマを洗い、家の中を綺麗にして保管庫も綺麗にすることにしよう。保管庫の中の使ってる途中の食品も一旦取り出して整理する。ちょっとだけ残っている飲みかけのコーラとかも出てきたので胃袋に詰めておく。
調味料なんかは使いさしがあってもいいが、野菜の残りや食パンは……いや、でも保管庫に入れておくのが一番安全か。近いうちに使い切るつもりで行こう。
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よし、家事は一通り済ませた。家でやるべきことはもう何もないな。いつもより遅い時間になったがダンジョンの様子を見に行ってみよう。暇つぶしにはちょうどいいしなんならこのまま一晩潜ったっていい。保管庫には色々と入れてある。
念のためお弁当作っていくか。せっかくウルフ肉を補充したので焼いたウルフ肉と野菜のサンドイッチを作る。ソースは大根おろしと醤油だ。ウルフ肉がまだ温かいまま保管庫に放り込んでおいてそのまま俺が食べられるように……
いやまて、今日から暫くは保管庫をあまり使わないほうが良いかもしれないな。おそらく他人の目がいつもより多くなっているはずだからごく自然に振る舞うことが求められるだろう。清州ダンジョンに潜る時と同じでいいかな。念のためスケルトンの魔結晶を全部背中のバッグに移しておき、それ以外のものは七層に置いてあることにしよう。
ギルマスのおかげで行動の自由が保障されているんだから、ダンジョンへ行く自由ってのがあってもいいはずだ。とりあえず……人が居ない事を祈りながら七層まで行くかな。その後は茂君が居たら狩ろう。
そんでもって九層を一周した後また戻ってきて茂君。しばらくこの往復でいいな。疲れたら七層に戻ってご飯食べてゆっくり仮眠して、起きたらまた茂君と九層を往復して……って、結局いつも通りか。
いつも通りで良いのだ。そして帰り道にはスライムを潮干狩りしよう。禁止されてない以上、スライムだってほどほどになら狩っていいはずだ。エレベーターを使う人がいる以上、道中のスライムは少ないほうが良いはずだからな。
そうと決まれば潮干狩りだ。早速出かけよう。
ここまでで一区切り。
ご視聴ありがとうございました。
明日二話投稿予定です。
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