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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第五章:自由を求めて深層へ

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439:飯る

 一階に戻ってきた。支払いカウンターでほぼ完成した十六層の地図を提出しコピーを取ってもらうと、今日やる事はもう終わった。時間的に見ると昼だ。この後の予定も無い。


「久しぶりに中華屋にでも行くか。飯食って帰ろう」

「いいですね、これと言って良い物を食べたいというものはありませんがお腹空きましたし、今なら何でも食べられそうです……そういえばお肉は、レッドカウのお肉は残ってるんですか? 」

「いや、今回は全部査定に出した。どれがいくらになるか計算する必要もあったし」

「そうですか……で、いくらほどでしたか? 」

「一万五千円ぐらい。ちなみにハイエナの魔結晶は七千円から七千五百円ぐらいだと思う」

「ほほう……中々美味しいですなぁ」


 個数と値段は大体解った。ポーションのドロップ率を全部一定だと仮定した場合、バトルゴートとレッドカウが一万千円、ダンジョンハイエナが一万七千円ぐらいの期待値を持っている。スケルトン達のほぼ倍の値段だ。同じ頭数生息するなら時給換算するとかなりの金額になる。


 ちょうどお昼な事もあって中華屋の店内はそこそこの客入り。いつも通り声をかけると奥のボックス席へ座る。さて、今日は何喰おうかな。久々に唐揚げと餃子と……いつものメニューだなこれは。まぁ特別な日だとも言えなくはないが、かといって何か豪華に行こうという気分でもない。いつものでいいだろう。


「おういらっしゃい。何頼む? 」

「こんちは。餃子定食と鶏のから揚げ。芽生さんは? 」

「チャーハンスープ付きと餃子で」


 餃子が被ってしまったがまぁいいだろう。自分で水を汲んでくると、チン、とコップを鳴らして乾杯という事にする。


「十七層から二十層はその前の迷宮マップの倍の期待値だと言える。特にダンジョンハイエナは美味しい」

「迷宮マップと同じだけ湧いているほどではないですが、半分というほど少なくも無かったですね」

「しかも、魔結晶が赤く小型化したおかげで荷物が若干軽い。日帰りでも時間単位で見れば十分儲けられるはずだ。更におまけするとまだスキルオーブは出てない」

「うま味成分が凝縮してるじゃないですか。それにポーション一本二十四万ですよ。あの小瓶一つで下手な大卒初任給レベルですよ」


 よほど今日の収入が気に入ったのだろう。これから飯を食べるのもあってかいつもより楽しそうに見える。


「そんなわけで、二十代の平均年収の半分ぐらいを一日で稼いでしまったぞ。マップはまだ提出してないし、これから小西ダンジョンもエレベーターの件を公表するだろうから人が増えても二十一層まで直通で行けるのは我々だけだ。今しばらくは狩場を独占できるな」

「今のところ公式に開放されてるのは十七層まででしたっけ? ダンジョンハイエナを存分にしゃぶり尽くせるのは有り難いのですが、一つご連絡がありまして」


 芽生さんがまじめな顔でこちらに向く。なんだろう。


「そろそろ期末考査の時期でして。さすがに私も真面目に本業に勤しむ必要があるんですよ。それで今後の予定と言いますか、潜るタイミングについてご相談がですね」

「なるほど、ひとまず休憩して勉強に勤しむか、それとも頻度を減らすか、その辺りの相談だな? 」


 あくまで本業優先だからな。優秀かそうでないかは俺には解らないが、本業を疎かにして金稼ぎに走るのは本末転倒だ。


「勉学に励むにも息抜きが欲しいのでたまには潜ります。その時は連絡しますので合わせてくれると助かるのですが」

「それは問題ない。むしろ、一切潜らないから一人でよろしく、とかでも良かったんだが」

「さすがにそこまで集中しないとヤバイという成績ではないので。ただ、探索者やってて成績が悪いと洋一さんにも申し訳ないと思うんですよね。せっかく学業優先させてもらって潜ってるのにその肝心な部分がダメではいけないと思っています」


 確かに。それなら大学辞めて探索者一本で食っていくという選択肢のほうがマシだと言われかねない。ただ、彼女にとってはそもそも探索業は奨学金を返すためであったはずなので、十分な収入を得た今なら探索者のほうを辞めて学業に専念するという事も可能ではあるだろう。


「わかった、俺が一人で潜る事が増えるという事で。あまり根を詰めすぎるなよ」

「その為にも気晴らしの探索は必要ですから。気楽に背中を見送っておいてください。その代わり期末考査が明けたら長い休みになりますからガンガン潜りましょう。休みの間に一億稼げるぐらいに」

「一億なら案外何とかなるかもしれんな。とりあえず期末考査については解った。その間俺も伸び伸び茂君狩ったりジャイアントアント相手に何匹相手までなら一人で捌けるかとか、一人で十五層回れるかどうか腕試したりできることを積み重ねて行こうと思う」

「くれぐれも無茶はしないでくださいね。ほっとくと物理的にどこまで耐えられるかとかやりだすのが洋一さんですから」

「一応大丈夫だろうというラインを見定めてさらに念入れをしてためしているはずなんだが」


 料理が運ばれてきた。会話は一旦中断し、しばし二人料理を楽しむ時間に入る。


「そういえば今日は肉は持ってきてないのか? 」


爺さんが気軽に肉の要求をしてくる。いつもの事だが在庫が足りないんだろうか?


「バッグにいくつか入ってはいるけど、何がご入用? 」

「今のところウルフ肉は余ってんだ。最近飯代として持ってくる人がちょくちょく居てな。ボア肉とオーク肉の在庫がちょっとばかし欲しいところだ」

「ボア肉もオーク肉もあるぞ。とれたてほやほやではないが中で自分で食べるように放り込んでおいた奴で良いなら卸せる」

「助かる。会計の時に頼むわ」


 ウルフ肉はむしろ余り気味なぐらい狩り続けられているらしい。もしかしたらこの肉も実はウルフ肉かもしれんな。相変わらずいい味の餃子だ。揚げたての唐揚げも美味い。ここは小西ダンジョン最前線で一番美味しく飯を食える貴重な場所だ。小西ダンジョンに出入りする人が増えれば、きっとここも繁盛するのではないか。


 今日ここに肉を卸すと、手持ちの肉が大分少なくなるな。ちょっとボア肉とオーク肉を仕入れに行かなければならなくなる。ボア肉はともかくオーク肉は芽生さんが居ないと辛い場所だ。上から行っても下から行っても一人で行くにはまだ俺の実力が足りてないと感じる。


 ステータスブースト……身体強化スキルをもっと鍛えていかないとな。元から使ってた人やそもそもの魔素の蓄積がある人はともかく、小西ダンジョンでは一番鍛えられているという自負はある。しかしそれでも三体四体を一度に相手が出来るか……と言われると難しい。期末考査が始まる前に一回は肉集めに付き合ってもらおう。


 この肉はいろんなところに友好の証として贈る事も出来る接待アイテムだ。そのうち布団の山本にも一度顔を出した時にお肉もお出ししよう。従業員が何人いるか解らないが人数分のウルフ肉ぐらいは用意できるはずだ。いつもお世話になっているしな。


餃子を食べ終わると鶏のから揚げに移行しつつ、手持ちの肉の残高を確認する。


「期末考査準備に入る前に一回だけダンジョンいいかな。手持ちのオーク肉を今日ここに卸すと在庫が無くなってしまう。パーティーとして、いろんなところで使うかもしれない袖の下としていくつか数を確保しておきたい」

「そういう事なら構いませんよ。さっき言った通り大急ぎで挽回しないといけない訳でもないですからね。普段からこちらに合わせて頂いているおかげです、ありがとうございます」

「こちらこそ、いつも付き合ってくれてありがとうございます。おかげで楽して儲けております」


 お互いに頭を下げ合う。頭を挙げるとニッと笑い、食事を再開する。


「いつもお世話になっている相手にわかりやすい贈り物ですからね、肉」

「もらうとテンションが上がるからな。そうめんの次ぐらいにお中元やお歳暮の立ち位置に潜り込むポテンシャルを持ってると思うんだよ、肉」

「たまには学友にも渡してみるべきですかね、肉」

「いいんじゃないかな、そうしてみたら探索者の解りやすい指標でもあるし、肉……唐揚げお代わり! 」

「あいよー! 」


 唐揚げのお代わりを通してもらって水もお代わりする。厨房から直接声が飛んできたので注文は通ったはずだ。唐揚げが届く前にテーブルの上にある料理はなくなってしまったので水をちびりちびりと飲みながら到着を心待ちにする。


「ちなみに今の在庫は? 特にオーク肉ですが」


 芽生さんには保管庫の中身が見れないから俺にしか確認できない。割と適当に管理してたがこの際ちゃんと中身を確認する。


「ウルフ肉が三十、ボア肉が四、オーク肉が四ってとこだ。ボア肉とオーク肉はこの際に全部卸してしまおうかとも思っている。なのでボア肉は自力で取れるのでともかく、オーク肉はさすがに一人で取りに行くわけにはいかないからな。そこを協力して欲しいってこと」

「解りました。出来るだけ近いうちに行きましょう。七層から十五層まで歩いていく感じで。十個ぐらい在庫があれば良い感じですかね」

「それだけあればしばらく持ちそうだな。手持ちがあれば料理にも幅が出るし、セーフエリアで食べる料理にも幅が多少出る。オークカツとか挑戦したくはあるが、さすがにダンジョンで揚げ物はなぁ……」

「その時はまた食べに伺いますのでよろしくお願いします」


 芽生さんが頭を下げる。これはオークカツはついでで布団で寝たいのがメインだな。間違いない。


「で、そのまま一泊していくわけか。親にバレてなんやかんや言われても知らんぞ」

「いいんですよぅ、私も良いお年頃ですから。男性の家にお泊まりイベントの一つや二つぐらいあってもおかしくない年齢ですよ」

「既に一回はこなしてるけどな。まぁいいけど」


 鶏の唐揚げのお代わりが来た。お互い何を遠慮する事も無くバクバクと食べ始める。


「そういえば自前の布団を誂えるかどうか決めたんか? 」

「作ってもらうことに決めました。なのでまた布団屋までお付き合いください。ついでなら布団が出来上がるまで毎晩泊めてください」

「後半は断るが解った。近いうちに空いた時間でやってしまおう。ウルフ肉もその時におすそ分けで持っていけばいいだろうし、そこで袖の下を通しておけば融通が利くかもしれん」

「残念ですがやはり肉は大事ですね、肉は」


 唐揚げを喰い終わり一息つく。昼食はこれで十分だな。さてこの後どうするか。

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― 新着の感想 ―
メインヒロインなんでしょうけど、 女から見ても(とは言え、私から見てですが)、ちょっと図々しいんだよねぇ…… 物語とはいえで…… これさえなければ大好きな物語なんですけどねぇ
[気になる点] 身体強化スキルって判断力も身体の動きに合わせて強化されてるっぽいし ダンジョンのセーフ層でお勉強とか案外効率いいかもしれない 何しろ周りに何もないから勉強だけに集中出来そうだし (食事…
[一言] 芽生さん、飯の前に結衣さんにあったからちょっと攻めてますなぁ
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