425:ぶらり十九層 1/2
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十八層での休憩も終わり、いよいよ十九層を真剣に探索する事になった。ここから二階層分、移動方向の選択に失敗したらもう一度トライという事になる。上の二階層でほとんどバッテリーの消耗が無かったことが今こちらにある幸運だ。後はモンスター分布とモンスター密度、それから一グループあたりのモンスター数がカギとなってくる。
前に来た時に現れたダンジョンハイエナは二匹で一グループだったが、もしかしたら三匹まで出てくるかもしれない。バトルゴートとレッドカウは三匹出てくる可能性が高い。そういう覚悟を決めているが、その覚悟を決めた俺の横にいる相棒はかなりリラックスしている。
「芽生さんなんかリラックスしてない? 未知のゾーンに突入するという割には」
「気張っても気を引き締めてもやってくるものは変わりませんからね。精々戦闘の重荷にならないようにさっきの休憩で置いてきました」
このお気楽さは見習うべきか。それとも信頼されているのか。二人そろってお気楽に行くべきなのか。ちょっと悩むべきところではある。
「ま、なるようにしかならんか。とりあえずいつも通り周囲確認してモンスターが居たら倒してからドローンで観察、目標物調査で」
「りょーかい」
下からは少し風が吹いてくる。そよそよとした感覚を肌で感じながら十九層へ下りた。下りたすぐ先を確認したが、周囲にモンスターは居ない。
「よし、周囲確認完了。早速モンスターとオブジェクトを探すか」
「モンスターが多いほうに階段があるとかそういう法則あるんですかねえ」
「前回俺らが通ったからモンスターが湧き直したとも考えられるし、濃いほうへ行けばいいという訳でもないと思われる。なので周囲をよく確認……ここはまたわかりやすいな。いや、そうでもないか」
この十九層は東と北に木、南と西に岩が肉眼で見える範囲で配置されていた。さすがに階段ほど大きくは無いが、視認はできるのでそれなりに大きさのあるものだろう。
さて……木のほうへ行くか岩のほうへ行くか。何もないよりははるかにマシだと思おう。
「見ての通り、東西南北どっちへ行っても岩か木。選び放題だな。どれかにたどり着いて、その先を観察して何もなかったら階段に戻ってくる。これでどうよ」
「移動範囲を絞る意味ではありだと思います。事前にお腹を膨らませておいて良かったというべきでしょうか」
モンスターの湧き具合は西側の岩方面に若干の偏りがあるものの、それぞれにモンスターが湧いている状態である。特に、バトルゴートとレッドカウはやはり三体グループが居た。ダンジョンハイエナは二体で一グループであるらしい。
レッドカウが同時に三体も居たらモリモリと草を食べる訳で、当然その周囲には草は生えておらず、バトルゴートも草の無いところには興味が無いらしく、そこから少し離れてやはり草を食んでいる。そんなにこの草が美味しいのだろうか。
とりあえず剣を立ててコロンと倒す。東に向いて剣は倒れた。
「よし、西へ行くぞ」
「今東向いて倒れたと思うんですけど」
「これやってまともな結果になった試しがないからな、あえて逆を行く。それにこっちにモンスターが多い。きっと階段はこっちにある。それに剣先が西に向いてるから西だ、間違いない」
「さっきモンスターが多ければそっちに階段が有るという訳でもないって言ってませんでしたか? 」
「あーあーきこえなーい」
西へ行く事にした。早速バトルゴート三体とお目見えする事になる。俺の目標は一体と半分。最初に突っ込んできた一体を【雷魔法】で痺れさせ、戦闘に介入しないようにさせる間に一体を倒し、もう一体を後から倒す。もし芽生さんが先に倒したならばそっちに任せる。そういう流れにした。
上手い事これが嵌ってくれたようで、【雷魔法】の全力一撃で足元が疎かになったバトルゴートが一旦戦線を離脱する。その間に無傷のバトルゴートにもう一発食らわせて突進力を落としたところに攻撃。これで大体何とかなる事が解った。
モンスター間の距離があればその間にMP的なアレも自然回復していくので、出力を大きめにしてしまっても対応できる範囲だ。十八層ほどの密度は無いものの、適度に湧いてくれている。
レッドカウも同じ手段は通用した。金棒を手から落としたレッドカウはまともに動けないほど消耗し、こちらから殴り放題斬り放題になった。見た目からしてレッドカウのほうが耐久力がありそうだったが、どうやらバトルゴートのほうが耐久力は上らしい。
そして一番警戒していたダンジョンハイエナだが、こいつはもっと耐久力が無かった。全力の【雷魔法】でそのまま黒い粒子に還ってしまった。この瞬間最も楽に倒せる相手がダンジョンハイエナになった。ノータイムで攻撃を当てられる【雷魔法】は強い。芽生さんも高速でウォーターカッターを薄くより鋭く絞り出すことでダンジョンハイエナに対して優位に戦えている。
岩まで歩いて三十分、その間に数回の戦闘を挟んだが無事。残念ながら期待するヒールポーションは出なかったが、満足な分のドロップは得ることが出来た。十九層は全力を出せば充分クリアできる範囲であることも確認できた。後は階段だ。
「さて……南北西、どっちに何があるかなと」
岩の周囲のモンスターを片付けたことを確認すると再度ドローンで方向を確認する。すると、またどっちの方向に向いても何かしらのオブジェクトがある事が見えた。どうやらこのマップは一定間隔でオブジェクトが配置してあるらしい。次の岩は……南方向か。北と西には木が生えている。
「なんか、東西南北一定距離ずつにオブジェクトがあるみたいだ。もしかしてモデルは石兵八陣か? それぞれ一定距離ずつに同じようなオブジェクトを配置して感覚を迷わせるという」
「石兵八陣がよく解らないですが、均等に置かれているという事は理解しました。それで均等に置いてある何処かに階段がある、と」
南には岩、西と北には木。岩をたどるか今度は木をたどってみるか。どっちかだな。
「モンスターの湧き具合はどうなんですか。モンスターと岩を目印にしてきたんですからその通りにしたほうが解りやすいと思いますけど」
芽生さんがさっきのモンスターが湧いていたほうが階段じゃないか論を再び持ち上げる。
「えーと……それも南方向のほうが濃そう。これは岩を頼りに進んでいくことにするか」
「岩をたどってきたから帰りも岩をたどれば良い……という意味なら帰り道は楽なんですが」
「とりあえず今日は岩を信じて行こう。階段も岩といえば岩だし、次に大きい岩が出て来てくれれば到着の合図だ」
「まぁどこへ行くってヒントも無いですし、そのまま流れていくのは有りですね。そのままあったら儲けもん、ぐらいですか」
「そんな感じ。気を張らずにゆっくり行こう。この階層はそこまで苦労する場所じゃない事も解ったしな」
岩を目指して歩き出す。ここから見える範囲に岩があるって事は多分あの岩も通過点だろう。岩までたどり着いたらもう一度確認。もし次に階段があるならドローンからみえるはずだ。次の岩までもモンスターは数多く……というほどではないものの退屈をしない程度にはポップしている。つまり体を動かす分気が楽だ。
「ダンジョンハイエナ美味しいな……と」
二匹連れのダンジョンハイエナをまとめて【雷魔法】で消し飛ばして呟く。
「ちょっと大きめの魔結晶くれますしヒールポーションもくれるって話ですし、出たら大当たりですね」
「攻撃力のわりにひ弱で助かるよ。これで耐久力も高いならちょっと問題だったが【雷魔法】一発で落ちてくれるからとても楽が出来てる」
「【水魔法】でも今なら三発当たれば倒せますしね。二発に出来るかどうかがこれからの訓練にかかってますね」
どうやら芽生さんは自分のスキル攻撃力の出力不足にお悩みらしい。こういうのはイメージと訓練が大切みたいだからな。
「何か出力の強い新しい妄想を開発してみるというのは? 」
「ウォーターカッター以外ですか……考えておきます」
次の目的地の岩に向けて歩き出す。戦闘の合間にちょびっちょびっと水を出したり、あーでもないこーでもないと色々考えながら芽生さんが【水魔法】の修錬をしている。いいぞ、その調子でなんか面白い魔法を編み出してくれ。
バトルゴートと連続して二グループ戦い、その後レッドカウも二グループ。肉はちゃんと落ちたので美味しくいただいておく。その後はダンジョンハイエナとまたバトルゴート。しかも幸か不幸か、ダンジョンハイエナがバトルゴートを襲っている場面に出くわすことが出来た。
どうやらダンジョンハイエナは固定した湧き出し口を持っている訳ではなく、どこかに留まるでもなく、適当にうろうろしてはバトルゴートにちょっかいをかけるという行動を示すことも確認された。今目の前でバトルゴートに襲い掛かっているのはその証拠であるとも言える。
「よし今だ。横からかっさらうぞ」
「漁夫の利狙いにもほどが有ると思いますがこれもお賃金の為ですね。納得しときます」
バトルゴートが戦う勢いを無くして瀕死の状態に見えてきたところで遠距離からダンジョンハイエナを仕留める。
バトルゴート狩りに夢中で気づいていなかったのかそれとも別の理由があったのか、こちらに反応できなかったダンジョンハイエナは二人分のスキルを浴びて両方ともに黒い粒子に還る。どうやらバトルゴートとの戦闘で少しはダメージが入っていたのかもしれない。
力なく横たわっているバトルゴートに近寄ると、止めを刺すことで楽にしてさしあげる。四体分のドロップ権利を省エネで得ることが出来た。
「ドロップは普通だな。どうやら襲われている間に倒すとか、襲っている間に倒すとかで何かが変わるという事はないようだ」
「そんな事考えてたんですか。単に楽だからだと思ってました」
「一応ほら、ここまで来たことだし検証できることは検証しておいたほうがいいじゃない」
「……今思い付きましたよね? 」
「……はい」
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