43:グレイウルフ肉の生姜焼きと税金
中華店での宴会の後、腹が満腹のまま家に着いた。
一息ついた後、自分の取り分として保管庫に別置きしておいたドロップの中身を確認する。
グレイウルフの肉 x三
そういえば今日の夕飯はこれにする予定じゃなかったか。すっかり忘れていた。
朝から手の込んだ調理をするのは面倒くさいな、今のうちに作って冷蔵して明日の朝温めて食べるか。
さて、生姜焼きか山賊焼きか。レシピを検索してみるが、タレを漬け込んで一晩寝かせるレシピが多い。
ここはそれに習ってみることにするか。
酒・醤油・すりおろした生姜・砂糖を適量混ぜ合わせる。味を見て、俺好みの割合を作ると、ウルフ肉を薄切りにして、タッパーに寝かせると、さっき作った調味液をかけていく。贅沢に二パック分を放り込む。
そのままふたをすると冷蔵庫に入れる。今から朝まで漬け込むのは若干長すぎる気がしないでもないが、いい塩梅になる事だろう。明日の朝は豪勢に行くぞー。
食料品の在庫を調べていると食パンが切れているのに気づいた俺は買い出しに出かける。今日はついで買いはしない。ただ食パンとバターと葉物野菜を追加するだけだ。メインディッシュはもう用意されているので何の心配もない。そして米を買い足しておく。普段はトーストだが、やはり生姜焼きと言えば米だろう、米。
市販のパックの米でいいだろう。そんなに大量に食うわけではない。便利な世の中になったな。米のついでに漬物の小パックも買っておこう。箸休めは大事だ。
なんだかんだでそれなりの量になってしまった。最近買い物をしすぎな気がするが。ライフスタイルとモチベーションの維持には必要なことだと割り切った。
◇◆◇◆◇◆◇
買い物を終えて店を出ると文月さんと会った。たまたま買い物のタイミングがあったらしい。
「めずらしいな、こんなところで会うの」
「そうね、なんかいろいろ買ったみたいだけど」
「明日の朝飯を豪勢にするための準備かな」
「お、なんかいいドロップでも出たの?」
「ウルフ肉が思ったより手に入ったんで夕飯にしようと思ったんだけど、ちょっとダンジョンでアクシデントが発生してね」
「なんかあったの?」
「スライムが大量発生した」
文月さんはいまいち理解してないような頭で尋ねてくる。
「いつでも大発生してない? 」
「一層から出口の間にざっくり千匹ぐらい」
「それはまあ……ご苦労様です」
「あんなにスライム処理したのは初めてだったわ」
「スライムにご縁があるんですね」
「喜んでいいのか悪いのか。たまたま現場に五人もいてくれたから臨時でパーティー組んでなんとか門限までに帰ってくることが出来たよ」
「で、儲かったの?」
「全部外食で食っちまった」
素直に宴会で浪費したことを告げる。
「なんで呼んでくれないの? 」
「その場にいてくれたら誘ったかもしれなかったけどね」
「じゃあ次回に期待するとしましょう」
「明日もスライム多いかもしれないからその時にな」
「それって私もスライム狩りに参加しろって事? 」
「働かざるもの食うべからず」
タダで飯おごるほど俺も人はできていないぞ。
「女の子にご飯おごるのも男の甲斐性ですよ? 」
「無職男性にあまり無理を言わないでほしい」
「ちゃんと貯金してるんですよね? 」
「失業保険が下りるうちはなんとか貯金が出来てると思う」
実際、失業保険を除くと装備かったり用品買ったりで結構散財してしまっている。
探索者の初期投資が結構かさむんでなぁ……
「まあ、今度機会があったらな」
「期待しないで待っとく」
二、三会話を交わすとそこで別れた。
さぁ家に帰ろう。今日は疲労も大きい。明日の朝飯に希望を抱きつつ早めに寝るか。
◇◆◇◆◇◆◇
朝だ。昨日が昨日だったのか、ちょっと腰にきている。スライムが引き続き大繁殖をしてないことを祈ろう。
今日はトーストじゃなくて米だ。理由は昨日しっかり冷蔵庫で漬け込んでおいたウルフ肉の生姜焼きの出番である。
レンジでパックの米を温めると米の準備はばっちりだ。
さっそく冷蔵庫から一晩漬け置きしていた肉を取り出すと、フライパンでじっくり焼く。焼いている間に手早くキャベツを千切りにすると、ちょうどいい具合の焼け具合になった。
さぁ実食である。まずはキャベツを口いっぱいに放り込み、その後でウルフ肉の生姜焼きをいただく。 生姜の風味が効いていて、肉は硬くなく程よい弾力が口の中を喜ばせる。
これ米何杯でも行けるな。パックの米の二つ目を温めつつ、付け合わせの漬物とともにワッシワッシ米を食う。美味い。俺が本当に作ったのか疑うほどに美味い。
気が付くと用意した朝食はすべて無くなっていた。胃もたれを起こしそうなものだが、ウルフ肉は脂分が少ないのでそんなに胃に溜まらない。
超御機嫌な朝食をおえると、片づけをしつつTVをつける。昨日のスライム大繁殖はニュースになるほどのことでもなかったらしく、いつものダンジョン情報と共に、清州ダンジョンで探索者アイドルがデビューするという話をやっていた。
なんでもダンジョン入場者を確保するために、専属探索者を見繕ってついでに写真集とかCDを売ってダンジョンの収入を確保しようという狙いらしい。
まぁ、若者のダンジョン探索者を確保するための撒き餌みたいなものだろう。小西ダンジョンみたいな過疎ダンジョンには縁がない事だろう。人数が少ないほうが一人当たりが出会うモンスター数は増えるはずだからな。
小西ダンジョンは決してモンスター数が少ないダンジョンではない。むしろ人口が少なすぎてモンスターがあふれかえっているといっても良いようだ。
そういえば、ダンジョン探索者が集まる掲示板を流し読みしていた。小西ダンジョンはできて三年経つが、スレッドがpart3までしか伸びてないような過疎中の過疎である。有意義な情報は何も得られないんじゃないかと思ったが、一応チェックしている。
すると、潮干狩りおじさんの話題で盛り上がってる部分があった。潮干狩りおじさんって間違いなく俺だよな。エゴサーチはあまり趣味ではないが、せっかく開いたので色々見てみることにした。
どうやら、評判は良いようだ。おかげで下層へ行きやすくなったとか、俺にとって不都合な情報は少なかった。過去ログをさかのぼることなく、ここ一週間で一スレも消化されてないってことは、そもそも利用者自体も少ないんだろう。
俺は自分が褒められることにちょっとだけ照れつつ、これは本人降臨するのは良くない流れだな、と思いROM専に徹することにした。たまにチェックするだけにしよう。
別に目立ちたくてそういう戦い方をしているわけじゃない。単に俺の中で効率が良さそうだからそうしているだけで、潮干狩りと呼ばれようがおじさんが強調されようが、これが俺の生き方だ。何ら非難されることはない。
もしスライムの狩りすぎで苦情が来るようなことがあれば別だが、今のところそういう話はないようだ。このまま潮干狩りを続けつつ、美味しいお肉を集めつつ、昨日の宴会で話していたゴブリンの集団に対応できるような装備を集めていこうと思う。
他のスレを巡ってみると、税金に関するスレがあった。ダンジョン税として十%徴収されているんだから特に問題は無いんじゃないかと今まで思っていたが、どうやらそうではないらしい。
ダンジョン税が引かれた部分は雑収入であり、探索者は無職扱いだが、今まで探索用品として購入したものは経費に、そして支払いカウンターで受け取った金額が収入として計上されるらしい。
不味いぞ、今まで受け取った金額ほとんど探索グッズとして購入している以上今のところ同じぐらいなんだが、ここから先黒字になる場合は確定申告をきちんと行わないと脱税になり、申告した所得から所得税と地方税、国民年金と国民保険が引かれて行くので、思ったより深刻な事態になりそうだった。
幸運なことに、今まで支払いカウンターで受け取った領収書は取っておいてある。これを確定申告時に全部計算しておかないと不味いらしい。やばいな。こんな事なら今までホームセンターで購入したレシートをきちんと探索用品とそれ以外で分けておくべきだった。
今日までに探索で得られた金額はざっくり計算して十一万円ほど。探索者用品として購入した金額は八万円ちょっとだ。つまり、所得としては三万円しか稼いでないことになる。苦労のわりに意外と稼いでないな? これは今後金銭効率のいい戦い方というものを習得していかなければならないのか。みんなよく探索者続けてるな。感心する。
……ということは、使ってしまった保管庫スキルも探索者用品として経費扱いに出来たのでは?
まぁこれは秘匿スキルだから使ってることをだれにもバレなければ脱税になる? バレた時の追徴課税が大変なことになりそうだが、換金してないってことはセーフになるのかな? どうなのかな?
スキルについての税制の仕組みなんてどこかに書いてあったりするのだろうか? この際だから調べてみよう。早めに理解しておかないと俺の探索者ライフが危ないし、ダンジョン脱税で逮捕だなんて冗談にもほどがある。
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