427:質問内容のおさらい
今年の三分の二が終わっただと?
階段の段差に座り、二十層と十九層ギリギリの位置に陣取る。ここなら階段ギリギリのラインにモンスターが湧いたとしても気づかれない可能性が高い。
視線を切れればモンスターもこちらに気づかないだろうし、話し声を聞きつけてやってくるにしても、こちらはステータスブーストで聴覚を強化しているのでモンスターがこちらに向かってくるかどうかは足音で判別できる。便利だなステータスブースト。
コンビニで買っておいたおにぎりを二人で食べて保管庫でまだ冷えていたミルクコーヒーを飲みながら、ギルマスに託された質疑応答集に目を通すことにする。
何々……
・ダンジョンが占有する土地について、すべてのダンジョン出入口は我が国の領有権を侵害しているものであり、侵略行為の一種であると認められる可能性があるが、それについての見解をお聞きしたい
・ダンジョンを出現させた地域、場所、出現した理由についての合理的見解があれば求める
・ダンジョンに存在する名称スライムに当文明圏の廃棄物を処理させることは可能か
・ダンジョン内で現在確認されている食糧に当たるドロップ品は肉だけだが、これを麦や米や大豆などの範囲に拡大する事は可能か
・ダンジョンの階層は現在四層ごとにマップの種類が、七層ごとにモンスターの湧かない安全なエリアが、十五層ごとにボスと呼称する強力なモンスターが存在する事が全ダンジョンで共通しているように見受けられるが、これはダンジョンとして決められたものなのか。これらをダンジョン毎の個性として変更する事は可能か
・最初にダンジョンボスと呼称する強力なモンスターを倒した者だけに謁見するという事には何か理由があるのか
・ダンジョンから産出する資源は既にこちらの文明にとって実用的かつ必要な資源にシフトしているが、それを産出するダンジョンはそちらからの一方的な供給によるもので過剰在庫が解消されたからと打ち切られてしまってはこちらにも支障が出始める事態になりつつある。それについて最低限のダンジョン技術を供与する予定はあるか
・今後新規にダンジョンを出現させる、または出現してしまう可能性があるかどうか、可能性があるならそれを予測する事並びに場所を指定する事は可能か
・ダンジョンの最深層に違いはあるのか。あるならば何階層まで存在するのか
・既存のダンジョンを閉鎖ないし消滅させる術は存在するのか。ダンジョンの場所によっては国民の安全な生活を阻害する地点に存在しており、そのままダンジョンがあり続ける事に問題がある場所がある。それを技術的に解決する事は可能か
・各地に散らばるダンジョンについて、それぞれのダンジョンマスター間に交流はあるのか
・各ダンジョンマスターを統括するダンジョンマスターは存在するのか
・そもそもダンジョンとは何のために設置されているものなのか、何故地球上にダンジョンを設置する事になったのか
・ダンジョンからモンスターが地上に向けてダンジョンと地上の境目を越えて侵入ないし流出する可能性はあるのか
・ダンジョンが産出する、「スキル」について、法則性や種類、その効果について公開する事は可能か
・「スキル」を覚えた探索者について、「スキル」を使用可能になった事での副作用などは存在するのか
・「スキル」を覚えるためのスキルオーブについて、もっと数多くスキルを産出させることは可能か
・既存のダンジョンにおいてエレベーターに類するものをここから他のダンジョンに設置する事は可能か
ざっと目を通しただけでもこれだけの質問事項があるし、まだまだ続いている。これを全部言質を取るのは難しいだろうな。それぞれの質問は一ページごとにかかれており、文言以下には大きく空白が作られている。おそらくダンジョンマスターによる回答を俺が纏めるために使っておいて欲しいという気づかいだろう。
会談とか領有権とかいち探索者に託して良いものなのか悩む話まで含まれている。そして会談の場を設けたとして、そもそもダンジョンマスターたちはダンジョンから出てくることが可能なのか。逆にこちらからダンジョンへ出向くことで会談を行う事が可能なのか。確かに疑問点ではあるな。
最後の質問はおそらく小西のギルマスが追加したものだろうなと感じる。ダンジョンマスターに掛け合って清州や高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンにエレベーターを設置させることに成功したなら自分の功績とすることができる。他のギルドマスターにマウントが取れるとなればノリノリで書き足したに違いない。これも聞くのは無しだな。
「どんな感じですか。なんか面白い質問でもありましたか」
「半分はお堅い行政文書、半分は探索者なら聞いておきたい耳より情報って感じだな。ある程度は予想の範囲内ではあったという感じ。さすがに一つ目は今更って感じもしないではない」
「領土侵犯ですか。確かに言われてみればという気がしますが、いきなりダンジョンマスターに会って領土侵犯がどうのと詰め寄る探索者は居ないでしょうしね」
確かに。探索者にとっては領土とか領空とかどうでもいいもんな。いかにも行政らしき質問である事が解る。
「後は……いわゆるダンジョン溢れって奴だな。それが起こる可能性があるかどうか……か。たしかに外からのダンジョン管理としてはというか大事な所だな」
「溢れってあれですか。ダンジョンからモンスターが次々に出てきて町を襲って人を殺してって奴ですか」
「多分それ。現状を見るに、その心配はなさそうだけどな。これはちゃんと聞いておかないといけない奴だ」
文面に丸を付けて重要項目としておく。
「あとはダンジョンが出来た理由だな。これはいろんな項目にまたがってる質問でもあるからこれもちゃんと聞いておく必要がある」
「私たちからすればある日突然現れた……ぐらいしか知らないですからね」
「そういえばCランク探索者向けの冊子には何か書いてあるんだろうか」
ちょっとダンジョンの成り立ちについて見直す。特に大きくは書かれてなかったが、現在存在するダンジョンはほぼ同時刻に出来た可能性が高いという話になっている。つまり各ダンジョンマスターで時間をそろえてよーいドンで設置された、ということだ。
中身が出来てから入口を繋いだのか、それとも入り口を繋いでから大急ぎで作ったのかまでは解らないが、その点はどうでもいいか。どうせ異次元同士をつなぐ最後の作業が地上とダンジョンだろう。もし一層から作り始めたのだとしたら途中で突貫工事が何回か発生して手抜きめいたダンジョンが完成するだろうし、ダンジョンマスターは今も拡張作業に追われているところだろう。
とりあえずダンジョンが出来た理由についても聞ければ有益な話になりそうだ。丸をつけておく。
俺個人としても、ダンジョンマスター間の交流とか統括ダンジョンマスターが居るのかどうかとか、スキルについてとか気になる項目はいくつかある。ここは確実に押さえて行こう。領有権とかその辺は……こっちの事情でしかないから聞けなかったことにしよう。ゴミ捨て場にしても良いか、という質問はさすがに失礼すぎやしないか。
後はスキルの副作用か。スキルを使った時の副作用は存在するが、スキルの所持で発生する副作用というのは今のところ体感できていない。どっちかというと精神面でここでスキルを使えれば楽なのに、等といったどちらかというと面倒くささに起因するものが多いと思う。
俺が質問に付け加えるなら、エレベーターの稼働原理の基になった技術ないしスキル、いや魔術とまで言ってしまっても良いだろう。それを公開できない理由やそもそもこの黒い粒子は何かね? という話まで持っていきたくはある。
「ざっくりとどういう質問をすればいいかは解った。良い休みにもなった。となればあとは必死に迷うか、二十層」
「モンスターの数が気になりますね。十層置きですし、ジャイアントアントとワイルドボアみたいに無茶な数が出てくる可能性もありますが」
そういえばそうだった。このダンジョンは数字にまつわるこだわりがある。二十層に大量に湧いている可能性だってあるのだ。もしかしたらリンクして襲ってくる可能性すらある。覚悟だけはしておこう。
「そうなった場合は射出もフル稼働していこう。せっかく来たんだしここで帰るのは色々もったいない。仮に帰るにしても次に活かせるデータを手に入れてからにしたい」
「ま、行けばわかりますよ。二十層が解りやすい地形であることを願いましょう」
「じゃあ行きますか二十層。依頼達成と自由と……それから色々のために」
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