44:命の重さと延長戦という名の本番
百万PV達成することが出来ました。毎度毎度ありがとうございます。
ダンジョン関係のニュースを見る。海外ではスキルオーブのオークションサイトがあるらしい。
オーブを入手して十二時間以内にオークション関係者に預けることで、そこから二十四時間のベットタイムが発生する。
その後残りの時間で受け取りを終わらせる、という時間的にせわしない取引になる。スキルオーブの出品自体がそもそも少ないので多大な費用のかかることだが、四十八時間以内にオーブが消えてしまう事も考えると仕方ないことかもしれんな。
主体となっているオークションハウスの取り分は落札価格の二割らしいが、それでもそこそこの数のオーブが出品され、結構な高額で落札されている。どうやら銀行が経営母体をやっているらしく、資金力の心配は無いようだ。
もし途中でオーブが消滅した場合は落札者の丸損になるらしく、ざっくり三十六時間以内に地球上を回って落札現場まで到着しないといけないのか。すごいギャンブルだな。
日本の国内での取引の場合ギルドを通して一定の価格でスキルの取引が出来るらしい。
スキルオーブの値段をあらかじめ決めておいて、そのスキルオーブを求めている人に順番をつける。スキルオーブが提出された場合即座に直近のギルドまで輸送され、ギルド内で売却・使用される決まりになっている。こちらの場合もギルドの手数料は十%のようだ。
未知のオーブが出た場合どうするんだろう?と思ったが、未知のオーブの場合未知のオーブであること前提で二十四時間のオークションによって落札されるルールが決められている。これは日本のギルド探索者しか落札できない決まりになっており、海外へスキルが流出しないための措置だとかなんだとか。
あの時もっとまじめに調べておくべきだっただろうか。
事前に知っていたらこの保管庫も金に換えてたのだろうか。そしたら毎日ダンジョンに潜らず死ぬまでだらだらと暮らしていたのかと考えると、それは幸せな人生だっただろうが同時に退屈な人生になったかもしれない。
金があれば働かなくていいじゃないか!とは思うが、実際金があっても無くても俺は同じようにダンジョン通いをしてるような気がする。社畜魂が体に染みついてしまっているのだ。何かしていないと落ち着かない。
そういえば昨日あれだけスライムを倒してもスキルオーブは出なかった。今日までにざっくり五千匹ほどスライムを倒してはいるが、その間にでたスキルオーブは一個。スキルオーブのドロップ率はそれ以下ってことか。ちょっと計算してみよう。
スライムのドロップ品はゼリーが三十円で魔結晶が百円。
ドロップ率がそれぞれ三十%と六%。
スライム一匹の期待値は十五円ちょっと。あいつ十五円か……一つの生命体に十五円の価値しかないと算出されるのは少しかわいそうだな。
グレイウルフは魔結晶、肉がドロップし、二十四%ぐらいで魔結晶が出る。肉はスライムの魔結晶と同じぐらいの割合だったかな。
買い取り価格は、グレイウルフの魔結晶が重さ換算で二百五十円、肉が二百五十円。同じか。
まとめて計算するとグレイウルフ一匹の価値は百二十五円となる。これ以外にレアドロップとしてごくまれにヒールポーションランク1が出るが、これは計算外としておこう。まだ計算に組み込めるほどグレイウルフの数を討伐していない。
ゴブリンは魔結晶とポーションしか落としたことがないが、まだ数を狩っていないので正確な割合は解らないが、覚えにある数を数えれば七十匹ほど狩ったはずだ。
確か文月さんとコンビ組んで戦った時のが……あった、ゴブリンの魔結晶が二十二個。それとヒールポーションランク1が三本か。
それぞれドロップ率は三十一%と四%。金額にして五百三十八円。ゴブリンはだいぶお高いな。
後はこれに出会うまでの時間、倒すための時間、そこに行くまでの時間を計算に入れれば、ダンジョン入口を起点とする「何を狩るのが最も時間効率が良いのか」を算出することが出来る。
しかし、モンスター遭遇数が圧倒的にスライム>>>>>>>グレイウルフ>ゴブリン なので、正直グレイウルフを一匹倒すまでの間にスライムを八匹狩るほうが圧倒的に早いし手軽だ。
時間と体力があればゴブリン、肉が食いたければグレイウルフ、明鏡止水の域に心達すればスライムという事だろうか。昨日みたいに大繁殖していれば、スライムのほうが圧倒的に早くこなすことが出来るな。
なんせ、捕まえて引っ掻いて踏みつぶす、という作業には最短三秒で対応できる。つまり俺の周りにうようよ群がってくれれば分速二十匹、時速千二百匹の効率で仕事をすることが出来る。
そうすれば……一万二千円か。夢が広がるな。二時間修行するだけで俺の過去最高記録を達成できる。実際その通りになれば、だが。
同じことをグレイウルフで試そうとすると命の危険が危ない。スライムはノンアクティブモンスターだ。こっちからつつかないと反応しないがグレイウルフは向こうから近寄って攻撃してくる。
周りをグレイウルフに囲まれて楽し気にマチェットを振り回すのは俺の芸当ではまだ無理だと思う。ゴブリンでは言わずもがなだ。そういう戦い方をするにはそういう装備が必要になってくる。まだまだ俺の装備では大丈夫じゃないな、一番いいのを頼まないと。
装備をそろえるためには金がいる。金をためにダンジョンへ行く。そして装備をそろえて金を……落ち着くまでは堂々巡りだなこりゃ。
そんなわけで今日はちょっと小西ダンジョンの様子を見に行ったほうがいいかもしれないな。昨日の続きでスライムがわんさか湧いてたらダンジョンとしても困るだろうし、俺としては嬉しい。己の実力がどこまで発揮できるかを自分に見せつけるチャンスだ。スライム狩り最速タイムアタックにチャレンジしよう。
と、装備を確認するために保管庫を覗いた時に気づいた。昨日の午前中に狩った分のドロップ、換金するの忘れてたな……
午後から脱出するために狩ったスライムドロップは保管庫に入れずに拾っていったから査定してもらったが、午前の分はちゃっかり保管庫に入れたままだった。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもより一時間遅いバスで小西ダンジョンに着いた。いい加減自家用車で通勤したいぜ。そのほうが交通費も安く上がるし、道中大音響でアニソンも聞けるし、やる気も上がるってもんだ。
入り口付近で何やら職員たちが言い合っている。これはあれか?昨日の続きでボーナスタイムか?だったら嬉しいが。近寄って声をかける。
「何かあったんですか?」
「あぁ、安村さん。昨日ご報告してもらった件なんですけど、どうも終息してなかったようでして、ご覧のように……スライムが……」
指さす先のダンジョン入口を見ると、案の定というか予想通り、スライムが詰まっていた。通勤時間の東京メトロ東西線か名古屋地下鉄の東山線か、それとも大阪御堂筋線か。よくもまぁこれだけ詰め込んだものである。
これ、中までびっしりだったらどうしよう。
「今中に入ってる人は居るんですか?」
「誰が入っているかは個人情報なので大きな声では言えませんが、泊まりで中に入っていた人は居ません。朝からこんな状況だったので諦めて帰った人は何人か」
よし!よし!!
「つまり、いまならスライムのつかみ取りが出来るという認識でよろしい?」
「これなんとかするつもりなんですか?」
「何とかはならないと思います。ギルドとしてどう対応されるかは解りませんが、減らす努力はしてみようかと思うのですが」
「無茶はしないですよね?」
「無茶はしません。ただ……」
「ただ?」
「今日なら立ったまま潮干狩りが出来そうなので腰を痛めずに済みそうだなぁと」
入ダン手続きを済ませる。
カバンからいつもの万能熊手を出すと肩をグルリグルリと回し、そのまま膝をまげて屈伸の運動、その場でピョンピョンジャンプ。
前から後ろに体をそらし、腰の準備を整わせる。
「さて、やりますか!」
職員がガン首そろえて俺を見ている。そういえば人前でまともにスライム退治するのはこれで二回目かな。
潮干狩りの実力、ここで見せつけてやるぜ。たかがスライムだから見せつけたところでかっこよくはないんだが。
つぷん、と指先がダンジョンの中に入る。どうやらダンジョンと外の境界線より少しだけ内側に壁のようなものがあるらしく、スライムはそこを境にしてみつしりと詰まっていた。
動ける範囲がちゃんとあって作業が楽だな、と思うのと同時にダンジョンギリギリの安全地帯で戦うことはできないんだな、という気づきがあった。まぁ、やったところで迷惑行為そのものなんだろうが。
「これ、突然弾けて私のほうにパーンとはじけ出てきたりしませんよね?」
「そういったケースは聞いたことがないです。ただ、外へあふれ出るという事は十分考えうるに値しますので……その前に頑張ってください」
つまり何とかしろという事だな、うん。
深呼吸をする。一回、二回、三回……よし、落ち着いた。
さぁ、リアルタイムアタックの始まりだ。
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