437:業務報告 1/2
二階のギルマスルームへ遠慮なく上がっていく。もはや許可を取るとかどうとかではなく、二階行ってくるねー、はーいぐらいの気楽さで扱われている。
本来ならきちんとアポイントメントを取ってそれから話に入るというのが正しい手順のはずだが、どうもここではまだ省かれても良いぐらいの心持ちらしいし、俺も顔パスという感じのようだ。悪くは無いがそれでいいのか? とも思うが、応接室に入ってパター練習するところしか見てないあたり、やはりまだ適当なんだな。
小西ダンジョンが栄えるようになったらまた話は変わってくるのだろうが、今のところそこまで気を回さなくていいよ、という事だろう。
念のためノックをしてから入る。すると先客が居た。結衣さん達だ。
「おっと、先客が居たか。これは失礼、終わったら呼んでください」
「いや、構わないよ。むしろ聞いておいてもらっても損はないかな」
出て行こうとすると呼び止められる。俺達にも関係ある話だろうか。
「……というわけで七層のエレベーターから十五層までまっすぐ行ってエレベーターで戻って査定して戻る、という流れの調査を何度か繰り返した結果、一回当たり平均で百万円分ほどのドロップを見込めました。他のパーティーとも時々出会ったりしたので探索している層を必ず独占させてもらっている訳でもないのですが、それでもこれだけの金額が一パーティーからもたらされる可能性が高いです」
「それは承知した。実際に潜って見ての感想を聞かせてほしいのだが、何パーティーまでならこのラインを維持しつつ探索……ぶっちゃけると稼げると思うかね? 」
「階層が被らない前提ならおそらく六から七パーティーですね。完全に同じタイミングで同じ階層を回る、という可能性が無いわけではないですが、その可能性を除外すれば七層から十五層を渡る範囲だけで収入は充分見込めますよ。モンスターの密度やリポップの速度なども清州ダンジョンに比べて早く、特に十層のモンスター密度は目を見張るものがあります。大人数パーティーでここをグルグル回るだけでもかなりのドロップが期待できると思います」
横田さんをメインにして、探索者を儲けさせられるか、そしてどのぐらいのキャパなら混雑せずに探索が出来るかを説明しているようだ。結衣さん達はただ金儲けするだけを理由に潜っていたわけじゃなかったのか。俺の目が曇っていたようだ。かけてないメガネのレンズを拭きたい気分だ。
「というわけで我々ここ数日で清州十日分ほどの利益を得られました。ありがとうございました」
「こちらこそ、その分のダンジョン税を納めてもらってどうもありがとう。おかげで黒字が見えるよ。是非このまま小西ダンジョンに居ついてくれると助かるんだけどね」
結衣さんがこのタイミングでチラッとこっちを見る。判断を俺に振る気なんだろうか? ここはきっちり見返しておこう。すると二人の視線の伝わりを察知したのか、芽生さんが足を踏んでくる。安全靴だから痛くないぞ。
「正直魅力的な提案ですね。ただその場合清州ダンジョンに置いてきた拠点の手じまいをしなきゃいけませんから、どちらにせよ一旦清州ダンジョンに戻って、ついでに小西ダンジョンの居心地の良さも報告しなければなりません」
「できれば向こうのギルマスには黙っておいて欲しいなぁ。そいでもって清州に居る探索者に小西ダンジョンの良さを広めてもっと探索者を引っ張ってきてもらいたい」
「欲望がだだ漏れですね……」
芽生さんがため息をつく。まぁ、この人だからなあ。
「良さを広めるならまずは駐車場をなんとかされたほうがよろしいかと。近くの公共施設でも良いですのでスペースを開けてもらってそちらに停めてもらうとかでとにかく通勤の足を作ってもらうのが最善手ですね。清州ダンジョンの利用者はほとんどが車ですから装備を運び込む意味でも非常に重要です」
「そこを突かれると辛いなぁ。まあ、ここ数日よく頑張ってくれたね。おかげで自分のダンジョンのもつキャパシティについてよく理解できたよ。人数が倍ぐらいになってもまだ混雑という訳でもないらしいという事が解った。それに、十五層以降はまだまだ未知の可能性が残っている……そうだね、安村さん」
急にこっちに話が飛んできた。つまり、今いくら儲けて来た? という話だろう。
「そうですね、ざっと三倍ぐらいじゃないでしょうかね」
「え、そんなに稼いで来たんですか。二人だから……美味しいなぁそれ」
「その様子だと、清州の十六層以降でもここまでは稼げないって感じですかね」
「いくら稼いだか公開しちゃってもいいんですか? 黙ってるほうがより稼げるでしょうし」
横田さんが意外そうな顔をしてこちらに聞いてくる。
「だって何時に入ダンして何時に退ダンして、その間にどれだけのドロップを持ち帰ったか、ギルマスなら調べたら一発でしょうしわざわざ隠す理由が無いですよ。一応まぁ、ここだけの話として今日の稼ぎを伝えておきます」
「その感じだと良い報告が聞けそうだね? どうする? 君たちも聞いていくかい? 」
ギルマスは結衣さん達にも俺の報告を聞かせるようだ。どうやら機密の保持という所から外堀を埋めて行って小西に土着させようとする腹積もりなのか。
「いえ、それは遠慮しときます。おそらく聞かないほうが自由になれる話だと思うので」
そういうと横田さん達は席を立ち、帰ろうとする。
「そうかね、多分ダンジョンマスターがらみの話になるとは思うが興味はあんまりないと」
「興味が無いと言えばウソになりますが……多分必要なことは後で安村さんに聞けば返事が聞けると思うので今全部聞いてしまって身動きが取れなくなるよりはそのほうが気兼ねなくていいと判断します」
他の探索者なら興味があるかもしれない話をバッサリと切って捨てる。ここで誘惑に負けないのは良い判断だと思う。俺も見習いたい。
「じゃ、君らとはここまでだね。報告ありがとう。また小西ダンジョンに来ることが有ったら是非儲けて帰ってくれたまえ」
「お世話になりました。多分また来ます」
「お世話様でした~」
結衣さん達が退場する。足音を聞く限りではそのまま階段を下りて行ったらしい。部屋から出て帰るフリをして話が漏れてくるのを聞く、ということはしないようだ。
「さて、じゃあ今度は君らの報告だ。良い報告、と断言して良いんだよね? 」
「まず結論から言いますと、二十一層へ到達してダンジョンマスターに再会してきました」
「おめでとう。これで依頼達成だね。長かったような短かったような? 意外と短時間だったかもしれない」
「そう……かもしれません。ただ単に早く潜る事だけに集中したらもう少し早く達成していたかもしれませんが、逆に自分たちの実力不足で到達できなかった可能性もあります。私もそう若くはないので無茶はできませんし」
そういって腰をトントン叩く。
「それなりに大変でしたよ。見渡す限りの草原を目標物を探しながら歩き回ってモンスター相手にしながらうろうろするのは」
「他のダンジョンなら既に同じマップに潜り込んでいる探索者も居るから、それを参考にはしなかったのかい? 」
「しましたよ。わざわざドローン用意して飛ばして周囲確認しないとどっちに歩けばいいかもわからない状態でしたし」
「それでも最短距離で攻略してきたという事だね。という事は十六層以降の地図の提出はできそうかね? 」
「十六層に関しては問題ないですが、十七層十八層はかなりフィーリングで作った地図という所です。公開しないほうが良い、というレベルの地図ですね。これを基準にすると迷子が出るでしょう」
後はせっかく作った地図だしもう少し手元で発酵させて良い感じに熟成させたいという思いもある。せっかく自力で開拓した儲け話だ。もう少し人に広める前に先行者利益を得てしまっても良いだろう。
「そっちについては解った。いずれもうちょっと形になる地図が出来上がるころにお願いするとしよう」
ギルマスは自分用のコーヒーマシンからコーヒーを三杯入れると自分たちの前にも出し、応接室ではなく自分の部屋のほうへ誘導してきた。どうやら真面目なお話モードに切り替わったようだ。自分の椅子に座るとこめかみをグリグリとし、目を軽く抑えるとキリっとした顔になって話し始めた。
「さて、改めて報告を聞こうか」
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