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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第五章:自由を求めて深層へ

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424/1247

424:毛と肉 2/2

 十八層へ下りる前に休憩をとる。実質二層半分下りてきてるのでそれなりに戦ってきた。その疲れを少し癒しておくことが必要だろう。階段に座り込み保管庫からおやつを取り出す。飯にはまだちょっとはやい。


 ポテチをパリポリと食べながらコーラを飲む。後はモニターの前で動画を見ながらゲラゲラと笑っていればアメリカンファットマンの量産体制は確立されているようなものだろうが、残念ながらここはダンジョンの奥。モニター代わりのスマホはあっても電波が繋がらないので保存された動画を見ることぐらいしかできない。


 せっかくならネット上に上がってた動画を何らかの手段で保存して、ここで復習できるようにしておけばよかったか。でもバッテリーを消耗するのであまり使いたくはないかな。


「次は南南西でしたっけ。確か丘になってて一直線には見えないはずですね」

「えっとね……うん、そうなってる。どうせ何もない方向に進むけど、丘になってるって見た目の変化がある分まだマシに感じるな」


 自分の地図を見ながら確認する。等高線らしきものを描きこんであるそこには、およそ数メートルほどしかないが、視界を遮るに充分ななだらかな丘が間に挟まっている。丘が無ければ真っ直ぐ階段が見えるのか? と言われるとまたそれも疑問符を返すしかない地形だが、それでもなんか丘があるほうに向かっていけばそのうち見えるとだけ覚えている。


「Cランクとはいえこの辺で戦う人本当に居るんですかね。地図と方位が解らないと遭難しそうですが」

「その辺がちゃんとできないとCランクとは言えないとか。きっと二十二層以降はもっとややこしいんだろう。狭めの小西ダンジョンですらこれなんだから、清州だともっと広いはずだ。そこでいきなり目印も無しに潜ると思うと考えたくないな。もしかして十六層以降地図が売ってないのは民間探索者が迷わないためだったりするのかな」

「そうすると、私たちは下手な探索者より前を走ってるわけですか」

「そうなってしまったなあ。大人しく十六層あたりをうろついて毎回それなりに多い収入を持って帰ってという日常に戻りたい」

「二十一層までたどり着けばそこからは自由が待ってますよ。そこまでは頑張りましょう」


 芽生さんは元気である。若いっていいなぁ。俺は早く元の生活に戻……元の生活ってどんなんだっけ。俺はどの辺で狩りをするのが日常なんだろう。


「日常って何だろうね」

「なんですか急に哲学的になって。自由になるのが手に届きそうな範囲に来たところで、自分の立ち位置について考え始めましたか」

「Bランクに近いCランクって何処を探索するのが良いんだろうな。やっぱり十六層以降になるのかな。それともここまで潜ってきて探索するのが正しい探索になるのかな。よく解らなくなってきた」

「言われてみればそうですね。もしかしたら早くランクが上がりすぎたのかもしれません。ちょっと時間をおいて収入を得る事のみに集中する時間が必要かもしれませんね」

「俺……この探索が終わったらしばらく十六層以外には行かない生活を満喫するんだ」

「失敗フラグ立てるのやめてもらっていいですか……そろそろ行きましょう。その悩みは二十一層に到着すれば解決するはずですし」

「そうだな、ここでうだうだ言ってても始まらないか」


 腰を上げて移動の準備をする。次の十九層への階段で軽い昼食にしよう。おにぎりを買ってきてあるのでそれで補充だ。足りなかったら申し訳ないがカロリーバーに頼る事になる。作り終わった料理を持ってきてはいないし、モンスターが湧く場所でもあるのでゆっくり腰を落ち着けて食事というわけにもいかない。


 階段を下りて今度こそ十八層へたどり着く。下りたすぐそこにレッドカウ二匹。ここは階段すぐでも湧くんだな。下りてから休憩でもよかったか。雷撃で二匹とも痺れさせている間に各々が一匹倒してお肉も手に入れた。


「初回の掴みはオッケーですね。収入収入」

「さすがに今回は査定に回すかな。いくらになるか解らんがオーク肉より安い事はないだろう。毎回全部食べてたら肉付きが良くなりすぎる」

「そうですね。あの美味しさを消費者に届ける事も使命ですね」


 今回は肉は査定にかける。合意を得たところで目的通り南南西に進路を取る。行き道には十七層より密度が高く感じる程度にモンスターが湧いている。点々と、というほうがイメージに近い。


「多少フラフラ移動する事になるが、出来るだけモンスターを狩っていくスタイルで行こう。階段の方向は解ってるし、階段前でまた休憩取って昼食にしたいし」

「ご飯前の一運動ですね。十八層までなら十七層と出てくる数もモンスターも同じですし落ち着いて手早く行きましょう」


 芽生さんは元気だ。おそらくまだ見ぬ十九層以降に向けてテンションが上がっているんだろう。そのテンションを保ったまま無事に進んでほしい。とりあえず丘に登るまではドローンを使わずにそのまま歩くことにした。節約節約。二十一層からの帰り道のバッテリーは保持しておかなければならないからな。


 出来れば二十一層からもエレベーターで帰りたいところではあるが、ダンジョンマスターがそれを是とするかどうかはまだ解らない。帰り道の事は考えておくことは大事だ。常に最悪の状態を考えて行動する。少なくとも二十一層で休憩できることは間違いないだろう。そこからエレベーターで帰れるかどうかはダンジョンマスターの機嫌次第だな。


 もしかしたら遅々として進まないエレベーターの利用の遅さにイライラしているかもしれない。そうであれば質問にも答えてくれないかもしれない。そうなった場合どうやってご機嫌を取るか、考えておこう。


 南南西の道なりに進み、バトルゴートとレッドカウのパーティーを一つずつ倒していく。今のところ警戒範囲が被って戦うという事はないので、常に視界のモンスターの内一パーティーにだけ意識を集中できるのは有り難いところ。これでもし二つ三つ、つまり四匹から六匹のモンスターに同時に襲われたらかなり本気で、それこそ保管庫をフル活用して戦いに向かう事になっただろう。


 バトルゴートの毛が溜まり始める。保管庫があるおかげで体積に困る事は無いが、他の探索者にとってはバッグが毛だらけになったりして大変なことになるだろうな。


 それはさておき、十八層は狩場としては悪くない。単価が高いうえに数が多い。階段までの数は解らないが、移動しなければいけない距離に対してそこそこモンスターは湧いている。六層みたいにリンクして爆走してくるわけでもない。なによりドロップ品が軽くて小さめなので保管庫を使わないのだとしても運ぶ邪魔になりにくい。


 魔結晶が赤く小さくなったのが一番運搬効率に寄与していると考える。そんなところまで気を使ってくれているのかと少しダンジョンに感謝しなければならないな。


「ここは結構おいしいな。ほどよく散らばってて同時に相手する数にも無理がない。前回通った目標物目指して歩くときもそうだったがあっちもモンスターはそこそこ多めだった。ぐるっと二周ぐらいすればいつもの一日分ぐらいの収入になるんじゃないか」

「狩場はちゃんとある、という事ですね。ここなら肉集めにも出来そうですし、毛も刈れますね」

「狩場の候補として覚えておこう。十八層は結構おいしい」


 一応メモっておく。どこ行こうか悩んだ時に十八層に行く、という判断が出来るようになるのは大事だ。旨味のある所は今のうちに唾をつけておくに越したことはない。


 そのままなだらかに丘に向かって前進しながら十数回の戦闘を難なくこなし丘を登り、遠目に階段が見える位置まで来た。今度はうまい事真っ直ぐに来れたらしい。手前にはまだ五グループほどのモンスターが見えている。


「もうちょいで未知の十九層か。とりあえずおにぎり買ってあるし、一応ご飯も一食分は作ってきた、階段着いたら軽食にしよう。ここまで来た分のカロリーは補充しとかないと後半で力尽きるかもしれない」

「そうですね、スキルもステータスブーストも使ってきましたし、さっき食べたおやつのカロリーは消費したような気がします」

「要するにお腹空いてきたって事ね。じゃあ視界のモンスター全部倒して堂々と休憩しますか」


 最後の一発くれてやる……というほどでもないが、ある程度使ってしまっても問題ないだろう。スキルをやや多めにしてバトルゴートとレッドカウを襲撃。スキルをキメさせて痺れされてからの一撃で確実に黒い粒子に還していく。ちゃんと毛も肉も出た。収入としては充分だろう。


 階段周りにモンスターが湧いていない事を確認すると、階段に腰かけ再び休憩。今日はバッテリーをほぼ使っていないので余裕がある。きっとこの後の二階層分ぐらいは持つ。


「おにぎりとなんちゃってビビンバどっちがいい? 」

「ビビンバのほうが温かい気がするのでそっちでお願いします」


 ビビンバのほうを渡す。さすがにアツアツとまではいかないが十分な温かさを保ったままここまで持ってこれた。家で作って正解だったな。スプーンを渡すとまた階段に座り込んで、ネリネリと混ぜ合わせ始める。


「石焼きだと練りながらジューっていうのが楽しいんですけどさすがにそこまでは贅沢できませんね」

「そうだな、あの音が食欲をそそるからな。味付けもなんちゃってなのでその辺はテストプレイみたいな感じでよろしく。味見はしてない」


 なるほど、という顔をしながら一口食べだすが、辛すぎず良い感じだったらしく、ぽりぽりと食べ始めた。味は悪くなかったらしい。俺も食べ始める。確かに温かくはあるが、石焼きビビンバと違って音の演出が無い分少し寂しく感じる。まぁご家庭で作るビビンバはこんなものだろう、という感想だ。


 あらかじめ家で作ってきてよかった。英断だったと自分を褒めよう。一応後ろにリポップするといけないので、周囲を見回しながらの食事だが、満足する事は出来た。おにぎりもまだあるし、カロリーと雰囲気の補給は出来るだろう。十八層、現状小西ダンジョン最奥で気を張りつつものんびりした空気の中、キムチの香りが漂う。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビビンバか~、自分では作ったことないなぁ。マルハニチロの『石焼風ビビンバ炒飯』は美味しいからたまに買って食べますね。
[一言] ブドウとかミカンとか果物のデザートがあるほうがビタミン補給できるのにーーー。
2023/08/29 12:30 退会済み
管理
[一言] 二人でこれだけスイスイ階層更新してくれる探索者をギルドやダンジョンマスターが遊ばせてくれるとは思えないですよねー
感想一覧
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