426:ぶらり十九層 2/2
そのまま岩に向かって歩みを進める。ダンジョンハイエナがバトルゴートを襲っているという状況はそれほど多くみられるわけではないらしい。レッドカウも襲うんだろうか。レッドカウの一撃を喰らったらダンジョンハイエナも無事では済まないとは思うんだが、力関係はどうなっているんだろう。
「ダンジョン生物の生態についてはまだまだ分からない事が多いな。何故ここに来て共食いを始めるのか……とか」
「ダンジョン生物学者にでもなる気ですか。スライムにしろグレイウルフにしろ、まだまだ浅い層でも確かめることは多い気がしますが」
「その辺は浅い層を回る探索者に任せるほうが良いかな。より深い層で余裕を持って活動するためにも生態は知っておいて損はないと思う。なんなら戦闘がより楽になるかもしれないし、これから行くであろう二十層ではまた変わった生態が見れるかもしれない。ちょっと興味はある」
「もしかしたら儲かるネタが転がってるかもしれない、という事ですか。でも先行探索者がすでに見つけてる可能性もありますよね」
確かに、自分達より先を進んでいる探索者はそれなりの数居るだろう。その中には学者気質の探索者もきっと居るはずだ。そういう人が情報を公開している可能性は低くない。また帰ったら調べてみることが増えたな。メモっておこう。
「とりあえず今は二十層への階段を見つけるのが先だ。この先の道が正解にたどり着けるよう祈っておこう」
「結構スキルも使ってますし、また階段で休憩ですかね」
「用心に越したことはないからな。ちょこちょこ休んでいこう。二十層が広大かもしれないし逆に狭いかもしれない。どんなマップかまで確定は出来ないが少なくとも広すぎてたどり着けないという事は無いと思うぞ」
実際、広すぎて迷うようなマップが多すぎるとダンジョンに潜りに来る探索者が忌避して深くまで潜らないかもしれない。ダンジョンマスターもそれは困るだろうから、彼なりに色々考えて、それでいて出来るだけ探索を楽しめるようにマップ配置をしているような気がする。
探索者がたくさん訪れるほうがダンジョンとして儲けになる……人の出入りが多いほど得になるのか、それともモンスターを倒したほうが得になるのか。それとも両方か。ダンジョンがどういう活動をしているかも気になる所だ。
考え事をしながらレッドカウの相手をする。モンスターを倒したら黒い粒子に還る。黒い粒子に還るという作用が必要になるのか、それとも歩き回るだけで良いのか。歩き回るだけよりは倒したほうがより効率的に……効率的になんだろう? ダンジョンが黒い粒子に満たされているなら呼吸しているだけでも黒い粒子を体内に蓄積する事は可能だ。
ということはダンジョンでマラソン大会でも開けばそれだけでもダンジョンには得になるのだろうか。スライムさえ湧いて無ければちょっとした催しとしては面白いかもしれない。
その辺をダンジョンマスターに聞いてみるのも良いだろう。階段にたどり着いたら質疑応答集に目を通しておくか。もしかしたら俺の疑問と共通する話題があるかもしれない。そっちを聞くほうがより優先度は高くなるだろう。
バトルゴートを痺れさせて楽に倒す。レッドカウを痺れさせて楽に倒す。ダンジョンハイエナを痺れさせるまでもなく一発で消滅させる。便利だぞ【雷魔法】、お前を拾って本当に良かった。一方の芽生さんはよりウォーターカッターを薄く高圧力で打てるように改良したらしい。一発でダンジョンハイエナをスパッと両断していた。
「新技ではないけど改良してみました。効果のほどは良い感じになってきましたよ」
「そういえば、顔の周りに水球を纏わせて窒息させるというのは今なら上手くいくのかね」
「あぁ、そんなのもありましたね。次でやってみますか」
次のレッドカウを相手に軽く集中すると、レッドカウの顔周りにバスケットボール大の水の玉を浮かべた。突然呼吸が出来なくなったらしいレッドカウは少し身じろいだ後、体の動きが止まる。倒した……わけではなさそうだ。倒したなら黒い粒子に変わるからな。
隣のレッドカウはいきなり何が起きた!? という感じでオロオロしているようにも見受けられる。続けて二匹目にも芽生さんは水球を発生させた。もう一匹も呼吸が出来なくなって倒れたようだ。
「暗殺向きですね。手元で水を発生させるのではなく、モンスター周辺の空中の水分をかき集めてその場で作るイメージでやってみました」
「上出来だと思う。そしてモンスターもどうやら酸素で呼吸しているらしいという事が解った。一つモンスターへの理解が進んだな」
新技も増えたところで目標の岩に着いた。周りにいたバトルゴートは早々と処理し、次の目標をドローンで探す。すると、南側に大き目の岩が設置されているのを確認できた。おそらく階段だろうと見当をつける。
「どうやら岩に向かってたどり着いてきたのは当たりだったようだぞ」
スマホの画面を見せながら二人確認をする。
「たしかにそれっぽいですね。後は向かうだけですか」
「もし外れたら……一旦十八層側の階段まで戻るか。バッテリーはまだまだ持つ。ここまで出来るだけ使わないようにしてきたから、二十層の広さにもよるがこの造りならもう一回最初から回るぐらいの余裕はある」
「行かない理由は無いですね。行くだけ行ってダメなら戻る。探索っぽくていいですね」
「じゃあ行こう。モンスターもそこそこ湧いてるようだし歩くだけの暇な旅にはならないはずだ」
目標の階段らしき大岩に向けて歩き始める。初めて潜ったとは思えないほど安定した行程だ。予想よりもモンスターのグループ当たりの数が少なかったのが理由だろう。これでダンジョンハイエナが四匹ワンセットで出てくるようならまた違った対応が必要になっただろう。
しかし、そうはならずダンジョンハイエナも初お目見えの階層だからか二人で十分対応できる数でしか湧いてこないし、レッドカウもバトルゴートも一匹増えただけに留まる。一匹さえ一時的に足止めできれば後は互いになんとかできる。この階層に残った障害は、未だ確定しない階段の場所ぐらいのものだ。
と、なれば後は一方的な狩りをしながらひたすら歩くのんびりした旅となった。落ち着いて道中のモンスターを処理しながら、爽やかな草原の風を満喫する。気分はピクニックだ。ドロップも増えれば重みこそないものの帰って来た時の楽しみが増すというもの。今日はいくら稼げているかな。
と、ダンジョンハイエナを手はず通りに消し炭に変えていると、コロンと転がり出るものがあった。いつもの赤い魔結晶ではなく、謎の小瓶だ。
「おっと……これはお出ましかな? 」
これがおまちかねのヒールポーションかもしれない。保管庫に入れて早速物品を確かめる。
ヒールポーションランク3 x 一
「ビンゴだ。二十四万円ありがとうございます、ゴチになります」
思わずダンジョンハイエナが消し飛んだ地点に手を合わす。
「ははー、ありがとうございますー」
芽生さんも同じく手を合わす。これ一本でこの階層の儲けの半分近くを得ることが出来た。十九層は絶対に美味しいという予感がビンビン伝わってくる。ここには頻繁に訪れたい。移動距離の都合上あまり長くは滞在できないが、それでも余りある収入を得ることができることが確定した以上、十九層は美味しい狩場と認識できた。
「それ一本でスケルトン五十体分とかんがえると……ここまで何匹ダンジョンハイエナ倒しましたっけ? 」
「えーと、忘れた。他のポーションと同じドロップ率だと考えると二十から二十五匹に一本みつかるぐらいになる。今ハイエナの魔結晶が十一個あって確定ドロップではないし、ハイエナの魔結晶の値段がいくらか解らない。とりあえず他の魔結晶と同じ値段だと考えてドロップ率が半分として……ハイエナ一匹の価格は一万円以上ということになるな。スキル二発で消し飛ばして二万円。ダッシュして五千円よりもダッシュしなくていい分お得感すら出てくるな」
「ハイエナいいですね、ハイエナをハイエナすると他のモンスターの分も増えて更にいいですね」
ダンジョンハイエナが他のモンスターを襲っている間ににじり寄り、どちらかがそれなりに致命的なダメージを受けたあたりで強襲、両方ドロップ品を頂くというハイエナからハイエナする行為は探索者的に許される行為かどうかは調べておかないといけない。が、少なくとも戦う相手の体力が目減りしておいてくれるのは非常にありがたい。今後もちょくちょく使っていこう。二十層だとより効果的になるかもしれない。
ダンジョンモンスター同士が戦って倒された場合ドロップ品が出ないという事は動画で確認されているので、タイミングが重要だ。遅いとドロップ品が出ないし、早すぎると両方を相手にする可能性が出てくる。最大出力ならワンパンとはいえ、同時に三体も四体も相手にするのはちょっと厳しい。俺もそろそろ新技の季節か。
ハイエナをハイエナしたりしながら大岩までやってきた。どうやらビンゴだったらしい、進行方向からは見えなかったが裏側に回るとそこには階段。周りを見渡し何もいない事を確認すると、休憩に入る事にした。
地図に階段から岩や木の間の歩いた時間を記入し見えた分の木と岩、それぞれの間隔を開けつつ階段を描き込む。とりあえず真っ直ぐ階段まで行ける地図ができあがった。
二十層ではどれだけモンスターが湧いてくるのか。十層みたいに手数の限界ギリギリを要求されるような湧き方をしているのだろうか。
この階段を下りればそれがはっきりするが、その前に休憩だ。軽い食事とそれから質疑応答集の確認をしておかないとな。さてどんな無茶な話が含まれているのか。
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